第18話 決闘!ドラゴン将軍vsクトゥルフ。
物語はまだまだ続きます。
周囲では味方と敵の兵士達が激しい戦いを繰り広げていた。
ドラゴンは最強の特殊体術を使用し全ての能力が最大限引き上げられていた。
さらに伝説の格闘武器・ドラゴンクローを装備している。
ドラゴンクローの長さ50センチにもなる3本の爪からは絶えず炎が出ている。
ドラゴンとクトゥルフが睨み会う。
「核熱溶融!」
「…大洪水……」
2人は同時に最上級の魔法を放つ。超絶高温の火炎の壁と水の壁がぶつかり合った。炎で水は瞬時に蒸発し、水はその水量と水圧で後退をしない。
魔法は相殺されて同時に消えた。
「天雷連撃」
「……強い……激流のオーラよ。私を守って……」
クトゥルフの分厚い水のオーラが硬い氷の壁に変化して全身を覆う。まるで生きている水が彼女を守っている。
ドラゴンの魔法により、天から強力な雷気を帯びた稲妻がクトゥルフに何度も降り注ぐ。だが氷に守られているクトゥルフにダメージは無いようだ。
その後も幾度となく魔法同士がぶつかり合う。魔法ではやや劣勢のクトゥルフ。しかしクトゥルフの水のオーラはとても強力でドラゴンの魔法を全て防いでいるようだ。逆にドラゴンはクトゥルフに攻撃をする隙を与えない程に魔法を連発している。
(ふむ。相手は勇者の記憶持ち。やはり魔法では決着がつかんな。ガハハハ……)
「このままでは…決着が…つかない……。身体強化・攻防強化……」
クトゥルフの攻撃と防御が大きく上昇したようだ。
彼女の前からドラゴンが一瞬で消えた。その瞬間。
ドラゴンクローがクトゥルフ目掛けて斬りかかった。
……が、クトゥルフは一瞬で攻撃を判断し武器で攻撃をかわし、ドラゴンの喉元に強烈な刺突を放つ。
ドラゴンはクトゥルフの刺突をドラゴンクローで完全に防いだ。
彼らは激しい打ち合いになり2日間それは続いていた。
お互い全く引けをとらないのだ。
その間、周りの兵士達もずっと敵兵と戦っているようだ。
カラシニコフ大佐が重傷のヤコフ将軍を看病し、遠く離れた茂みからお互いの戦闘を心配そうに凝視している。
(うーむ……。一体何がそこまで彼女を動かしているのだ。これは何か裏が有りそうだな。ちっとばかしコンタクトをとってみるか……)
ドラゴンがクトゥルフに対して念力でメッセージを飛ばした。
(私はドラゴン将軍だ。今、お前の目の前に居る男だ。何故だ。なぜ君はそこまでして戦う。まだ子供だろうに)
クトゥルフが念力に反応したようだ。
(ほっといて……私…は…逆らえない…の…)
双方の激しい打ち合いはまだ続いている。
(君程の実力が有れば帝国など簡単に抜けられるはずだ)
(家族……家族がみんな帝国に……囚われているの……)
(私……前に力引き出せなくて……お母さんが死んじゃった……帝国には……逆らえない。私……が……力を出さないと……帝国に……家族……殺されちゃう……戦って帝国を守るのが……一番なの……)
(何だと!? それはまことか?)
(お願い……誰か……この苦しみから私を助けて……!!!)
(……そういうことだったのか。すまんが、この茶番はここで終わらせて貰う……)
ドラゴンは大きな怒りに燃えた。何の罪も無い子供に無理やりクトゥルフの力を引き出させ、家族さえも人質にかける。こんなやり方は人道に大きく反する。
「罪の無い子供達を……お前等帝国は……。絶対に許さん……」
「すまんアモン……。許してくれるよな? 封印魔法…… 原初の大爆発!!!!」
「ぐ!! ……完全魔法障壁!」
異変に気が付いたカラシニコフは急いで周囲に魔法障壁を展開。すぐ近くに居たヤコフ将軍を背負った。
周囲の風が止まった。
ドラゴンの目の前に1メートルほどの太陽のような超高密度の光球が光輝いている。そして光球は遥か上空に昇っていった。
「まさかあの魔法は……封印魔法……!! テントには捕虜達が…瞬間転移魔法!」
[総員撤退せよ!! 繰り返す。総員すぐに撤退せよ!!]
ジャックが味方兵へ指示し、すぐに転移魔法で野営陣に向かった。
「アリス。まずいぞ。この技はお前には耐えられない! クソ、間に合わん……遠すぎる」
カラシニコフは顔を真っ青にして呟く。
「みんな……さよなら……お父さん……お姉ちゃん……ごめんなさい……私……」
「嬢ちゃん、大丈夫だ。安心しろ……」
ドラゴンがクトゥルフに対して優しく笑った。クトゥルフは両手で顔を覆い泣いているようだ。
「原初の大膨張!!!!」
直後、ドラゴンが出した光球は一瞬で1000メートル程の大きさに膨張した。
そして……、想像を絶する大爆発が巻き起こった。
全ての万物は焼かれ、周囲に居た残りの帝国兵約4万名が即死した。残ったのは直径15キロ程の大きなクレーターのみであった。
だが……ドラゴンの右手は薄い水色の髪の少女を抱えている。
そう、彼女はクトゥルフだ。
ドラゴンは彼女を守ったのだ。
「ア、アリス! 無事なのか? グフッ。ゴホゴホ!」
カラシニコフは急いで張った完全魔法障壁で自身の命と背負っていたヤコフの命だけは守っていた。だが正面から直撃したその衝撃は凄まじくカラシニコフが受けたダメージは計り知れない。
ジャックが転移魔法でドラゴンの前に現れた。
「将軍。捕虜達は無事です。戦いは終わったのですね。抱えているクトゥルフは死んだのですか?」
「いいや、ジャック。まだ息はある。苦労をかけて済まなかったな……。あそこの2人を拘束しろ。野営陣に戻るぞ。話はそこでする」
----ノースラミエル・野営陣テント内----
ドラゴンは高官を招集し、説明をした。
クトゥルフの事。怒りに身を任せて封印魔法を使用してしまった事。
「………。という訳だ。皆タグが有るとはいえ、危険な封印魔法だ。本当にすまなかった」
「ドラゴン将軍、気にすることはございませぬ。幸い、味方兵はタグのお陰で犠牲になってませぬ。結果的に勝利したんですぞ! 戦争にルールはございません。この勝利という結果こそが全てです」
「ロイ将軍。ありがたく存じます。皆無事で良かった」
「う、うぅ。ア、アリスはどうなった? 私の娘……は生きているのか……? せ、先生……」
(先生? ん……こいつ、どこかで見たような……)
ドラゴンがカラシニコフに問い掛ける。
「お前が先程から言っている"アリス"とは何者だ? 娘とは誰の事だ?」
「クトゥルフ。あの子の本当の名は……ゴホゴホッ! アリスと言う。ゴホゴホッ! 私はその子の父親です。この身分証が証拠です。胸のポケットに入っています」
ロイ将軍はカラシニコフの身分証を確認した。
「間違いなく本物だ。娘:アリス・スコット[クトゥルフの記憶]と書かれている」
「スコット……まさか。……ロイ将軍! 宜しいですか?」
ドラゴンはロイ将軍に目で何やら訴えた。
「……すまないがドラゴン将軍とジャック将軍を残し皆テントから出てくれ。これは命令だ」
ロイ将軍の命令により高官達はテントから退出した。
「ジャック、この者の縄をほどいてやれ」
「ドラゴン将軍。し、しかし……」
「問題無い、責任は全て俺がとる」
ジャックはカラシニコフの縄をほどいた。
「回復魔法! ターゲット・カラシニコフ」
カラシニコフに回復魔法をかけるドラゴン将軍。
「かたじけない。もう捕虜となった身だ。話せる事は話しましょう。それでアリスが助かるのなら。私の話を聞いてもらえますか?」
「良いであろう。では話してみたまえ」
許可するロイ将軍。
カラシニコフは淡々と語りだした。
「私の名はケリー・スコット。35歳になる。メイガス出身だ。帝国ではカラシニコフという名で活動している」
「やはり……!!」
ドラゴンが驚いた顔をしている。
「時は遡り10年前。3歳のアリスには1つ歳上の姉、アイリーンが居る。アイリーンとアリスは町のはずれにある洞穴で他の子供達と秘密基地を作って遊んでいた。
その時アリスが洞穴で隠し扉を見つけ1人で奥へ入ったようだ。慌ててアイリーンが付いていくと奥には大きな部屋があり、アリスは水色に輝く宝玉を持って喜んでいたそうだ。
だが宝玉はアリスの身体の中に入り消えてしまった。アリスは体調が良くないと言い、その日は家に帰ってきたのだ」
「それがクトゥルフの始まりという訳か」
「はい。ロイ将軍。そしてアリスは次第に習ってもいない水魔法を使うようになった。
魔法を使い、街の広場で子供達と遊んでいたようだ。それを街に潜り込んでいた人身売買の連中に見つかり、数日後、アリスは行方不明となった。
後日、家に怪しげな5人組が押し掛け、妻のアリシアとアイリーン、私は睡眠魔法で眠らされた」
「目が覚めると見慣れない研究所の牢に私は居た。アリスは研究員に魔法を使わされて何かをされているのが見えた。
だが次第に研究員が怒鳴りだし、牢から妻のアリシアを引っ張りだして、1分以内に魔法で毒を作れと言い放った。目の前にあるコップ一杯に毒を満たせと」
「研究員は妻アリシアの首に注射器のような物を刺した。1分以内に出来なければこの女性は死ぬと脅したのだ。
私は必死に叫んだが手足口を縛られなにも出来なかった。アイリーンはずっと泣いていた。
1分が経過し、コップに変化は無かった。妻は……そこで注射器で毒を打たれ殺されたのだ!!!」
「……だがその時アリスが泣きながら悲しみの中で何かに目覚めたようだった。目の前のコップに猛毒が満たされていった。
だが猛毒はコップを溶かし、さらに大量の猛毒が研究所の地面に流れ出た。
研究員は歓喜し、笑っていた。そしてアリスによくやった。と言い麻酔で寝かされたのだ」
「アリスはその後家族を人質にとられ10年もの間クトゥルフとして帝国に使われていたのだ。
アイリーンは帝国の児童施設に捨てられ、私は牢を出てから帝国軍のトイレ掃除やゴミ捨てなど雑用を毎日無休で18時間やらされた。
だがある時、軍基地内に侵入してきた大きなムカデモンスターが現れた。偶然近くに居た私は直ぐに魔法でモンスターを焼き払ったのだ。
それを見た帝国将校が見込みがあると言い、私はそれから今まで帝国軍に仕えて来た。話が長くなり、申し訳ございません。これが全てです……。分かりますか? ドラゴン先生……」
「ケリー……。お前だったのか……。大きくなったなぁ……さぞ辛かっただろうに。よく頑張ったなあ……」
ドラゴンがケリーの頭に優しく手を置く。
「……失礼します。ドラゴン将軍。この方はお知り合いでしょうか?」
「ああ、ジャック。昔魔法小学校で俺の生徒だった。俺はケリーの担任を4年間担当していたんだ、かなり生意気なガキだったがな、ガハハハ!」
「何たる偶然! 世の中狭いもんですな!」
驚くロイ将軍。
「その笑い方、本当に懐かしいです。ドラゴン先生! こんな形で再開するとは……本当に申し訳ありませんでした!」
「俺の方こそお前の顔を見てすぐに思い出せなくて済まなかったな。ケリー、これからお前はどうする?
俺たちは帝国の出方次第で捕虜を返すつもりだが、すまないがクトゥルフとそこの雑魚将軍だけは捕らえなければならない。これは最初から決まっているのだ」
「そうですか……。ならば私も敵将ということで捕らえてください。
アリスのそばに居られれば場所は牢の中でも何処だって良いです。お願いします!!!!」
「ロイ将軍、どうされましょうか?」
「我が軍の中にクトゥルフを完全に押さえ付けられる者はおりませぬ。私とて難しいでしょう。
2人の身柄はメイガス軍に委ねましょう。ヤコフと暗部は我が軍が捕虜として引き受けます。宜しいでしょうか? ドラゴン将軍」
「承知しました。ロイ将軍。……ケリー。聞いての通りだ。ケリーとクトゥルフの身柄は我が軍ドラゴン・ウォーリアーが受け持つ。
すまないが兵達の体裁もある。再び縄を縛らせて貰う。悪く思わないでくれ」
◇◇◇
[ヴァルドルフ国境戦争]
ヴァルドルフ帝国による停戦協定無視の国境侵入により開戦。
結果:連合軍の圧倒的勝利。
連合軍側
兵力:ノースラミエル連邦王国軍30000人
魔法大国メイガス軍11000人
負傷者:ノースラミエル連邦王国軍13000人
魔法大国メイガス軍2900人
戦死者:ノースラミエル連邦王国軍8800人
魔法大国メイガス軍0人
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ヴァルドルフ帝国軍側
兵力:ヴァルドルフ帝国軍72000人
ヴァルドルフ帝国魔導兵10体
ヴァルドルフ帝国大魔導兵:6体
負傷者:ヴァルドルフ帝国軍235人
戦死者:ヴァルドルフ帝国軍71732人
ヴァルドルフ帝国軍魔導兵10体
ヴァルドルフ帝国軍大魔導兵6体
捕虜:ヴァルドルフ帝国軍268人
ヴァルドルフ国境戦争は終戦した。
凡そ1週間後に帝国軍の増援として25000名の兵が投入される予定だったがこの報せを受け、帝国側は増援を断念した。
メイガス軍増援前から含め凡そ1ヶ月の戦いであった。
ちなみにメイガス軍が到着して僅か2日で戦争は終結した。
この戦の圧倒的勝利により魔法大国メイガスの世界的立場が大きく動くことになる。
帝国は魔法がいかに戦争に於いて重要なのかを思い知らされたのだった。
次回。シン歓喜。英雄ドラゴン。