Ꮚ・ω・Ꮚメメメー(58:爆神ボンバー)
ソル・ハドソンと群馬ダーク、皆頃シスターズらが話し合いをしていた頃。
爆神暴鬼はマンションの自室が爆発、炎上していく光景を震えながら見上げていた。
場所は要塞都市大宮、中流階級向け住宅エリア。
一九〇センチの長身に猫背、パーカーのフードを目深に被り、顔を隠している。
鬼人風美青年の姿はあくまでネット上のガワに過ぎないので、顔も違えば背丈も声も違う。
手元のスマホ型端末がバイブし、メッセージの受信を告げた。
液晶を確認すると、<立場は理解できたか?> と表示されていた。
メッセージの主は現状正体不明。コンタクトを取ってきたのはおおよそ三十分前のことである。
強力なハッカーの類らしい。暴露動画の配信に使っていたアカウントを凍結されたものの悪びれず、SNSに『チャンネル凍結されて草』などと書き込んでいたところにパソコンを乗っ取って人質に取り、
<おまえの正体と個人情報、アカウントとパスワード情報、画像フォルダの中身を拡散されたくなければ指示に従え>
という要求をしてきた。
自分の素性はもちろん、カードや口座情報などを悪用されたら大変なことになる。
変態コンテンツまみれの画像フォルダの中身と合わせて暴露されたら打たれ強さがウリの爆神暴鬼といえど大ダメージは免れない。
<わかった>と応じた爆神暴鬼が最初に受けた指示は、自宅マンションの周辺数カ所を目視で確認しろ、というものだった。
指示に従うと、いかにも犯罪関係者といった雰囲気の凶悪そうな男達の姿が目に付いた。
パソコンの前に戻ると、周辺の防犯カメラや車両のドライブレコーダーをハッキングしたらしい映像で、爆神暴鬼のマンション近辺に集まる不気味な男達の姿が映っていた。
<埼京連合という反社会勢力の構成員だ。おまえの始末を命じられている>
旧埼京エリアで活動していた複数の反社会勢力がアンデッド災害を経て再編、統合されて成立した埼玉エリア最大の犯罪組織である。
<反社なんかがどうしてボクを?>
<グレーターグリフォン襲撃事件の動画提供者の差し金だろう。おまえは話に尾ひれを付けすぎた。生かしておくにはあまりにバカ過ぎると判断されたのだろうな>
「ヒッ……」
引きつった声が喉から漏れる。
「……ソンナ……理不尽ナ……な、ななな、なんでボクが……」
<死にたくなければ指図に従え、こちらにとっては、おまえはまだ利用価値がある>
<わかった>
声の主を信用して良いかわからないが、怪しげで恐ろしげな男達がマンションのまわりに集まってきているのは間違いない。
このままじっとしていてはいけないことくらいは理解できる。
XXLサイズのパーカーを羽織り、顔を隠して部屋を出た爆神暴鬼はスマホ型情報端末の指示に従ってマンションのエレベーターに向かう。
<階段のほうがいいんじゃ?>
<階段の方には敵が詰めている。エレベーターを制御してすれ違わせる。右のエレベーターで二階まで降りろ>
マンションの八階から、指示通り二階まで降りる。
もう一基のエレベーターの位置表示が八階で止まるのが見えた。
<廊下の窓を開けて、隣のダンジョマンの屋根の上に跳べ>
<無理>
<それなら、あとは自力で脱出しろ、こちらから提示できる逃走経路は他にない>
突き放されてしまうと、もうどうしようもない。
「アッ、ヒッ……ヒィッ」
間抜けな声をあげながらも、一メートル離れたダンジョマン冒険者用品店の屋根に飛び移り、軋む非常階段から地上へと降りる。
<次はどうすれば?>
<こちらの座標に向かえ。池袋行きの装甲トラックに同乗できるよう手配した。東京大迷宮に入れば、反社の類は手出しできん>
端末に地図情報が送られて来る。
<東京大迷宮はだめだ>
暴露配信で煽りまくってしまっている。
<少なくとも殺される心配は無い。大宮に潜伏したり、他の要塞都市に移って生きていける自信があるならそれでも構わんが>
そんな自信は無い。
そもそもパソコンを離れ、自室を出た時点でどこも完全アウェーである。
フードの下で涙目になった爆神暴鬼の後方で、
どごん!
爆発音がした。
振り向くと、爆神暴鬼が暮らしていた部屋が爆散し、炎と黒煙をあげている。
「ヒッ、そんな、そんな……アヒィィィィィッ……!」
そんな声を上げ、爆神暴鬼は立ちすくむ。
もはや帰れる場所はなく、行くべき場所も、頼れる相手もいない。
涙と鼻水を垂れ流しつつ、よろめきながら、爆神暴鬼はどうにかその場を離れていった。




