33*解毒薬
「ただいま!」
「お帰り、ビオラ」
麻の袋を抱えてビオラが返ってきました。
「どう?デオドールは」
「うん、昨夜はかなりヤバかったらしいわ」
「そう、日にちが迫っているから少し強めのお茶に変えたのかしら」
「そんなこと途中からできる?」
「出来るわよ、魔女ならね」
「やっぱり侍女のリンダが魔女なのね」
「そういうこと、早速始めましょっ!」
そう言ってビオラは麻袋から解毒の為に必要な材料を出し始めました。
「うわっ、ナニコレ」
思わず手を引っ込めてしまった。
「げっ、ホントにおとぎ話に出て来るようなトカゲの尻尾とか、えっ、ヘビの抜け殻?こんなのも入れちゃうんだ!」
「魔女の魔法薬には欠かせないのよ」
お鍋位の大きさの容器に訳の分からない物や薬草など十種類程の材料を入れていく。ドクダミも忘れないでねとビオラに言われました。
「この瓶の液体は何?」
小さな小瓶に入った透明の液体は光に翳すとキラキラと輝いて見えます。
「それは月桂樹の葉に付いた朝露、それは最後に垂らすの」
「ふーん、綺麗ね」
「はいはい、全部入れたら沸騰したお湯を少しずつ入れながらかき混ぜて頂戴」
「はーい」
ビオラに言われた通りに手を動かします。
「くっさ!」
思わず鼻をつまんでしまうニオイに手が止まり
「かき混ぜ続けなきゃだめよ」
と叱咤されてしまいました。
「朝露を三滴垂らしたら今から呪文を念話で送るから三回復唱しながらゆっくりとかき混ぜて」
「はい」
私は言われた通りににかき混ぜる手は止めず目を閉じて心落ち着かせてビオラから送られてくる念話に集中します。
『〇△■※<※・.:*:°☆。°★。:*:.・※>』
『〇△■※<※・.:*:°☆。°★。:*:.・※>』
『〇△■※<※・.:*:°☆。°★。:*:.・※>』
呪文を唱えている内に液体は段々ととろみが出て来ました。
「これで一晩置けば出来上がりよ、アンナ」
「おお、やった!」
アンナが容器の中を覗き込むと最初のような臭いもなく、ぶち込んだ材料も影形なくみな溶けています。
「朝になったら完全に固まってるから粉にしてティースプーン一杯ずつ合計三杯を料理に入れるかお茶に混ぜてればいいわ。さっき呪文の中に味も分からなくする呪文も入れて置いたからデオドールは気付かないと思うわよ」
「どの位で効いてくるの?」
「そうねぇ、三十分位かしら?」
「じゃぁ、明日の食事会の時にデオドール様の料理に入れましょう」
「それが良いわね」
二人は顔を見合わせガッツポーズを取り気合を入れたのでした。
その頃フェリーシア王女と魔女リンダが部屋の中でヤキモキしていました。
毎日昼前に花を抱えて来ていたデオドールが体調を崩しているので来られないと代わりに使いの者が花を持って来て帰ったところです。
「体調を崩されたって大丈夫かしら?薬の副作用とかないの?リンダ」
「そのようなことは無いと思います王女様」
「昨日まであんなにご機嫌だったのにどうされたのかしら・・・後でお見舞いに行ってみたら駄目かしらね」
「一応お伺いを立ててからの方がよろしいかと」
「そうね、不躾な事は出来ないからお見舞いのメッセージを届けていただく事にするわ。それに最後のお茶を添える?」
「でも飲んだか確認できないでしょう?」
「それもそうね・・・」
「今までの下準備で殿下は王女様の事を恋人の様に思い始めています。あのポプリには洗脳の魔法も掛けてありますから夢の中での事が現実に思えている筈です。昨夜辺り夜這いに来るのではと思っていましたが残念ながら。。。」
「リンダに言われて私も心の準備をしていたけど、夕べから体調を崩されていたのかも知れないわね」
二人はこの企みは露見している事も、薬の効果でデオドールはここへ来たくてしょうがなかったのをバージルとダニエルに阻止されたことも知らない。
「最後のお茶の魔法は王女様のお言葉が引き金になり、殿下が求婚するという仕組みなっています。明日のジュリアンナ様主催のランチ会の最後に飲んで頂き皆様の前で求婚して頂くように致しましょう」
「分かったわ」
何としても帰国する前にデオドール殿下から求婚してもらわなくてはならない。
二人の気持ちに少しずつ焦りが見え始めた様に思います。
執務室で仮眠を取っていたバージルの元へアンナが解毒薬の完成の報告にやって来ましたがバージルは仮眠中でした。
「ダニエルさんは寝なくて大丈夫なの?」
「私とバージルは騎士の訓練で二、三日寝なくとも本当は大丈夫ですよ。一応彼には寝られるときに寝て置いて貰わないとと思いまして」
「そうなのね、バージル様に解毒薬は明日の朝には完全に出来上がるとお伝えください」
「良かった、これでデオドール殿も救われますね」
「ええ」
ダニエルさんの安堵した顔を見て私もホッとしました。
「それはそうと、先ほどバージルがお嬢から初めて好きだと言われたとめちゃくちゃ喜んでいましたが、お気持ちを伝えられたのですね」
「ジル様ったらそんなことまでダニエルさんに?」
アンナは恥ずかして両手顔を覆った。
「最近のバージルは分かり易いですからね。ちょっと突けば嬉しさを隠しきれずに話してくれるんです」
「もう、ジル様ったら・・・」
「本当に良かったと思っていますよ俺は」
「ありがとうございます」
頬を赤らめ俯くアンナの頭をポンポンと軽くたたきながら
「お嬢には本当に感謝しています」
とダニエルが微笑み掛けた時。
「ダニエル、私のアンナに何をしているのかな?」
仮眠室のドアに寄り掛かりながら腕組みをして二人の様子を見ていたバージルが冷ややかな目で睨んでいます。
「脅かすなよ。起きたなら普通にこっちへ来ればいいだろう?俺がお嬢に何かするわけないだろうが」
「いや、アンナの声が聞こえた気がして覗いたら二人が妙に親密そうに見えたから声が掛け辛かった」
「はぁ。」溜息を吐くダニエル。
「ジル様、解毒薬が朝には完成するとお伝えに来てダニエルさんとお話していただけですよ」
「分かっている、分かっているがダニエルがアンナの頭を触っていた」
「はぁ。」ダニエルの二度目の溜息が執務室に響きました。
「お前ってやつは」
そう言い残しダニエルは部屋を出て行ってしまいます。
バツが悪そうなバージルを見てアンナも
「ジル様、ダニエルさんはいつもバージル様と私の事を心配してくれているのですよ。今だってそうです。私が好きなお方はバージル様だけですのでもっと自信を持ってくださいませ」
「アンナ―」
バージルは顔をほころばせアンナを引き寄せ抱きしめるのでした。




