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act.1桜舞う京の都


走馬灯のように様々なことがよみがえる。

良い事も、嫌な事も短い人生ながら色々あったなぁ。悔いはもうない。



ぼーっとする。清々しい気分。



周りの音なんて何も聞こえない。けど、宙にふわふわ浮いているかのように

暖かい何かに包まれているような気持ちになる。



もう少し、このまま、ボーッと…………。

身を任せたい……


このまま、このまま……





「…………」



遠くから声が聞こえる。意識の奥底から。


そんなわけないのに。声なんて聞こえるわけないのに。


きっと、死んだんだよ、私。





なのに…‥





…?



「…………ぃ」



声がする。


声がするのだ。



男性の声だ。



だんだん、だんだん、大きくなる。




「……おい!!!!!」





「…………はい!!!!!!!!!!!」



!!!!



男性の大きな声で飛び起きた。



目の前に光が広がる。



「え……」


「あんた、死ぬ気か!?河川敷でなんか寝るもんじゃない!」



死ぬ気か!?って……。


「え……私、死んだはずじゃ……」




司沙は河川敷で倒れていた。


服の所々が湿っていたり濡れたりしている。




「は??お前、本当に溺死するつもりだったのか?」



……溺死?いや、神社の階段からの飛び降り自殺じゃなくて……?




目の前には容姿端麗な男性の顔が一杯にひろがっていた。

焦げ茶色の髪が日光に照らされて綺麗だ。

黒色の、いや漆黒の目もそれに対比されて綺麗。




「あなたは天使?」




「……は?天国へつれてってやろうか?」


男がいたずらに微笑む。

口許にある細やかに動くほくろがなおタチが悪い。

この男の色香と妖艶さを狂おしいほどに引き出してしまう。







この人の顔ならいつまででも見てられる……。

ぼーっとしかけたら、男に一喝された。




「はぁ……見惚れるのはいいですけど、上体を起こしてください」



煙管を持った黒色の着物の男性が、司沙を支えていた。

足は川の水についていて、上体を男が息を出来るように支えてくれている。



「あっ、ありがとうございます。」


司沙はそそくさと上体を起こした。




ここは、どこ……?



司沙は辺りをきょろきょろと見回す。



空想上によく描かれている"天国や地獄のような場所"ではなく、現実味のある風景が広がっている。河川敷だ。





「ここが、天国……?」

私は死んだはずではないのか。中間地点でおろされたとか?

それにしては現実味がありすぎる。



「しつこいですね。そんなわけないでしょ。

あんたは何だ。……変な格好してますね。」



自分を見回すと、制服のままだった。

「死ぬ薬」が入っているポケットへ手を突っ込むと、薬が入っていたガラスの小瓶が破片となっていた。


小瓶は何の水気も帯びてなく、乾いていた。



男に怪しまれ、服をじろりと見られたが、男の方の服も中々に現代人が着るような服ではない。


「これはただの制服です。あなたの方こそ変な服じゃないの。」



そう司沙が言ったら、男は面食らったような顔をした。


「は?これは江戸時代の普通の和装だぞ?」



ん?この男、今なんて?




「は……?"江戸"時代?江戸時代って150年も前の時代じゃ……」





司沙ははっとした。

おかしいのだ。河川敷と自分以外の周りの様子が。



周りに見えている建物がすべて木造の平屋で


コンクリートなどはひとつもなく、

周りを歩いているのは侍や、侍女のような人だった。



皆、和装で着物を着ており、洋装な人は一人もいない。

スマートフォンを使っている人も、イヤホンをつけている人も一人もいない。





もしかして。





もしかして、私、






「江戸時代にタイムスリップしちゃったの……!?」













呆然と川の先を見つめる。


「こんなファンタジーな事がおこるはず……無いでしょ。」


はは、と力なく笑う。








司沙の様子を観察していた男が尋ねてくる。





「あんた、どこの出身の者ですか?

……まさか、投獄者……?」


男の顔が険しくなる。





途方にくれている司沙に疑惑を持ったのかもしれない。




洋装が周りにいない中、


制服姿の司沙はこの時代の人々から見たら"異端で危ない人"に見えるのは当たり前とも思えた。




「……!」


男が腰に携えていた剣を抜こうとしているのが見えた。




容姿端麗な男がこちらを睨む。


その視線の圧力は視線だけで殺されそうな気迫があった。


その気迫に司沙は冷や汗をかく。


「私!ここから150年後の未来から来たの……!」


司沙は咄嗟にいい放つ。



「…………」



男は剣を持つ手は添えたまま、こちらを警戒し続けている。


これくらいの弁明じゃダメなのか。



河川敷に生暖かい風が吹き、司沙の冷や汗をもっと嫌なものにする。






男の圧力に、だんだん、だんだん体温が低くなっていくのを感じる。



「わ……私、死にたくて……」



その司沙の言葉を聞くと、男は圧力を残したまま剣を鞘に納めた。



「死にたかった……?」



端正な男の眉がひそめられる。

低い声が司沙の鼓膜を震わせる。



「私は、150年先の未来から来ました。

その時代では、この服装は一般的に広まっている学校に通うために着る服です。」


息を吸う。



「なんでそんな奴がここに。

未来では時空を越えられる機械でも作られているのか?」


「いいえ、そんなことない……

私もなぜこうなったのか分からない……」





司沙は、咳をきるようにこれまでのいきさつを話し始めた。




男は司沙の話を無言で聞き


殺気とも言える圧力は話が進むたび、無くなっていった。





「私、両親が不仲で。

離婚協議中に、子供である私が入らないと押し付けあいをされました。いらないと言われたようなものです」


その言葉に男がピクリと反応する。



「その言葉を聞いて、私の帰る場所も、頼れる人ももうこの世にはいないと"絶望"しました」



「……。」


男は無言でこちらを見つめる。


「私は神社の娘で、昔から神社で秘薬と噂されていた、赤い小瓶にはいった液体を飲んだんです。」


あのどうしても飲みたくなった薬は一体なんだったんだろう。

正体は分からないままだ。

しかし、"死ぬなら何も怖くない"とあの時は自暴自棄になって考えていたのだ。


「赤い薬を飲んだあと、山の上の神社の階段から飛び降りました」



「……。」



「もう死んだ、と思っていたらここにいたんです。あなたに声をかけられて気が付きました……。」



司沙の話を聞いたあと、男は小さく息を吸い込んだ。




「…………成る程。そういうわけだったんですね」


男の低い声が心なしか優しくなたように感じる。




「…………はい」



……二人の間に沈黙が再び現れる。






このまま殺されるのかな。







縁もゆかりもないこの地で。この時代で。

少し何もかも諦めたような気持ちになって遠くを見つめてしまう。

こんな不審な格好、虚言とも言える話をしてしまい

相手の男に、どんなこと酷いことを言われてもどんな罪に問われても仕方ない。



司沙はじっとこれから来るであろう辛さにこらえるように息を止める。



「…………これで、涙を拭いて。」



その予想は裏切られた。



話し終え、下を向いていた司沙に渡されたのは、小さな紺色の手拭いだった。



「え……?」





「あんたの事情はわかりました。

……これから行くとこも無いんだろ?

とりあえず俺が屯所まで連れていく。」



少し安心したのも束の間、

男が淡々と言い放つ。




「と、屯所!?」



……屯所って、昔の言葉で言う、"警察署"のような場所だよね!?



まさか、私捕まるの……!?


話は理解し、手拭いも差しのべてくれたが、不信感を取り除けたかは別問題だ。


様々な想像が司沙の頭に駆け巡る。





「そんな顔しないで、安心しろ。

……話によるとこれから行くともないだろ?」



「……はい」



男は座り込んでいる司沙の前に向かうよう対面にしゃがんだ。



「俺が、あんたを保護してやる」





「ほ、保護?」





頭をくしゃっと撫でられる。


そして、男はその端正な顔立ちに笑みを浮かべ




「あぁ…………

新撰組1番組組長"沖田総司"の名にかけてな。」










こう言ったのだ。









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