2 ポイント
ここはどこ、私は誰?
なんて糞みたいな台詞は言わない。
言ったとしてもここはどこ?くらいだろう。
長い夢を見ていたようなそんな気がする中目を覚ますと、目の前に広がっていたのは見知った飲み屋の店内ではなかった。
足元には緑の草が風に揺れ、頭上には青い空が広がり、どう見ても室内ではない。
これもまた夢かと頬をつねってみると確かにそこに痛みを感じ、きっと夢ではないのだろうと乾いた笑みがこぼれた。
一樹はなんと言っていただろうか。
確かあの世界とかゲームとかポイントだとか、なにやら不穏な単語を羅列していたように思える。
いやいやまさか、そんなファンタジー展開があってたまるか。
これは夢、そうこれは夢なのだ。
ゴロンと地べたに寝転がり、しばしの間ぼぉっと青空を眺めた。
きっとそのそのうち眼が覚める、なんて事を考え目を閉じて夢の中でしばしの睡眠。
案外風が心地よく、いい気分で寝れた。
次に目を覚ました時は空は青から茜色に変わり、風も冷たいものに変わっていた。
「────まじで?」
夢ではない?
ひんやりと肌に触る風にようやく私は危機感を持った。
そういえば一樹は簡単に死ぬとか言ってなかったか?
だとすればここが夢じゃないとすると、夜になるのは非常にまずい!
思い出せ、一樹がなんて言ってたかを。
思い出せ、最初に何をすべきかを。
思い出せ!
「─────っポイント!」
ブォンと目の目の前の景色が歪み、叫びとともに出てきたのは半透明な画面。
そこには10万ポイント、1万ガルと明記され、その下にはさまざまな機能としようポイントが記されていた。
まずは身体の強化、だったはず。
その半透明な画面をスクロールさせ、"身体強化"を探すが見当たらない。
ならばと"体力"に10000ポイント、"反射神経"に15000ポイント、死にたくないので"生存率"に25000ポイントを振る。
これで一気に50000ポイントは減ったが、多分死ぬことはないと思いたい。
試しに近場にあった木に登ってみれば三十路前と思えないほどするすると登る事が出来て、なお疲れていない。思いって飛び降りてみてもきちんと着地でき、足が痛むことはなかった。
今の私の体がどの程度この世界で通用するかわからないが、取り敢えずすぐに死ぬことはないだろう。
一度深くため息を吐き、そして倒れように地面へ寝転がりフツフツと湧き上がる怒りに私は口を開いた。
「あんっの、クソ一樹ぃぃぃぃいいいい!」
今のこの状況を作っているのはどう考えても一樹しかいない。
あいつのせいに違いない!
イライラとする心の表れか両手足をばたつかせて、ただ唸る。
神だかなんだか知らないが、勝手な事をしてくれる!
私が何をしたというのだ!
さっさと家に返せ!
どうしようもない怒りに声を荒げる事数分、叫んでも叫んで状況が変わることはない。むしろ腹が鳴るあたり空腹で悪化している。
手持ちに食べ物はなく私に残されたのはこのポイントという仕組みだけ。
もしかしたら食べ物があるかもと希望を抱き画面を具現化してみると、下の方に水やパン、おにぎりといったものを確認することができた。
残りのポイントから飲み水と菓子パン、軽いカバンを交換して詰め込んで、一人で寂しい食事をとる。味や見た目はコンビニで売ってる焼きそばパンそのもので、なんの変哲も無い。この世界がどんなものかは知らないが、少なからず私の服装から二十世紀では無いのは確かだ。
少しゴワゴワのクリーム色のシャツに茶色のズボンとブーツ。腰はベルトではなく紐で止める簡単な作り。交換したばかりのカバンも革でできたものではあるが縫い目は荒く、私の知っている時代の作りでは無い。
ファッションもへったくれもないこんな格好で出歩ける世界なのだろう。
「……取り敢えず、明日から街に向かおう。あるかわからないけど」
あたりはすでに闇に飲まれ、私はまたポイントで小さなランプとマッチを交換し夜が明けるのを一人でまった。
夜が明けると簡単に朝食をとり、直感的に西へ向かって歩いていく。途中で誰かに会うことはなく、ひたすら歩いた。
何時間も歩き続けようやく道と思わしき場所についたのは太陽が真上に登った頃で、遠くに外壁のある街が見えた。
これでようやくこの世界の情報を得られるとホッとし、しばしの休憩を木陰で取る。
お昼にしてもいい時間だったので飲み物とパンを交換して、のんびりと時の流れに身を任せた。
目の前の道は街へ続くもので、荷馬車が二、三回通ることもあったお陰かこの世界はまだそれ程文化が発達してない事を知る事が出来た。
大人の男性は私に近いしい服装を、女性は簡単に羽織って紐で縛るワンピースな様なものを着ていて、私の服は男性用みたいだ。
もしかしたら女が一人旅するのは難しい世界なのかも知れないが、だったとしたらいったい一樹は何を考えて説明もなしに私をほっぽり出したのか聞き出してみたい。
背はそこそこデカイが、一応女がなんだがな私は。
イラつく心を缶コーヒーで落ち着かせ重い腰をあげる。
そしてあと一二キロありそうな道のりをのんびりと歩いていく。
街が近づくにつれ生活音が耳に届く様になり、なかなか活気あふれた街だと感じる。
あと少しで街へ入れると心を躍らせていると、ふと違和感に気づいた。
目の前に並んでいる旅人や門番が何を話しているか全く理解できないのだ。
いやまさか、そんな事があるわけないだろう。
ファンタジーでもゲームでも言葉を理解できないなんて。
ここまで来て言語が違うというのか。
だとしたら生きていくのは難しすぎる!
下唇をかみ、一度画面を出してスクロール。
周りに見られているかもなんてことはこの際気にしていられない。みられたとしてもなんとかポイントを使って逃げ切ればいい。
列が進む前になんとかしなければと目を凝らし、私はそれを発見した。
"言語翻訳 全ての言語の翻訳機能"
ポイントは4万。
昨日使ったポイントが5万、飲み食いに使ったのがおおよそ200。
なんとか足りる!
急いでそれをクリックすると瞬時に音声は変わっていく。
目の前の旅人が何を話しているのかも、女子供の話し声も、分かる。
全てが日本語に聞こえる!
「さぁお次、アンタはこの街には初めてか?」
「あ、はい」
唖然としているうちに私まで番は周り、目の前には甲冑をまとった男が一人。
彼はここの門番で街へ出入りする人間の管理をしているのだろう。
この街に来た目的や名前を私の代わりに羊皮紙に書き込みそして街へ入る税金として100ガルを受け取ると、にっこりとした爽やかな笑顔で門の奥を指差した。
「ようこそ!風の街ヴィントヴィルへ!」