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64*四大公と魔術師と念話

 翌日四大公がそれぞれ魔術師を伴い登城してきました。

 謁見の間にて顔合わせが行われることになり、デオドールを筆頭にアデライト組も同席する事となった。


「遠いところご苦労であった。楽にすると良い」

 皇帝サミュエル・キャメロンの言葉で全員が席に着くとドルチェ帝国宰相タイラーがそれぞれの名前を読み上げます。


「アリア領大公ジョセフ・モルト殿、魔術師エルネスト」

「ダルク領大公カルバン・エンデ殿、魔術師ジョルジュ」

「デアトロス領ロイ・シャービス殿、魔術師セルゲイ」

「マーカス領大公トーマス・ホートン殿、魔術師ハンニバル」

「ドルチェ領魔術師ジャーノ」

 呼ばれた順番に立ち上り一礼をした。

「今回の貴賓であらせられるアデライト王国

 聖女マリー殿

 デオドール王太子殿下

 第二王子バージル殿下

 ジュリアンナ第二王子妃殿下」

 アデライト王国のメンバーは座ったまま会釈をする。


「今回の魔術大会について既に皇帝陛下より通達があったように今後の帝国の平和と安定を図るために陛下に仕える魔術師を選ぶ運びとなりました。公平をきたす為ドルチェ及び四領の魔術師の中より一人を帝国魔術師として迎えます。選ばれた術師は政治的な権限は持ちませぬが、陛下の補佐と護衛を兼ねて頂く事になります。尚、魔術披露の内容により誰も選ばれない可能性もあると云う事もご理解頂いていると思って宜しいでしょうか」

 全員が頷きます。


 普通に考えたら選ばれないかも知れないのに自分の領の魔術師の手の内を見せろと言われている様なものだ。そこは気にならないのかと不思議に思ってしまう。彼らにとって帝国魔術師という役職名はその事に気付かなくする程魅力的なものだという事なのだろうか。


 餌に釣られてきちゃったわねと思いながら四人の魔術師をアンナはじっと観察していました。

 アリアのエルネストはかなりのお年の様だ。いかにもという感じで白く長いひげを握りながら扱いている。大公は歓迎の晩餐会で少しお話したけど我儘な娘に振り回さているだけでとても悪だくみをするようには見えない。


 ダルクのジョルジュは胡散臭いと感じた。大公カルバンの皇帝を見る目つきも気になる。


 デアトロスのセルゲイはまだ三十代と若い。野心がありそうなギラギラした目をしている。大公は?何か邪気が漂ってるよね。


 マーカスのハンニバルも若そうではあるけれど余りやる気があるようには見えない。でもうこういう人物に限ってという事もあるよね。大公は確か敗戦により前国王が退位し新しく大公に選ばれた。野心はあるのかしら?

 やっぱり術式を見て探すしかないんだろうな。


◆◆◆


 そんなこんなで顔合わせを終えたアンナ達は早速二回目の作戦会議を開きます。

「ねぇダルク領とマーカス領はドルチェに敗れて占領された国よね?」

「ああ、そうだよ。それが何か?」

「という事は負けて恨みを持っている可能性もあるわね」

「無いとは言えないだろうな」

「ダルクのジョルジュは魔法医師でもあると言ってたわ。ナリス様に掛けられていた最後の術は体の組織を蝕んでいくものだった。医療の知識がある者が掛けたと思うのよ。多分一人目は彼に間違いないわ」

「なるほど。そうすると残りは三人。あの怨みの魔法までプラスされていた悪意の術式を作ったやつはやはり敗戦国か?だとするとマーカス?」

「そうとは限らないわ。自ら傘下に入ったアリアとデアトロスも」

「アリアはありえないな。我が国と隣接していてうちとは交易も盛んだ。兄上も良く行き来しているし大公の人がらも良く知っている」

「と云う事は一つはダルクと二つ目はデアトロスとマーカスのどちらかね」


 流れとしてはカモフラージュ的なドルチェを含め五人の魔術師に術を披露してもらう。

 その術式から皇妃に掛けられていた術の癖と同じものを見つける。

 そして皇帝が帝国魔術師を選ぶと見せかけて犯人の魔術師と大公を断罪する。

 素直に罪を認めればそこで終わるが抵抗して魔術を使うようならアンナの登場になる。相手が召喚獣を呼ぶようならアンナもドロップを呼ぶ。

 最後は聖女マリーに二度と魔術が使えないように魔力を奪い封印させる。

 といってもマリーが出来る訳では無いのでアンナがやる訳だが、他国に聖女の力を示すためにもマリーを通した方が良いと云う事となった。

 まぁそんな流れだ。


「ねぇ、一つ質問があるんだけど」


「何だい?」

「私の出番があったとして術を発動させる時ってみんな詠唱して術式を展開するじゃないですか。私そんなこと出来ないんだけど・・・」

 アンナが困った顔で訴えてきます。

「そうよね、アンナは術式を持たないし。無詠唱で魔法も魔術も聖女の力さえも使えるんだものね」

「どうしたら良い?術式を持たないのは私と魔女・・・ビオラたちでしょう?私魔女認定されるのかな?」


「「「・・・・・・」」」


「まぁそれを知ってるのは私達精霊だけだどけね。分かった、バージルの術式をアンナの目前に展開させて貰うようにすればいいわ。どうせ相手は術式をその場では解読出来ないんだから」

「そんなんで大丈夫?」

「そうねぇ、『()()()()()』をバージルが展開してアンナに渡す、術式に関係なくアンナはやりたい事をそれらしく詠唱して魔力を注ぎ発動させたように見せる。そうすれば周りはアンナのことは術師だと思うでしょう?」

「ビオラって精霊だけど策士ね」

「うふふ、誉め言葉として受け取って置くわ。それとバージルも意思疎通できるように一時的に念話が出来るようにしてあげるわ」

「ビオラ、アンナと念話が出来るようになるのか?」

「そうね、一回で三時間ぐらいが限度だけど、その時間内には終わるでしょう?」

「ああ」

 バージルはしばし考え

「いきなりやって上手くいかないと困るから試しに掛けて貰えるか?」

 と体を乗り出す。

「いいわよ、相性もあって出来ない事もあるから試してみて」

「おお♪」

 妙に嬉しそうなバージルを見て嫌な予感がするダニエルです。


「二人向かい合って両手を繋いで目を閉じてね」

「「はい」「うむ」」

 アンナとバージルがビオラに指示された通りに向かい合います。


 ビオラが光を指先から出し頭上から振り撒くと二人の身体が一瞬白く光りました。

「もういいわよ。アンナ、バージルに念話を送ってみて」

「はい」


《バージル聞こえる?》


「ちょっと待って。何か頭の中がモヤモヤしてきた」

「バージル大丈夫よ。効いてきた証拠だから。最初は目を閉じて集中した方が良いわね」

「分かった、やってみるよ。アンナ私が手を上げたら話し掛けてみてくれるか」

「はい」

 バージルが目を閉じ心を落ち着け集中する。間を置いて右手を少し上げます。


《バージルどう?》

 アンナの声が耳からではなく頭の中に心地よく響いてきました。

《アンナ聞こえた。うん聞こえる》

《やったわね、バージル》


「ビオラ、やったぞ!会話が出来た」

 バージルはビオラに興奮しながら報告します。

「ふふふ。良かったわね。三時間は効果があるから寝るまでに練習するといいわ」

「ああ、そうさせて貰う」

 バージルの小躍りしそうな喜びように「変な事に使わなきゃいいがな」とダニエルは冷めた目で見ていたのでした。


「術式はこれで解決ね。召喚獣に対してはドロップがいるから良しとして。相手が暴走するようならバージルの術式を気にせずアンナの判断で適当にあしらっちぇばいいわ」

 ビオラが含みを持たせて笑いました。

「よし、それじゃ、解散」

「おやすみなさい」

 最後に部屋を出るダニエルがバージルを呼び耳打ちをします。


「念話でお嬢を困らせるなよ」

「余計なお世話だ」

 ダニエルの背中を押し部屋から押し出すとバージルは彼に心を見透かされていると思い一人で悶絶するのでありました。


「バージル、明日は早いから寝ましょう」

「ああ、そうだな」

 寝着に着替えアンナを後ろから抱きかかえるように横になります。


《アンナ聞こえるか。少しだけ念話の練習をしたい》

 バージルが念話で呼びかけます。

《聞こえてるわ、バージル》

《良かった。この分なら明日は上手くいきそうだな》

《ええ、大丈夫ね》


《・・・・》


《どうしたの?途切れちゃった?》


《アンナ、可愛い、愛してる》

《バ、バージル念話でそんなこと言わないで》

《どうして?私はずっとビオラとフォルヴァが羨ましかったんだ》

《えっ、?》

《だって君と離れていてもこうして話が出来るから》

《そんな事言われても・・・》

《アンナが好きだ。大好きだ。愛してると念話でいつも伝えたい》


「そんなことされたら私がどうにかなっちゃうから困ります!」

 思わず念話でなく声に出してしまった。

 どこでも構わずバージルに愛を囁かれてこられたら心臓がもたないに決まってる。


《じゃ今夜だけ。アンナ、私のアンナ、キスさせて》


「もう知りません、おやすみなさい!」

 これはヤバい。明日の魔術大会でもう一度使ったらビオラに言って二度とバージルと念話しないと言おう。

 封印だ、封印!


 アンナは上掛けを頭まで引っ張りそれから先バージルの念話に応える事はありませんでした。





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