第13話 ピノ達との出会い。
一気に4人も登場キャラが増えた為、会話のみで終わってしまいました。いやはや、綺麗に纏めるのは本当に難しいです。
俺は前回のデスマーチで15時間にも及ぶ戦いを勝ち抜いた。
無数のウェンディゴ達との死闘の末に相手の時間切れで相手が撤退したのだ。
だが身体は無事では無かった。体力も魔覇も底を尽く寸前だ。
さらに衰弱していて特殊体術すら使えない状況だ。
「何とか……して、街まで行かなければ……こんな事になるなら親父から貰ったこの指輪使えば良かった……か?」
----1日前----
「シン。俺が居ない間でもこの屋敷は自由に使ってよいぞ。ここはもうお前の家だ。なんなら友達を連れてきてもいいぞ! 使用人達には既に言ってあるから安心しろ。明日鍵を渡そう」
「ありがとう! でも俺さ、ちょっと街の外へ遊びに行ってみたいんだよね!」
「外は魔物がうじゃうじゃ居て本当に危険だ。……だが条件付きでなら自由に出入りしてもいいぞ。その条件はな……」
親父は綺麗な銀製の指輪を俺に差し出した。
「ほらっ! もしもシンの命に危険が迫ったらこれを使え!」
「俺はもう子供じゃないし大丈夫だって! それにその指輪は何なんだ?」
「シンは俺の子供だ。俺はお前を一人の息子として心配しているのだぞ? 本当に困ったらこの命絆の指輪に助けて欲しいと念じるのだ。ただし。使用は一度キリだ、よく考えて使うのだぞ?」
「ああ、心配してくれてありがとう。ところで使うと何が起こるんだ?」
「ガハハハ! それは内緒だ。まあつべこべ言わず命の危険に晒されたら使えって事よ!」
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俺はよろよろしながらも魔法門まで真っ直ぐ歩いていた。だが奴が現れたのだ。
俺の目の前に堕落まどうしが現れた。勘弁してくれ。今それどころではない。空気読め。
俺の身体は言うことを聞いてくれず動けない。堕落まどうしがこちらに向かって走ってきた。
「あ! お前は昨日のサイレント野郎だな! 昨日の借りはきっちり返させてもらうぞ! 俺の大事なワータイガーちゃんがお前のせいで風邪で寝込んでるんだぞ。ボケめ!」
身体が動かねえ……。俺は突き飛ばされて地面に倒れた。
「オラ! 昨日の威勢はどうした!うりゃ。おりゃ!」
そこまで痛くは無いが俺は杖でボコボコにされている。
そこに突然人の声が聞こえてきた。
「おい、あれを見ろ! 子供が倒れている! モンスターに殴られているぞ」
「やだ、大変だわ! 助け出して直ぐに手当てをしなきゃ!」
「あの子供、こんな所に一人で居るなんて。助けなくてはいかんな。相手はゴブリンか?」
「あーー、だりーな! 早く街で飲みてぇ。俺が片付けて来るからそしたら帰るぞ?」
俺の前に男女4人組が現れた。
「アマンダ。気を付けろよ?」
「問題ないってピノ。俺がワンパンでノックしてやるよ!」
綺麗な女性がこちらに向かって歩いてくる。俺は目が霞んできた。
「うりゃ! おりゃ! ……ん。げ、冒険者! さいならぁぁーー!」
堕落まどうしは猛スピードで逃げた。さっきから殴られまくったがあまり痛くは無かった。だけど立つ力が無い…。
「君、大丈夫か? ……おい。全身傷だらけじゃないか。リリナ、この子供に回復魔法を頼む!」
「ええ、任せて。……高位回復魔法!」
「この"バトル・ログ"でこの子になにが有ったか調べてみよう。すまないが、脳波を少し検査させてもらうよ」
イケメン青年が俺の額に謎の腕時計のような物を近づけてきた。
「結果が出た………。この子はアンデッド族ウェンディゴと戦ってたようだ。その数凡そ5000体……だ」
「何!? このガキがか? なにかの間違いじゃないのか。グリーズ、こんなことってあるか?」
5000体に驚く女性。
「24時間以内に討伐した魔物を正確にカウントするバトル・ログが狂うことは無いと実証されている。結果は間違い無い」
バトルログってなんだ? とにかく助かった……。
「うぅ。どなか分かりませんが、親切にありがとうございます。俺の名はシンと言います。俺は魔覇が空っぽでまともに立てません。街へ行くのであればご一緒出来ませんか……? 身分証はポケットにしまってあります。中身を確認して貰っても結構です」
「では私が身分証を確認させてもらう。どれどれ……なっ!!」
グリーズという男性が俺のポケットに手を入れる。
「……!! 今すぐこの子を病院へ連れて行くんだ。魔覇切れだ! モタモタしている暇はない。急ぐぞ。」
「なに言ってんだ? グリーズ。ただのガキだぞ?」
「失礼な事を言うんじゃないアマンダ。この子は"大貴族"であり、かの英雄ドラゴンの息子だ。死んだら大変な事になるぞ!」
----メイガス・大国上等国民病院内----
目を開けると20代前半くらいの綺麗な女性が立っていた。俺は眠っていたようだ。ここはどこだ? ベッドがあるし病院か?
「あら、シン君。おはよう! 具合はどう?」
「あなたは昨日の……。えっと名前はなんと言うのでしたっけ?」
「リリナ・イレイス。リリナって呼んで! あたしはピノのパーティーで後方支援専門をやらせてもらってるの。私達のリーダーピノの命令で君の病室の警護をしてるのよ。あたし達には普通に喋って良いのよ。気を使うわ!」
「リリナ、いい名前だね。ここまで連れてきてくれてありがとう!」
綺麗な女性だ。おまけに性格も優しそうだ。
3人組が部屋に入ってきた。一人はイケメン20代後半くらい。もう一人はダンディ白髪50代前半くらい。もう一人は見た目が綺麗な10代後半くらいの女性。
「お。目が覚めたかい? 君はシンだね? 僕達がシンを病院まで運んできた」
「ここまで運んできてくれてありがとう! 本当に助かった。俺の名はシン。宜しく!」
俺は皆に改めて挨拶をした。
「僕はこのパーティーの司令塔をやっているピノだ。ピノ・フランベルジュ。パーティーでは中衛と言った所かな。職業は魔法戦士だ。宜しく!」
「私はパーティーの前衛担当をしている。グリーズ・ルーズベルトだ。職業は黒騎士。宜しく」
「俺はアマンダ・ローズ。このパーティーの最年少だ。前衛担当で職業はモンクだ。魔法は使えねーから!まあよろしくなーー」
(この子、可愛い見た目に反してセリフが完全に野郎じゃねーか! いやぁマジもったいないっすわーー)
《シン。俺は言葉使いに目を瞑ればアマンダが完全タイプだわーー! シン。もっとアマンダに話掛けてくれよ!》
(トモ。お前ってやつは昔からほんと可愛い女の子に弱いなーー)
「俺は無職。魔法はある程度使えるんだ。今は親父の家で暮らしている。みんな宜しく! ピノ達は門外でなにをしていたの?」
「僕達はテラワールド・ギルドズで仕事をこなしている。シンに会う前に魔大陸アルセナ郊外に生息する死狼の毛皮15枚採集せよ、という内容を終えて帰っていたんだよ。メイガス方面には用があって寄ろうとした時に君を発見した」
「魔大陸アルセナ! 知ってるぞ。えぇと……。テラワールド・ギルドズってなに?」
「テラはこの星の名前だよ。ギルドとは世界何十ヶ所も支部がある冒険者御用達の世界組合の事だよ」
テラか。やっぱこの星の名前って地球じゃないんだな。自転周期おかしいしな。
「なるほどな! 俺あまり知識が無くて……。魔大陸アルセナって親父が言ってたアルセナと一緒なのかな?」
「魔大陸アルセナは世界の中心に位置する周囲が海に囲まれた大きく不思議な大陸で人が住めない土地でもあるんだ。
その大地の底から常に魔覇が湧き出ていて、それを餌に凶悪に変異した魔物たちがテリトリーにしている大陸なんだよ。ほとんどの魔物はランクB以上で人語を喋る高位の魔物ばかりだ」
「喋る魔物って高位の魔物なのか。俺はアルセナの建造物で喋る魔物と遭遇しているんだ」
「建造物か。幻視の城だろう。大陸中央にそびえ立つ幻視の城は見るものによって姿形を変える不思議なお城なんだとか。その地下には悪魔族達の広大な都市があるとされているんだよ」
「幻視の城? まさか、あの校舎なのか? 俺は魔大陸アルセナで親父に拾われたんだ。死神に狙われてた所を助けて貰った」
「リッチ!? シン、お前リッチに遭遇したの?」
《ああ、俺の女神が喋ったぁ! シンよ。もっと会話しろ!》
(トモめ、真面目な話してんのに、ったく!)
「ああ、何度も遭遇した。俺、あいつに呪いをかけられてるみたいでさ。夜に国外に出れば毎日現れるよ!」
「アルセナに伝わる伝説の悪魔リッチはここ何十年も目撃例が無いらしいんだよ。噂では目撃者は必ず殺されるから目撃例が少ないとか言われてる、俺も一度見てみたいんだよ!」
《ああ、俺の女神様がまた喋ったあ!》
(…………。)
「あたしもアルセナの話を本で読んだことがあるわ。幻視の城半径10キロ以内は立入禁止区域で一部の強国の軍関係者が調査の為に立入を許されているみたい。
その昔ヴァルドルフ帝国がアルセナに眠るとされている勇者の記憶を奪取しようと5万の兵を投入したけど、5万人全員がお城付近で無傷の状態で全滅してたみたいなの。それからよ、あそこが立入禁止区域になったのは」
アルセナに眠る勇者の記憶……か……。
「5万人も……。恐ろしい場所だったんだなあそこは。俺は死神に神聖系大魔法を本気で放ったのにやつは眉1つ動かさないで淡々と喋ってきたんだ。あいつがあそこまで強力な奴だとは思わなかったよ」
「リッチは超レアモンスターに指定されていて、強敵だよ。シンは神聖魔法を扱えるのかい?」
「うん、一応な! ピノも使えるのか?」
「いや、僕達はまだ使えないんだ。君が使えると言うことは神聖魔国ルメリアで修行を終えたという事か。歳も幼いのに凄いよ!」
(あ、まずい! アザトースの記憶の事は言えないんだ。ルメリアの修行ってなんの事だ!?)
「俺が物心つく前に親父が勝手にちょっとだけ修行させたんじゃないかな! ハハ!」
「ドラゴン将軍もかつて修行へ赴いたと言われているし、その繋がりで君も連れていかれたのかもね! それで詠唱可能なのは君に才能があるよ!」
納得してくれて良かった! 嘘ついてごめんなさい!
「ハハ、そうかな? ちなみにそこで修行するとどうなるんだ?」
「それはだね。神聖魔法の習得は勿論。悪魔、アンデッドに対して魂を完全浄化させる事が出来るみたいだよ。修行が不十分だと大した威力にならないみたいだね。実言うと僕達はこれから神聖魔国ルメリアに神聖魔法を学びに行くんだ。せめて後衛のリリナには習得してもらいたくてね」
「お前らが神聖魔法を習得しちゃったら俺の獲物が減っちゃうのがなあ。退屈になるじゃん!」
《すねてる女神様もかわいいーー! ならば俺を獲物にしてください!》
(……トモ)
「なあ俺、病院を出たらそこに行きたい。ちょっと修行が足りてないみたいだ。一緒に連れていって貰えないか?」
「君に何か有れば、君のお父さんが許さないだろう。僕達にはそれは出来ないよ」
「大丈夫! 外へ出てもいいって許可とってあるから! この指輪もあるし。へーきへーき! 俺こう見えてもちゃんと戦えるんだからな!」
「その指輪は……! グリーズどう思う?」
「私は別に構わない。許可を得たのはシンだ。彼が行きたいと言うならば同行させよう」
「分かった。シン君。一週間後に出発だ!」
「ありがとう! 恩に着る! なにかお礼がしたい。……あ!
みんな、俺の家に泊まって行けよ! 宿代は要らないし綺麗な屋敷なんだ。親父が友達を連れてきてもいいって言ってたからさ!」
《ああ、女神様と一緒に居られるんだね。俺は死んでも幸せ者だぁ》
(お前……相当餓えてたな……?)
一週間後か。俺とピノ達は意気投合し神聖魔法の修行を受けるために神聖魔国ルメリアへ行くことになった。この決定に対して一番喜んでいた奴は俺ではなく、トモだ。
あいつの女好きにはかなわんな。ははは……。
トモはかなりアマンダに惚れているようです。トモが豹変してショックな方が居ましたらごめんなさい!
アマンダが近くに居なければトモは正常です。トモはやるべき時にはしっかりとやる男なのでそのへんは大丈夫です!
次回。メイガス大樹海。