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これが俺の幼馴染だ

「………きて………起きて。アマちゃん」


 目を開けると、カンナが俺を覗き込んでいた。さっき見たばかりの光景だな、これ……ん?


「お前、少し若返ってないか?」


「そういうアマちゃんこそ」


 転生すると若返るのか?

 まぁ確認は後にして……


「ここはどこだ」


「草原」


 上半身を起こして周りを見渡すと、カンナの言う通り草原が広がっていた。

 指先が埋まるほどに伸びた草は、太陽の光を吸って僅かに暖かく感じる。


「………草原だな」


「だからそう言ってるじゃん」


 座り込んでる俺に対し、口をへの字にしたカンナは俺を見下ろしていた。しかし何か見つけたのか、カンナはすぐに駆け出した。


「お?……おぉー!」


「何かあったのか?」


 駆け出した先は近くに佇んでいた大石で、その影に手を伸ばして何かを採取した。

 それは赤いカサに白い斑点をしたキノコ。見るからに毒々しいそれを手に持って、カンナは嬉しそうに戻ってきた。

 そしてそれを俺に見せつけてきた。


「見て見てー」


 俺の目には典型的な毒キノコにしか見えないが…そうか、まだ確認してないが、カンナは見た物を分析する力をウルムデュアルから貰っている。

 きっとそのキノコには、見た目とは違い薬的な効力があるのだろう。


「それはなんのキノコ?」


「典型的な毒キノコ。本当に実在するんだね!」


「捨てなさい!バッチィ!!」


「あぅ」


 素早くはたき落とし、落ちたキノコを蹴って遠くに飛ばす。

 反射的に飛んでいった方に手を伸ばすカンナだが、もちろん届かず叩かれた手をプラプラと振った。


「痛いよアマちゃん」


「毒キノコなんか拾うからだろ。それも素手で」


「経口摂取しない限り害は無いって書いてあったもん」


「だとしても……書いてあった?」


「うん。ステータスオープン」


 そう言うと、カンナの前に宙に浮くウィンドウが現れた。


「これと同じウィンドウが出てきて、そこに情報が書いてあったの」


「ふーん。そんな感じでわかるのか」


 カンナが出したウィンドウを覗くと、そこにはステータスの他に【観察眼】【アロイ・シャーの手癖】【捨てた未来の見返り】の3つがあった。


「………カンナ、これはなんだ?」


「えぇ?コレは…手癖が二つ目の願いで、見返りが三つ目かな?」


「じゃなくて!捨てた未来ってなんだ?」


 Name:カンナ

 Class :鍛治師 XXX

 Level :20

 HP:100/100

 MP:59999/60000

 STR:14(10)

 CON:19(10)

 DEX:5

 SKI:32(20)

 INT:20

 Skill:【観察眼】【アロイ・シャーの手癖】

 Skin:【捨てた未来の見返り】


「………なんだっけ?」


「おい」


「んー…あ、そうだ。えい」


 ウィンドウに表示された【捨てた未来の見返り】という記述を指で突く。するとそれ以外の表示が消え、突いた記述は上部に移動しその下に説明が出てきた。


「思い出した。僕は物作りしたくて魔力がいっぱい欲しかったんだけど、それでも切れる時は切れるってウーさんに言われたんだった」


「それで?」


「なんとかならないか聞いたら、そんな膨大な量をリスク無しに得る方法は無いって言われて…それでリスクを背負ったんだった。それがコレだね」


 思い出してスッキリしたのか、和やかな表情で名称を指差す。

 その説明文には、「魔力量を300倍にする代わりに、魔法及び練技を体得できない」と書かれていた。


「捨てた未来って…」


「魔道士や騎士としての未来だと思うよー。アマちゃんのカラスなら、その辺詳しく知ってるんじゃない?ウーさんが情報入れてくれたんでしょ?」


 そう言われても"口寄せ"のやり方がわからない。ひとまず、俺はステータスを開いて見た。


 Name:アマチ

 Class :中忍 Ⅱ

 Level :20

 HP:80/80

 MP:120/120

 STR:15

 CON:12

 DEX:32(20)

 SKI:30(20)

 INT:12

 Skill:【口寄せ:烏】

 Skin:


 比べてみると、カンナの【MP】がいかに桁外れかよくわかる。

 そしてこの括弧の中の数字がジョブ適正によって補正された数値っぽいな。


「見せて見せて」


「わかったから待て」


【口寄せ:烏】の記述を突く。するとカンナの時のように上部に移動し、その下に説明文が表示された。


「…式神にカラスの身体を与え召喚する。としか書かれてないな。カンナ、毒キノコを見たのは【観察眼】を使ったんだよな?どうやった?」


「えっとねー。頭の中で使おうと念じたら見えたよ」


 用はイメージなのか?

 まぁ、失敗しても別にリスクとかは無いだろう。質問できなかったが、やばいリスクがあったら先に説明されそうだしな。

 よし。やってみよう。


「こうか………何も起きないぞ?」


「アマちゃん、後ろ!」


「後ろ?」


 振り向いてみると足元…俺の影の中にソイツはいた。


 俺の影よりも濃い黒で全身を覆った一羽のカラスは、目が合うと羽ばたいて飛び上がる。驚いて腕を前に出すと、その腕に止まって大人しく座った。

 あとはただ真っ直ぐに俺を見ていた。


「………お前が式神?」


「肯定。何用だ、主人殿」


「うわぁ、カッコいいね」


 マジマジと見つめるカンナには構わず、カラスは俺を真っ直ぐに見ていた。


「なら質問。カンナの【Skin】の欄にあるコレ…捨てた未来ってのは何を指してる?」


「応答。それは魔力を消費して別の現象を引き起こす術を新たに体得できない事を犠牲に、膨大な魔力をその身に宿すもの。戦士、剣士、魔道士、賢者、錬金術師、鍛冶師、付呪師…そういった練技や魔法を必要とする職には決して就くことができない【Skin】。捨てた未来というのは、その例に当てはまる職の道のことなり」


「あってたね」


 って事は、カンナはマジで鍛治師以外にはなれそうにないわけだ。その鍛治師というのも【アロイ・シャーの出癖】と呼ばれる鍛治師スキルでできる範囲だけ。

 ついでだから他にも聞くか。


「【Skill】と【Skin】に分けられてるが、違いは?」


「応答。【Skill】…すなわち技。魔力を消費して対応した能力を発揮する技能の総称。【Skin】…すなわち体質。ON/OFFの概念がなく、永久的に発動し続ける特殊能力の総称」


「俺のクラスが中忍なんだけど、上忍や下忍もいるのか?」


「肯定。クラスには互換性有り。本来中忍は、盗賊の派生クラス…下忍の【Job Level】を上げる事で、獲得できるクラスなり。主人殿はウルムデュアル様より授かりしクラスゆえ特例」


「何故中忍から?」


「応答。【口寄せ】を体得する条件ゆえ」


 なるほどな。ひとまずここいらで切り上げておくか。街中で無い限り、安全とは言えないらしいし。

 だが最後に………


「中忍の文字の隣に表記されたローマ数字…コレが【Job Level】だろ」


「肯定」


 カンナの【Job Level】はXXXだったな。【アロイ・シャーの手癖】を体得できるレベルがそんなに上だとすれば、それだけ凄いスキルなんだろうな。


「…って、カンナはどこいった」


「……後方の大岩を確認する事を推奨」


「大岩?」


 振り向いて確認できるのは、カンナが毒キノコを拾った大岩。

 その大岩にもたれ掛かるように、カンナは眠りについていた。


「…なんで寝てる?」


「不明…警告!カンナ殿を背負い逃亡を図る事を推奨!」


 呆れていた俺に向かって、カラスは切羽詰まった様子で叫ぶ。そして俺の腕から飛び上がった。


「おい…一体何が……」


「Bランク。オルグボア」


 それだけ言い残し、カラスはカンナが寝ている大岩を越えて反対側に飛んで行った。


「……B?」


 ひとまず逃げる事を勧められた。

 異世界初心者の俺は大岩に駆け寄り、カンナを背負って立ち上がった。


「シィィィャァァァ……」


「……おいおい…マジかよ」


 その時に岩の影から見えたのは一匹の蛇。

 それも現実の奴とは比べ物にならないサイズのな。蛇を題材にした映画になら出てきそうだし、アナコンダも成長すればこのサイズかもしれない。


「ジュラララァァァァァァア!?」


 目に映った光景は、そいつの目をカラスが啄んだ所だった。


「逃亡推奨!」


 釘を刺す様に、カラスは大声で叫んだ。どう考えても俺に向けてのメッセージだ。そして……


 ーバクンー


 空へと逃れようとするカラスに向けて身体を伸ばし、蛇は音を立てて口を閉じた。

 カラスは身を捩って避け、旋回して様子を見ている。

 蛇には警戒され、近づいた瞬間食われそうだ。


 影に隠れてやり過ごすか、リスクを冒して飛び出し逃げるか…どちらがあっていたかわからないが、俺はカンナを背負ったまま走り出した。


「ハハ…カンナの事を悪く言えないな」


 冷静に判断してるつもりだっただけで、俺も楽観的だった。

 知らぬ土地に放り出されて野生動物に襲われる。

 安全な国で育った俺は、自分は大丈夫と緩い考えをしていた。

 これじゃ死ぬ。そりゃウルムデュアルも心配するわ。


「ジュラララララ!!」


 俺たちに気付いた巨大アナコンダは、こっちを向いて蛇行して接近してくる。

 そのタイミングでカラスが残っている目を啄もうとするが、その瞬間に瞼を下され遮られる。


 どうする、どうすりゃいい?


「こっち来いカラス!」


「御意」


 口寄せで召喚したカラスは、俺と並行するように滑空して飛ぶ。


「教えろ!俺にある戦う手段は!?」


「応答。【DEX】【SKI】の数値は短刀、遠距離武器と相性が良く、忍は短刀、投擲武器の扱いに補正が入る傾向有り。補足。現在可能な攻撃手段は投石のみ。非推奨」


「言われなくても石投げなんて無謀な事しねぇよ!ステータスにないだけで、使えるスキルはねぇのか!?」


「再応答。主人殿は特例の中忍。補足。段階を踏まなかった弊害により、盗賊、下忍のスキル未習得」


 せめて霧隠れ的な術が使えればと思ったけど、そんなものはないらしい。


「このままじゃ追い付かれるのがオチだぞ!?」


「…否定。主人殿、その心配は無用」


「なに?」


 振り向いてみれば、蛇との距離は先ほどよりも開いていた。

 そのまま走り続けると、やがて蛇行を止めて別方向に進み始める。

 諦めた……のか?


 草原の上で足を止め、カンナを地面に下ろした。

 こっちの苦労も知らずに聞こえるのは、気持ち良さそうなカンナの寝息。


「……いい加減起きろ」


「………んにゃ?」


 額を数回叩くと、カンナは眠そうに瞼を持ち上げた。


「…叩いた?」


「叩いた。つーかなんで寝てんだよ。あのあとデカい蛇に追われて大変だったんだぞ」


「またまた〜冗談を〜」


「冗談じゃねぇよ。な、カラス?」


「無論」


「僕を抱えて逃げれるものなの?逃げ切れたとしても汗とかかいてないけど」


 言われてみればそうだな。

 思い返してみれば、あの蛇…カラスはオルグボアとか言ってたか?

 アイツの蛇行のスピードは、見た感じ40kmは出てたと思う。

 迫力のあまりそう見えたのかもしれないが、俺はそれよりも速く走れたわけだ。


「カラス…って毎度言うのもアレだな」


「名前付けよー。カーちゃんは?」


「却下」


 考えるなら真面目に考えてくれ。

 何でもかんでも、一二文字に「ちゃん」か「さん」を付けるだけのネーミングはやめた方が良い。


「そういうアマちゃんは?」


「ネーミングに自信はないけど…夜とか夜空とかを他国語にした奴でいいんじゃね?」


「賛同」


 カーちゃんと比べればそっちの方が良いのか、先程は却下したカラスは賛同してくれる。


「カンナ。どこの言葉でも良いから、三文字くらいでそういう意味の言葉はあるか?」


「んー。ナイトは安直だから……ナハト?」


「なはと。意味は?」


「オランダ、ドイツ語で"夜"。君はそれで良いかな〜」


 カラスの首回りを撫でるカンナに、気持ち良いのかクチバシを「カカカ」と音を立てている。

 猫で言うゴロゴロと喉を鳴らす行為か?


「決まりだな。ナハト」


「了」


「早速質問だナハト。何故俺はあれだけ走って疲れてない?」


「応答。【DEX】の数値は高いほどに速くなる他、スタミナの減少を抑制する働き有り。補足。Class未取得、ジョブ適正を持たぬ15歳のステータス数値の平均値は全て"10"。それと比べれば、いかに優れた高数値かは推測可能」


 なるほどな。そういう事なら納得だ。

 俺の【DEX】は補正合わせて"32"。


 …少し気になるのは決して頭が良いわけではないのに、俺の【INT】が補正無しで平均値を超えている事だな。


「…アマちゃん。もしかしてこっちの文明って」


 カンナも同じ所に気づいた様だな。


「改めて異世界だと認識する機会が、まさかステータスの平均値だとはな」


 俺的には筋力より体力の方が自信があった。

 だが【STR】の数値を【CON】は下回っている。

 つまりこっちの世界で育った少年は、筋力よりも体力を良く使うって事だ。でもって俺以下の【INT】って事は、義務教育の文化も無いのかもな。


「ってなんでナハトは15歳の平均値を?」


「応答。主人方の現在の身体は、転生の影響により15歳まで若返りを果たしたゆえ」


「そうなんだー……わ、僕の【DEX】低すぎ」


「補正値取ったら【STR】の方がヤバいな。【CON】は平均値以下だけどマシだな」


「ほら、僕は熱中すると切り上げるタイミングを見失っちゃうからさ」


 あぁ、それで体力だけあるのか。

 昔は寝るの忘れて作業することが、度々あったな……


「寝るで思い出したけど、お前なんでさっきまで寝てた?」


「えぇ?あ、コレだよこれ。話が長くなりそうだから探索してたら、キノコのところで見つけてさ」


 カンナの手には緑色の苔が付着していた。


「これは?」


「応答。名称はネムリゴケ」


「名前通りだね。睡眠薬にも使える、無害な毒を保持した苔だよ」


「おバカ」


「むぅ。でも気にならない?前の世界では睡眠薬なんて使った事なかったからさ、どれくらい効果あるか試したくなるじゃん?」


「おバカ!」


 正直な話、半日も経っていないのにもう精神的に疲れている自分がいた。

 それでも俺と好奇心旺盛な幼馴染の二人旅は、こうして異世界で始まったのだった。


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