11-②フォルヴァと大聖女のお話し
フォルヴァが修道院に来て数日が経った。
井戸をくみ上げる少女を見つけた。少女は水汲みを終えると屋内に消え負傷者が使用たと思われる大量のシーツを抱えて戻って来た。
我は屋根の上からのんびり少女の行動を見ていた。
健気に良く働く子じゃ。聖女よりも年下に見えるがあんなに沢山のシーツを洗うのは大変じゃろう。少しだけ手伝ってやろうか。
何故かそう思いちょっと魔法を掛けたようとしたら・・・。
幾つかの籠にに入っていたシーツを少女が石鹸水の入った桶に投げ込む。すると勝手に桶の水が回り始めシーツの汚れを落としていった。そして空中で絞られると彼女はそれを掴み綺麗な水の入った桶に投げ込んだ。投げ込まれたシーツはまた回転し濯がれていく。だが彼女の頭上に術式は見えないから魔術ではなく魔法なのだろう。
そして我を一番笑わせたのはあれだけの魔法が使えながら、桶の水を井戸から汲むのは自力だと云う事だった。そうこうしている内に洗われたシーツが籠を埋めていった。
すべてが終わると少女はまたいなくなり、そして戻って来た時には手押し車を押し修道院で奉仕をする老婆たちと一緒だった。協力し籠を積むと干場へと消えて行った。
なるほど彼女たちの負担を減らす為だったのか。
実に面白い。
すっかりここへ来た目的を忘れ我は少女の行動に見入ってしまう。
数日後、少女は村はずれの森に向かって歩いていた。
木の実かキノコでも取りに行くつもりか?
我は鳥に姿を変え追跡する。数百年我を聖獣として呼び寄せる者がなく聖殿で退屈していた我は新しいおもちゃを見つけた子犬のようにワクワクしていた。
森に入ると思っていた通り少女はキノコを採り始めた。美味しそうなキノコがたわわに生えている。一生懸命キノコを狩る少女を木の枝にとまり眺めているとザワザワと木々が揺れ始めた。
『危ない、魔獣だ』
万が一の時は助けるつもりで地上に降り本来の姿に戻る。しかしこの姿では少女を驚かしてしまうかもしれないと狼の子供くらいの大きさにしておく。
その時、魔獣が彼女の目の前に姿を現した。
我からすれば小さなトカゲ型魔獣だが小さな少女にとっては大きなドラゴンぐらいには見えた筈だ。
しかし、少女は悲鳴をあげるどころか木の葉をかき集めると指を立て指先で木の葉を操り魔獣の周りに渦を巻くように仕掛ける。その木の葉の渦は段々と狭まり小さくなって最後は魔獣の叫び声と一緒に消えてなくなったのだ。
どういう事だ。。。
少女の後ろで呆然としていると我の存在に気付いて駆け寄って来た。
「うわぁ、真っ白な狼なんて珍しい。親とはぐれてしまったのかな?怖かったでしょうでももう大丈夫だからね」
その笑顔は我の胸を打ち抜いた。
「アタシはまだやることがあるから早くお母さんの所へお帰りなさい」
そういうと少女は我の頭をわしゃわしゃと撫で立ち上がった。
な、何を!聖獣である我は我が主と決めた者と我より位が高い者にしか頭を触らせることなどないのに油断した・・・
普段なら噛みつくところだが不思議とイヤでは無かった。
むしろ気持ち良かったのだ。
少女は振り向き「私の名前はジュリアーナよ。可愛い狼さんまた会えたらいいわね」と森の奥へと進んで行ってしまった。
魔物や魔獣が居ないと言われている村で魔獣が出たのだから危険ではないのか?と思いこっそりと後をつけていく。
森を抜けると帯状の草地がありその先に大きな森がまた広がっていた。
草地の先の森には魔獣の気配が漂っている。
『おいおい、その先は危険だ。どこまで行くつもだ』
心配していると彼女が草地の真ん中辺りで足を止めた。
ん?草地には透明の壁がある。聖獣の我だから見えるこれは結界の壁だ。
ジュリアーナはその結界に何やら手を充て探っている。
よく見ると一部分に破損している箇所がある。
「ああ、あそこね」そう言って後ろに下がると両手を翳し光を集め、あっという間に破損部分を修復してしまった。
「これで良し」
ジュリアーナはパンパンと手を払うとキノコが詰まった籠を背負い元の森を抜け修道院へと帰って行ったのである。
修道院に戻り我は上空から周囲を見回してみた。
小さな村の周囲には魔物と魔獣以外は行き来できる5メートルほどの高さの結界の壁で覆われていた。
この村にそれらが出ないと言われているのはこの結界に守られていたからなのか。そしてこの結界を作り出したのはジュリアーナと云う事だ。
だとするとあれだけ多くの負傷者を救ったのもジュリアーナだとしか思えない。
あの子は一体何者なのだ。彼女は聖女なのか。その疑問を晴らすために我は暫くここへ留まりジュリアーナを傍で見ている事にした。




