5.最後のプレゼント
はい。ジュリアンナことアンナです。
あれから私は、ビオラと一緒にとっても真面目に勉強を重ね、今では神童(あくまでも家族の間で)とまで呼ばれるくらい優秀な少女と成長しています。
実感は無いけど神様が予告していった通り、十三才の時に殆どの力は返されたみたいですよ。
神様がくれたというか、返して貰った力の中には様々な能力がありました。
その中でも【魔力】は魔法が存在する国なので不思議ではありませんが、強い魔力を持つのは高位な人たちだけで、その中でもほんの一握りの人だそうです。稀に平民にも魔力を持つ子が生まれるようですが、そういったことが判ると悪用されないように、神殿に連れていかれ神に仕える修道士や修道女になるらしいです。
うちの家族も魔力は多少持っており、生活魔法みたいなものは使えます。
でもビオラに言わせると、私の魔力は絶大なので人前で無暗に使わないようにと釘を刺されている次第で。
そしてもう一つ。大聖女として必要不可欠な力【癒し】
今この国が平和なのは聖女が存在し、毎日神殿で祈りを捧げているからだと誰しもが信じ思っています。
が、実際は私の存在こそがこの国の平和であり、人々の癒しになっているそうで、聖女の祈りは転生して浄化した後にジュリアーナの魂の力で出来た結界を、補助する為にあるのだそうです。ぶっちゃけ今の聖女の祈り程度では、国の平和も保たれないとビオラは平気な顔で言いました。
勿論聖女も同じような能力を持っています。が、その力量は比べようもないほど少ないようです。
回復(治癒)魔法も癒しの力の一つで、例えばけがをした兵士が大勢いたとして聖女が癒しの力を使い治療すると、一度に三人が限界だけど私の癒しの力だと、一度に十人以上回復させることが出来るのだという。
私はビオラからジュリアーナの強さや聖女の力の話を毎日のように聞かされて、そんな力を持つであろう自分が怖くもありました。
そしてとうとう十五歳の誕生日がやってきました。
最後の一つと言った神様は、これ以上何をくれるというのでしょうか。
その夜みんなが寝静まった頃、お約束通り靄の中から神様が登場しました。
『アンナ、二年ぶり~十五歳の誕生日おめでとう』
相変わらずチャラいです。
『ありがとうございます。前世の二十歳に近づいてきましたよ』
笑いながら私が言うと神様は苦笑しています。
『ビオラもいるね』
「もちろんよ」
『では最後のプレゼントなんだけど。その前に話しておかなければならないことあるんだ』
「なんでしょうか?神様っていつも後出しで、何だか嫌な予感がするんですけど」
『あはは、まあ聞いてよ』
「はあ。」
『転生して来た時に、天使たちに、君はこの先必ず人の為に生きる者になるから助けて欲しいと頼まれ、ジュリアーナの魂を授けたと話したのを覚えてる?』
「もちろんです。不本意だけど、生まれ来る筈ではなかったのに生まれちゃったって。
短い人生だったけど最後は男の子を助けて死んだんだから天使の言う通り、人のお役に立てでしょう?」
『まあ、そうなんだけど』
神様は長い綺麗な髪をくしゃくしゃとしながら眉を下げて私を見た。
前にも見た気がするけど、それは癖なのかしら。
いや、いや。そんな事よりも
「まさかあの子も死んじゃったとか?」
だとしたら私の死の意味がないじゃん!
『いや、彼は大怪我はしたけど命には別状なくて、あれから八十年、八十五才の人生を全うしたよ』
「えっ、八十年?だって死んで直ぐに転生したんだから、八年しか経っていませんよ!」
『確かにアンナはここに転生をして八年だけど、この世界の一年は君がいた世界では約十年に値するんだ』
「うっそーーーー!」
思わず大きな声で叫んでしまい焦る。
「て、事は元の世界の両親も弟ももういないんじゃないですか!」
『うん、皆さんもう他界しています』
何だかキツネにつままれた気分です。
でもあっちの世界で私が死んで八十年とすると、私があのまま生きていたら百才だ。家族みんな死んでいるのは当然。。。
うん。そうだよね、生きてる訳はないんだ。
知らないうちに涙が零れ落ちたのを、ビオラが小さいカラダでハンカチを持ち顔の周りをパタパタ飛びながら拭いてくれる。
『アンナ大丈夫かな?』
神様が心配そうに私の顔を覗き込みます。
「はい。ちょっと衝撃的でしたけど何とか大丈夫みたい」
『うん。それでね。予想外というのは……本当はあの時、杏は死ぬ筈では無かったと云う事なのよ』
ど、どういう事ですか?年月よりももっともっと衝撃的なことを神様が口にしました。
『ジュリアーナには、フォルヴァという聖獣が付いていたと話したでしょう?フォルヴァは数百年自分が飲み込んだ彼女の魂の半分を探し続け、その魂が受け継がれていた事を知り、君に会いたくて来てしまった・・・』
なんと、聖獣が、、、別世界のそれも日本に?
『杏が助けた男の子、アレが聖獣フォルヴァ。あやつは空から君を見つけ嬉しさのあまり傍に居た幼子に憑依して、君に飛びついちゃったんだな』
「あら~フォルちゃんたらおバカねー。でもそれだけ大聖女ジュリアーナの事が好きで会いたくてたまらなかったんでしょう。アホだけど可愛いところもあるじゃない」
ビオラは笑いころげながら飛び回った。
「ビオラそんな事で済まされないでしょう!」
なんと・・・男の子は足を踏み外し私の上に落ちて来たのではなく、男の子に憑依した聖獣が、嬉しくて抱き付いてきたから落ちて死んだとな・・・
もしかして私は、自分の聖獣に殺されてしまったと云う事?
何なのよーそれっ!!!人助けでもなんでもないじゃん。
私はがっくりと肩を落とした。
『そう落ち込むなアンナ。そのお陰で今ここに君はいるのだから』
「はぁ、そうですけど・・・で、その後フォルヴァはどうなったんですか?憑依したあの子は、八十五才まで生きたんでしょう?」
『じゃぁ先に、前に君に聞かれたアレの話からするね。アレはジュリアーナがフォルヴァにあげた彼女の魂の半分だよ。君に飛びついた瞬間に、私がフォルヴァから取り出したんだ。それを落ちてゆく君に飲ませたことにより、生まれる前にあげた聖女ジュリアーナの半分の魂と一つになって、ここへ転生できたんだ。
で、勝手な事をした聖獣フォルヴァに罰として、憑依した彼と共に生きることを命じや。そして、彼が人生を全うした後にこちらの世界に戻すことにしたの。フォルヴァは彼と共に八十年過ごしその後神に仕えさせていた。今日君の誕生日に恋しいアンナの元へ帰そうと思っていたんだ。
そう、聖獣フォルヴァが、私からの最後のプレゼント』
前世の私を会いたさ故に死に至らしめた聖獣フォルヴァ。
大聖女ジュリアーナの記憶があればすぐにでも受け入れられるだろうけれど、【そいつ】のせいで二十歳の私はこれから仕事もし、恋愛もしてという未来が奪われてしまったのだ。
「私は最後のプレゼントを拒否します」