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20*②王女の訪問とユリの花

「やはり戻っているな」


 そう呟きくとアンナの元へ戻り既に寝息を立て始めている彼女の事を暫し見つめて

「アンナ、君のお陰かな」

 と微笑み部屋から出て行きました。


 バージルが執務室から出ると外にはダニエルが待機していました。

「アレ?随分早いね」

「アンナは頭痛が取れ眠っているから暫く寝かせて置け。誰も近づけるな」

「何かしたのか?」

「何もしてない。疲れているようだから睡眠魔法で1時間ほど眠らせた」

「なーんだ、でもお前のその目の色・・・」

「なんだよ」

 ・・・・・・・・・

「いや、いいんだ。どうせなら添い寝してくればよかったのに。せっかく二人にしてやったんだぜ」


「ばっ、馬鹿言うな。添い寝なんかしたら止まらん!」


「流石に寝てる子に手は出せないだろうけど、お嬢が起きた時一人ぼっちじゃ可哀そうだろう?」

「あぁ、そいう事なら起きそうな時を見計らって戻って来るさ。とてもじゃないがあの可愛い寝顔をずっとは見ていられない」

「はぁー、ヘタレだね、バージルは」

 顔を赤らめるバージルにダニエルは呆れて溜息を吐いたのでした。



 アンナが寝ている間に晩餐の準備は着々と進んでいた。


 その間フェリーシア王女の相手をさせられていたデオドールは王女の湯あみと着替えでやっと解放されげんなりとしていました。


「兄上、大丈夫ですか?」

「駄目だ・・・これが一週間続くと思うと。。。」

「そんなにキツイですか_?」

「ああ、マシンガントークで話していたかと思うと急に甘えた声で迫って来るし、ほとほと疲れる」

「兄上の様に女性の扱いに慣れている方にも手に負えないとは」

「変わって、バージル」

 縋る様な目をしてバージルの手を取るデオドール。

「むっ、無理ですよ」

 その手を振り払うバージル。

 そんなこと言わずに助けてと縋るデオドールを引き離し

「そろそろアンナを起こしにいかなくてはと無情に去る弟を恨めしく見送る兄デオドールでした。



「アンナ、そろそろ起きようか」

「ん。。。ジル様?」

 仮眠ベッドで目覚めるアンナに軽くキスを落とすバージル。

 アンナはつい先ほどの熱いキスを思い出し、カァーと熱くなり毛布を頭からかぶってしまいました。


「駄目だよそんな頭から被ったら。乱れた髪で君の部屋まで行く事になってしまうよ」


 そう言われ慌てて起き上がります。

 執務室から乱れた髪で出て行くなんてとんでもない!誤解されたら大変だわと焦りまくる。


「ビオラが執務室で待っているから一緒にお行き」

「はっ、はい」

 アンナはベッドから降りると服の乱れを直し、隣の部屋で待つビオラの元へと向かった。


「あら、まだ寝ぼけ眼じゃないですか」

 ビオラに笑われる。

「何だか頭痛の後急に眠くなっちゃって」

「あら、頭痛なんて珍しいわね、これから晩餐もあるから湯あみしてリラックスした方が良いわよ」

「そうね、行きましょう」


 ビオラが寝て少し崩れた髪を治しくれ、バージルとダニエルに挨拶をして二人は執務室を後にしました。


◆◆◆


 エスメラルダの王女を迎えての晩餐が始まった。

 楽団が入りゆったりとした音楽が流れる。

 今回の晩さん会は長テーブルで向かい合うものではなく、円型のテーブルで親近感を出すよう指示されていました。

 上座の大きめのテーブルに両陛下とフェリーシア王女。

 王女の隣にはデオドール、そしてバージルと婚約者ジュリアンの間に聖女マリーが座りました。


「我が国の料理はお口に合いますかな?」

 陛下の問い掛けに

「ええとっても美味しゅうございます」

 と笑顔で答えるフェリーシア王女。

「それは良かった。旅の疲れが取れたら王都の名所などを周られるとよい」

「お心使い感謝いたします。陛下」


 おてんば娘と聞いていたが公の場ではちゃんとしている。流石王女ですね。

 王女はアンナの方を見ると

「バージル殿下はもうご婚約されているとか。ご婚約者のジュリアンナ様はその髪色も瞳の色もとても綺麗。お年はおいくつなのでしょうか?」

 といきなり振って来ました。

「はい、フェリーシア王女様、私はもう少しで十六に御座います」

「まぁ、私よりも二つも年下ですのね!」

 驚いたように自分の前で両手を合わせます。

「バージル殿下も精悍なお顔立ちで素敵ですよね。おモテになるでしょうからご心配になりませんか?」

「あっ、そんな事は」

 アンナが困っているとマリーがナイフとフォークを置き

「王女様、バージルお兄様の方がジュリアンナお姉さまにメロメロなので心配御座いませんわ」

 と、すまして言う。

 これには両陛下も思わず吹き出してしまいそうになった。

「こら、マリー」

 バージルがマリーを窘めます。

「うふふ、メリメロですか。でしたら私くしもデオドール殿下にメロメロと云う事ですわ」

 今度はデオドールが吹き出しそうになる。

 周りにいる者はどう返して良いか分からず作り笑いをした。


「でもこの国は王族の方も聖女様も含め本当に仲がよろしくて羨ましいですわ」


 確かに王女の国エスメラルダでは次期王権争いが起きており水面下での派閥荒いも勃発していたのでした。


「儂の後継者は王妃の産んだデオドールとバージルだけだからの。側室を迎え男子が生まれておったらそうもいかんだろう。無駄な権力争いはない方が良い。周りの貴族たちには側室を持つことを勧められたが、それもその者達の私利私欲からと分かり切っておるからな。どちらにしても儂はクリスティーナ以外は愛せぬ」

 陛下はそう言って妻の手を握ると王妃クリスティーナも夫の顔を見ながら優しく微笑んだ。


「父上、母上、二人の世界に入らないで下さい。マリーもいるのですよ」

 デオドールの言葉に照れる両陛下。

 なんか素敵です。

 その時じっと聞いていたフェリーシアが顔をほんの少し歪ませたのをアンナだけは気付き他の誰しも知る由は無かった。


 その事よりアンナはまたじわじわと頭が痛くなってきた事に懸念を抱いていた。

『なんだろう、まただ。やはりこの香りじゃないかしら』

 丸テーブルの中央に広がるようにアレンジされたユリの花。

 バージルの顔色を伺うと彼もまたこめかみ辺りを時々抑えている。


『絶対にこれだわ!』

 バージルにもこちらを見て来たのでさり気なく目配せをするとウンと頷いた。

 さて、この場を何と言って退席するべきか。

 食事は殆ど済み歓談の場となり中央ではダンスも披露されている最中だからお花摘みとでも言って席を立とうかと思案していると、バージルとアンナの間に座っていたマリーがうとうとし始めた。


 マリー様ナイス!!!


「ご歓談中失礼いたします。マリー様がお眠いようなのでお部屋までお連れさせていただきます」

 会話を中断させてしまった事を詫びると

「なら他の者に運ばせよう」

 陛下に声を掛けられてしまった。


 あちゃー、そうじゃなくて。アンナはもう一度バージルを見る。

「いや、私とアンナで連れて行きます」

 バージルはすっと席を立ち、ウトウトと船を漕ぐマリーを抱き上げるとスタスタと歩き始めました。

 アンナは「失礼いたします」と頭を下げ慌ててバージルの後を追いその場を後にしました。




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