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Vodzigaの日は遠く過ぎ去り。  作者: 宮塚恵一
本編
14/21

13.TALARIA発進

 強化アーマーを身に付け、その上でパワードスーツに乗り込む。そのパワードスーツを装着した状態で、ようやくTALARIA(タラリア)のコックピットに乗り込むことが出来る。ヴォズィガを倒す為の武装に耐える為に多重の鎧を身に付けることで先輩はTALARIA(タラリア)を操縦した。このプロトタイプには、本機とは違い、そうした武装は取り付けられていないようだったが、搭乗方法は変わらない。


 TALARIA(タラリア)は、HERM(ヘルマ)の兵器の多くがそうであったように、搭乗者の意思が直接伝わり易いマスタ/スレーヴ型を採用している。

 搭乗者の指の動きと、TALARIA(タラリア)の八本脚は対応しており、指先を動かすことで、オルガン奏者のようにTALARIA(タラリア)を操縦する。こうした方式にしているのは、先輩や私が怪獣の糸を切り易いようにする狙いがある。見ているものに触れるように動かすことの出来る機体は、操縦桿を握ったりボタンを押したりするよりも感覚的に行えるからだ。


 コンテナの外では、博士の話し声が聞こえた。先程モニターに映っていた武装集団相手に会話している。


「この建物にはお前だけか」

「もう一人居る筈だろう」

「隠し立てしても無駄だ」


 そのような言葉を浴びせられ、尋問を受けている。


「もう!」


 私はやきもきしながら、TALARIA(タラリア)を起動した。機体に取り付けられたライトが光る。

 指先を弾くようにして、TALARIA(タラリア)でコンテナの扉を破壊する。扉は宙を浮き、倉庫内に大きな音を響かせて落ちた。

 武装集団のうちの数名が、扉の下敷きになり、扉を持ち上げて脱出しようとする隙を見て、私は一本の脚で博士を拾い上げ、それ以外の脚を動かして倉庫を飛び出した。


「追え!」


 武装集団の頭と思しき男の声と共に、彼らは懐から拳銃型の武器を取り出して私の操るTALARIA(タラリア)に向けて発砲した。

 やっぱり、表からじゃわからなかっただけで銃装備もちゃんとしていたじゃん。


 博士がHERM(ヘルマ)から持ち出し(横領し)TALARIA(タラリア)に対する攻撃だとしても、銃砲刀所持の禁じられた日本国内で物騒が過ぎる。


「博士! 大丈夫!?」


 私は博士に呼びかける。博士はTALARIA(タラリア)の脚にしがみ付きながら、サムズアップをした。脚を掴んでいるのとは反対の手で口元を押さえており、無事ではあるもののあまりよろしい状態でもないらしい。


 私は武装集団が見えないところまでTALARIA(タラリア)を操縦すると、一旦博士を地面に置いた。


「ありがとう。ぼくは大丈夫」


 今にも吐きそうな雰囲気で、博士は私に先へ進むように促した。


「全然大丈夫そうではないけど!?」

「折を見て、TALARIA(タラリア)に通信を入れるから……君は今すぐシャッガイ領域のところへ」


 博士は無線機をコックピットの私にも見えるように掲げた。あのどさくさの中、持ち出すべきものはしっかり持ち出したのは、研究者としてとは言え、流石にHERM(ヘルマ)で生き残っただけある豪胆さで見直した。


 私は博士を置いてけぼりにすることに一瞬だけ躊躇はしたものの、本当にあんな武装集団まで現れたのであれば、ことは一刻を争う、という博士の言う通りだ。


 私はTALARIA(タラリア)を飛行モードに転換した。こちらは、前脚二本のみを攻撃手段として残し、ジェット噴射と共に飛翔して巨大なヴォズィガの頭部付近にも到達して攻撃する為の形態である。


「シャッガイ領域は見えるな?」


 機体の通信機から、博士の声がした。早速無線機の電源を入れ、通信を開始したようだ。

 

「もちろん。博士! 燃料足りてるよね!?」

「無論だ。飛行モードで飛翔続けた場合でも半日は飛べるぞ」

「流石!」


 私はエンジンをフルスロットルにする。TALARIA(タラリア)は高速で空を駆けた。


 飛翔しながら、操縦の感覚を取り戻す。先輩がヴォズィガを倒してから6年。その間は当然、TALARIA(タラリア)のような機体を操縦する機会などなかったが、あの頃の厳しい訓練は、私の身体にしっかりと刻まれていた。自転車を久しぶりに漕いでも問題なく漕げる、あの感覚と同じだ。


 血をぶち撒けたような真紅の空。それが段々と近付いて来た。ふと下を見ると、既に街を越え海の上だ。

 恐らくは何名かに飛行を目撃されているだろうが、その辺りの考慮をしている暇はない。


「博士、無事ですか」


 私は海上を飛びながら、通信の繋がっている筈の博士に呼び掛ける。


「ああ。何とかな。一応奴らに見つからないように立ち回っているつもりだ」

「そもそも何で私達の動き、バレたんでしょうか」

「さあ。君かぼく、またはどちらにも監視がついていたと考えるのが自然か。泳がせていたが、ぼくらが接触したことでガジャゴも脅威と判定し、兵隊を送り込んだのかも」

「相手がガジャゴなのは確定なんですか」

「さっき《《話し合ってる》》時に向こうから自己紹介して来たよ。我々はガジャゴ・デ・セグリダッドの者でこちらで不審な動きがあると通報を受けて来たとか何とか」

「なるほど」

「ああクソ。携帯電話を取りに行こうと思ったがロッカーの鍵は君が持ってたな。仕方ない。こっちはこっちで適当なモニターを見繕うから僕の準備が出来たら視覚共有を頼む」

「了解」


 こうして作戦行動を詰めていくのも懐かしい感覚だ。だが、懐古してばかりもいられない。


「シャッガイ領域、既に上空です」


 博士と通信しながらTALARIA(タラリア)を飛ばしている間に、真紅の雲、シャッガイ領域の渦の中心の下に、到着していた。


「何あれ……」


 シャッガイ領域の真下には小さな島があった。港には船が船舶しており、トラックや重機も近くに見えるから、人気があるのはわかる。しかし、島には住宅地のようなモノはどこにもなく、全体的に鬱蒼とした森が生い茂る。しかし、島の中心には円形の巨大な施設が存しており、島の半分以上の面積を、その施設が占有していた。


「|Proto-TALARIAプロトタラリア、応答しろ。こちら準備出来た。視覚共有を頼む」


 丁度良いタイミングで、博士からの再通信が来た。私は言われた通り、TALARIA(タラリア)の操縦席から見ている景色を、無線で飛ばす。シャッガイ領域の下だと怪獣の影響で通信機器が無用の長物となることは珍しくないが、今のところ、通信に問題はなさそうだ。


「あれは……大型粒子加速器か?」


 無事、博士との視覚共有が完了したらしく、私の目下に広がる景色を見てだろう、博士は感嘆の声を上げた。


「施設の真ん中に、ご親切にもガジャゴの社章があるな……。なら隠匿しているのとも違うか。堂々としている。こんなところに、ガジャゴの研究施設があるとはぼくも知らなかったが」

「博士」


 私は、感心したように施設への感想を述べようとする博士の声を遮った。


「博士には見えてないと思いますけど、《《糸》》が見えます」


 怪獣災害の場で私の眼に観測される、シャッガイ領域から、怪獣に繋がる複数の操り糸。それが施設の真ん中に向けて伸びているのが見えた。


「あそこに何かある」


 私は深呼吸をしてバイタルを整える。


「博士。この機体、武装は?」

「対ヴォズィガ兵器や銃装備等は流石に外れている。だが、それ以外の武装は当時のままだ」

「充分です」


 あの施設の天井が鉄骨やカーボン素材だったとして、それならTALARIA(タラリア)の装備で問題なく突き破れる。

 私は意を決し、機体を眼下に広がる島中心の大型円型施設に向け、TALARIA(タラリア)を突進させた。


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