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世界と超人1:この人を見よ

綺麗な澄んだ音をたて、骨が折れた。

暴走気味な車に突っ込まれての骨折。

その日の学校は休めるから良いんだけど。

面倒なのは病院に通わなければならない事。

こればかりは本当に面倒で、ぼくにとっての問題だ。

だから、せめてこの一瞬を楽しめるようにと、何時も何か行動を起こす。

そんな時に彼女と出会ったのだった。


「うわぁ、土砂降りじゃん」

病院の地下室には不思議が一杯である。

なんで、ほとんどの区画は入れないんだろうね?

それどころか、呻き声とか鉄格子とか色々あって。

・・・・・・怖くなって逃げてきた訳じゃないっ。

看護士さんの包囲網を抜けるのに必死になって時間の感覚を忘れてしまった僕は、いつの間にか降っていた豪雨によって立ち往生。

出かけに傘は持たない性分、なんてカッコをつけてみても、雨で濡れるのは代わんないんだよね。

ま、ぼくは雨好きだし。濡れるのは構わないけど。

「問題はあそこに居るお姉さんなんじゃないかな?」

土砂降りの雨の中、一人で葉桜なんか眺めて。

真っ白いワンピースに墨みたいに真っ黒な長い髪が栄える和風美人。

美人過ぎて、まるで幽霊。

本当に柳の下とか居たら、掛け軸になれそうな感じ。

でも、ぼくは幽霊とか信じてないから。

「お姉さん、風邪引くよ」

仕方がないから、傘を差し出してやることにした。

だって、美人なんだもん。

「ん、ボクに言ってるのか?」

「お姉さん以外に居るの?此処に?」

「何だ、さっきからその子。お前の裾を寂しそうに掴んでるだろう」

そういって指した右手側の方向を瞬間で見る。

刹那とか雲曜の間とか越えてた気がするぐらいの早さで。

でも、何も居ない。本当に怖い。超怖い。

「冗談だ。固まるな」

「たっ、質悪ぅ!」

「人のご好意は出来るだけ受け取らないが信条でね」

うわ、ウゼえ。でも、許せる。

むしろ皮肉気に笑ったその顔を近くでみると、やたら照れる。

真面目に美人。美人は何やっても大抵許されるってホントなんだ。

性格が最悪なのが天は二物を与えない証明なんだろうけどね。

「でも、ブラとか透けてるよ」

「・・・・・・」

「もしかして、見せてるの?」

「・・・なんなら、中身も見せてやろうか?」

「うん?いや、えっ!まじ!ちょっ!」

お姉さんはワンピースの肩紐の片方をじれったいスピードでずらす

と、不意にニヤリと笑って

「冗談だ。青少年には刺激が強すぎたか?」

なんて言って来やがる。

くそっ、滅茶苦茶凝視しちゃったじゃないか。

この性悪なお姉さんには勝てる気がしないぜ。

「で、君はボクに声をかけて何かご用か?まさか、傘を渡してくれるためだけに声をかけてきたわけじゃないだろう?」

「いや、土砂降りの中で葉桜なんか見てれば、そりゃ気になるでしょ」

「ああ、成る程ね。ただのボクの趣味だ」

ああ、成る程ね。ただの普通の変態だ。

思わず訝しげな目って奴でお姉さんを見る。うん、雨の滴る良い美人だ。

「まぁ、変な奴であることは認めるが。それにちょっかいをかける君も相当に変な奴だぞ」

「はあ、お姉さんに話かける事が変なの?」

「そうだな、反社会的ないし反一般的な行動をとる人間に対して全体は冷たく、それに属したり批判を行わない者は同族と見なされる。だから、仲間外れの友達は仲間外れって事だ」

「なんか、やたらと難しい言葉で煙にまこうとしてるでしょ」

「うん。さっさとどっか行けってオブラートに包んで言ってるんだ」

そのあと、取って付けたように「あ、しまった」なんて棒読みしやがる。

こんな仕草が嫌みにならないのは、言い終わった後の寂しげな表情のためか。

さっきからこちらの方すら興味も持たず、ただ葉桜を見つめているだけ。

そんな濡れた子犬みたいなお姉さんに改めて傘を差し出して。

「じゃあ、仲間外れ同士で仲良くしてよ」

お姉さんは呆気にとられたように固まり。

ぼくはそれ以上、どうしようもなく固まる。

雨は少しばかり弱くなった、そんな気がした。


二人が固まるそんな中、彼女は唐突に口を開いた。

「君はさ、哲学って物に興味はあるかい?」

この人を見よ(Ecce homo)

1888年にフリードリヒ・ニーチェが書作した書籍。

ただし、発表は1908年、妹のエリザベート・フェルスター=ニーチェの手によるものである。

皮肉的な自画自賛と今までのニーチェ自身の作品を総集した物。

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