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1.死神の命日 #1
『五日以内に三万人』
それが、命じられた言葉だった。
「今、この世界に七十二億の人間がいるとして」
答えは返ってこない。当然だ、これは俺の独り言なのだから。
「五日で三万人。てことは、一日あたり……三千人?」
違う気がする。でも、計算をし直す気にはなれなかった。
「いつか、人間滅びちまうんじゃないかねぇ」
一つ、大きく伸びをして。
傍の石に立てかけてあったそれを手に取り、立ち上がる。
見渡す限りの草原。吹き渡る心地良い風。楽しそうに笑い合う数人の若い旅行客。そのどれ一つとして、俺には似合わない。
『危険!進入禁止!』
鮮やかな黄色と黒で彩られた看板と張られたロープ。旅行客がそれを乗り越えたのを確認して、俺は彼らの背後に忍び寄った。
激しい筋肉痛に疼く腕を軽く一振り。よほど疲れているのだろうか、いつもは何とも思わないそれが今日はやけにずっしりと重い。
ほんの束の間、旅行客と俺の目が合った。だがもう遅い。その瞳に俺は映っていない。
命が弾け飛ぶ静かな音が、俺の耳にだけ届いた。