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51*厄介な術式①

「アンナから受け取ったものをご説明をします」

 バージルが陛下に向き直り話し始める。

「ナリス殿には複数の魔術が掛けられています。魔女の魔法は・・・」

「あっ、それは私が」

 サミュエルがアンナの方に顔を向けます。

「魔女の薬、いわゆる不妊治療薬と云うか妊娠を促す薬はもう殆ど残っていません。たぶん、この薬だけ飲んでいたならナリス様はこんな状態にはならなかったと思われます」


「そうなのか?では魔術が彼女を苦しめているというのか?」


 今度はバージルが答えます。

「そうです。先ほど複数の魔術がと申しましたが、一人の魔術師が掛けたのではなく魔術の数だけ魔術師が関係しています」

「そんな事まで判るのか?」

「ええ術式にはそれぞれの癖がどうしても出てしまうので・・・そしてそれらはある程度時期をずらして掛けられています」

「どういうことかね?」


「それはですね、たぶん」


 アンナが眠っているナリスの方を見ながら

「ナリス様は魔女から薬を貰ったけどその兆候はなく残念ながら月のものが来てしまった。薬だけでは無理なのかと思い勿論薬を飲みながら魔術師を呼びその手の術を掛けてもう。だけどまた駄目で次の月は違う魔術師を呼ぶ。それを繰り返した結果幾つもの術が重なり合っているというか」

 アンナの顔が沈む。

「陛下、魔女の薬は心配御座いません。ただ魔術の術式が複雑に絡み合い一つずほどいて解いていかないとならないので大変な作業になります。お時間はかかりますが聖女と協力してやらせて頂きます」

「ありがとう、バージル殿」

 サミュエルは二人の手を両手で取り力を込めて何度頭を下げた。


「陛下お顔をお上げください。これからの事ですが、今日はもうマリー様を休ませ夜に私と殿下がこちらにお邪魔して術式をお調べしたいと思います。そして明日以降は一日一回マリー様に癒しの力を送って貰います。その際は勿論私も同行いたします。そして夜に分かった術式から解いていく作業をバージル様と行いその繰り返しで五日あれば何とかなるのではないかと思うのですが・・・」


「なに五日でナリスが良くなるのか!」

「ハッキリとは申し上げられませんが」

「いやいい。一年もこの状態が続いたのだ。治る見込みが出て来ただけでも嬉しく思う」

 サミュエルはナリスのベッドに駆け寄り優しく頬を撫でながら口づけをし涙を零した。

 それを見たバージルとアンナは「ではまた夜に」と静かに皇妃の部屋を後にしました。


 マリーの様子が気になり二人で部屋を覗きに行くとさっきの事はなんちゃらとベッドの上でフォルヴァとドロップとで何かの取り合いをして遊んでいる最中でした。

 そんな姿を目を細め見ているデオドール。

「おお。ご苦労。ナリス殿はどうであった?」

「ええ、皆で協力して行えば何とかなりそうです」

「そ。そうか!良かった」

 彼はバージルの肩に手置き労った。

「アンナちゃんもよろしく頼むね」

 と微笑む。

「はい。ん?」

 アンナの姿を見てベッドから降りて来たマリーがアンナのスカートのを引っ張っている。

「どうされました?」

 彼女の目線迄屈むと


「さっき、お姉さまと皇妃様の手を握っているときとお部屋を離れる時・・・なんかすごい力がマリーの中に入って来ました。アレは何なのですか?」

 マリーの感じたものが何なのか想像の付くフォルヴァとドロップは肝が冷えた。

 デオドールに渡す離れ際に大聖女の癒しをマリーの中に送っていたのだ。

 大聖女の力が使われれば精霊や聖獣には自然と分かる。二匹の猫はこの部屋のベッドの上で微睡んでいてもアンナが癒しを使ったことを感知していたのでした。


「えっ、それは・・・きっと皇妃陛下の悪い気だとおもいま・・・す」

 アンナのしどろもどろな返答にバージルも察し

「うんきっとそうだよ」

 とマリーの頭を撫でました。

「そうかなー、なんか暖かくて気持ち良かったんですけど」

 これ以上はと思いバージルは咄嗟にアンナを抱き上げます。

「ば、バージル様何を!」

「マリー、兄上。アンナも疲れたようですので私たちは部屋で休ませて貰います」

「あっ、ああ。そうしてくれ」

 デオドールは呆気にとられる。

「お姉さまずるいです。バージルお兄様に抱っこされて~」

 マリーがバージルの袖口を引っ張ります。

「マリー様ごめんなさい、バージル様も降ろしてください」

「駄目だ」

 デオドールは吹き出しバージルの代わりにマリーをお姫様抱っこする。

「あんな薄情な魔力持ちでは無く優しいデオドール兄さまがマリー姫を抱っこしてあげるからね」

 とマリーの頬にキスをしました。

「デオドールお兄様大好き」

 喜ぶマリーを愛でながら彼は二人に向けて早く行けとウィンクしました。


 バージルはアンナを抱いたまま廊下を進み自分たちの部屋へと向かいます。

 途中ですれ違った若いメイドたちは頬を染め、年配のご婦人たちは「おやまぁ」と微笑ましく二人の姿を見送ったのでした。


 部屋の戻るとバージルはアンナをソファに降ろし、いきなり口づけてきました。

「バージル何を・・。」

「ベッドの上に降ろされなかっただけマシだろう?」

「・・・」

「もう一度だけキスさせて」

 と今度は深いキスをしてきました。


「はぁ、魔力を使うよりバージルのキスの方が疲れます!」

 やっと解放されたアンナは大きく息を吐きます。

「あはは!そうか、そうか」

 

 その時ノックしてビオラが部屋に入って来ました。

「お邪魔でした?」

「そんなことは無い。今終わった」

「ちょっとなんですか!今終わったってー何もしてないじゃないの」

 アンナが慌てて否定するとビオラは呆れた口調で

「別にアタシは気にしないけど。それよりさっき癒しを使ったでしょう?」

 どうやらどこかをフラフラしていたビオラにも癒しの力は感知したらしい。


 先ほどまでの流れをビオラに説明しました。

「成る程、違う術師の上掛けかー、面倒ねソレ」

「ああ、そうなのだ。それぞれの癖がかみ合っていて解くのに苦労しそうだよ。ただ後半の魔術は・・・さっきは陛下に気を使って言わなかったけれど、どうやら皇妃の懐妊を願うものではなく」

「バージルも気が付いたのね。私も感じたわ」

「なにか怪しい術が絡んでいるのね。いいわ、夜はアタシも一緒に行ってあげる」

「頼む、ビオラ」

「じゃあ、さっき陛下にも話したけどこれからの方針のお浚いをしましょう」


一.夜は三人でナリスのに幾つの術が掛けられそれがどんなものなのか突き止める。

二.明日以降は日中にマリーを伴い癒しの力をナリスに送る。

三.夜はバージルとビオラで絡み合った術式を一つずつ解き術を解いていく。

 二人がその作業をしている間アンナはナリスに癒しの力を少しずつ送り続ける。


 いきなり全力で癒しを流すと怪我とは違って魔術も絡み合うのでナリスの心と身体が付いていけず下手をしたら反対に命を落とす可能性もあるのだ。

 ここは慎重に時間を掛けるしかない。



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