1◆ 触れられない王子◆
バージルは十五才になっていた。
元々魔力持ちの子供でありましたが三年前のあの日、光が満ちた時に身体を襲った熱により魔力が増大してしまったのです。
それ以来時々制御できず、周りの物を破壊してしまう事も度々ありました。 その為に制御の仕方も自分なりに学んで来てはいたのですが、、、・
この国の男性の成人は十八才で王家では十五の時に男女の営みの教育係という名の女性に手解き受け童貞を失う事なります。
そりゃ、まぁ。十五の男子が男女の営みを知ってしまったらねぇ。。。
想像通り暫くはその快感を求める訳ですよ。
幼馴染でもある則近のダニエルと娼館へ年を誤魔化し通ったりしたわけであります。
でもその年に大きな魔力の暴走がありなんと竜巻を起こして農地を荒らすという大惨事を引き起こし行動が制限されてしまいます。
荒らされた農地は自然災害として国が手厚く保証し問題にはなりませんでしたが、彼は行動が制限されたことによるストレスから無表情で無口になっていきました。
そんなバージルに身体的な異変が起きていました。
なんと金眼であった彼の瞳が魔力の増加と暴走を繰り返す度に深い藍色の瞳へと変わってしまったのでした。自分の変化に驚き落ち込みます。
十七の時気晴らしと護衛の目を盗みダニエルが娼館へと連れて行きますが、そこでまた事件が起きてしまいます。
なんと女性を抱いている最中に相手が倒れてしまうという事態が。
気持ちよすぎて気をやってしまうのとは明らかに違いました。バージルは慌ててダニエルを呼びその状態を見て内密に王城から医師を呼びよせ診て貰ったところバージルの魔力が強すぎて相手が魔力酔いしてしまう事が判明したのでした。
これは一大事と王宮にて医師たちによる研究対象となり数人の女性と致してみたところどの相手でも致す直前に魔力酔いを起こし倒れてしまうとい結果になりました。
「なんて事だ。私は一生女性を抱くことが出来ないのか?」
その日から彼は以前にも増して無口になりあまり人と変わらなくなっていったのでした。
第二王子とは言え子孫を残せないのは王家にとって危惧である。
王命により王宮魔術師と医者によって研究がなされ八時間ほど魔力を弱める薬が完成した。
その薬はバージルに渡されたが、医師からは副作用が強過ぎるのでやたらに服用しない事と告げられたのです。
「くっ」
肩を落とすバージルにダニエルは掛ける言葉も見つけらずにいました。
バージルはその薬をいつも懐に入れてお守り代わりに持ち歩いています。
十八の成人を前に薬を貰ってから一度も服用したことが無かったその薬を服用し娼館へと向かいました。
どうしても人肌が恋しくて堪らなくなったのです。
薬のお陰で相手は魔力酔いを起こす事も無く彼は性欲を満たすことが出来ました。
しかし、医師の言った通り副作用で苦しむことになりなります。
三日三晩高熱が続き無理やり魔力を抑制した為に割れるような頭痛に五日間も悩まされる羽目になったのでした。
やっと回復した彼は枕元に付いていたダニエルにこう告げます。
「私はこの先この薬を自分の性欲処理の為に使う事はしない。自分本位な一時の戯れ事の為に使うのは副作用も含め空しすぎる。将来どうしても愛したいという女性が現れた時にしか使う事はないだろう」
と。
「バージル・・・」
「なぁに、肌を触れ合い睦み合うことが出来なくてもダンスは踊れるのだからな」
うな垂れるダニエルに彼はそう言って笑ったのでした。
アデライト王国第二王子バージル・ヴィッセル・グラントはその日十八才となり成人の義を迎えていた。
聖堂で神よりの祝福を受けた後、王宮にて成人を祝う舞踏会が開かれていました。
彼は美しい青年に成長していた。
銀髪に彫りの深い整った顔立ち。長身で細身に見えるが鍛え上げられた肉体が正装の内に隠されその精悍さは誰の目にも美しく見えた。
あまり人と関わらなくなっていた彼は公の場に出ても令嬢たちと親しくする事はありませんでした。
彼に憧れる令嬢は数多くいたが、冗談でダニエルに言ったダンスさえも踊る事はなく藍眼は冷たく人を寄せ付ける事は無かったのでした。
されど、この日ばかりはそうはいかない。自分の成人の祝いの舞踏会なのですから。
王族の習わしとして成人した王子は去年デビューをし今年成人を迎えた貴族令嬢の中から選ばれた一人とファーストダンスを踊らなくてならないのです。
拍手の中、中央に歩み寄る第二王子と侯爵令嬢。
令嬢は頬をピンクに染め見目麗しい王子の手を取り瞳を潤ませうっとりとします。
曲が始まり優雅に踊り出す若い男女を出席者たちが暖かい気持ちで見守ります。
ところが、踊り始めてまだ曲の半分もいかないという時に突然令嬢が王子の腕のカでぐったりと力なく倒れ周囲は騒然となります。
バージル自身も何が起こったのか分からずただ令嬢を腕に抱えたまま呆然としていました。
すぐさま警備の騎士たちにより令嬢は別室へと運ばれ医師の診断を受けますがバージルのから出ている魔力に酔ってしまった事が判明します。
騒めく会場で医師から診断内容を聞いた国陛下は事なきを得る為に来賓に向かいこう告げました。
「宴の中お騒がせして申し訳ない。侯爵令嬢は王子バージルとのファーストダンスで緊張しのぼせてしまわれたようだ。暫く休めば回復すると医師も言っておる故皆もこのまま楽しんで欲しい」
バージルに因る魔力酔いは伏せてのお言葉だった。
その後彼は二度と踊る事はなく国王と王妃の傍で舞踏会の様子を遠い目で見ていたのでした。
そして弟の代わりに舞踏会を盛り上げたのは五つ上の兄、王太子となった第一王子のデオドールでした。
彼もまた見目好く中性的な美しさで女性たちの憧れの王子です。
さらりと伸ばした金髪をハーフアップし次々に相手を変えダンスを踊って行く。
金髪金眼の麗しき王子は二十歳から浮名を流しており柔らかな物言いで色香を漂わせています。
まだ婚約もしていないという事もあり貴族令嬢は時期王妃の座を狙って奮闘していたのでした。
そんな兄の姿を高座から両陛下と見ながらバージルが呟きました。
「私に子がなせなくても第一継承者である兄上がいるので安泰ですね」
女性との関係が持てなくなった息子の吐くような言葉に隣に座っていた王妃クリスティーナは細い指で彼の冷たくなった手を握り締めたのでした。