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クソ馬鹿勇者の手紙

「あんなクソ馬鹿唐変木野郎の手紙なんか知ったことか!私は、もう行く!」

 ハイエルフの女が、見事な銀髪を靡かせて飛び出していった。セマーナの、そのあまりの速さに、乱暴に立ち上がったために傾いたイスが倒れるのが、ずいぶん間の抜けて感じられるくらいだった。

 居酒屋の他の客は、ずい分たってからざわめき始めた。

「あの馬鹿。」

と一人が追った。さらに続こうとした男女をダークエルフの女が止めた。ルア、ダークエルフというのは、セマーナが言っていることであって、本人は商いエルフ族と言っている、エルフとしては長身のスリムな美人である。ダークエルフというイメージは、漆黒の黒髪だが、肌は、浅黒くない。

「追ったら、彼女、かえって意地になるから逆効果よ、まあ、一人くらいは追わないと、これまたいじけるでしょうけど。30分くらいして、周りを捜せば、小さくなって待ってるわよ。」

「そうだな。それに、まだ、全員集まっていないしな。」

 剣士のメスが同意して彼女を見た。落ち着いているようだったが、さすがに焦れているのが、しきりに指を動かしているので分かった。いつも冷静沈着で、チームの中では、その弓や魔法の実力もさることながら、情報、意見のまとめ役として重きを置いていた。ハイエルフのセマーナも、彼女を信頼していた。まあ、彼女はハイエルフ特有な高慢さはあまりなかったものの、ハイエルフ以外のエルフは、全てダークエルフと呼ぶのは、ハイエルフならではあるが、二人の関係は、悪くはなかった。

「なあ、やっぱり、その手紙、取り敢えず、今、内容を教えてくれないか?」

 メスの言葉に、いくつも並べたテーブルに座る皆が頷いた。しかし、

「全員集まって、となっているんだ。俺の口では、上手く伝わらないと思うし…。特殊な手紙なんだよ。」

 小柄な精霊使いのマルが、困ったように言った。

「でも、直ぐにみんなを呼ばなかったの?」

 魔道士のアーニァが、怪訝な顔で尋ねた。皆も同様な気持ちだった。あれから、六日もたってしまったのだ。

「その手紙は、きっかり4日後に、目の前に現れたんだよ。僕も驚いたよ。そんな魔法があるなんて知らなかったよ。」

 困ったような顔だった。

「時間を置いて発動するようにしてたのね。出来ないこともないけど…。」

 皆の視線が集まったアーニァが難しい顔になっていた。それだけ知られていない、高度な魔法なのだと、皆が納得した。

「それでいて、テスに託したんだから、あいつ何を考えていたんだよ。」

 メスが、文句を言った。テスなら、皆に即座に連絡をかけることが出来る。しかし、それなら4日後にだったのか。全員に出しても良かったんではないか。“まあ、その手紙とやらを読めば分かることだろうが。”メスは何度もそのやり取りを、心の中で繰り返した。

 セマーナを追っていった男が、手ぶらで帰ってきた。

 遅れていた2人が、到着した。

「そろそろセマーナを捜してくるわ。」

 彼女が、嫌がるセマーナを引き摺ってきたのは、それから30分ほどたってからだった。

「絶対嫌だから!あの馬鹿の弁解なんか聞きたくない!」

と叫びながらも、引き摺られてきた。その気になれば、簡単に振りきって逃げていくことは出来るにもかかわらず。イスに座ってからも、しばらく騒いだ。

「じゃあ始めてくれ。」

 一人だけ、セマーナが横を向いた以外は頷いた。

 テスが、手紙を震えながら手に取って拡げた。それまで、なんで震えのか、怪訝に思っていた皆が、

「え?」

 その雰囲気に気がついて、テスを見たセマーナも

「え?」

 そこには、テスではなく、勇者の姿が見えたからである。

「あの日のことはすまなかった。許されないことだが、遅すぎはしたが、許してほしい。まず、言わなければならないことは、シンカは魔族のスパイどころではなく、魔王本人だったんだよ。」

 目の前の状況に驚きながら、

「何だ。」

「そうだったのか。」

と口に出してから、

「えー!」

 何人かは、音を立てて立ち上がった。周囲で、全く五月蠅い連中だ、という視線が集まったが、誰も気がつかなかった。

「じゃあ、君たちは追放だよ。シンカが魔族だから、スパイだ、追放だという連中とは、一緒にいられない。魔王は、私と彼女だけで倒す!」

 勇者ダイ・タイスイが言い放った。

 初めは、

「何言っているんだ!」

「今まで一緒にやって来た仲間じゃない!」

「昔からの仲間の僕達より、魔族のシンカをとるのかい?」

と言っていたのが、その内、

「一人で勝手にやれよ!」

「自信過剰もいい加減にしてよね!」

とみんなで去ってしまったのである。そのシンカ。小柄な、黒髪のダークエルフの若い美人の女。全滅したパーティーの生き残り。傷ついて倒れていた所を助けて、拾ったのだ、勇者が。シンカというのは、彼がつけた名だ。チームの中では中核を占めるくらいの存在となっていたが、ふとしたことから魔族、しかも純粋な魔族だと分かった。勇者のパーティーのメンバーに相応しくない、それにスパイを疑わせることもあったので、皆が彼女のパーティーからの追放を主張したのである。

「どうして?」

「どうしてだと思う?」

「ちょっとあんた揶揄っているわね?」

 ダイにも見えるテスが、ダイが答えるように言ったので、ダイにともテスにともとれる文句をアーニャは言った。

「まあ、あいつの性格だから、黙って聞こうじゃないか?」

「私は最初から分かったんだ。そういう力があったんだ。それで、考えた。彼女はどうして乗り込んできたのか?そして、逆に利用しようと考えた。」

「?」

 全員、彼の頭を疑った。いつも疑っていたが。信頼していたが、彼の行動は理解できないことが多かったからだ。

「魔王は、私達を罠にかけて、魔王城で私達を全滅させようとしているのではないかとね。ならば、彼女の策略の引っかかったふりをして、乗り込めば、相手の油断があるから、ひとつ有利だ。どんな策略をとるかを考えて見たよ。魔王城の奥底で、後ろから嘲笑うって、とこかなとも思った。だから、彼女の持ち物とかに細工しておいた。それから、その場で役立つ道具も作った。可能な限り準備した。」

「あいつ、器用だったからな。」

「それで、苦労もさせられたけどね。」

「でも、どうして私達を追放したんだよ?」

 皆がそうだよな、と言う顔になっているのを見て、しかいえないタイミングで、

「理由は、二つ。敵の目を誤魔化すには味方からというだろう?これで、更に油断させられる。有利な点の二つ目。そしてさ、成功率が1/2程度とみているんだ。悪いんだけど、俺が帰ってこなかったら、死力を尽くして、数を減らしておくから、俺の仇を討ってほしんだ。君達全員の力を、合わせればやれるはずだ。我がままを言って悪いが、よろしく頼む。あ、それからセマーナを止めてくれくれないか?そのまま飛び出して行こうとしてるだろう?まだ、話が残ってるから。」

 セマーナはその言葉の通り立ち上がって飛び出そうとしていたが、自分の名が出てきて一瞬立ち止まったため、何とか数人で取り押さえた。

「放せ!あいつを助けに行くんだ!」

「話は最後まで聞けよ!」

「セマーナを押さえつけながら聞いてくれ。」

 テス=タイスイが続けるのを、

「準備万端で出発してくれ、くれぐれも。そうでないと、返り討ちになりかねないのと、私と君達が別れていると聞きつけて、私や君達を襲おうと考えるクズ勇者どもが確実に現れるだろう。私の方で、なるべく蹴散らして、君達の助けになるようにするが、万全ではないからね。後はよろしく頼む。」

 手紙を読み終わると、そこにはテスしかいなかった。



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