※1◇新居
私アンナ(ジュリアンナ)は十八才、バージルは二十三才です。
婚姻を結んで二年。まだ子供は授かっていません。
新しく建てられた家、ベイベリー邸に王宮内から住まいを移したんです。
パッと見ここに第二王子夫妻が住んでいるとは思えないでしょう?
目の前に広がるバラの庭園と果樹の園がそのままお家の庭の様に思える作りになっているんですよ。
警備の都合もあり通常は王宮内で生活するのが当たり前ですが、二人の希望を叶えてくれた私たちの小さなお城です。
◆◆◆
当初は子供が出来たらこちらに移動してと云う事でしたが少しでも早く水入らずの生活をしたいというバージルが押し切ったと言っていい。
水入らずとは言っても一階には専属の執事や侍女、メイドなど二十人程がおりまして。彼らの半数は通いで残りの半数は住み込みで暮らしております。
でも彼らは本当に必要とされる以外二人の生活には干渉してきません。
何故なら私が旦那様であるバージルの世話を自らやきたいので必要な時だけお願いしたいという条件を守ってくれる人達を厳選させて貰ったからです。
「おはよう、バージル。早く起きないと執務に送れちゃうわよ」
「ん-、あとちょっとだけ」
そう言って布団の中にアンナを引っ張り込む。
そんな毎日の繰り返しです。
自分たちの生活圏である二階に念願だった小さなマイ厨房を作って貰い朝食の用意をする為にアンナも王宮にいた時より早起きになりました。
「米はいいね。昼までガッツリ働ける」
「そうでしょう。今日は大目に炊いたからオニギリにしてお昼にデオドールお義兄さまにもお届けしようと思ってるの」
「兄上に?わざわざそんなことしなくてもいい。私の執務室に届けてくれれば呼びつける」
うふふ、ヤキモチ妬きのバージルらしいわと思わず笑ってしまう。
「では、そうします。ちゃんとお義兄さまに声を掛けて下さいね!」
「善処する」
なにそれ?(笑)
こんな他愛もない会話に幸せを感じてしまう今日この頃です。
「殿下、ダニエルが来たわよー」
ビオラが夫婦専用の小さなダイニングルームに知らせてきました。
相変わらず他の使用人がいなければため口のビオラです。
「おはよう、バージル時間だぞ」
「ああ、今行く」
「ダニエルおはよう」
「おはよう、お嬢。おっ、ミソシル(味噌汁)があるな。お嬢待ってる間に一杯貰える?」
「ええ、もちろん」
ダニエルはお味噌汁が大のお気に入りなんです。
「ランチはオニギリを持って行きますから」
「おっ、それは楽しみだ。俺は塩マスと焼きみそオニギリ!」
「おいダニエル、アンナは俺の妻だ。リクエストしてるんじゃない!」
仕度を終えたバージルがダニエルの後ろで仁王立ちして睨んでいます。
私はそんな二人のお尻を叩いて公務に向かわせるのでした。
午前中は使用人の彼らと一緒に掃除をしたり、邸内に飾った花の入れ替えをしたりして過ごすことに時間を費やし午後から妃としての仕事をこなしに王宮へ上がります。
約束通りランチにお弁当を持ってバージルの執務室に向かうとデオドール殿下が既に待っていてくれていました。
『うふ、あんな素っ気ない返事をしていてもちゃんとお義兄様を呼んで下さったのね』
「アンナちゃん今日はオニギリだって?義兄さんにも声を掛けてくれて嬉しいよ」
殿下はと立ち上がると軽くハグをし挨拶のキスを頬にしてきます。
バージルはムッとした表情ですが以前の様に無理やり間に入り文句を言う事はしなくなりました。
彼も少し大人になったようです(笑)
朝炊いて保温してあったご飯はオニギリにしてもまだほんのり暖かく、おかずに持って来た卵焼きとウィンナー、肉団子そしてキュウリの一本漬けをテーブルに広げると
「うわっ、めっちゃ美味そう!」
一番先に手を伸ばしたのはやっぱりお義兄様でした。
「ピエールさんもダニエルも一緒に食べましょう。ちゃんと人数分はありますから。あっ、勿論ビオラのもね」
「ありがとうございます、ジュリアンナ様。デオドール殿にお仕えして本当に良かったと思える時で御座います。我儘な殿下に振り回されてもジュリアンナ様のお料理で癒されます」
デオドールの側近であるピエールは瞳を潤ませながら味噌焼きオニギリを取りました。
「おい、ピエール酷い言いようだな」
オニギリと浅漬けのキュウリを両手に持ち交互にポリポリ齧りながらデオドールが彼を睨んでいました。
次期国王となる王太子が両手にオニギリと一本付けのキュウリを持つ姿ってどうなんでしょう?
それもめっちゃイケメンて(フフフ)
「ピエール、お前の気持ちも良く判るよ」
リクエストの味噌焼きオニギリを食べながらダニエルさんも同意します。
「おい、ダニエルお前迄なんだ」
甘めの卵焼きを頬張りながらバージルも参戦してきました。
お互いにブツブツ文句を言いながら食べ続ける主人二人と側近二人に
「もう、なんだかなー。そんなに仏頂面しながら食べてるとオニギリが泣くわよ。美味しいものは楽しく食べないと作ってくれた人に失礼でしょう!」
ビオラにカツを入れられオニギリを手に持ったまましゅ~んとする大の大人四人。
その姿を見て私は思わず吹き出してしまいました。
「ジュリアンナ様申し訳ありませんでした」
「アンナちゃんごめん」
「お嬢悪かった」
一番最初に頭を下げたピエールさんに続きデオドールお兄様、ダニエルさんと次々に謝罪されます。
私はパンパンと手を叩いて
「はい、はい。もう良いですから午後の執務も頑張れるように楽しくランチをしましょう」
と笑顔で言うと最後にバージルが「ごめん」と申し訳なさそに小さな声で言い、これまた小さく頭を下げて来たので肉団子をフォークに刺し「はい、あーん」と無理やり彼の口に押し込んであげると大きな肉団子を丸ごと放り込まれ目を白黒させるバージルを見て執務室内は笑いに包まれたのでした。
アレはアレで面白かったランチを終え、私は午後の仕事へ向かいます。
勿論、私用の執務室がありそこでお手紙の返事を書いたりする訳ですが、如何せん場所が・・・バージルの執務室の隣に用意された部屋なのです。
お互いの執務室の間には彼用の仮眠室があり、私の部屋からも行けるように扉が付けられてしまったので、休憩に人る度に廊下からではなく仮眠室を通り抜けバージルがやって来て、時には仮眠室に引きずり込まれるのでこちらから鍵を付けてしまおうかと思ったくらいで・・・。
婚約当初と変わらず溺愛してくるバージルに慣れたとはいえ時には自由が欲しいと思ってしまうとビオラに零すと
「贅沢よ」
と返って来ると思われるので口に出すのは止めておきます。




