トラブルメーカーは置いていく
今回はアマチがソロで動きます。
カンナはお留守番ですね。
異世界に転生して早4日目。
今日も日が顔を出す前に目が覚めた。
生前は寝起きが良い方では無いんだが、転生してからはそんな事は一切ない。
早と言ってもまだ4日…偶然かも知れないな。
「お前は相変わらずだしな」
「スー……スー……」
昨日はカンナが満足いくまで森で魔物を狩り、アイテムに使えそうな素材を集めた。
といっても、見つけたのはネズミとキツネの魔物だけ。
肉が流石に余ったが、それは宿屋の女将さんが買い取ってくれた。
下処理が良かったらしく、あの肉ならまた買い取っても良いと言ってもらえた。【アロイ・シャーの手癖】様々だな。
「……カンナ」
「むにゃ?」
「ダンジョン潜ってくるわ」
「………」
布団に包まったまま薄目を開け、俺が言っている事を理解したのか片手を出して手を振ってくれる。
「……気をつけてね」
「おう」
ナイフ、小手の次に作ってもらったカンナの作品の数々。それを服の上から身に纏い、俺は宿を後にした。
ー
ーー
ーーー
この世界も1日の長さは24時間で、午前と午後に分かれている。曜日の名称が違うだけで、一週間も7日で構成されている。
ギルドに着いたのは午前の6時。流石に速すぎたか?
「浮き足立ってるな俺……」
ギルドの入り口は開け放たれているが閉まっているかもしれない。
そう思ったが、人が少ないだけで開いていた。
窓口には昨日と同じ受付嬢がいた。
「おはようございます」
「おはようございま……アマチさん!」
名前を覚えられていたのか、少し大きめな声で呼ばれて少し驚く。
「どうも。ダンジョンに潜りたいんだが」
「あぁ、昨日は説明し忘れてましたね。ではご説明します」
そう言って受付嬢は、足元からパネルフリップを数枚取り出した。
「知っての通りダンジョンは、危険がいっぱいですが資源の宝庫です。ダンジョンで行う冒険者の仕事は、その資源を地上へ持ち出して流通させる事です」
それはナハトから聞いた。
なんでダンジョンで取れた物はギルドで買い取ってもらえる。
もちろん売らなくても良いわけだが、ダンジョンで取った素材を売ることが安定した冒険者の収入源でもある。
「そして地上でのお仕事は、あちらにあるクエストボードに貼られた依頼を受ける事です。アマチさんはダンジョンに潜りたそうなので、この説明は後にしますか?」
「頼む」
「ではダンジョンに潜る際のルール。アマチさんはEランクなので上層までしか入れません。これは冒険者の生存率を上げるためのルールでもあります。もし無視して進んでも罰金とかはありませんが、もし怪我をしても保険の対象外になります」
「保険?」
「えぇ、保険です。ダンジョンで負った怪我は、格安で治療を受けれるんですよ」
ダンジョンの資源は、流通する事で生活の基盤をあちこちで作っている。
そのため、それを確保する冒険者はそこそこ優遇されているようだ。
「だがDランク昇格の条件を満たした時はどうする?上層を突破した時点で満たせるが、そのまま先には進めないのか?」
「そうですね。一度帰還していただいて、昇級してからにしてください。ひとまず守っていただきたいルールはそれだけです。細かい事はこちらの冊子に書いてあります」
「ふーん………で、ダンジョンに潜るにはどうすれば?」
「まず本国エステアは、3つのダンジョンを保有しています。うち1つの入り口は当施設の地下にあります」
「……ここに?」
この施設はダンジョンの上に立ってるのか。
「はい。残りの2つは国の外にありますが、国の所有物という扱いです。国が所有するダンジョンの利用は基本有料。その代わりに保険が下りるというシステムです」
「なるほど」
「利用料は後払い制です。この先の階段を降りた所で、係員にギルドカードを見せればダンジョンに通してくれます」
「わかった。色々ありがとう」
こうして俺の初ダンジョン探索が始まった。
ー
ーー
ーーー
ダンジョンに降るための螺旋階段が、ギルドの地下にはあった。
人の手が入ったような人工物はそこまで。
そこを下り切ると、天然の洞窟のような見た目になっていた。
「……行くぞ、ナハト」
「御意」
ナハトを召喚するには【MP】を使うが、出しっぱなしだと消費しない。
【MP】を消費するのはあくまでも召喚行為だけ。そして時間制限無しなのだから、【口寄せ】はとても得なスキルだ。
「にしても、思ったより暗くないんだな」
洞窟のような見た目で、壁に松明などが設置されてるわけではない。
にも関わらず、洞窟の中は一定の明るさが保たれていた。
まるでRPGゲームの中の世界。光源はないのに何故か通る視界。
「応答。原因は学者達が解明しようと行動しているが、今も尚不明」
「………それとさ、忍って気配を感じとる力ってあったりする?」
「肯定。たたステータスの【Skin】に表示されない限り、安定した成功率は望めないかと」
「練習すればそのうちって事ね………んー、4体か?」
頭上の天井で息を潜めているコウモリは、俺に気づかれないためか一切反応しない。臆病な性格なのかも知れないな。
「Fランク【ケイブバット】。洞窟に住むコウモリの魔物。素材、食材としての価値は低い」
「じゃ、スルー」
ちなみにコウモリの数は多分外してる。
今気配を改めて確認してみると、予想が6体から8体の間を往復している。
「そういや、ダンジョンの中ってどうなってるんだ?こんな感じでずっと洞窟?」
「応答。ダンジョンの内装は洞窟を模した階層、地表を模した階層、古代遺跡を模した階層、現代の王城を模した階層も存在。補足。階層が深くなるほどに自然環境から離れた階層が多く、自然環境から離れた階層の魔物は高ランクである事が多い」
「ふーん。お、開けた所に出たな」
ダンジョンの入り口は1本道だが、少し進むと一気に道が広くなった。
これは地図が必要になるな。
「……助言。ダンジョン内の見取り図はギルドで販売中。補足。冒険者向けアイテムも売買しており、次回から事前準備をする事を推奨」
「潜ってから言う?」
「謝意」
ナハトも万能じゃない。そりゃミスもするか。
だが今戻ったら利用料だけ取られるな。何も手に入れてないのに。
「無理せず進むか………ん?」
何か気配がしたが、目を向けると腰掛に丁度いい岩があるだけで何もいない。
だが気配だけは岩の周りに相変わらずいる。
「ナハト。やっぱり魔物には、透明とか擬態する奴っているのか?」
「肯定」
手頃な石を拾い上げ、俺はそれを気配のする岩陰に投げてみた。
すると……
「うわ……そっちかよ」
「Eランク【ロッカー】。岩の見た目をした魔物。その外殻は硬く、武器や防具によく使用される」
投げた石は地面に触れると砕け、それに驚いたのか岩に見えた魔物が足を生やして動き出す。
ナハト曰く【ロッカー】と呼ばれる魔物は、岩石で構成された4つ足の魔物だ。
「ナイフ通るのか?」
「否定。あの外殻をナイフで貫くのは困難。ハンマーや大剣、魔法の使用を推奨」
初手を考えているとロッカーが攻撃を仕掛けてくる。
口が無いので鳴き声も出さずに飛びかかってくる。
ただ目もないのに、どうやって俺を認識しているのだろう。
「よっと」
避けてみると足が着地地点に減り込む。
硬くて重量がある。見た目通りの性能だ。
「当たらなければ問題ないって奴ね」
こっちの攻撃は、当てても問題なさそうなんだけど。
武器は軽くて鋭利なナイフ。ハンマーでも大剣でもない。
あとは魔法か。
「【火遁】」
人差し指と中指を突き出して短く唱えると、指先から炎の渦が真っ直ぐに伸びる。
ロッカーはその炎を正面から受けるが、表面が赤くなるだけでとくにダメージを受けた様子はない。
「石に火だもんな…」
だがそれ以外の戦闘手段がまだない。このままゴリ押す。
倒す見立ては一応あるし。
「【火遁】」
指先からでる炎は止まったが、ロッカーを包む炎がイメージと連動して大きくなる。
しかしロッカーは怯まずに、再び俺に突っ込んでくる。
もちろん俺は避け、地面に大きな音を立てて着地するロッカー。
「………やったか?」
一度炎を消すと、ロッカーは後ろ足をバタつかせている。
やがて俺に攻撃しようと飛んでくるが、狙いはずれて避けるまでもなく壁にぶつかる。
鉄は熱いうちに打てって諺があったな。
ロッカーは溶けてこそいないが、柔らかくなった前足が変形して上手く動けなくなっている。
今の壁への衝突で、更にボディも凹んでいる。
「今なら……【火遁】」
踏み付けて押さえながら、四つ足全てを熱して柔らかくしていく。
そして柔らかくなった脚の節を切り落とす。
「…あれで良いか」
最後に達磨になって動けなくなったロッカーに、なんとか持てる岩を掲げて何度も叩きつける。
ーパキィンー
岩が砕ける音とは違った割れる音。
それと同時に気配も消えた気がする。
外殻もボロボロと崩れ、中から菱形の石が出てきた。だがヒビが入っている。
「何だこれ」
「応答。ロッカーの魔石。人間でいう心臓、脳に匹敵する部位。素材価値有り」
「なら持ってくか。外殻も使えるんだよな?」
「肯定」
一匹仕留めるのに時間かかりすぎだな。
もう一種類、別の術を体得しておくんだった。
…ってか魔石以外は熱くて持てないんだけど。
【耐熱Ⅰ】は持ってるけど、それでも火傷しそうだ。
「…【水遁】覚えなきゃ」
水筒に一応水が入ってるな。汲み取る気配の対象はある。
でもここで瞑想するのか?
一階層目だとしてもダンジョンの中だぞ?
だがこのままじゃ持ち帰れない。
「……ナハト。周囲の警戒を頼む」
ー
ーー
ーーー
「先生!早く行こうぜ!」
「おやおや、急ぐと転びます。急かさないでください」
「まったく。いつまで経っても子供なんだから」
総合ギルドの地下。
そこにあるダンジョンの入り口にその3人はいた。
「おはようございます」
3人の中では大人びた銀髪の女性が挨拶をし、自分のギルドカードを見せる。
そのギルドカードは銀と銅が半々の色合いをしていた。
「おはようございます、今日も早いね。坊ちゃん達もお疲れ様」
「わふ!」
「職員さんもお勤めご苦労様です」
女性の後に続き、赤毛の少年と金髪の少女もギルドカードを見せる。
それはどちらも、銅一色のギルドカードだった。
「はい、3人パーティでの探索ですね。Cランク1人とDランク2人なので中層まで探索が可能です」
「わかりました。といっても、そこまで潜りませんけどね」
「そんな、先生!そろそろ中層を踏破しても良いだろ?お願いだよ!」
「ダメです」
ガッカリした様子で項垂れる少年を見て、女性は楽しそうにクスクスと笑った。
「ガジは兎も角、私はもう良いのでは?」
「アナタもダメですよ、シエル。敵を前にして怖気つき、詠唱をやめたのは誰でしたっけ?」
「……子供の頃の私」
「今も一週間前も、シエルは子供です。では行ってきます」
「行ってらっしゃい。あ、そうそう。今朝珍しく、アンタらより早く潜った冒険者がいるぜ」
「え!嘘!」
「本当だぜ坊主。ただ新米だったと思うから、もし見かけて危なそうだったらフォローしてくれないか?」
「えぇもちろん」
銀髪の女性は職員にそう告げてダンジョンへ歩き出した。
ー
ーー
ーーー
「行きたいなー、行きたいなー、早く上層行きたいなー」
「ガジ煩い」
「シエルだって行きたいだろ?」
「私は早く、先生と同じCランクに上がりたいだけ!」
女性について行く子供2人は、彼女の後ろでそんな会話をしていた。
そんな2人に、女性は顔を向けずに話しかける。
「2人とも。ダンジョンでは集中しないと、早々ロッカーに潰されますよ?」
「はーい……あれ、先生!」
「なんですかガジ」
「一階層目に小川や泉ってあったっけ?」
「……いえ、無いはずですけど」
「でもあっちから水の匂いがするぜ」
ガジと呼ばれる少年は、進路とは別の方向を指差す。
「そっちの道は最初に行った行き止まりじゃない。泉なんてあるわけないでしょ?」
「でも嘘じゃないぞ!水の匂いが!」
「何!?じゃあ私が間違ってるっていうの!?」
「わぅ……」
「はいはいそこまで。喧嘩をするなら今すぐ引き返しますよ」
「…ごめんなさい先生」
困った表情を浮かべる女性はため息をついてから、進路をガジが指差す方に変えた。
「行くの、先生?」
「えぇ。そうすればハッキリしますから」
そうして進んで行くと、足元が濡れていることに気付く。
「ほら!シエル、嘘は言ってなかっただろ!」
「べ、別に疑ってたわけじゃないわよ。獣人のガジと違って、私は匂いなんて判断できないし……」
「言ってる事がさっきと違うぞ」
「おやおや、近くに水脈でもあったんですかね」
そのまま足を進めていると…
「止まれ」
頭上から話しかけられ、一同は足を止めて見上げる。
そこには音を立てずに旋回する黒い鳥…ナハトが居た。
「先生!ここで鳥の魔物は見た事ないぞ!」
「聞いたことあるわ先生。ダンジョンには稀に新種の魔物を生み出して環境を変えるって」
「2人とも、ちょっと待ちなさ…」
少年は盾と剣、少女は杖を構えて戦闘体勢に入った。
それを見て先生と呼ばれていた銀髪の女性は慌てて止めようとする。しかし…
「アオオォォォン!!!」
「ッ!」
【ハウル】
獣人特有のスキルで、咆哮で自分を鼓舞すると同時に相手を怯ませる技。
ガジが咆哮をあげると、綺麗に飛んでいたナハトはバランスを崩す。
それを立て直そうと羽根をバタつかせる。
「射貫け、雷人の指先──【ブリッツ】!」
そのバランスを立て直しているナハトを、雷撃が貫いた。
貫いた雷撃はそのまま、後ろの壁に着弾して土埃を巻き上げる。
ー
ーー
ーーー
「うおっ!今のは何………ってうわ!?」
水遁を体得するために瞑想していると、近くで何かが爆発したような音が響き集中力を欠いてしまった。
気付けばあたり一面を水が張っていた。が、それは一瞬の事ですぐさま蒸発して霧になる。
「…ビックリしたな。火遁の時は火が消えたけど、水遁の時の水は蒸発して消えんのか」
それは置いといて、ナハトに何があったのかをテレパシーで呼びかける。
しかしいくら経っても返答は無かった。
危険な魔物が現れたとしたら外を目指すべきだが、近くに3つの気配を感じ取った。それも魔物ではない。おそらく人間。
間違っていればいいが、もしあっていたら彼らが危険な目に遭うかもしれない。
Eランクがしゃしゃり出るのもアレだが、少しだけ様子を見てみよう。
逃げ足に自信はあるしな。
「……こっちだったよな」
恐る恐る岩陰から向こうを覗いてみると、一人の女性と2人の子供が口論を繰り広げていた。
「後先考えず動いてはいけないと、私は何度も言いましたよね?」
「わふぅ……ごめんなさい」
「でも先生、ダンジョンが元に戻ったわ。あれはダンジョンを変化させる新種の魔物で、私たちはそれを討伐したのよ!別に怒られる事はしてないわ!」
なんの話かわからないが、金髪の子は何か魔物を倒したらしい。
さっきの爆音はその戦闘の音か?
「…おやおや。盗み聞きとは感心しませんね。何用ですか?」
そんな考え事をしていると、銀髪の女性に話しかけられてしまった。
どうやら俺が隠れているのに気付いたようだ。
「悪い。盗み聞きする気は無かった」
「あれ。アナタは昨日の……」
「わふ!忍の人!」
うっ………
昨日の今日で顔を覚えた人に、こんな早く会うとは。
ここで会うのが偶然だとしたら、結構な数の人が俺という忍の存在を知ってるんじゃないのか?
秘匿情報に含まれてる【Class】が、そんなに気になるかよ……
「…さっき爆音が聞こえたが、何かあったのかと思って来たんだが」
「それは、私が見事魔物を討伐した時の音よ!」
深く聞かれる前に話を変えようとすると、金髪少女が誇らしそうに教えてくれた。
「でも!隙を作ったのは俺だぞ!」
そこに手柄を譲るまいと赤毛の少年が割り込んでくる。
この少年寝癖が付いたままだぞ……いや!
あれは耳か?なるほど獣人という奴か…異世界らしい姿だ。
「その話は置いておいて、アナタはどうして此処に?この先は行き止まりですよね」
そうなのか。
まぁ知らなかったわけだし、正直に話すか。
「知らなかった。俺は昨日冒険者になったばかりで、ダンジョンの道も知らない」
「そうだったのですか」
銀髪の女性は顎に手を当て、納得したように相槌を打つ。
「ではもう一つ質問。先ほどまで一帯に水が張られていたのですが、原因に心当たりはありません?」
「だから先生!それは私の手柄によって解決されたわ」
「だから俺も役に立ったぞ!」
少年少女が騒いでいるが、一帯に張られた水…完全に原因は俺だよな。
「悪い。原因は俺だな。初めてのダンジョンで深く潜る気はなかったから、スキルの練習をしていて…周りに人も居なかったしさ」
「………ふーん」
金髪少女はつまらなそうに言った。
興奮気味で自分の手柄を主張していたのに、それが関係ないものになったのだから機嫌が悪いのだろう。
「あーそう。アナタのせいで無駄足踏んだわね」
「こら、シエル」
「だって先生!この人がそんな事をしたせいで、ガジの誘導で寄り道する羽目になったのよ?そもそも周りに人がいなかったってなんでわかるのよ!わかったとしても、後から来た人はアナタのやってる事なんて知らないわよ!?」
八つ当たりな気もするが、ごもっともな意見だ。
だが俺は、そうならないためにナハトを……そういやどこいった?
「たしかにそうだな。だからナハト…カラスの魔物…まぁ俺の仲間なんだけど、そいつに辺りを警戒してもらってたんだ」
「……カラスの…魔物?」
………?
急に勢いが失速する金髪少女。
何か知ってるのか?
「あぁ、カラスの魔物だ。黒い鳥の……近くに飛んでいたはずなんだけど知らないか?」
「し、知らないわ!私は何も……ギャッ!」
スッカリ蚊帳の外だった女性が、少女の頭を武器の柄で叩く。
叩かれた少女は、痛そうにその場に蹲った。
そして少年はと言うと、慌てた様子でオロオロしていた。
「ごめんなさい。私と言う指導者がありながら、アナタの使い魔はシエルが誤って討伐してしまったようです」
申し訳なさそうに、銀髪の女性が俺に頭を下げてくる。
「でも先生!」
「でもじゃありません!」
「違う!私じゃないもん!最初に攻撃したのはガジで……」
「わふ!?え、あ…わ……ご、ごめんなさい!俺、そうとは知らずに…」
叱る女性、責任転換する少女、素直に謝る獣っ子。
特に獣人の少年の素直さに思わずほっこりしてしまうが、俺は慌てて叱る女性を止める。
「ま、待ってください。大丈夫だから。ナハト!」
見せるが早いと判断して、俺は【口寄せ】でナハトを再度召喚する。
影から現れたナハトは俺の肩に止まり、心なしか少年少女を睨んでいた。
「この通り、ナハトも無事だしそこまで叱らなくていいと思う。ナハトも許してやってくれないか?」
「………………御意」
けっ……こう間があったな。
「……先に私が攻撃されて」
「ガァーーーッ‼︎」
「ヒッ!?」
ナハト…お前そんな声も出すのか。
「…君がそう言うならこれ以上は叱らない事にしよう」
「ほっ…」
「ただし、シエル。最後にちゃんと謝りなさい」
胸を撫で下ろした少女に謝罪を求める女性。
しかし少女は拗ねたように無言で切り抜こうとする。
「………シ・エ・ル?」
「…ご、ごめんなさい」
結局少女は、目に涙を浮かべ、プルプル震えながら謝るのだった。
次回はカンナsideの話になります。