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54*悪意の魔術

 予想通りアンナはベッドの上にどさりと降ろされてしまう。

「分かっているよね?」

「えっ、何が?」

「惚けるのか、悪い奥さんだな」

「だから何を?」

「兄上にキスをしただろう」

「へっ?」

「ああ、私は術式を解いて疲れているのに君は私にご褒美をくれる前に兄上にキスをするなんて・・・」

「バージル、あれはおやすみなさいのキスです!純粋なっ」

 最後まで言う前に口を塞がれてしまいました。

 やっと唇が離されアンナは呼吸を整えるとバージルに向かい叱咤を飛ばしました。

「もう、そんなに無理やりするなら明日から部屋も別にして貰ってご褒美も無しにしますから!」


 さっと身を引くバージル。

「アンナ・・・すまない。無理やりする様なことはしないから」

 

 よしっ!マウントは取ったわ。

 心の中でガッツポーズを取ります。

 ベッドの横で膝まづくバージルの銀髪をくしゃくしゃと優しく撫で

「分かってくれればいいの」

 と優しく声を掛けるとバージルは静かに顔を上げます。その両頬を掌で挟み

「今日はお疲れさまでした」

 とアンナからご褒美の口づけます。

「アンナ」


 その後はいつも通り一緒にお風呂に入り仲良く朝を迎えた二人でした。



 そう言えばダニエルとビオラは日中何をしているのでしょうか?

 二人はバージルとアンナがナリスの為に王宮に引き籠っているのを良い事に城下に行き遊び惚けているのでした。

「明日はどうする?」

「そうだな、港町まで下りて美味い魚介類を食べようか」

「いいわね♪」

 そんな会話していたことをバージルもアンナも全く以って知る由もありませんでした。


◆◆◆


 翌日マリーと一緒に癒しを流しにナリスの元を訪れているアンナ。

 マリーはナリスの手を握った自分の上に重ねられるアンナの手の温もりが忘れられません。

―――ナリス様どころか自分まで心地よくなってしまうのは絶対にお姉さまの力だわ。

 マリーは自分の力も少し強くなっていると感じ、一人で庭に出て怪我をした小鳥に力を試してみたのです。

 以前聖殿で転倒し膝を擦りむいた神官に試したときは傷を治ったものの跡を消すことまでは出来ませんでした。それが、羽を折った小鳥を治し飛ぶことが出来るように迄することが出来たのです。

 神官様が言っていた治癒魔法と回復魔法が出来るようになったんだわ。急に出来るようになるなんて絶対お姉さまのあの力のお陰だと思う。


 いくら器が小さいと言われてもマリーは聖女です。アンナから流された力で少しずつ目覚め聖女の力が段々と備わって来たのでしょう。


 その事はここ最近ずっと一緒にいるフォルヴァとドロップも気付いていました。

『器が少しずつだが大きくなっているな』

『良かったじゃない。あの子が普通の聖女にまでなれればアンナの負担も減るわよ』

『そうじゃな』

 二匹は仲良くお互いを舐めなら毛づくろいをしそんな会話をしていたのでした。



 夜、ナリスの術解。

 兄のデオドールはサミュエル陛下と交換条件である資源の輸入について話し合っていた。


「ナリス様。今夜も頑張りましょう」

「はい、よろしくお願いします」

 アンナの言葉に笑顔で答えるナリスの手を握り癒しの力を流していきます。

 程なくナリスは眠りに落ちてゆく。


「新しい術式ほど絡みが強いわね」

「そうだな。あと二つはかなり前ものだから昨日と同じ時間で解けると思うが、残りは少し厄介だぞ」

「そうね、悪意が感じられるわ」


 心を落ち着かせ空中であやとりをしているかのように手を動かすバージル。絡まりさえなければ術はそれほぞ難しくないので解くのに時間は掛からなかった。

 掛けられた魔術は合計六つだった。

 昨日と今夜で計四つ解くことが出来たので残りはあと二つ。


 アンナが癒しの治療を終えナリスの意識が戻る。

「ナリス様、身体に異変は感じますか?」

 暫くナリスは自分の身体の機能を確かめるように神経を集中した。

「はい、術を解いて頂くごとに気持ちとカラダが軽くなっていくように感じます」

「良かったですね。ここまでは順調に進みました」

「ありがとうございます」

 ナリスは顔の前で手を合わせ拝むように目を伏せ感謝の気持ちを表しているように見えた。

「ただ、明日からは少し難航しそうなんです」

「何か問題が?」

「はい、今までの術は純粋にナリス様の懐妊を促すように作られた術が歪んでしまっていたというもので、解くのに時間は掛かりましたが術式自体は難しいものではありませんでした。なので二晩で四つ解くことが出来きた訳ですが・・・」

「はい?」

 ナリスが困惑しているところにサミュエルとデオドールが会談を終え入って来ました。


「ナリス、おお今朝よりも顔色が良くなっているな」

「はい」

 ナリスの笑顔にサミュエルの表情も緩みます。

「そうか、そうか」

 サミュエルは上掛けの上からナリスの足を摩ります。

「自力で歩けるようになると良いな」

「ええ」


「陛下とナリス殿にお話があります」

 バージルが少し難しい顔をしてサミュエルに声を掛けました。

「何かあったのか?バージル殿下」

「はい・・・ナリス殿は最後の二つの術を掛けた魔術師を覚えておられますか?」

 ナリスはバージルの問い掛けに首を傾げます。

「それがハッキリとは覚えていないのです。私が呼んだのではなくあちらから力になりたいと申し出て下さって。魔術師の間ではたぶん私の情報が漏れていたのだと思います」

 ナリスの話を聞きサミュエルが声を荒げた。

「君は誰の紹介とも知らぬ魔術師に術を受けたのか」

「ごめんなさい、あなた・・・最後の方は私も意地になっていて、子が授かるなら誰にでも縋りたかったのです・・・」

 浅はかなことをしてしまったと涙を零すナリスを抱き寄せ

「悪かった。君をそこまで追い詰めてしまったのは私の所為かも知れない。許してくれ」

 サミュエルは優しく妻の背中を摩ります。


「その魔術なんですが・・・」

 バージルが重そうに口を開きます。

「殿下、はっきりと行ってくれて構わない」

「分かりました」

 バージルが深呼吸をしてから話しを進めます。

「実はあと二つ術が掛かっているのですが、それが懐妊を促す為の術では無いのです」

「では何だと?」

「ナリス殿を病に伏せさせ陛下を苦しめるための術です。少し複雑なので呪いも掛けられている可能性があります」

「えっ!?」

「どういうことですか?」




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