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55*アンナの策略

「実は先ほど明日の為に調べたところ悪意の魔術と感じたのです」

「悪意?」

「皇帝陛下とナリス殿を貶める為というか・・・」

「何という事だ」

 サミュエルはガックリと肩を落とします。


「それは解けるのでしょうか?」

 ナリスが縋るようにアンナの手を握り締めてきました。

「時間は掛かると思いますが必ず解いてみせます」

 アンナは力強く頷きました。

「術を掛けた相手が分かればこの複雑な術を本人に解かせるのが一番手っ取り早いのですが・・・」

「ごめんなさい。名前も聞かないで、わたし」

「いいえ、きっと相手も意図的に名乗らなかったのだと思います。悪意の魔術を仕掛けるんですもの。名乗る筈なんかありませんわ」

「ジュリアンナ妃の云う通りだ。君が気に病むことは無い」

「あなた・・・」

「分からない以上は私達で何とか解術します」

 バージルも拳を握り締めて奮起します。

「ありがとうございます。分かりました」



 部屋に戻ったアンナ達はベッドの上で溜息を吐いた。

「まさかこんな展開になるとは思わなかったな」

「そうですね、悪意の術なんて酷いことを」

「かなり複雑な術式を用いているので解読にも時間が掛かりそうなんだ」

「大変だけど頑張りましょう。はい、今日のご褒美」

 アンナはバージルにそっと口づけます。

「ありがとうアンナ」


 隣でバージルの寝息を聞きながらアンナはなかなか寝付けないでいました。

 帝国は五つの領からなっている。占領された国と傘下に入った国。皇帝を恨んでいる人もいるわよね。それと皇帝を引きずり降ろして自分が変わろうとする者も。五国の王になっても気が休まることは無いか。。。


 ふと、気になる事が浮かびビオラに念話を送る。


『ビオラ起きてる?』

『アンナどうしたの?』

『この国って魔術師の数は多いのかしら?』

『ビスチェ自体は少ないと思うわ。他の領もまちまちね。まぁ魔術は多少魔力があれば訓練次第で自分の術式を作れるようになるけどね。でも最後の悪意の術はある程度の力を持っていないと無理だと思う』

『そっか。あっ、でもバージルが術式にはそれぞれの癖があるって言ってたわよね?』

『ええ。あると思うわ』

『うん、ありがとう。これで眠れそうだわ』

『ん。もういいの?』

『うん、おやすみなさい』

『ふふ、おやすみアンナ』


 翌日アンナはバージルを伴いサミュエルの執務室を訪ねた。


「陛下、お伺いも立てず急にお尋ねして申し訳ありません」

「いや、構わぬがどうされましたか、ジュリアンナ妃」

「はい、唐突ですが魔術大会を開いて欲しいのです」

 いきなりの提案にサミュエルは困惑する。

「それも高位な魔術師を集めて欲しいのです」

「どう云った意図でかね?」

 バージルはアンナの言わんとしている事が段々と分かって来た。

「術のお披露目か」

「ええバージル様」

 にっこりと笑うアンナ。

 アンナの話はこうであった。

 バージルの話から術にはそれぞれ術師の癖はある事を知った。その中でも悪意のある魔術を掛けたのはかなり力のある高位な魔術師だとビオラが言った。

 ならばその者たちを集めて術を披露させ、その中にナリスの掛けた術と同じ癖を持つ術師がいれば犯人だと特定できるとういものだった。


「もしその中に犯人がいなくてもナリス様の方は殿下とビオラが解いてくれますからご心配には及びませんが」

「なら何故特定し見つけるする必要があるのか?」


「皇帝ともあろうお方がそんな事もお分かりになりませんか?」


 アンナは皇帝に向けて不敬とも言える言葉を放ったのでした。

「えっ?」

 唖然とするサミュエル。


「皇帝陛下に無礼ではないか!」


 執務室に残っていた護衛の騎士が声を荒げ腰の剣に手を掛けました。

 バージルがすっとアンナと護衛の間に身体を入れます。

「ダグラスよい。下がるのだ」

「しかし陛下!」

「良いと申した。聞こえなかったか?」

「申し訳ありません」

「部屋の外に出ておれ」

 ダクラスは手を納め一礼すると執務室から退出していきました。


「陛下はナリス様のお身体の事で頭がいっぱいで大事なところを見逃しております。治ればそれが一番ですが、それで終わりではありません」

 アンナが一息つきサミュエルの顔を見ます。

「続けてくれ」

「はい、最後の二つの術は悪意の術だとバージル様が言っていたのを覚えておられますよね。悪意というのは皇帝と皇妃を狙っているという事です。最愛のナリス様を不治の病ににしサミュエル様を悲しみのどん底に陥れ精神を弱らせ皇帝の地位を奪う。これが目的だと思われます」

 アンナの言われサミュエルは膝の上に置いた拳をぎゅっと握った。


「・・・ああ、何という事だ。私は自分を見失っていた云う事なのだな。ジュリアンナ妃」

「ナリス様を思うばかりと云えば仕方のないことではありますが。。。」

「いや、自分の半分にも満たない年の妃に諭され身が縮む思いだ」

「そんな、生意気なことを申し上げてしまいました」

 ペコリと頭を下げるアンナ。

「バージル殿下は素晴らしい奥方を伴侶に持たれましたな」

「ありがとうございます。アンナはやっと巡り逢えた私の唯一であります」

 アンナを褒められ嬉しさを隠さず素直な気持ちを答えるバージルに皇帝も「唯一か、大事にされよ」と微笑みを返したのでした。


「それで、反逆と不敬を企む者に仕える術師をその大会であぶり出そうというのか」

「はいその通りです」

「うむ」

「それでですね、ただ魔術大会と云ってもそういう輩は表に出て来ないかも知れませんのでエサを蒔きます」

「餌を蒔くとは」

 ピンクの瞳をキラキラと輝かせるアンナを見てサミュエルも年を忘れワクワクしてしまう。

 バージルは私のアンナはどれだけ人たらしなんだと呆れてみています。


「餌は帝国魔術師と云う名声と役職です」


「成る程帝国魔術師という役職で私の傍に付けば貶める確率も増すという事か」

「そうです、こんなチャンスを見逃す訳がありません」

「うむ」

「アンナの発想には驚かされるな」

「うちの参謀に欲しい」

 腕組みをしながら真面目な顔で言う皇帝にバージルがこれまたマジメに答えます。

「やめて下さいサミュエル殿、アンナが調子に乗ります」

「わはは!いや、実に面白い。早々に準備を始めよう」


 すぐさま閣議を始めるよう使いを出しその日の内に魔術大会について話し合われた。


「でも当事者が参加しなかったらそれまでだけどな」

 廊下を歩きながら残念なことを言うバージルに

「大丈夫です、絶対に出て来ますって!」

 自信満々に言うアンナを見て彼はクスリと笑い突然抱き締めて来た。

「なんですか、いきなり!」

「私の奥さんは賢くて可愛いなと思って」

 耳元で囁くように言われプシューと音が出たのではないかと思う程赤面し耳まで熱を持って俯くアンナに再度「可愛い」と言い口づけるバージル。


 二人の会話が聞こえない距離を保ち護衛している騎士たちはそんな二人の姿を見て俯き顔を赤めていたのでした。




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