30*新たな魔法とピザ
昼食を終えるとデオドールは
「まぁ、今すぐどうこうという話ではないから心配は無用だよ」
と言い残し執事を伴い退出して行ったのでした。
次女がやってきてテーブルを片付け始める。
「あっ、待って!」
「どうされましたか、ジュリアンナ様」
ビックリした次女が片付ける手を止めました。
「ごめんなさい。このカップだけ残して置いて欲しいの」
「はい、畏まりました」
不思議そうに飲みかけのカップを脇に置き他の食器類をワゴンに乗せ出て行く侍女。
「アンナ、兄上の使ったカップだけ残してどうするんだい?」
デオドールのカップにはまだハーブティーが三分の一程残っていた。
「ジル様。この後のご予定は?」
「ん?昼食後に一つだけあるが二時間ほどで終わる。そうだよな、ダニエル?」
デオドールと入れ違いで入室してきた側近のダニエルに確認を取る。
「ええ、その通りですよお嬢」
「分かりました。では、公務が終わったら離宮の厨房迄来て下さいますか?」
「食材が届くのであったかな?」
「はい、それと・・・来て下さった時にお話しします」
バージルとダニエルは顔を見合わせていると、アンナは先ほどのカップに魔法で蓋をしてハンカチに包み
「それでは後程」
と護衛と共に帰って行きました。
「お嬢は何か思いついたのでしょうか?」
「ふむ。カップを持って行くからには何かありそうだな」
「では、さっさと仕事を終わらせましょう」
「そうだな」
二人は山のように積まれた書類の中ら数枚を抜き取り次の仕事へ向かったのでありました。
離宮の厨房には明後日の為の食材が届いていた。
それをビオラが一人で冷蔵庫にしまっている。
「ビオラ、急に呼び出してごめんね」
アンナの声に振り向き嬉しそうな顔をして
「もう、オレガノ邸で暇でしょうがなかったからすっ飛んで来たわよ」
「うふふ、だろうと思っていたわ」
「あら、その顔は何か進展があったって顔ね」
ビオラが何かを期待する目でアンナの事を観察します。
「進展するかどうかどうかはこれからよ」
アンナも勿論進展することを望んでいるが自分の憶測が当たって欲しくないとも内心思っていた。
「とりあえず、まずはこっちを片付けましょう。下ごしらえできるものはやってしまわないとね」
「了解!」
ずらっと並んだ食材を前に二人の格闘が始まると思いきや、手間のかかるメニューではないので明日でも十分間に合うと今更気づくアンナ。
「うーん、それほどやる事もないわね。頼んでおいたアレは持って来てくれた?」
「もちろん、ほらこれよ」
ビオラが取り出したのは捏ねてまとめた生地でした。
「二時間くらいでジル様とダニエルさんが来るから三時のお茶にピザを焼くわよ」
「おお、ピザ、アタシの好物。アンナの料理の中でもダントツだわ。ハンバーガーも捨てがたいけどね」
「今日はチーズたっぷりで行きますか」
ビオラはピザの焼き立てを想像してじゅるっとよだれを啜った。
「やーね、はしたない」
アンナは思わず笑ってしまう。
「だってー。あのチーズが伸びた感じ、想像しただけでよだれが出ちゃうんだもん」
「あはは、分からないでもないけどね」
アンナは生地をのばし丸く生成する。
ピザ用に作ったトマトソースを塗り具材を乗せていきます。玉ねぎを散らしサラミとトマトのスライスとピーマンを乗せていく。
一番好まれる定番の具材にチーズをたっぷりと乗せ冷蔵庫にいれ、バージルたちが来るのを待った。
一息ついたところでアンナは先ほどバージルの所から持ってきたティーカップをビオラの前に差し出しました。
「どうしたの?飲みかけのお茶なんて持って来て」
魔法でしてあった蓋を取り払いビオラが覗き込み匂いをかぐ。
「ハーブティー・・・ね」
「うん。その成分を調べて欲しいの」
「これが進展に繋がるアイテムなのね」
「ええ、私の予想が当たっていれば・・・」
「分かった」
ユリの花の時と同様にカップの上で手を翳すビオラ。
暫くすると絵の様にブレンドされているお茶の葉が浮かび上がって来た。
ラベンダー、カモミール、レモンバーム、ステビア、ローズペタル、オレンジピール、オートストロー
「随分色んなのがブレンドされているけど、気分が高まるし、ヤル気も起きる系だわね。
でもこれだけではないわ。
微量だけど・・・これにも魔女の魔法が掛けられている。何だと思うアンナ?」
ビオラに問い掛けられアンナは自分が思っている言葉を口に出すのを躊躇する。
「気付いていたから持ち帰って来たんでしょう?」
「ええ、多分。ううん、『魅了』の魔法が掛けられている」
「そうね、『魅了』=『惚れ薬』だわよ。一杯飲んだらすぐに効く即効性ではなく飲む度に少しずつ徐々に効いてくるようにしてる。手が込んでいるわね」
ビオラはため息をついた。
「デオドール殿下専用にブレンドしたお茶に惚れ薬・・・王女からのプレゼント。作ったのは侍女のリンダ」
そこまで口にした時厨房にバージルとダニエルが入って来た。
「やぁ、お待たせ。もう明日の準備は出来たのかい?」
「えっええ、終わりました。丁度午後のティータイムですので、みんなでお茶にしましょう」
二人を座らせ、アンナはピザを焼く準備に取り掛かり、ビオラはお茶の仕度を始めた。
魔法で使えるオーブン的なものがあるのでアンナはそれに魔法で熱を入れピザを焼き始めた。
ほんの数分で焼きあがったピザはチーズが良い感じにとろけている。
「お待たせしました。熱いので気を付けて下さいね」
目の前に出て来たチーズのニオイが食欲をそそる食べ物に目を見張るバージルとダニエルが。
「これは?」
「ピッツァというものです。普段ピザと言ってますけど。切り分けてありますので手でこうして取って食べて下さい」
「ピザか、美味そうだな」
バージルが聞いた通りにカットされた生地を取るとチーズが伸びて糸をひく様を見てダニエルが驚く。
「お嬢、なんですか、これ」
「うふふ、フォークで絡めてピザに乗せて食べれば良いんですよ」
「なるほど、はふはふ。あちちっ。・・・うま!」
「ジル様お気に召しました?」
「ああ、これは最高だな!」
「ほんと、美味いわコレ」
バージル様に続きダニエルさんからも美味しい戴きました~!
二人は黙々とピザを食べています。
「あっ、全部食べないで。アタシにも二切れ残して置いてよ!」
ちょっと席を外していたビオラが慌てて皿を持ってくると自分の分を取り分けます。
「油断も隙もあったもんじゃないわ」
そう愚痴りながらピザを頬張ると急に顔を緩ませ笑顔に変わりました。
「アンナの料理は凄いな。怒ったビオラを一瞬にしてとろけさせてしまうんだから」
バージルが笑いながらまたピザに手を伸ばすと
「バージル食べ過ぎだ、俺の分が無くなる」
と、ダニエルが伸ばした手を遮ります。
全く子供の取り合いを見ているようです。
ピザの皿が空になったところでアンナが話を切り出しました。




