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Vodzigaの日は遠く過ぎ去り。  作者: 宮塚恵一
本編
8/21

7.無意味な警告

 飲みの誘いは、急な体調不良ということで取り止めにした。

 頑張りすぎないようにね、と言ってくれた顧問の先生に、私は心からの感謝を伝えた。


 HERM(ヘルマ)は、とうの昔に解散されている。当時の隊員の連絡先も知らない。

 組織解体の際、普通の暮らしに戻り、教職員になる夢を追うことを決めた時に、機密情報保護の観点からと、今後決して関わることのないように、各方面との繋がりを断ち切られたからだ。


 だから私は手当たり次第に、取り合ってくれそうなところに連絡を入れ続けていた。


 怪獣対策関連で通報できるような部署も、今はどこにもない。市役所から自衛隊、米軍基地に首相官邸。


 だが、言葉を尽くして、私の目の前に広がる異常事態を説明したが、どこも取り合わない。こんな時だからこそ、出来るだけ冷静に、状況を伝えているつもりなのだが、そう言った情報はこちらでは取り扱えないと突っぱねられるばかりで、暖簾に腕押し感が強い。


 海外機関や民間で細々と残る怪獣研究所(眉唾)にまで手を広げようとしたところで、一人だけ調べれば居場所がわかりそうな人物を思い出した。


 私は急いでその人物の名前を検索する。


「……あった」


 探していた相手の連絡先が見つかり、私はすぐさま電話を掛けた。


「もしもし」


 電話口から懐かしい声が聞こえた。少し気怠げなその声は間違いなく本人だと認識する。


「お久しぶりです」

「……本当に久しぶりだ」


向こうも私の声にピンと来たようで、驚愕した様子で応答してくれた。


 昔、私のことを半分怪獣のようなモノと言い放ったHERM(ヘルマ)の元偏屈博士。

 怪獣対策についての助言をしていた科学者で、先輩や私の眼について、その活用について共に考えてくれたのがこの博士だ。

 確か元は素粒子物理学だかの研究者だった筈で、実際、検索して博士の名前がヒットしたのも理学研究科だった。


 彼は怪獣災害の終焉後、国立大学の研究室に籍を置いていたらしい。名前を検索すると研究室への連絡先がヒットしたが、いきなり直接本人に繋がるとは幸運だ。


「君がぼくに用事とは、何事だ? まさかぼくの研究に興味があるというわけじゃあるまいに」

「はい。違います。聞いてください、博士」


 事のあらましを博士に説明する。空に昔見た真紅の雲が見えること、そのことを方々に伝えようとしたが、誰もまともに取り合ってくれないこと。


 一連の話を無言で聞いた後に、博士は小さく鼻を鳴らした。


「ぼくの研究室の近くまで来れるか? ……そうだな、最寄りの駅が良い」


 私は博士の言う駅までのルートを調べた。ここから電車を使って2時間くらいは掛かる。この状況を打破する鍵が博士にあると言うのなら、今すぐにでも会うべきだろう。

 後どれくらいで怪獣が現れるかは断言し切れないが、早くて一日後ということだってある。


「行けます」

「ぼくも今の仕事を急いで切り上げる。ところで君が方々に連絡をしたというのも、今使っている携帯電話からか?」

「はい、そうです」

「……そうか。わかった。とりあえず駅まで来てくれ。改札口で待つ。少しでもトラブルがあったなら連絡を寄越してくれ」

「わかりました」


 私は急いで荷物をまとめ、部屋を飛び出した。

 先輩から預かったキーホルダーも握りしめて鍵を閉め、近くの駅まで走る。この時間なら、バスを待つより直接行くか、途中でタクシーを拾った方が早いとの判断だ。


 不運なことに、道中タクシーを見かけることなく息絶え絶えの状態で駅に着いた。

 ここ最近、女バレの部活練習に参加していたことは功を奏していたかもしれない。思ったよりも体力が保つ。それとも、この異常事態に頭と体が興奮状態になっているだけなのか。


 改札を降りて、私は無事に電車に乗り込み、窓の外を見た。真紅の雲は、消えることなく空に浮かんでいる。私の脳がそう認識しているというだけで、本当の雲ではないから他の雲のように風に流されたりという様子もない。


 紅い空が見間違いであれば良いのに、との思いが何度も頭をよぎったが、怪獣の到来を予見させる空はやはり現実であるようだった。

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