62*皇妃の完治と召喚獣
夜の解術も今夜が最後です。
もちろん先日同様サミュエルも同席しています。
「始めましょう」
バージルの言葉にビオラが光の粒でナリスを包みます。
最後の術式が浮かび上がりバージルが解き始めました。
「この術はナリス様の身体を蝕んでいくように掛けられています。これを最後にしたのは前回の呪いの混じった悪意の術を先に解かないと回復を邪魔されてしまうからです」
彼の言葉に皇帝の顔が歪みます。
「二つの悪意に満ちた術はいったい誰が・・・」
「それは今度の大会で分かります」
アンナがナリスの手を握りながら答えました。
一時間程悪戦苦闘し「解けた」とバージルが小さな声で呟き
「汝の術は我が開放し解き放つ」
と唱えると彷徨う術式が今までのと同じように乾いた音でパリンと割れ粉々りなり消えて行きました。
「終わったのか?」
サミュエルが愛しい妻に駆け寄ろうとするのをアンナが止めます。
「最後にナリス様の蝕まれた筋肉などの組織を修復しますので抱きしめるのはもう少しお待ちくださいね」
アンナは笑みをサミュエルに向け、立ち上がると両手を伸ばし癒しと回復魔法をナリスに送り始めました。
オレンジ色に包まれたナリスの肌がほんのり染まります。
ナリスの全身の血液の中を回復魔法が巡り組織を修復していくとやがて光は消えて行きました。
「終わりました。あとはナリス様にも昼間にお話ししましたが少しずつ運動をして筋力をつけて頂ければ大丈夫です」
「おお、そうか、以前のナリスに戻れるのだな。本当にありがとう・・・」
サミュエルはまだ目覚めていないナリスを抱き起こし優しく胸に閉じ込めました。
バージルとアンナ、そしてビオラもお互いの顔を見て安堵します。
治療が終わったことを執事に告げデオドールを呼びに行かせました。
待つ間に目覚めたナリスを応接セットのソファに座らせサミュエルが隣に寄り添いました。
「サミュエル皇帝陛下、ナリスティア皇妃陛下。以前にもお話しました通り私とアンナの魔力の事は別として今回見て体験されたアンナとビオラの力の事は兄デオドールにも内密にお願いします」
「デオドール殿にもか?」
「はい、いずれは分かる事かも知れませんが、アンナは神よりまだ未熟な聖女マリーを陰から支えるようにと使命を受け、私とビオラはそのサポートとしてアンナと共にいるのであります」
「神からの使命だと?」
サミュエルとナリスは驚きが隠せない。
「はい、私は目覚めた時に神様に軽いノリで言われてしまいまして」
アンナが肩をすくめます。
「軽いノリ・・・神が?」
「そうなのよ、あの神チャライから。面倒な事みんなアンナに押し付けちゃったのよね」
ビオラが皇帝の前だというのにいつも口調に戻って神の悪口を言うの見たサミュエルは「???」と不思議そうに彼女をもう一度見てきました。
「アンナはアタシの愛し子だから加護をしているのよ」
「ビ、ビオラ!そんな事まで」
バージルが慌てててビオラを止めますがビオラはお構いなしで
「大丈夫よ、この人たちは余計な事は喋らないわ。信用できる。アタシはアンナの事が大好きな光の精霊よ」
「精霊?・・・妻を包んでいたのは精霊殿の光だったのか」
サミュエルは立ち上がりビオラの前に跪いた。
「やめてよーそういうのはいいわ!」
「しかし。。。」
皇帝が跪くのは無理もない。
位で言ったらこの部屋で一番高位なのは精霊なのですから。
「アタシは自分が好きでアンナについているんだもの。フォルヴァやドロップだって同じよ。まぁドロップは面白そうだからと一緒に来てるんだけど」
「えっ、それはマリー様が何時もお話しして下さる猫の事ですの?」
「ええ、そうよ。フォルヴァは聖獣でドロップは水の精霊だもん」
「えっえーーーーー!!!」
お淑やかな皇后とは思えぬ声を上げたナリスにバージルとアンナ、夫であるサミュエルまでもが引いてしまう。
「聖女様が他国に来て下さることも異例だというのにまさか聖獣に加えお二人の精霊様まで我が国来られていたとは!知らぬとはいえ・・・どうしたら良い、ナリス?」
「そ、そんな事私に言われましても」(汗)
「気にすることはないわ、みんなアンナの事が愛しくて勝手に着いて来てるんだから。バージルの愛とは違うけどね」
そう言ってビオラは笑いながらバージルに目を向けるとバージルが照れ笑いをしています。
えっ、そこ照れるところですか?と突っ込みたくなるのを我慢するアンナ。
「ジュリアンナ妃、貴女には本当に何と言って良いか」
サミュエルは今度はアンナの前に跪き
「聖女ジュリアンナ殿、精霊殿までお連れ戴きバージル殿下と共に妻ナリスティアをお助け頂き感謝いたします」
そう言いアンナの手を取り口づけを落としました。
「サミュエル殿感謝は十分伝わりましたので口づけは余計です」
「バージル様!」
皇帝に対し物申すバージルをアンナが慌てて止めます。
「あはは、これは失敬致した。お噂通りの溺愛ぶりですな」
真っ赤になるアンナをナリスは微笑ましく見ていたのでした。
◆
「デオドール殿をお連れ致しました」
執事と共にデオドールが入って来ました。
「これは皇妃陛下、寝台から出られるまで回復されたのですか!おめでとうございます」
深々と頭を下げるデオドールにナリスがゆっくりと立ち上がり頭を下げました。
「ありがとうございます。聖女マリー様とバージル殿、ジュリアンナ妃のお陰です」
「良かったです。バージルとアンナご苦労であった」
二人も立ち上がり頭を垂れました。
「で、これからの事だが」
サミュエルは数日後に予定されている魔術大会について詰めの話に入った。
「四大公からは全員出席すると返事があった。うちの領からはサクラで魔術師を出す。場所はコロシアムで行う。まずはそれぞれの魔術師に得意な魔術を披露させるがその時に術式を確認して頂くというので良いのですかな?」
サミュエルの問い掛けにアンナが答えます。
「はい、魔術が使える者は皆術式が見えますのでそれで大丈夫です」
「うむ、その後に帝国魔術師を選ぶフリをして断罪するという事だが、もし応じなく抵抗し暴走するようであれば妃が・・・」
「ええ、そうです」
そんな簡単に返事をするアンナにデオドールは呆れ
「おいおい、アンナちゃん。君がバージルより魔力が強いのは聞いてるから了承したけど、相手が召喚獣を出して来たらどうするの。我のを貸すかい?」
「デオドール様が召喚獣をお持ちだとは知りませんでした!でも大丈夫です。私も召喚に成功しちゃいましたので!」
「えっ!そうなの?」
デオドールはいつの間にアンナが召喚の儀を行ったか分からず驚いてしまう。
「本当か?で、アンナちゃんの召喚獣は何なの?」
「呼んでみますか?」
「「「えっ!?」」」
バージルとビオラがドロップの龍姿を思い出し少し俯き肩を震わせる中、アンナは立ち上ると深呼吸を一つし、
「出でよ我が友、聖なる水と雷鳴と共に」
と適当に作った召喚の言葉を唱える。
その時、もう寝ていたマリーの横で寝ころんでいたドロップが起き上がり横にいたフォルヴァに告げます。
「フォルちゃん、アンナちゃんに呼ばれたみたいだからちょっと行ってくるわね」
「おう、了解した」
ドロップはあっという間にマリーの部屋から消えて行きました。
ナリスの部屋が急に暗くなり水の塊のようなものが空中に浮かんで来ました。そこへ雷鳴と共に稲妻が窓から差し込み水の塊を打つと割れて弾けた水から現れたのは龍神の型をした召喚獣でした。
そんなドロップの演出を呆れてみているバージルとビオラ。
「これは!」
デオドールが一言洩らしたのち口を開けたまま龍獣を凝視しています。
三十センチほどの龍獣はデオドールに向けて火を吐いたがそれは自分のカラダの倍ほどの火炎であった。
思わず吹き出してしまうデオドール。
「何とも強そうな召喚獣だな」
笑いは止まらない。
あまりにも小さく可愛い召喚獣に皇帝夫妻も笑いたそうだが必死に堪えているのが分かってしまう。
「大丈夫です。本番には強い子なので」
アンナが笑顔で答えると龍獣のドロップはアンナの肩に乗り長い尾を振りました。
「そ、そうか分かった」
やっと笑いが納まったデオドールがバージルに向かって言いいました。
「お前も魔力の暴走が無ければ召喚獣を持てるのにな」
「えっ、そうなの?」
アンナがバージルの顔を見ます。
「ええ、一度召喚したのですが、魔力が暴走した時に召喚獣も暴れてしまい、父上否、国王に封印せよとの命令を受けてしまいました」
「なんと・・・やはり貴国とは未来永劫良き友としてお付き合い願いたいものだ」
そう言いながら苦笑する皇帝サミュエル・キャメロンでありました。




