Ꮚ・ω・Ꮚメー(68:スペランカーユニット)
スペランカーユニット。
東京大迷宮出現以前、アンデッド掃討支援の名目で海外から送り込まれた半生体型ロボット兵器を武装企業が改造したダンジョン探索用半生体型ロボット兵士の呼称です。
『冒険者システム』によって存在価値を奪われてしまったことから早々に運用終了に追い込まれたという話を聞いたことがあります。
廃棄、横流しされたユニットの一体が埼京連合の手に渡り、改造されて投入されていたのでしょう。
アイテムボックスらしきものを使っているので冒険者かと思いましたが、アイテムボックスの代わりとなる小型のマジックポーチを装備しているのが見て取れました。
方天画戟と呼ばれる中華風の長柄武器をマジックポーチから引き出して、砲弾めいた勢いで突っ込んできます。
ほとんど機械の体ですが、生体組織を使ったユニットのため、露出している腹部は生身の人間と同じように見えました。
撃って下さいといわんばかりだったので、ハンドガンを出して撃ったのですが、予測されていたようです。
凄まじい反応速度で回避されました。
一気に距離を詰めたスペランカーユニットは、方天画戟を横薙ぎに一閃、私の足を刈りとりに来ます。
シャークトゥースシャベルを出し、その一撃を受け止めました。
普通の武器なら弾き飛ばされたり、武器ごと吹き飛ばされたりしているところでしたが、シャークトゥースシャベルには使用者の腕力や持久力を引き上げるストレンクスの装備効果があります。
戦車の突進のような一撃を、余裕を持って受け流すことが出来ました。
方天画戟を受け流される事態は計算していなかったはずですが、動揺してくれる相手ではありません。
スペランカーユニットは方天画戟をあっさり手放し、体そのものを叩きつけるように距離を詰めて来ます。
シャークトゥースシャベルの内懐に入って、巨腕に組み込んだパイルバンカーで一撃、あるいはマウントポジションをとって殴り潰す。
そんな戦略でしょうが、付き合う理由もありません。
後方に飛びつつ水のブレードを展開、延長した先端部で地面をえぐりとり、スペランカーユニットめがけて投げかけました。
ただの土ですが、土埃と一緒に、土嚢くらいの重さの土くれがいくつも飛んでいっています。
普通の人間やアンデッドなら一、二回ぶつければ戦闘不能にできるくらいの威力があるはずですが、スペランカーユニットは構わず、まっすぐ突き進んできます。
レモンマカロンのアジリティの食事効果を利して突進の軌道から体をずらし、シャークトゥースシャベルでもう一度地面を削りました。
今度は土くれをぶつけるのではなく、突進軌道の足下に、大きな溝を掘るように。
一振りで数十メートル、塹壕のような亀裂が瞬時に、冗談のように簡単に口を開けました。
格闘戦を仕掛けにいっている途中で、突然地面に亀裂が走る。
対応できずに転げ落ちてしまってもおかしくないところでしたが、戦闘用ユニットの処理能力のなせる業でしょうか、スペランカーユニットは溝の目の前でぴたりと動きを止め、転落を回避しました。
ですが、こちらの計算通りです。
シャークトゥースシャベルのブレードを畳サイズまで拡張し、横薙ぎに繰り出しました。
巨大な右腕をあげたスペランカーユニットは、内蔵のパイルバンカーを撃発、シャークトゥースシャベルを迎え撃ちます。
ですが、真正面から、全力で叩きつけられたエピック武器の威力は、対装甲兵器の火力をもってしても受けきることは不可能でした。
パイルバンカーの鉄杭が粘土のように斬り裂かれ、鋼の巨腕ごと吹き飛びます。
シャークトゥースシャベルを切り返し、第二撃。
斜めに振り下ろされたブレードが、無防備になった右腕側から標的をとらえ、その体を真っ二つに断ち切りました。
人間ならば即死しているところですが、スペランカーユニットはまだ動き続けます。
マジックポーチからサブマシンガンを出し、発砲しようとした腕にシャークトゥースシャベルを叩きつけ、今度こそ戦闘不能に追い込みました。
回線がショートし、機械部品が空回る、もの悲しい音を立てるスペランカーユニットとの距離を詰め、シャークトゥースシャベルでその体をうつ伏せにします。
首の後ろにある小さなフタをシャークトゥースシャベルでこじ開け、オレンジ色のボタンを押すと、スペランカーユニットはようやく動きを止めました。
メー(そのボタンは?)
「メンテナンス用の一時停止ボタンです」
スペランカーユニットのことはわかりませんが、ベースになった半生体型ロボット兵器とならば、以前に参加した作戦で接点があり、内部構造に触れる機会がありました。
自分自身の自由意志で動いていたわけではなく、使用者の埼京連合に与えられた命令に従い、戦闘ユニットとして行動していただけでしょう。
頭部を粉砕したりしてとどめを刺す気にはなれませんでした。
体を真っ二つにしておいてなにを今更、とは自分でも思いますが。
無線機を使い、皆頃シスターズと背脂所長に連絡を取ります。
「ガスマスクの人物を制圧しました。今のうちに東京大迷宮まで後退を。また、石動新のゲイボルクと思われる攻撃を受けました。追撃の可能性がありますので警戒してください。私は少し残りますが、構わずに行って下さい」
「なにか問題が?」
「ガスマスクの人物の正体ですが、横流しされたスペランカーユニットでした。悪用されないよう回収して行きます」
そう告げた時、さっきと同じ息苦しさを覚えました。
「ゲイボルグ! 二射目が来ます!」
近くのバロメッツ達に警告を投げ、逃げ場を探して周囲に視線を巡らすと、群馬ダークとマンドラゴラが突然地面から顔を出しました。
「ソルちゃん! こっち!」
ゴゲー!
地下壕を掘ってくれていたようです。
メー (いつも思うが)
メメェ(レアクラスのレベルではないな)
メメェ(ちょっとしたチートだ)
スクラップ状態のスペランカーユニットを捕まえ、賞賛の声をあげるバロメッツたちと共に地下壕に逃げ込むと、再び空から光の槍が降り注いで来ました。




