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幼馴染が白状した

「今日はありがとうございました」


「いえいえ、この子たちにも良い刺激になりました」


 その後、ロッカーの素材をバッグに詰めた俺は、3人と別れることになった。

 バッグの中がロッカー3体分で一杯になったからだ。

 そんなわけで二層目の入り口で引き返す事に。


 ちなみに俺が倒したのは2体だが、決闘のお礼にガジ君と戦っていたロッカーも譲って貰った。


「もっとデカいバッグを持ってこよう」


「そうね。それと、冒険者として稼ぐならもう少し深い階層まで降りた方が良いわよ。魔獣の爪や血液は、スペース取らない上にロッカーの外殻より高値で売れるわ」


「アドバイスありがとう」


 シエルは少し照れ臭そうにしたが、不貞腐れたように顔を背けた。

 意地っ張りで素直じゃないだけで、根は優しいのかもしれない。


「わふぅ…アマチさんこれ」


「ん? これは……ギルドカード?」


 ガジ君は、俺にギルドカードを手渡して来る。

 すると、ナハトがすぐさま気を利かせてテレパシーで教えてくれる。

 ギルドカードには2種類ある。

 身分証明書になる物と、名刺のように誰かに渡す用だ。

 ガジ君がくれたのは名刺の方だった。


「ありがとう。でも俺はまだ作ってないんだ。お返しできなくてごめん」


「わふ! 次会った時にください!」


「おう。約束な」


「フフッ、では私も交流を深めたいので、渡しておきましょう」


「わ、私もあげるわ! 仕方なく!」


 こうして俺は芋づる式で、3人のギルドカードを頂いた。


「それじゃ、またいつか」


「はい」


 そう言って別れようとしたその時、変な音が階段の方から聞こえてきた。

 俺が今まさに帰ろうとしたその先にある階段からだ。


「……なんですか?」


「さぁ?」


 別の探索者かとも思ったが違う。

 断言できる理由は音だ。


 カツン、カツンという歩く音ではなく、聞こえて来るのは絶え間なく震える小刻みな音だ。

 それが階段を転げ落ちながら進んできている。


「……何? なんなの?」


 そしてソレは姿を現した。


「ヒッ!」


 それを見た誰かが引きつった声を上げた。

 上げなかった者も、異様なソレを見て後退りをする。


「…ナハト。なんの魔物だ?」


「不明」


 現れたのは"血塗れのナイフ"だった。


 そのナイフはカタカタと音を立てながら、こちらに進んでくると思ったら、徐々に加速してムツキ目掛けて飛んできた。


「ヒャァッ!?」


 ムツキは驚いて腰を抜かし、その場にへたり込む。

 そのおかげでナイフは頭上を越え、彼女に刺さる事は無かった。


「ムツキさん、大丈夫か!?」


「ダメだぞ、アマチさん! 先生は強いけど、お化けは苦手なんだ!」


「おおおおお化けッ!? ガジ、やっぱりアレはお化けなのでしょうか!?」


 威厳があって何を考えているかわからない女性。

 そんなイメージだったムツキのイメージ像が、少し崩れた音がした。


「ガジ君、シエル。ムツキさんを頼んだ」


「それも無理だぞ、アマチさん! シエルはもっと苦手で失神してるぞ!」


「なーにやってんのこんな時にぃ!?」


 ひとまず俺は走り出し、3人を庇うように前に出る。

 しかし追撃なんて事は無く、ナイフは壁にぶつかりながら奥へ奥へと進んで行った。


「………行ったか」


「いなくなりました? もういません? 大丈夫ですか?」


 両手で顔を隠して蹲るムツキ。

 俺はアンタに大丈夫か聞きたい。


「あんたが大丈夫か?」


 聞いちゃった。


「は、はい。腰は抜けましたが」


「怪我がないなら良いけど……」


 さてと…俺はこれからどうするべきか。


「……ガジ、今日は帰りません?」


「わふぅっ!? まだ二層目だぞ! 先生!」


「だって進んだらあのナイフがいそうで怖いです。シエルも気絶してしまいましたし………ね?」


「………クゥン」


 耳がペタンとなってしまったガジの頭を、俺はドサグサに紛れて撫でた。


「……じゃ、俺先に失礼します」


「いやぁ、待ってくださいよぉ…腰が抜けたんですってぇ……」


 結果、俺がムツキを背負い、ガジはシエルを背負って帰還する事になった。


 ー

 ーー

 ーーー


「お、戻ってきた。どうだった? 初のダンジョン……探索………は……」


 ダンジョンの入り口を見張っている職員が俺たちを見て口を閉じた。

 そして顎に手を当てて何やら考え込んでいる。

 なんて声をかけるべきか迷っているんだろう。


「…お疲れ様。利用料金は利益の2%だ。だが最低でも50Gは払ってくれよ」


 考えた結果、営業か。


「いや失礼。何があったんだ?」


「………ポルターガイスト…かな?」


「ヒッ! アマチさん、怖い事言わないでください!」


 未だに背負われているムツキがそんな事を言うが、他になんで言えばいい? 


「……もしかして、血塗れナイフか?」


「知ってるのか?」


 顔を青くした職員は無言で頷いた。


「…そういう事なら、今回に限って利用料金は免除でいい」


「良いのか?」


「あぁ。あのナイフ…実は壁にぶつかりながら、市場の方から飛んできたんだ。そしてこの施設はT字路の突き当たりにあるから、そのまま飛んで入ってきたんだよ。追いかけてもナイフは速いし、正面から受け止めるのは危険だし……職員総出でナイフと鬼ごっこをしていると、運悪くナイフはダンジョンに入っていっちまったわけだ」


 そんな事が………どおりで入り口から来たわけだ。


「出入り口の門番をやってる俺の責任でもある。だから免除」


「事情はわかった。そういう事なら、利用料金は払わない」


 物騒な事もあるものだ。

 これは街の中でも危ないな…カンナにも教えてやらないとな。


 ー

 ーー

 ーーー


 ムツキ達とは総合ギルドのロビーで別れた。

 まだ腰が抜けてたが、少し休めば大丈夫と言うのでロビーのソファーに下ろしてきたわけだ。

 それと、もし大事になったら嫌だからサラマンダーを操ったりした事は、黙ってもらう事になっている。


「それはそれとして……今回の稼ぎは………コレだけか」


 3体分のロッカーの素材。


 そのうちの1体はカンナへのお見上げにしたが、残りはギルドに買い取って貰って金にした。

 幾らかになったかと言うと、26Gだ。


「上層…それも二層目の雑魚じゃこんなもんか」


 むしろ雑魚にしては十分過ぎる額だろう。


「今止まってる宿が二食付きで一晩100G…この稼ぎじゃ、すぐに財産が底をつく」


 これなら、森でネズミを狩った方が金になったぞ。

 骨と皮と歯が素材になり、肉は食糧として売れたもんな。

 30cmのネズミ一匹の総額が確か、112Gくらいだった。


「…カンナと相談だな」


 ガジ君と約束したけど、名刺作るのにも金かかるし。


 明日はカンナ連れてクエストを受けてみるか。


「……ん? なんだアレ」


 宿に帰ってみると、表に人が少なからず群がっていた。

 何かあったのか分からないが、人混みを掻き分けて進んでみる。


「───つまり、彼を狙った暗殺者の仕業だと」


「間違い無いわ」


 なんとか宿の入り口まで来ると、宿の受付でそんな話をしてるのが見えた。

 暗殺者だなんて物騒な言葉だな。

 宿に泊まっている人の誰かに主要人物でもいたのか? 


「……ってカンナ。一体どうしたんだ?」


 受付にいるのは女将さんで、話し相手は全身に鎧を着込み槍を携えた男性。

 そしてその近くにカンナはいた。

 話に置いてかれた感じで、ポツンと立っていた。


「アマちゃん!」


「あら、お帰りなさい」


「……君は?」


「俺は…利用客だ。ソコの奴と部屋を借りてる」


「そうか」


「何があったんだ?」


 そう聞くと、男性は街の警備をしている衛兵のようで「まだ確定していない状況をおいそれと話せない」と、言ってきた。


「どうしてもと言うなら、当事者たちに聞いてくれ。私は聞き込みを続けないといけないのでな。ご協力、感謝する。それでは………ほら、野次馬は散った散った!」


 そう言って衛兵は宿を後にした。

 表に集まっている人たちも、その守衛に追い払われるように散り散りに歩き去っていった。


「…部屋に戻るか。そこで何があったか教えてくれ」


「うん」


 俺とカンナが自室に戻ると、なんと部屋の窓ガラスが割られていた。


「張り替えるからちょっと待って」


 替の窓ガラスをいつの間にか受け取っていたらしく、カンナは慣れない手つきで窓ガラスを取り替える。


 その間に俺は床に散らばったガラスを片付ける。


「で、何があったんだ?」


「…実は……」


 ー

 ーー

 ーーー


 ふむふむふむふむなるほど〜? 


「つまり…お前が作った魔剣が暴走した結果、窓を突き破って外に出て襲われ、制御不能になったそれはギルドの方へ消えた」


 それが偶然ギルドに入り、そのままダンジョンに落ちていった。

 俺が見たのはそれだろう。


「…で、大事になるまえに自首を考えていたら、衛兵が来て事情聴取。だが女将さんから絶対的信頼を獲得していたのか知らないが、女将さんがカンナの無実を証明した。その結果、俺かカンナを殺そうとした暗殺者の仕業ってことになった……と?」


 ナイフが窓を突き破って飛び出た時、カンナは女将さんといた。

 カンナが魔物を持ち込んだ可能性を疑われたが、そもそも宿には魔物避けの付呪がついており魔物は宿には入ってこない。

 無理やり持ち込んでも、宿屋側がそれに気付くらしい。


「遠隔操作でカンナがやった線は疑われなかったのか?」


「それができたら、この場にいる全員か容疑者だーって女将さんが言って」


「………」


「どうしよ」


「応答。魔剣の現在地はエステアギルド管轄下にあるダンジョン。それ以上の精度で現在地を絞る事は不可能」


「助走をつけて斜めに飛び出す事はあっても、階段みたいな連続の段差は登れないだろ。ダンジョンに落ちたなら、もう街は安全だと思うぞ」


「……じゃあ僕からの報告は以上でーす」


 いや、以上じゃ無いだろ。


「付呪の仕方がわかったんだろ?」


「あ、そうだった」


 魔剣を暴走させたのが余程応えたのだろう。

 あれだけできずに悔しがっていた【付呪】ができるようになった。

 その事実を忘れる程にな。


「今更だけど、誰かに聞かれてないよね?」


「そんな気配はなかった」


 数とかは分からないが、半径3,4m内に「いるorいない」くらいは判断はできる。居たとしても小声出し聞こえないだろ。


「じゃあいっか」


「そうだ。カンナ、これお土産」


「おぉ? バッグが凄い重い」


「ロッカーっていう岩石の魔物の素材だ」


「むふふ〜、じゃあ早速コレで付呪するね」


「その前に……」


 待ったをかけて、俺は懐から小銭を取り出した。


「何これ?」


「今日の稼ぎ」


「………oh」


 持っていたバッグを足元に落とす。

 中に入っているのは外殻だが、バッグごと落としたので床に傷は付いていない。


「これならネズミを僕が解体した方がお金になるね」


「そうなんだよ。つっても今日は二層目までしか潜ってない。聞いた話じゃ、深く潜ればもっと稼げる…それと比べれば、今回の稼ぎは雀の涙だ」


「じゃあもっと深く潜れる装備を作る?」


「今回作って欲しいのは、カンナの装備だ」


「僕の? ………いやいや、アマちゃんまだEランクでしょ? 僕はダンジョン潜れないよ」


「ダンジョンには潜らない。明日はFランクでも受けれるクエストを受注するつもりだ」


「………うへー」


「だからこの素材は、自分の装備に使ってくれ」


 バッグの中から外殻を取り出して、カンナに押し付ける。

 するとカンナは、渋々承諾した。


 ー

 ーー

 ーーー


「【観察眼】」


【茶岩外殻】

 ロッカーが、身を守るために生成した外殻。

 とても重く、重戦士の鎧に使われる。

 それ以外の【Class】が扱うには【軽量化】の付呪が必要になる。

 他にも【重量化】の付呪素材として使用可能。


「…コッチは」


【ロッカーのコア】

 ロッカーの原動力であり心臓部。

【軽量化】の付呪に使われる素材。


「……軽くした鎧を作るしか無いじゃん。つまんなーい」


 ただの作業だなぁ。

 ………立体魔法陣を弄るのは、ちょっとだけ楽しくはあるけどね。


「アマちゃーん。後でアマちゃんのも弄らせて」


「あぁ。変なのは付けるなよ?」


「んー」


 さてと…まずは防具からだけど、この量じゃ全身を守れないな。

 せめて鎖帷子にして守れる範囲を広げようかな。

 細い攻撃で刺されたらアウトだけど…それは鎧の下に着る服に【防刃】の付呪をすれば良いかな。


「……ねぇアマちゃん」


「んー?」


「家欲しい。地下付きの」


「話が飛躍したな〜」


「だってさー、そっちの方が便利なんだもん」


 地下なら魔剣が暴走しても、外に飛び出す事は無くなりそうだし。

 今日の事件のせいで、多分アマちゃんは武器に付呪を付けるの許してくれなそうだし。


「この世界の家っていくらすんだろうな?」


「さぁ…あ、土地だけ買って、僕が建てるってのも有りだよ」


「………そっちの方が現実的だな。幾分か安いだろうし」


「安くなった分、広い土地買って」


「わがまま言うな」


 そうこう言ってる間に鎖帷子のセットが完成。

 それでも量が足りなくて、両腕と脚…胴体しか守れないけど。

 あと拳大くらい外殻が残っちゃった。


「これ全てに付呪を掛けて……っと」


 ロッカーのコアを【アロイ・シャーの手癖】で三等分して、一つは胴体に。

 残りは更に半分にして、両手脚に使って【軽量化】の付呪を付ける。


「よし。こんな感じかな」


 完成した鎖帷子を試しに着てみると、メンズ服みたいに軽い。


「鎖帷子完成! どう?」


「細かいところまでよく作れるな」


「【アロイ・シャーの手癖】様々だね」


 後は服に【防刃】の付呪をすれば、僕の防具は完成。


「ステータスオープン」


 Name:カンナ

 Class :鍛治師 XXX

 Level :20

 HP:100/100

 MP:16000/60000

 STR:14(10)

 CON:19(10)

 DEX:5

 SKI:32(20)

 INT:20

 Skill:【観察眼】【アロイ・シャーの手癖】

 Skin:【捨てた未来の見返り】


「……MP凄い減るんだけど」


「付呪ってそんなに使うんだな」


「応答。本来【付呪】を使ったマジックアイテムの作成には一週間近くかかるもの。それを踏まえれば至極当然の減少量かと」


「…じゃあ【防刃】終わったら、アマちゃんのナイフ弄って終わりにしよう」


「ナイフはダメだ」


 やっぱりー? 


 ー

 ーー

 ーーー


「アマちゃん。クエストボードってこれかな?」


「だろうな。Fランクで受けれるのは…薬草採取だな」


「本当に薬草採取くらいしか無いんだね」


 翌日、カンナを連れてクエストを選んでいると、後ろから肩を掴まれて押し除けられる。


「どけ新米」


「……」


 イカツイ顔をした男たちの3人パーティだ。

 態度もそうだが感じが悪いな。


「テメェもだ」


「あわわー」


「……ッチ!」


 掴まれるより早く、カンナは戯けた様子で道を譲った。

 普段は温厚な表情をしているカンナだが、こういう時はおちょくってるようにしか見えない。


 やがて男たちは1枚の依頼書を手にしてカウンターへ向かった。


「感じ悪ーい」


「ほっとけ、それより依頼書だ」


 ムツキたちみたいな冒険者だけじゃなく、ああいった輩も当然だがいるんだな。


「クエストの受注をお願いします」


「Fランクの薬草採取、2人パーティでよろしいですか?」


「はい」


「それではお気をつけて。それとアマチさん」


「なんですか?」


「…期待していますよ」


 昨日、一昨日と同じ受付嬢ではなく、今日対応してくれたのは別の人だった。しかし何か噂のようなものがギルド内で流れてるのか、仏頂面だった受付嬢は軽く微笑んで見せた。


「ヒューヒュー」


「茶化すなカンナ。では行ってきます」


 そう言って俺たちは森に向かった。


「…調子に乗ってるよな。アイツ」


「クフフ…ですが利用できそうですね」


「………そうだな」


 背後から不穏な空気を感じる。

 しかしカンナはそんな事もつゆ知らず、呑気に鼻歌混じりに歩いていた。


カンナ

「振動さん……元気でね」

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