表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

5 害獣


 





「兄貴! 次の依頼はこれにしましょーぜ!」

「えー、こっちの方が良いよ!」

「これの方が依頼金高くない?」


 私の目の前で争うのは子供三人。

 ついこの前助けてしまったカルモ、ジャン、ピッポのやんちゃな男の子の三人組だ。

 彼らはアレからというのも私を"兄貴"と勝手に呼び慕い始め、今じゃすっかり子分気取り。

 薬草採取もプーニャ採取も勝手についてくるし、勝手に依頼金を山分けする困った三人でもある。

 何より困ったことは彼らが私を兄貴と呼ぶと事だろうか。


 目つきも悪いし女としては身長が高いし方だし格好も男だけれど、れっきとした女なんだが否定しようにも大人も子供も組合人の殆どは男しかおらず、たまに居るらしい女性は魔導師のみ。

 一般的な女性は組合になど入らないのがこの世界の常識のようで、今更女とも言いづらい。

 故に何も言わずに居る私が悪いのだけど、兄貴と呼ぶのはやめてもらいたい。


 せめてお兄さんとかにしてくれ。

 兄貴と呼ばれると生暖かい目で見られるんだ。決して私が呼ばせている訳ではないというのに、勘違いしないでいただきたい。


 本日何度目か分からないため息を吐き、なるべく依頼金の高い仕事を掲示板から探し出す。その中から一番金額が高いが不人気な城壁掃除を選び取り受付へ。

 組合で唯一の女性職員、アニータに受理してもらい、三人に何も告げずに外へ出る。

 が、結局三人は選んだ依頼に文句があっても付いてくる。もう諦めるしかないと再度ため息をつき、私たちは仕事場へ向かったのだ。



「きったね」


 着いた先は門を少し出て北に歩いた壁面。

 いったに何をしてこうなったか分からないが、一部が真っ黒く染まっている。そっと指で触るとネバネバとした液体が絡みつき、触ったところも黒く染まる。

 油汚れとは違う感覚にどうするべきか頭を悩ませるも、取り敢えずやるしかないと心を決めた。


 まず初めに水魔法のみを壁に向かって噴射するも、全く汚れは落ちる気配はない。なので次は火と水の複合魔法を展開し、同時に圧をかける。

 勢いよく放たれた温水は壁に当たると汚れを浮かし、ドロドロと地面に流れていった。魔法で落ちきれなかった所は三人にブラシで磨かせ、私はひたすら魔法を使う。


 一度どれくらいの時間魔法を使えるか試した事もあったが、キリがないのでやめた。

 どれだけ使おうと威力は弱まらないし、疲れることも無く、半永久的に使用できる事が判明したからだ。


 ちなみに数少ない女性魔導士の限界を組合で調査したところ、上級魔導士とされている者でも大きな魔法五発まで。継続魔法で半日が限度だそうだ。

 故に私の魔法はすでに規格外なので、三人には口止めしてある。

 オニーサンとの約束だよ?とキャラメルを一つで買収できたのは不幸中の幸いだった。



 外壁をある程度綺麗にすると三人はドロドロになりながらもにこやかに私の元へ駆け寄る。その小汚い姿に渋々温水の球を作り上げて彼らにかけ、温風で乾かしてやれば嬉しそうにまた笑った。そしていつも通りキラキラとした目でこちらを見てくる三人に昼食を手渡すと深々とお辞儀をし、流石兄貴っす!と叫んだ。


 昼食はポイントで買ったサンドイッチ。

 一つにつき10ポイント消費するが、これが痛手にならない。むしろ加点される。


 "施し 50ポイント"

 "感謝 5ポイント"


 一人につき十ポイント使ったところで、45ポイントは加点。三人で95ポイントの追加になるのだ。

 最初こそタダ飯を食わせるのは嫌だったがこうもポイントが貯まるのならば笑顔になる。

 施しがどの程度からか分からないが、今後空腹に困ってる者には率先して食事を与えていこう。



 昼食を終えると最後の仕上げにまた放水。

 もちろん温水で圧もかけ、黒ずみは残さない。壁が綺麗になったら地面に溜まった汚水を火と風の魔法の混合技で乾かしぬかるみを消し、作業終了。

 ジャンに門番を呼んできてもらい確認の書類にサインして貰えば依頼完遂である。


「今日から始めたんだろ? よくここまで綺麗になったなぁ! んじゃまたよろしくな!」

「えぇまあ。三人が頑張ってくれたので。で、またとはどういう事でしょう?」


 少々気になる物言いに突っかかると、壁は定期的に汚されている事がわかった。

 害をもたらすのはは人ではなく害獣、汚れ草と呼ばれるもの(どうやら言語翻訳機能は分かりやすく日本で当てはめてくれるようである)で、定期的に外壁付近に現れてはあの困った液体を撒き散らすのだそうだ。

 それが現れるのは大体週に一度ほどなのだが組合から派遣されてくるものは少なく、下手すると数メートルに渡って黒く染まっているらしい。ただの液体ならまだしも液体を求めて昆虫が殺到するため、門番も気が気でないとか。


「そんな奴がいるとは。 ちなみに今度どこに発生するか分かります?」

「んー、そうだな。 この前がここだからもうちょい北だろうな。 なんだ、退治でもしてくれるのか?」

「え、いや。参考までに聞いただけです! お疲れ様でしたー!」


 嬉しそうな顔を向ける門番から目をそらし、私は急いでその場を立ち去る。

 後ろで害獣退治っすか兄貴!とハツラツとした声が上がっていても気にしない。

 終了証明は既にもらっているわけだし、私はそのまま組合へと駆け抜けた。




「それでは今回の依頼金、15000ガルです! お確かめください」

「はい、どうも。 ーーハイこれ取り分ね」


 1500ガルのうち、私の手元に残るのは500ガル。残りの1000ガルは三人で山分けしてもらう。

 いつも通り取り分は私が一番多いのだが、三人からしてみれば普通に依頼を受けるよりは多くのお金が手に入るみたいで文句はないようだ。


 配当を済ませたら私は一人街は繰り出し、チマチマと困っているであろう人の手助けを開始する。

 例えば重い荷物を持つ女性であったり、老人に変わっての買い出しであったりと様々だ。最初こそ不審者扱いされていたが今じゃ私を見つけると率先して声をかけてくれる人もいて、ポイント稼ぎは右肩上がり。頑張り次第では一日に300ポイントは稼げている。

 たとえ一日300ポイントだとしても十日で3000、一月で10000近いポイントを手に入れられるわけで、塵も積もれば何とやらが実感できた。


 今日稼いだポイントは合計380ポイント。

 まあまあの稼ぎだろう。


 宿屋で残りの残金を計算しつつ画面を確認していると、今までと違った表示が出ているのに気づいた。

 それは"害獣討伐 50ポイント~"と表記されている。

 きっと外壁で聞いたあの害獣が関係しているに違いない。


 普通に考えれば50ポイントの為に動くことはないのだが、画面には50ポイント~とある。となると討伐するものによってポイントが違うと考えるのが妥当だろう。

 ならば汚れ草がどれ程のポイントになるか、試してみてもいいかもしれない。


 そう考えた私は早速外套を被り、夕闇に紛れた。



 壁の外へ行くには門を通らなくてはならないのだが今は夕暮れ、既に門は閉まっていた。

 どうしても急用が有るものや実力に長ける組合員ならまだしも、私のような新人は夜に外へ出ることを許可されていない。朝を待って外へ出る、が一番確実な行動なのだが朝まで待つと三人が宿屋の前で待っているパターンも考えられる。

 流石に勝手に着いてくからといって子供三人を危険な目に合わせるわけにはいかない。

 誰にも気づかれないように外へ出るのが手っ取り早い行動だろう。


 門から少し離れたところへ移動し、周りに誰もいないことを確認する。そして息を整えて、地面を蹴り上げた。

 一歩二歩、三歩。重力を感じられないその動きで高い壁を駆け上り、くるりと身を翻し外へ。

 軽やかに着地した後は辺りを見渡し無人であることを確認して北へ向かう。

 万が一に備え明かりをつけることはせずに外壁に沿って走り、害獣が居ないか目を凝らした。


 一時間、二時間とみて回り流石に今日は現れないかと諦めかけた時、それは下から現れた。

 盛り上がった地面は徐々に割れ、そこから細い触覚が滑りと這い出る。体を持ち上げるようにして現れたそれは昔図鑑で見た食虫植物によく似ていた。


 確か名前はハエトリグサ、だったはず。

 その身体こそ大きいが、見た目は動き回るただの草だ。


 汚れ草は私に気づく事はなく、葉の部分を膨らませ、液体を壁へ向かって撒き散らす。

 こちらに降りかかる液体を避けて近づき、試しに風魔法で触覚部分を切断。すると汚れ草は奇声をあげて私へ向かい色の違う液体を吐きかけた。


「っ──あっぶね! 人に向かって酸なんて吐くなやクソ植物!」


 吐きかけられたその液体は己の切られた足を瞬時に溶かし、外套の一部にも穴が開く。

 買ったばかりの外套を溶かされたことに怒りを抱き、今度はより多くの風魔法で切断するも動きは止まる事はない。


 ならばと巨大な火の玉を作り上げ、周囲を包囲し火あぶりだ。

 奇声をあげる汚れ草はやはり草。火には耐性がないようだ。

 そのまま一気に火力を強め、原型を留めないほどこんがりと焼き上げていく。

 その間数十秒。

 敵ではなかった。


 消し炭になったのを確認すると今度は再度汚されてしまった壁に温水をかけ、見回りが来ないうちに壁の中へと逃げ込んだ。

 奇声のせいで少々門付近が騒がしかったが、態々声をかける事はせずそのまま宿へと帰った。


 宿に帰るとすぐに画面を表示し、ポイントの確認。


「──よっし! 中々の高得点!」


 "汚れ草 駆除 1000ポイント"

 "外壁掃除 50ポイント"


 これが害獣駆除の平均だとは思っていないが、この程度の駆除でこれだけのポイントが貰えるのならば好んでやってもいいかもしれない。

 しかも依頼外の掃除のため、プラスで追加されてるのも有難い。


「組合で楽な仕事しつつ、夜中に害獣駆除かなぁ。 一応情報を集めとこ。 あと、そろそろ違う魔法も買っとくか」


 もしかしたら水、火、風で対処できない天敵もいるかもしれない。それに備えて置くもの悪くはない選択だ。


 一度画面をスクロールしめぼしいものを探してみると、雷と土魔法、治癒魔法が一つ1000ポイントで買える。

 こんな世界じゃいつ危険に陥るか分からない。

 そう考えたその三種を購入して、私はようやく眠りについた。












 翌る日門付近で騒ぎがあったと報告され、外出時は注意するようにと声をかけられたのがだ、犯人は私なのでただ笑って流しておいた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ