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70*大聖女の軌跡

 翌朝フォルヴァの案内で村外れの森へと入っていくアンナたち。


「我はずっと身を隠してジュリアーナの事を見ていたがこの森で初めて幼い彼女に見つけられてしまってな」

 フォルヴァは懐かむように当時の話をしてくれた。


「その時魔物が出て彼女を助けてやろうと狼の子に扮したのだが、ジュリアーナはいとも簡単に魔物を退治し我を見つけて

【親とはぐれてしまったのかな?怖かったでしょうでももう大丈夫だからね】

 と言いそして【自分はまだやることがあるから早くお母さんの所に帰りなさい】と言いおったのじゃ」

 フォルヴァの話を聞いて四人は思わず笑ってしまう。

「何百年も生きてる聖獣に早くお母さんの所へ戻りなさいって、あはは、流石ジュリアーナだわ」

 ビオラが笑い転げている。

「その当時のジュリアーナはまだマリーぐらいだっだぞ」

「ぷっ」

「あはは、もうダメー」

 ダニエルとアンナもお腹を抑え必死に堪えています。

 そんな笑い話のような昔話を聞きながら足を進めていくと何もない草地に出ました。

 その先には大きな森が広がっています。


「結界だわ」

「凄いな二百年以上持ち堪えているなんて信じられない」

 アンナとバージルは驚きを隠せません。

「でもかなり薄くなってるわね。これだとすり抜けられる魔物もいる筈だわ」

 ビオラの言葉に

「数か所はその時ジュリアーナが補修したが全体的に弱くなっておる」

「それはこの村全体を覆っている結界がと云う事よね?」

「ああ、そういう事じゃな」

「じゃ全体を新しい結界に張り替えましょう」

「えっ、アンナこの村全体に結界なんて出来るのか?」

「大丈夫よ、ジュリアーナが出来たなら私にもできるわ。それに忘れたの?私が転生してきた時にはアデライト王国全土を包む結界が張られたのを」

 清々しいほど自信に満ちた顔で言うアンナにバージルはため息をついた。

「そうね、全体になら村の中央からね」

 それならばやはり教会と修道院のある場所だと云う事なり今来た道を戻ります。

 森を抜け村に入ると村人達も動き始めており朝の活気に包まれていました。

 村人はアンナの姿を見ると驚きはしたものの騒ぎ立てしない代わりに手を組み祈りを捧げてきます。アンナは穏やかな笑みを一人一人に向けながら修道院へと向かっていくのでした。


「やっぱり大聖女信仰は凄いな」

 ダニエルがバージルにこそりと言うと

「これからもこの村だけに留めて貰わねばならないな」

 と少しだけ顔を曇らせます。


 まずは教会へ行き神父に結界の張り直しの事を伝えます。

 教会から出て来ると聖女が戻ったという噂を聞いた村中の人が集まって来ておりアンナ達を驚かせました。


「大聖女様」

 人々は口々に大聖女様の名を呼び涙します。

「アンナ、大聖女の存在がこの村から他へ伝わったら大変なことになるぞ」

「バージル大丈夫よ、この村の人たちは他言しないわ」

 バージルの不安を拭うようにアンナは胸を張り一歩前に出ました。


「村の皆さん、私は大聖女ジュリアーナでは御座いませんが彼女の魂をこの胸の中に持っております。私がこの村に来れたのは二百年以上もの間、皆さんたちが代々修道女エニスタの教え守りこの村以外の者に大聖女の存在を秘密にし続けて下さったからです。この国には聖女マリー様がおります。もう一人の聖女はいてはならないのです。どうかこれか先、未来永劫大聖女ジュリアーナの存在はこの村の皆さんの胸の中だけに留め置いて頂きたいのです。それが彼女の願いだと思うからです。

 私はこれから大聖女ジュリアーナが生まれた村を守る為に張った結界を張り直します。この先百年。いえ、二百年、大聖女ジュリアーナの加護によりこの村は今まで通り平穏な日々が送られると信じております」


「そのさきはどうなるの?」


 最前列にいた男の子が聞いてきました。

 アンナはしゃがみ込み男の子の目線に合わせ

「それはね、アナタのおじいさんやお母さんがやって来たように大聖女を守っていけばまた結界が薄くなった時には次の大聖女が現れてご褒美にご加護をくれるんじゃないかな」

 とにっこりと笑ってみせました。


「エニスタ殿が書き残された通りこうして大聖女様は再びこの村に帰って来て下さったのです。今まで通り私たちはその教えを信じこの暮らしを続けていけば良いのです」

 神父の言葉に皆が頷く。


 アンナは立ち上ると両手を広げコロシアムの時と同じようにふわりと宙に浮きあがります。

 そのまま修道院の屋根まで上がり三角屋根のてっぺんに降り立ちました。

 村人は神に祈る様に手を組んだままアンナの事を見上げています。

 アンナは一度祈りを捧げてから天を仰ぎその手を大きく広げました。すると眩しいほどの光に全身が包まれそこから溢れんばかりの光が村全体に広がり新しい結界の壁を張り巡らせいきました。もう一度祈りを捧げるとアンナは屋根の上からふわりと元の場所に下りてきました。


「この村に神と大聖女のご加護を」

 彼女の言葉に全員が跪き祈りを捧げます。

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 涙を浮かべる老婆に号泣する鍛冶職人。人それぞれの喜びようにアンナは笑顔で頷きます。


「だいせいじょさま」

 先ほどの男の子がアンナに駆け寄って来ました。アンナが腰を屈めるとその子は抱き付きアンナの頬にちゅっとキスをしてきました。

「あら、ありがとう♪」

 アンナがお返しに額にキスを返してあげます。

 すると男の子の身体が中に浮きアンナの腕から消えてしまいしゃがんだまま見上げるとその子はバージルの腕の中できょとんとしています。


「おい坊主、大聖女様は私の奥さんなんだからキスをするなら私に断ってからだぞ」


 一瞬その場が静まり返り呆気にとられる村人とアンナ達。


「えへへ、ごめんなさい」と舌を出す男の子にバージルは微笑みその子の頬にキスをします。そして片腕で男の子を抱いたままもう片方の手でアンナの手を取り立ち上らせると


「早く私たちにも可愛い子供が欲しいな」

 とアンナに微笑みかけました。


 真っ赤になるアンナに人々から歓声と拍手が送られ村全体がほのぼのとした空気に包まれたのでした。



 翌日神父や修道女そして村人に見送られながらアンナ達が乗る馬車は王都へと出発しました。

 御者をするダニエルの横にはビオラが座り手を振っています。


「なんだか不思議な気持ちです」

 感慨深そうに窓の外を見つめるアンナ。

 たぶん自分はこの村にもう二度と来ることはないんだろうな。

 小さくなっていく村を見ながら意図せぬ涙がポロリと零れました。

 バージルはアンナの小さな肩を引き寄せ

「君のお陰であの村はまた平穏な日々を送れるのだから」

 と優しく囁きます。


 ゴトゴトと田舎道を走る馬車の屋根の上でのんびりと横たわるフォルヴァ。

 穏やかに時は過ぎていくのでした。




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