42*王子様とご飯粒
「いただきまーす」
ビオラからオシボリを受け取りランチが始まりました。
「おっ、俺の好きな唐揚げだ」
ダニエルが真っ先に手のをのばしたのは唐揚げでした。
「お前だけじゃない、私だって好きだ」
バージルも片手にハンバーガーを持ちながら負けじと手をのばします。
「そんなに慌てなくても沢山あるじゃないの。ん?これ甘辛だけどピリッと後からして美味しいわ」
ビオラが食べたのはきんぴらです。
「アンナ、この黄色いのは?」
「ジル様、玉子焼きですよ。ちょっと甘くしてあります」
「へぇ~、ふわふわで美味いな」
「お嬢、この白い三角のは?」
「ダニエルさん、これも初公開!おにぎりです」
「オニギリ?」
「はい、良いから食べてみて」
ダニエルはオニギリを手に取るとパクリと一口。
「おっ、何か入ってる!」
「鱒の塩焼きを解したものよ」
「塩味とライスと鱒が絶妙な組み合わせの食べ物だな」
小さなおにぎりなのであっという間に三個食べてしまったダニエル。指に付いたご飯粒を舐め取っています。
ハンバーガーを1個食べ終わったバージルもオニギリを手に取り眺めています。
「ジル様、あんまり力を入れると崩れてきちゃいますよ」
アンナに笑いながら言われ慌てて口に持って行くバージル。
バージルの口元についたご飯粒をお約束通りに指で摘むと自分に口に入れてしまうアンナ。
三人が一斉にアンナの事を見ます。
「えっ?」
「アンナ今・・・何をした?」
バージルが動揺し真っ赤になりながらアンナを見てきました。
「どうしたんですか?普通にご飯粒を・・・小さい頃とか親にされませんでしたか?」
三人はブンブンと頭を横に振ります。
えぇーーーーー!!!
やっちまった。ここは違う世界だった。王族や貴族の坊ちゃんがそんなことされる訳がないよね。
どうしよう・・・
「ごめんなさい。お嫌でしたよね」
しゅんとするアンナに
「い、嫌では無かった。。。」
と真っ赤になりながら答えるバージル。
「はぁー。もう勝手にやって下さい」
ダニエルはハンバーガーを齧りながら次々とおかずを口に放り込んでいくのでした。
朝早かったせいもあってお腹いっぱいになると睡魔が襲って来ます。
バージルに寄り掛かりうとうとするアンナを見て
「我がクッション代わりになってやろう」
フォルヴァが寝そべりアンナを連れてくようバージルに言います。
きょとんとするバージルを見てフォルヴァは
「仕方ない、おぬしも寄り掛かれ」
とフサフサの尾を振りました。
「いや、でも聖獣を枕にするなんて・・・」
「ふん、なら我がアンナを独り占めして良いのだな?」
「あっ、それは・・・」
「なら早くおぬしも一緒に入れ」
バージルはアンナを抱き抱えた姿勢でフォルヴァの懐に入るとその温かさと心地よさにあっという間に眠りにと落ちて行きました。
聖獣フォルヴァの懐でアンナを抱えて眠るバージル。その微笑ましい姿をダニエルとビオラが見守ります。
二人の上にひざ掛けを掛けてあげるとビオラは池の方へと歩いていきました。
「どうしたんだ?ビオラ殿」
「ん、今アタシがここへ来ているのを知った水の精霊が会いに来たみたい」
「水の精霊殿が?」
「うん、ちょっと迎えに行ってくるわ」
そういうとビオラは光の粒になり池の中に消えて行きました。
えっ?ダニエルはビオラの光の粒が作った波紋をじっと見つめ
『今度は水の精霊?が来るのか』
思考が止まったまま水面を見続けているとまた波紋が広がり水中から光の粒つと水の塊が出てきました。光の粒はビオラの姿に戻ると水の塊に向かって
「アンタも人型になりなさいよ。ダニエルがビックリしているわ」
「ん。じゃぁ」
水の塊はあっという間に美しい乙女へと形を変えます。
「ちょっとーそれ!盛り過ぎじゃない?」
「えへへ」
ダニエルはポカンと開けた口が塞がりません。
「『水の』彼はダニエルよ。アタシの愛し子の婚約者のお友達。いつも一緒に行動しているの」
「は、初めまして水の精霊殿。ダニエルと申します。以後お見知り置きを」
ダニエルは胸に手を当て騎士の礼を取りました。
「いいのよー、そんな畏まらなくて。『光の』と同じように接してね」
美しい笑顔にダニエルはくらくらしてしまいます。
「『光の』じゃなくて、アタシはビオラって名前だからね」
「そうだったわね、それでビオラちゃんに名前をくれた愛し子は何処?」
「あそこで王子とお昼寝中よ」
ビオラは木陰で横たわるフォルヴァの方を指さしました。
「あらま、フォルちゃんお久しぶり」
「おお、『水の精霊殿』どうされた?」
「うん、ビオラちゃんが愛し子と来てるって聞いたから会いに来たの」
「愛し子ならここだ」
フォルヴァの腹に横たわる美しい王子に抱えられながら眠る少女を見て水の精霊は感嘆の声を上げた。
「まぁ、本当だったのね。大聖女ジュリアーナだわ!」
「今の彼女の名はジュリアンナなのだ」
「そう、ジュリアンナね。フォルちゃんやっと会えたのね。良かったわ~」
涙ぐむ水の精霊。
「本当に可愛らしい娘。心も清らかで慈愛に満ちているわ。ビオラが探していたジュリアーナの魂を持つ娘ね。それにしても何なのこの二人は。絵の中の王子と姫みたいじゃない。微笑ましくて可愛いわ♪」
「やはりお嬢は只の聖女ではなく大聖女だったんだ」
水の精霊の言葉を聞いてダニエルが自分の中で燻っていたモノを確信したように呟きました。
「気付いていたの?」
振り向いたビオラに聞かれダニエルは父から聞いた寝物語の話をビオラに聞かせたのでした。
「そっか。アンナは大聖女ジュリアーナの魂を持ってこの世界に神様が転生させてきた子なの。彼女が来てくれたからあの時この国は救われたのよ」
「そんな気はしていたんだ」
「大聖女と分かったから話すけど、神の話ではアンナには前世があってね。そこでも天使たちに選ばれた子だったのよ。その時に大聖女ジュリアーナの魂は神によって与えられたんですって。
で、その世界でフォルちゃん・・・いや、不幸な事故に遭って命を落としたの。覚えてるでしょう九年前の聖女誕生でこの国の瘴気と瘴魔を消し去り新しい結界が張られた日を。アンナが死ぬ少し前にもこちらで聖女が誕生したんだけど国を救えるほどの力はなかった。だから命を落とした彼女をここへ転生させたと教えて貰ったわ」
「そんな経緯があったのか。お嬢は何時から自分の事を知っていたんだ」
「七才のジュリアンナに転生して目覚めた時からよ」
「なら、自分の前世も覚えているのか?」
「ええ、しっかりと。二十歳の女性だったんですって」
やはり思った通りお嬢は大聖女だった。
ダニエルはビオラの話を聞き驚いたのは言うまでもないが、只の生まれ変わりではなく前世をもつ転生者だったとは思いもつかなかった。
話を聞いて驚いていたのはダニエルだけでは無かった。
騎士の訓練を受けているバージルは近づいて来た足音で目が覚めていた。でもそれがダニエルとビオラのもだと判り邪魔をして欲しくないと寝たふりをしていたのでした。
話を聞いて動揺しながらも続きが気になりアンナを抱きながらじっと耳を澄ませていた。
その時水の精霊が
「ねぇ、面白そうだから暫く私も一緒にいていいかしら?」
とビオラに声を掛けてきました。ビオラは少し考えて
「好きすれば。精霊は自由なんだから」
とあっさり承諾してしまいます。
これにはダニエルも嘘だろーと身震いをしてまうのでした。




