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48*いざ、帝国へ。

「待たせたね」

 バージルとダニエルがガゼボにやって来た。

「大事な話して何?」

「とりあえず腹が減った。食べてから話そう」

 王城でのランチはサンドイッチが主流だ。午後にはお茶会などが多いので簡単に済ませる事が多い。

 バージルは黙々と食べているが、その姿はやはり美しい。食べ方も綺麗で見惚れてしまいます。

 そんなバージルを見ながらアンナもサンドイッチに手を伸ばします。

「タマゴサンドが食べたいな」

 ポロリと出てしまった言葉にバージルが笑います。

「こちらの料理長にレシピを渡して作って貰えばいいだろう?」

「そうね、それもありだけど、食パンのレシピまでは渡せないもん・・・」

 よくサンドイッチが登場してきますがこの国で言うサンドイッチのパンはフワフワの食パンではなくフランスパンを薄く切ったような感じで私たちが思う柔らかな食感とは違います。


 あっという間に食べ終わってしまったバージルが口元ナフキンで拭いて話し始めました。


「実は急なのだが七日後に隣国のドルチェ帝国に行く事になった」

「ドルチェですか!」

「重要な要件があるのだか、新婚旅行を兼ねても良いと兄上から言われているので一緒に行こう」

「新婚旅行ですか。国から出れるなんて初めてです!」

「うん、いいだろう?」

 嫌な訳がない。アンナは瞳を輝かせている。


「それで、ドルチェへ向かう目的なんだけれど」

 バージルは使者が持ってきた親書の内容を説明する。


「マリーにはまだ無理かもしれないわ」

 ビオラが苦言をする。

「以前マリーの聖女としての器は小さいと言っていただろう?癒しの力も弱いのか?」

 バージルがアンナの横に立つビオラを見上げるように問う。

「たぶん癒しの力はアンナの十分の一にも満たないと思う。今までの聖女に比べても低いわ。治療魔法は何とか使えるレベルだけど原因が分からないとそれも役に立つかどうか・・・」

「そうか・・・」

「でもアンナが同行するなら大丈夫じゃない」

「アンナに手伝って貰って良いのだろうか?」

 ビオラは座っているアンナの見下ろしながら

「その為の大聖女じゃない。陰からマリーの手伝いをして・・・というかマリーが治したと思わせてしまえば良いんじゃないの」

 今度はバージルが正面からアンナの顔を覗き込んで来ました。

「アンナはそれでいいの?」

「私ですか?良いも悪いも原因不明で伏せている皇妃さまを助ける事が出来たら嬉しいし、それが私の使命ならマリー様の手柄でも何でも構わないわ」

「そうか、ありがとう」

 バージルはほっと胸を撫でおろした。

「もし治せなくても外交上に問題が起きることは無いから安心して。交換条件はあくまでも聖女を国外に出し派遣するというのに対してだからね」

「それを聞いて安心しました」


「なに?旅行に行くのか」

 テーブルの下からひょいとアンナの膝の上に黒猫フォルヴァが乗ってきました。

「楽しそうね。私も付いていくわ」

 今度は白猫ドロップがバージルの膝の上に上がって来ます。

「こら、ドロップ!アンタ、バージルの膝の上はアンナの場所と決まっているのよ!」

 ビオラが凄い剣幕でドロップを叱りつけます。

「うふふ、構わないわ。ねっ、バージル?」

 笑いながら言うアンナにバージルは不満そう。

「何だ、アンナはヤキモチを妬いてくれないのか・・・」

 バージルはドロップの背を撫でながら呟きます。

 思わず後ろにいたダニエルが吹き出しました。

「バージルお前って本当に・・・くくくっ」

「笑うな、ダニエル!不敬罪に問うぞ」

 これにはアンナもビオラもフォルヴァやドロップまでもが吹き出してしまいます。

「オホン、とにかくだ。早急にドルチェ帝国へ行く準備をしてくれ。聖獣殿と精霊殿が同行してくれるのは何よりも心強い。感謝する」


「はいはい、任せなさいって」

 ビオラの言葉にフォルヴァとドロップもしっぽを振って応えます。


 アンナは内容がどうであれ、国外への初旅行に心を躍らせるのでありました。



◆◆◆


 ドルチェ王国へは馬車で五日掛かりまます。現在は帝国の入り口になるアリア領を結ぶ橋が災害で崩壊し新しく架け直す作業中のため、どこの国も属さないオレオ地区へ一度入りそこから小さな橋を渡りアリア領へと入ることとなります。数台の馬車に分かれて乗り一行は一路ドルチェ王国へと向かいました。

 先頭の馬車にはデオドール殿下とマリーそして則近のピエールとマリーの侍女。

 二台目にはバージルとアンナ、ダニエルとビオラそして猫二匹。

 マリーはアンナ達と乗りたがったがバージルの魔力酔いを考えその願いはかなわなかった。

 三台目の大型馬車には侍従や侍女など六名が乗りその後は荷物が山ほど積まれ四台の馬車の前後を五名ずつ十名の騎士が馬で護衛する形だ。

 王子二人が外遊するには質素過ぎる馬車の数であるが、あまり目立たないようにする為でもありました。


 国を出るまでに二泊しオレオ地区との境に近づいたときアンナが「あれ?」と何かが引っ掛かったように首をかしげました。

『どうしたのアンナ?』

 ビオラに念話に『う~ん』としか答えないアンナ。

 国境の手前にはアンナが転生したときに張られた結界があります。

 でも最後の村に入った時結界がもう一つあるのに気付いたのでした。どうしてもう一つ結界があるのかしら?と不思議に思ったのですが。


 フォルヴァは懐かしそうに外の景色を眺めています。

 そこは二百年前にジュリアーナと出会った村だったからです。

『そうか、国境の手前の村であったな』

 暫らくすると懐かしい修道院が見えてきました。

 フォルヴァは窓から飛び出しあっという間にいなくなります。

「あら、フォルちゃんどこへ行くつもりかしら?」

「前に来たことがあるのかしらね?」

 アンナもビオラも不思議そうに見えなくなっていくフォルヴァの後姿を目で追いながら首をかしげました。

「まぁ、迷子になることもないでしょうからほっときましょ」

「そうね」

 のんきな二人です。


 建て替えられてはいるけれど、フォルヴァは懐かしい修道院の屋根の上から昔を懐かしむように村の景色を見ています。

『随分と時が過ぎたのじゃな』

 国とは別にジュリアーナがこの村だけのために張った結界を見回します。

『ちと薄くなってきているが大丈夫だろうか?』

 この村の奥には魔物が住む森があります。そういった森は国内にいくつも存在しますが、よほどのことがない限り魔物の森から魔獣は発生することはないので魔物自体は人郷に出て来ない限り放置されていました。

『この村は大聖女の故郷でもあるからな。平和でいて欲しいものだ。危ないところがあるようなら調べて後でアンナに修復してもらうとするか』

 フォルヴァは村の周りを一回りし、問題がありそうな場所をチェックして一行と合流したのでした。



6月27日 ドルチェ帝国までかかる日数を変更しました。

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