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お前も試験受けろよ

「助言。街に入る前に、手順を確認することを推奨」


「そうだな。頼む」


「了。1.主人方は旅人として入国。2.素材は鍛冶屋と道具屋にて売却。3.宿屋に泊まり、翌日にギルドにて申請を行う。以上の手順を踏めば、働き口と身分証の確保が可能」


 ー

 ーー

 ーーー


「というわけで、残りは"手順3"だけとなった」


「僕戦う系だとしたらやだなー」


 ここは宿屋の一室。俺たちが借りた部屋だ。

 久しぶりに手の込んだ料理を頂いて、後は休むだけの時間を過ごしていた。

 俺は椅子に座り、カンナはベッドに倒れ込む。


「カンナの4つの願いと人生プランは、戦わない前提で構成しちまったもんな。ウルムデュアルさんがあれだけ言ってたのに」


「アマちゃんだって、戦う力はオマケでしょ」


「優先しただけだ」


「ナハトー、申請って何やるの?」


「応答。書類申請のみ。通れば晴れてFランク冒険者の職を獲得」


「Fランか。それで何が出来るんだ?」


「応答。Fランク、いわば"見習い"。ダンジョンに潜るDランク以上の冒険者との同伴が可能。補足。受注可能な依頼は薬草摘みといったお使い程度」


 ひとまず取っといて問題ないな。身分証は必要だからどの道取ることになるけど。


「アマちゃんに着いてくには、アマちゃんがDランクにならなきゃね」


「ん?小銭稼ぎで潜るつもりではいるけど、着いてくる気か?」


「もっちー。面白い物がありそうじゃん!」


 そう言ってカンナは、ベッドの上で寝返りを打つ。

 お前も昇級すれば良いのに。まぁ良いけど。


「ナハト。Dランクになるにはどうすれば良い?」


「応答。書類申請後に試験を受ける事で、Eランクに昇級。補足。Eランクは上層のみ、ソロで向かう事を許可されます。追伸。Dランク昇級条件はソロで中層手前まで踏破。もしくはパーティで中層の一階層を踏破することなり」


 申請したその日のうちに試験が受けれるのか。で、受かればEランク。

 焦りは禁物だ。ダンジョンには一階層ずつ慣れながら潜る事になるだろうし、Dランクになるのは先の話だな。


「その間、僕はヒモ生活?」


「そうなるな」


「不束者ですが、よろしk」


「存じております。お構いなく」


「………プッ」


「クククッ」


 今のはカンナの常套句みたいなものだ。

 そのセリフをぶった切った返し方。

 それが懐かしくて、ついついお互いに笑ってしまう。


 ……念の為に言っておくが、俺もカンナもノンケだ。


 ー

 ーー

 ーーー


 翌日。

 先に起きた俺は、日が登ったのを確認してからカンナを叩き起こした。

 朝食は宿側が用意してくれたパンとスープ。

 昨夜は不安を口にしていたが、心なしか食べるペースが早い。

 俺もカンナも、少しワクワクしているようだ。


 早急に食べ終えた俺たちは、すぐにギルドへ向かった。


「すごーい。異文化ー」


「気持ちはわかるけどはしゃぐな。子供みたいだぞ」


「15歳は子供だもーん」


「コッチは違うかもしれないぞ」


「応答。こちらの15歳は、そちらでいう高校3年生あたりの年代」


「受験生か」


 昨日は売った後はそのまま宿屋を探して泊まったから、そこまで街の様子を見れてなかった。

 こうして見てみると建造物も全然違うな。

 ファンタジー系の漫画で見た家とかがそのまま建っている。


「…アマちゃん。もしかしてこれ、案内板?」


「お、みたいだな。ギルドの場所…は……」


 ………読めない。


「昨夜ナハトに教わったけど、まだ読めないよ」


「俺もだ。つくづく、ナハトがいて良かったと思う」


 肩に乗せたナハトの案内で、ギルドに向かった。


 ギルドは入り口が開け放たれた建物で、周りと比べてみるとかなりデカイ。

 体積で言うなら、コンビニとデパートくらい違う。

 中に入ってみると、用のある窓口は正面にあった。


「総合ギルド窓口へようこそ。ご用件は?」


 その窓口の奥で作業していた女性が、こっちの存在に気付いて対応をしてくれた。おそらく受付嬢だろう。


「冒険者登録をお願いします」


「同じくー」


 そう伝えると同時に登録料を受付嬢に支払う。

 ただで試験は受けれない。


「ではこちらの書類の…ここから、ここまでの空欄にご記入下さい」


 渡された紙の文字は案の定読めない。

 ただナハトから事前に聞いた話だと、上から"名前""年齢""Class"の3つ。

 その下には読めない文字とチェックボックスがあるが、これは確か「この後にEランク昇級試験を受けますか?」という質問文だったはず。


「【Class】を取得してない場合は斜線をお願いします。記入が終わりましたら、声をお掛けください」


 受付嬢はそう言って窓口を離れ、奥で別の作業を始めた。


「………カンナ」


「…何〜?」


「……書けるか?」


「………無理ッ!」


 昨夜、ナハトに自分の名前と年齢【Class】の書き方を教わったが、いざ書こうとするとわからない。ド忘れしてる。


 カンナもそれは同じらし……


「あ、ゴメン嘘。書けた」


「いや書けんのかよ」


 マジか。昨晩教わっただけで覚えて………


「…おい、目が光ってんぞ。薄紫に」


「解読にも使えるんだね〜」


【観察眼】で文字読み取って、同じ発音の所とかをコピペでもしたのか。


「ずりぃ……」


「よく見てみると、ローマ字と同じだ。母音と子音の組み合わせ」


「………」


「………」


「代筆頼む」


「はーい」


 そっと書類を差し出すと、一文字一文字を確認しながらカンナは書ききった。


「アマちゃんは試験受けるからチェックして………終わったよー」


 俺の分の記入も終え、カンナは受付嬢に声を掛ける。

 すると受付嬢はすぐさま飛んできて、書類を確認した。そして俺の書類を見て、目を丸くする。


「え!アマチさん、忍なんですか!?」


「………あ!」


 カウンター越しに詰め寄られ思わず黙っていると、カンナが思い出したかのように声を上げる。


「……秘密にするんだっけ?」


「カンナ〜〜〜?」


「ごめーん!」


 謝ってももう遅いんだよな。ったく、三角形みたいな口しやがって。

 俺の【Class】は秘密にしておこうと街に来る前に決めたのだが、カンナはうっかり記入してしまったようだ。


 そして受付嬢が結構良いリアクションを取ったせいで、周囲の目が俺たちに集まっている。


「………今から書き直すのってできます?」


「嘘の申請はちょっと……」


 小声で尋ねると、今度は小声で返してくれる受付嬢。

 その表情は少し申し訳なさそうに見えた。


 いやこれはカンナのミス。更に言えば文字が書けない俺が悪い。


「このまま続けてください」


「すみません………では!気を取り直して、アマチさんは昇級試験をご希望ですね。カンナさんはよろしいのですか?」


「うん。僕は良い」


「了解しました。では早速試験を、当施設の中庭で行います。私に着いてきてください」


 受付嬢はカウンターから出て、俺たちを連れて中庭へ案内する。

 その道中にいるギルド職員や、利用に来ていた冒険者が珍しそうに俺たち…主に俺を見ている。


「…試験って何するんだっけ?」


「聞いた話だと、軽い実戦をするって…」


「中庭に着きました。カンナさんはここでお待ち下さい。アマチさん、どうぞ中央へ」


 前を歩いていた受付嬢は立ち止まり、俺に先の道を開けてくれる。

 その先にあったのは、縦横10m程度のステージだ。

 ここで戦うのだろうか………誰と?


「準備はよろしいですね?……無色の眼で計りたまえ。作るは仮初の虚像──【エレメント】」


 受付嬢がそう唱えると、目の前の空気が渦巻き半透明な動物が姿を現す。

 これはキツネ?


「ナハト。あれは?」


「応答。魔道士スキル【エレメント】。性質は【口寄せ】と類似。違いは知性が無く自動操縦という点。実戦で連係を組むなどは不可能」


「劣化版【口寄せ】ね」


「これより昇級試験を始めます。アマチさん、私が開始の合図をしたらそのエレメントを倒してください。敗北、もしくは制限時間が過ぎると不合格なので頑張ってくださいね」


「がんばれー」


「あいよ………うわ」


 カンナの応援に軽く返事をした時に気付いた。

 結構な野次馬がこの試験を見てる。

 道中に見た奴もいるし、忍ってのが気になるのか?


「それでは試験………開始ッ!」


 開始の合図と共に、キツネの形をした風のエレメントが飛びかかってくる。

 それ避けて距離を取り、俺は試験に集中する。


 エンターテイナーじゃないんだから、火遁とか使わずさっさと終わらせよう。


「………よし」


 ナイフを右手に構えて接近。そしてそのまま、左から右にナイフを振り切った。

 防御力が無いのか、それによってエレメントは容易く引き裂かれてしまった。


 まぁ最初の試験だし、難易度はこんなもんか。


「受付嬢さん。これで合格?」


「…はい!文句なしの合格です。お見事でした!」


 そう言って拍手を送ってくれる彼女は、営業スマイルが上手いな。

 だが持ち上げられても恥ずかしいだけだ。


「ではこちらを…我見届けし、相応の証明をここに」


 受付嬢が俺たちが記入した書類を、両手の上に乗せるように持つ。

 するとそれは勝手に燃え上がって灰になる。

 だがその灰の山の中から、2枚のプレートが現れた。


「こちらがカンナさん。そしてこちらがアマチさんのギルドカードになります。再発行には2000Gと1ヶ月の時間が掛かりますので、どうか無くさないようにお持ちください」


 そのプレートには、読めないがカンナが書類に書いたものと同じ文字が記されていた。

 文字数が少ない気もする…あ、書かれてるのは名前だけだ。


 俺のは半分が鉛色で、もう半分が銅色。

 カンナのは鉛色一色だった。


「ランクは色で分けてるみたいだね」


「ご名答!これでアマチさんはダンジョンに迎え、カンナさんは簡単な依頼が受けれます。早速お受けしますか?」


「…いや、一度帰って準備したいかな」


 周囲の目が怖いし。

 つーかもう終わったぞ!つまんない試合だろ?早く帰れよ!

 ひとまず俺は離れたい。


「わかりました。次会う時を楽しみにしています」


「さよならー」


 俺はカンナを連れて、そそくさとギルドを後にした。


 ー

 ーー

 ーーー


 アマチとカンナが居なくなった後、ギルドは少しざわついていた。


「さっきの子…何者?」


「忍っての、聞き間違いじゃなかったのか?」


 話題の中心にいたのは新たなEランク冒険者アマチだ。


「そんなに凄いか?風のエレメント第一幕って、レッサーゼフォックスだろ。俺だって倒せるぞ?」


「そうね。筋肉バカのアンタでも倒せるわね。むしろ倒せなかったらパーティを追放ね」


「そんな風のエレメント倒しただけで、なんでこんな騒いでるんだ?」


 不思議そうに首を傾げるのは赤毛の少年で、冷たく対応しているのは少年と同い年くらいの金髪の少女だった。


「良い?レッサーゼフォックスは攻撃力皆無、防御力紙装甲。魔物に例えるならFランクの魔物よ」


「だろ?」


「でもスピードは違う。風のエレメントの中で一番弱い存在だけど、スピードだけでいうならBランクよ。だから普通は攻撃を受けて、カウンターで仕留める。攻撃が来るとわかった上でカウンターする反射神経と技術が、あの試験で本当は試される能力なのよ」


「………わふ?」


 何が言いたいのか分からないという表情で首を傾げる少年。

 それを見て深いため息を少女はついた。

 そこへ………


「おやおや。レッサーゼフォックスについて話し合っているのですか?何故そんな話を………そのエレメントの唯一優れた点であるスピード。それを上回る速さの冒険者でもいましたか?」


「先生!」


 そこへ現れたのは、長い銀髪の女性だった。

 年は二人に比べれば大人で、二人は彼女を先生と呼んだ。


「………おや?もしかして当たりですか?冗談だったのですが」


「当たりよ先生。アレの初撃を避け、警戒していたレッサーゼフォックスを正面から切り捨てた冒険者がいたの」


「それは凄い!クエストを決めあぐねている間にそんな事が…見たかったです」


「そいつの【Class】は忍らしいぞ。先生」


「……忍。それはそれは…是非とも会ってみたいですね」


 女性は腰に掛けていた自分の武器を、そっと撫でた。


 ー

 ーー

 ーーー


 ギルドを後にした俺たちは、宿に向かって歩いている。


 晴れて冒険者になったわけだが、思いの外簡単だったな。拍子抜けというか。

 ひとまずこれで第一目標ともいえる職につけたわけだ………俺は。


「カンナはどうすんだ?アレくらいの試験なら、受けておけば良かったんじゃ?」


「僕があの速さを見切れないよ」


「言うほど速いか?」


「頭の中まで【DEX】お化けになってきたね」


 そこまで言うか?


「でもそうだよねー。アマちゃんがDランクになるまでに、小銭稼ぎくらいはできて方がいいよね」


「カンナに会った仕事……ねぇ………」


「ギルドで薬草採取のクエストを受けて、宿屋の手伝いでもしようかな…」


「無理して働かないで、情報を集めてもらうってのもアリだと思うぞ?武器、道具類の定価とか知れば、売れるようになるしさ」


「良いの?じゃあそれを優先してやろっかな。早く売れるようにしたいし。アマちゃんが使ううちは良いけど、大量にあっても困るもんね」


 俺一人で使いきれない?

 武器防具のフル装備までなら良いが、更に次々と作っていくつもりか。


「どれだけ作る気だよ」


「いやいや、だって見てよこれ。ステータスオープン」


 カンナは自分のステータスを表示して【アロイ・シャーの手癖】をクリックする。


【アロイ・シャーの手癖】

 炎と鍛治の神"ヘパイストス"の領域に限りなく近付いた男の技術。

 素材の分解、加工、合成。そしてアイテムに付呪を施す事ができるスキル。


 そのスキルにはそんな説明文がくっ付いていた。

 説明からして凄そうなスキルだな。

 ヘパイストスって神の名前は、死ぬ前から知ってるぞ。


「分解、加工、合成は兎も角、付呪だよ!色々試したくなるじゃん!」


「………付呪?」


 【捨てた未来の見返り』で鍛冶師以外は何もできないと思ったけど、付呪師もできるのか。


「応答。馴染みのある言い方をするとエンチャント。アイテムに特性を持たせる技術」


 なるほどな。魔道具とか魔剣がこれで作れるのか。


「…アマちゃん。帰ったらナイフ貸して」


「え…一本しか無いからダメ。また作ったら、それで練習なさい」


「そんなー!街に来るまでの魔物は全部お金にしたから、素材も無いんだよ!?」


「練習用に使われるのは困る。失敗したらと思うとな」


「むー。じゃあ練習用買って」


「そんな余裕はまだない」


「……」


 隙をついて買いに行こうとするカンナ。

 俺はそいつの首根っこを掴んで足を動かす。


「やだー!早く試したい〜」


「わかったわかった。なら森に行ってまたネズミとかキツネを狩ろうぜ。それで良いだろ?」


「うぅー」


 なんて手のかかるガキなんだ。心体共に同い年とは思えない。

 ……まぁ今に始まった事じゃないか。

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