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40*ピクニック

「お嬢様、殿下が到着されました」

「はーい、今行きます」


 お忍びデートの時と同じく外見は一般の馬車でのお迎えです。

 でも中は豪華で乗り心地は申し分ありません。

 降りて来たバージルに手を引かれ乗り込みます。

 いつも通りアンナはバージルの膝の上。

 いつも通りダニエルとビオは知らん顔。


「おはよう、アンナ久しぶりだね」

 アンナを膝の上に抱き抱えたバージルはきゅっと抱きしめてきます。

「ジル様、久しぶりってほんの四日ですよ」

「一日逢えないだけで私にとっては久しぶりなんだよ」

「・・・」

「今日は少し郊外に出るから水入らずでのんびり出来るよ」

「楽しみですね、お弁当も頑張って作りましたから楽しみにしていて下さいね」

「うん」

 バージルは少年の様な笑顔で頷きました。


『あー。朝からこれは・・・まぁ予想通りだけど』

『仕方ないさ、休みが取れると判ってからバージルはもう上の空だったからな』

『どんだけアンナのことが好きなのよ』

 ダニエルとビオラは苦笑しながら小声で話をしていますが、バージルは聞こえているにも関わらず気にも留めずアンナに頬ずりをしたり髪に口づけをしたりして愛でているのでした。


 城下を抜け村々を通り林の入り口で馬車は止まりました。

「これから先は馬で行くよ」

 ああ、それで馬車の後ろに馬が二頭繋がれていたんですね。ここで待つという馬車の従者と護衛の騎士の二人にアンナは余分に作って置いたお弁当(おにぎりと唐揚げのセット)を手渡します。

「朝早くからありがとう。お昼に食べてね」

「私たちにですか!」

「で、殿下!」とバージルの方に戴いて良いのかとお伺いを立てます。

「アンナの気持ちだ貰っておきなさい」

「ありがとうございます。ジュリアンナ様」

 従者と護衛は何度もアンナに頭を下げていました。

 それを見ていたバージルはクスッと笑い

「はい、アンナはこっちね」

 葦毛(あしげ)色の馬の手綱を引いてアンナを呼び寄せます。

「バージル様は栗毛に乗るんですか?」

「ん?あっちはダニエルとビオラだよ」

「えっ?」

「ほら、乗って」

 バージルはアンナをひょいッと抱き上げ葦毛馬の背に横向きに座らせると自分もアンナの後ろに乗ってきました。

「えー!相乗りですか!?」

「そうだよ、前に言ったでしょう。ここからは馬車では無理だからね。ほらちゃんと捕まって」

 アンナは真っ赤になりながらチラリと栗毛馬の方を見ると、何の躊躇もなく相乗りをしているビオラとダニエルの姿が目に入って来ました。


 何であの二人は普通なの?


「いくぞ、ダニエル」

 耳元で響くバージルの声がこそばゆく俯いてしまうアンナ。

「はい」

 相乗りをした二頭の馬は静かに林の中へと入って行きます。

 バージルの片腕はアンナのお腹を支えるように抱き寄せ身体は密着していまにもバージルの鼓動が聞こえてきそう。

 歩き始めたばかりの頃はドキドキして顔を上げらずにいたアンナですが、林の中を進むにつれ若葉の匂いと澄んだ空気に心も落ち着き景色を楽しむ余裕が出てきました。

「ジル様見て。木立の葉の隙間から光がさしてキラキラ綺麗」

「ホントだ、綺麗だな。ずっと執務室に籠っていたから久しぶりに自然を肌で感じて気持ちが良いよ」

「ですね~」

「この先にエメラルド色をした池があるんだ。そこで今日はゆっくりと過ごそう」

「うわぁー、楽しみです」

 

「すっかり二人の世界だな」

 数メートル離れて後を追うダニエルが呟きます。

「恨ましいの?アンタも早く彼女とか作ったら」

「俺は別に女性には不自由してないからな」

「ふーん」

「だけどアイツは十八からよく我慢してきたよ。

 実はさ、魔力を一時的に抑える薬は出来ているんだ。暴走してしまったら抑える事は出来ないけど、事前に飲めば一晩だけど魔力を低下させることが出来るってやつね。それを飲めば女性とダンスを踊る事も一夜を共にする事も可能なんだぜ」

「へぇ、そんな薬作られていたのね」

「ああ、第二とは言え王子がこのまま結婚できなくては困ると開発されたんだ。アイツはそれを持っているにも関わらず一度しか使ったことが無い」

「どうして?」

「まだ人を魔力酔いさせてしまうと判って間もない頃で欲求不満もあったんだろうな。俺と一緒にまぁそれなりの所へ行って薬を飲み致した訳だけど、薬が切れた後の副作用があまりにも酷くてな・・・それからは一度も飲まず今に至ってる」

「アタシは男でも女でもない存在だから人間の様な欲求不満とかはないけど、心情的は分かるわ。でも副作用があるのは辛いわね」


「その時アイツが言ったんだ。自分が本当に愛する人が出来たら副作用があろうが飲んでその人を抱く。だけど、ただ欲求に任せて何とも思っていない女を抱く為に飲むのはこの一回きりで良いとね」


「空しく感じたのかしら」

「ああ、だからお嬢に出逢えてアイツはいま本当に幸せなんだと思う。自然体のままで愛することが出来るんだから」

「そうね、バージルを見てれば良く判るわ」


 そんな会話がなされている事も知らずバージルとアンナは馬上で恋人同士らしく甘い時を過ごしています。

 暫く行くと目の前がパッと開け小さな池が姿を現しました。


「すごい!なんて綺麗なの」

 エメラルド色に引き寄せられるように馬から飛び降りると池の淵迄走っていくアンナ。

 しゃがみ込み両手水を掬い上げ、指の間を零れ落ちる水を見ながら

「こんなに透明で綺麗な水なんですね」

「池と言ったけど本当は泉なんだ。地下からいつでも湧き出ている。かなり底は深いんだよ」

 馬を繋いで後から来たバージルはハンカチを差し出しながら説明します。

「そうなんですか。本当に綺麗だわ」

 水面をうっとり見つめるアンナの肩を抱きバージルが耳元で囁きます。


「私は君の瞳の色の方がずっと綺麗だと思うけどね」


 うー、ジル様またそんな殺し文句をさらっと。。。

 また心臓がバクバクして息苦しくなってしまうじゃないですか(汗)


「アンナ―、こっちに敷物を敷いたわよ」

 ビオラの言葉に救われました。

「まずはちょっとお茶にしてもう少ししたら早めのランチにしましょう」

 魔法でお湯を沸かしビオラがお茶の仕度を始めました。

 そこへのこのこと黒猫が一匹敷物の上に上がって来ます。


「まぁ、フォルヴァ!あなたも付いて来てたのね」

 アンナは黒猫を抱き上げ頬ずりをします。


「ちっ。」

 バージルの舌打ちにダニエルが背を向けて笑い出した。




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