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23*滞在二日目魔女の魔法

 日が昇り目覚めた時にはジル様の姿はありませんでした。


 夢だったのかしら?


 部屋に入って来た侍女たちはアンナの寝着もベッドの乱れもない状況を見て顔を見合わせガッカリした。

 湯あみの時もアンナの肌を見て

「もしかしたらと思いましたのに殿下はヘタレでしたわね」

「期待してましたのに」

 とひそひそ話をしていたがアンナにはさっぱり理解出来ないままでした。


 その頃執務室ではバージルとダニエルが朝の珈琲を飲みながら兄デオドールからの呼び出しを待っている最中でした。


「ところで昨夜はどうだったんだ?」

「どうって何が」

「とぼけるなよ、あの部屋にお嬢は泊ったんだろう?」

「ああ」

「それで何もなかったのか?お前はお嬢の所に行かなかったのか?」

「行ったさ」

「おお、行ったのか。うん、行くよな。それで?」

「添い寝してきた」


「へっ?なんだって」


「だから添い寝しただけだ」


「添い寝だけってお前。陛下にも許可取ったんだろうが」

「取ったからあの部屋を使わせた」

「それで本当に添い寝だけ?」

「しつこい。いいんだ添い寝だけで」


「お前・・・ある意味凄いな」


「何とでも言ってくれ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「失礼します。デオドール殿下がお呼びです」

「分かった、今行く」

 バージルはコーヒーを飲み干し席を立った。


 くっ、添い寝の何が悪い。あんな美味しそうなものが目の前にあっても我慢せざる負えない私の身なってみろ!

 父上にあの部屋の使用許可を取り行くと

「お主たちの部屋だから使うのは自由だがジュリアンナの同意がない限り破瓜を奪ってはならぬ」

 と釘を刺されたんだぞ。触れていればその気になるだろうが彼女の気持ちがまだ私の気持ちに追いついてはいないのが分かるから・・・無理強いなどできない。


 バージルが廊下を歩きながら握拳に力を入れると、魔力が流れ廊下のシェードがカタカタと揺れた。

 それに気づいたダニエルは余計な詮索をしてバージルを傷つけてしまったと深く反省したのでした。


 昼までの間なにか起きるようなことは無かった。

 今日王女の予定では城下の視察が入っていたが、夕べからの警備の強化により中止となっていました。

 飾られていたユリはバージルの指示で全て国内産のものに交換され、独特の香りはするものの前のような頭痛と不快感を感じるとは無くなりました。

 それを感じていなかった者たちからしたら何故ユリの全取っ換えなんて無駄なことをするのだろうと思ったに違いありません。


 アンナが中庭を歩いていると、ちょうど神殿から祈りを終えて帰って来たマリーと出合わせました。

 マリーは精神的にも落ち着きを取り戻し聖女の仕事も進んでするようになったのでまた神殿への祈りを再開したのです。

 お陰で国を守る結界も少し安定してきたとビオラも言っておりました。

 

 マリーとベンチで話をしていると渡り廊下を歩いてきた人物を見つけ

「お姉さま、あれ!デオドールお兄様と王女様ですわ」

 指さす方向をみると確かに間違いはない。

「お兄様が言っていたほどのお転婆ではないみたい」

「そうですね」

「でも、何となく・・・よく分かんないけど何か違う気がするの」

 マリーの顔が少し曇るのを見てアンナは何か感じているのかしら?と首を傾げました。

 二人の事を暫く眺めていると明らかにデオドール様の表情が昨日とは違います。

 腕に縋りつくフェリーシアを作り笑顔でなく自然に受け入れているように見えたのです。

 表向きは良くしていても内心では拒絶していたのに心境の変化かしら。何かモヤっとするものを感じたアンナがマリーに視線を移すとマリーも又腑に落ちない瞳でデオドールと王女の姿を見送っています。

『もしかしてマリー様も私と同じものを感じているのかしら』




■■■【フェリーシアと侍女リンダ】


 デオドールに送られて貴賓室の客間に戻ったフェリーシアは紅茶を飲みながら国から連れて来ていた侍女を呼びます。

「リンダ、花を交換されたのは想定外だったけど何か気付いたのかしら。でもデオドール殿下に少し変化がみられるようになったわ。」

「あの僅かな魔法に気付く者がいるとは思えません。幼い聖女とて同じ事です。殿下に変化があったと思われるなら効いてはいるのでしょう。でももう少し最後の薬を使う前にお膳立てをしないといけせんね」

「先ほど国の土産だといってあのポプリを安眠に効くからと殿下にお渡ししたわ」

「さようでございますか、枕の下に敷いて寝て下されば効果も大きいと思われます」

「そうね、帰国するまで六日。それまでに何とかしなくては」



■■■【デオドール殿下執務室】


「城内に変わりは無いか」

「はっ、今のところなにも御座いません」

「そうか、引き続き警戒を頼むよ」

「かしこまりました」


 警備隊長が部屋を後にすると宰相であるトルウェインが入れ替わりに入って来ました。

「殿下、一体どういう事ですか。我々大臣たちに相談もなく警備体制を変えるとは」

「トルウェイン済まなかった。急を要したものでな。後ほど皆を集め説明させてもらう。今夜はエスメラルダの王女は母上たちと女性だけで晩餐の予定だからその時に皆を集めて欲しい」

「分かりました。ではその様に通達致します」

「うむ」

 了解はしたものの中々立ち去らないトルウェイン、何かを言いたそうです。

「どうした、まだ何かあるのか?」

「いえ。先ほどフェリーシア王女とご一緒されているのを拝見しましたが、仲睦まじくされているご様子で」

「ああ、何故か前ほど敬遠する気持ちは無くなった。不思議だな」

「そうで御座いますか。不機嫌でお国に変えられても困りますからな。でも程々に願いします」

「分かっておる」


 忠告の様なトルウェインの言葉を聞きながらデオドールは先ほど王女から貰ったポプリの袋をポケットの中で握りしめていたのでした。



 

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