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72*兄上の事

 兄には幼い頃から婚約者として決められていた侯爵家の娘でサーシャという三歳下の許婚がいた。

 云わば未来の王妃だ。

 決められた許婚とはいえ、デオドールもサーシャを気に入っており彼女を伴侶として迎える事を望んでいた。

 当時幼かった私から見ても仲睦ましくお似合いの二人だった。


 しかし、十年前。国が瘴気に包まれ原因不明の流行病が発生し多くの国民が命を失った際、サーシャも感染しアンナと同じように高熱を出した後昏睡状態に陥り二年後に命を落としてしまったのだ。


 サーシャが十四、兄上が十七の時だった。


 何事も無ければ自分とアンナと同じようにサーシャが成人を迎えると同時に婚姻を結ぶ運びとなっていた。

 兄上の悲しみは深く一年以上公の場に姿を出すことも出来ず自室に半引き籠り状態で最愛の人を亡くした悲しみに打ちひしがれていた。


 その悲しみからやっと立ち直った兄だが、持ち込まれる縁談には一切目もくれず二十歳を過ぎた頃から浮名を流すようになっていった。


「私と同じは病で亡くなってしまったなんて・・・お義兄様お辛かったでしょうね」


「ああ、わたしはまだ十二だったが、見ているだけで胸が痛んだ」


「もし、神様が同じく昏睡状態だったわたし・・・ジュリアンナではなくサーシャ様に杏を転生させていたら」


 何を言い出すのかと思った。


「馬鹿なことを言わないでくれ!兄上には申し訳ないがジュリアンナに転生して目覚めてくれなければアンナは今ここにいないのだぞ」


「それはそうだけど、この国を救う為なら男爵家の次女ではなく侯爵家のそれも次期国王の許婚であるサーシャ様に大聖女の魂を渡しても良かったのではないかと思って」

 アンナはもしもという話をしているのでその中に私の存在というものは頭に無いようだが冗談ではないと苛立ってきた。


「もしサーシャに転生し目覚めれば兄上は喜び婚姻を結んでいただろう。だけど、私はどうなる?魔力を制御し愛を確かめられるのは大聖女の魂を持つ者しかいないのだぞ。動物であれば唯一の番だ。その存在が兄上の伴侶であったら・・・私は彼女に横恋慕し生涯苦しんで、否そうじゃない。サーシャではなくアンナだから私は恋焦がれ愛したと云うのに・・・」

 現実は大聖女の魂を持つアンナが自分の伴侶として隣にいるというのに想像するだけでも胸が痛み苦しくなって来る。


「ごめんなさい、バージル。そういうつもりで言った訳ではないわ。ただ、お義兄様の事を聞いてあまりにもお気の毒でつい・・・」

 アンナが涙を浮かべて申し訳なさげに私の事を見つめて来た。


「いや、いいんだ。私も悪かった」と彼女を抱き締めた。


「これもみんな神が決めた事よ。アンナだから神は杏を転生させた。バージルとの出会いも神には分かっていた筈よ。神はデオドールではなくバージルに愛されるためにアンナを選んだのよ」


 ずっと黙って聞いていたビオラにハッキリと言われ私は胸の痛みがスーと消えて行くのを感じ安堵する。

 私の唯一の存在であるジュリアンナ。

 愛おしくてたまらない存在。

 もう一度力を込めて彼女を抱き締めた。


「デオドールにだっていつか唯一の存在がきっと現れるわよ。ほら、いつまでもぐずぐずいちゃいちゃしてないでもう王城に着くわよ」


 笑ながらビオラに言われ、顔を上げるとアデライト城の高い城壁がすぐ目の前に見えて来た。

 私とアンナの二人の住まいがそこにある。

 不思議と気持ちも落ち着いた。




 どうして27歳になるデオドールがまだ独り身でいるのか、許婚だったサーシャが婚姻目前でアンナと同じ流行病で命を落としてしまったからだったのです。それ程17歳のデオドールはサーシャの事を愛していたんのです。だって今はおチャラけている彼の初恋の相手でもあったのですから。

 残りあと3話となりました。最終話迄朝に1話だけの投稿となりますが、あと3日お付き合い下さませ_(._.)_

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