第11話 旅立ちと別れ。
この章はこれにて終わりです。
とてつもなく長い回になってしまいました。
本当にすいません。
俺はタツの元で魔法を学び、大きな成果を得た。魔法の威力が格段に上がったんだ!
俺とタツは紅茶を嗜んでいた。
「シン、これからどうするつもりだ? あと二週間したら俺は遠征だ」
「それなんだよな。外に行くにしてもガキの姿のままだし。身体を大きく出来る魔法とかあればなぁ……」
「習得出来るかはお前さん次第だが、方法はあるぞ。特殊体術というものを知っているか?」
「いや、知らないけど、なんなんだ?その特殊体術ってのは」
「魔法は魔法エネルギーを消費して魔法を放つ。対して特殊体術というものはな、ある呼吸法により身体の闘気を一気に高めて身体の強化を行える技なんだ。この技は魔法を使用出来ない人間が魔物に対して対抗出来るよう編み出した技なんだ」
「おお! それって凄いな! どんなことが出来るんだ?」
「俺は主に魔法だから全ての特殊体術を知っている訳ではないが、攻撃に利用出来る技、身の守りに利用出来る技、その他にも色々ある。まず、地下の訓練場に行かないか?」
俺はタツと魔法の修行を行った地下のシェルターに移動した。
タツは色々な特殊体術を説明してくれた。怪力になる技、身体が鋼のように硬くなる技、俊足になり素早く動ける技、他にもたくさんだ。特殊体術にもランクがあると説明された。
「力が大幅に向上する特殊体術、身体強化・鉄拳。これは最下位の体術だ。下から言うと鉄拳、鋼拳、黒拳、豪拳だ」
「あ、豪拳って前にタツが使ってたよな?」
「ああ、これは一度シンの前で使ったな! 次は防御系の特殊体術だ。これも下から言うと鋼、超硬、黒鋼、神黒鋼だ」
タツは俺の前で色々な特殊体術を披露した。かなりの種類があるようだった。
「と、まあこんな感じだな。待たせたな、これがシンのお目当ての技だ。よく見るんだ」
タツは呼吸を整え集中している。
「身体強化・組織増幅!」
タツの身体に変化が表れた。足から始まり頭まで身体全体が大きくなっている!タツはもともと身長2mくらいで横に大きい。それが3mほどの巨体にややスリムな容姿になっていた。
こりゃスゲー! もともとデカイのにさらに巨人になった!
「こんな感じだ!これは特殊体術の中で最高ランクに習得難度が高い。久しぶりにやったからか、少し小ぶりだがな、ガハハハ!」
「いやいや、アンタ十分デカイから! でもこれは凄いぞ!」
タツに特殊体術の呼吸法と闘気を操る方法、更に元に戻す方法を6時間かけて教えて貰った。
闘気に関してはトモが脳に直接アクセスして自在に闘気を操る事が可能となった。呼吸法はかなり簡単で1時間程で大体覚えてきた。
戻し方は闘気を極限まで下げれば勝手に解除されるみたいだ。
「ガハハハ! シンの第二の頭脳とやら、かなり優秀だな。よし! 呼吸法も上出来だ。シン、俺が教えた特殊体術を一からやってみせろ!」
「トモが居なかったら闘気に関しては厳しかったろうな。 よーし、やって見せるからタツはそこで見ててくれ!」
(また頼んだぜ! トモ。まずは怪力だ)
《ああ、任せろよ!楽勝だぜ!》
俺は大きく息を吸った。
「身体強化・鉄拳!」
俺の肩から腕までの筋肉が動きだし、太い腕を作り上げた。
「うまく行った! お次はカチカチになるやつだ!」
「身体強化・鋼!」
身体に変化はない。おもむろに俺は自分の胸を叩いてみた。
ゴオォォン。と大きな鐘のような硬い音が鳴り響いた。
「よっしゃ。これも成功だな! 次は例のやつ!」
(トモ、行けるか?)
《確か、頭から足まで高い闘気を維持しつつ分散しろ。だよな?》
(そうだ。申し訳ないが今の俺には出来そうに無い。トモ頼んだ!)
《任せろよ。ここをこうして、こうすれば! ……シン。もうやっていいぞ!》
「身体強化・組織増幅!」
身体中の細胞が動いているのか、ムズムズと痒い! そして痒みが終わる頃、俺は身長1m程だったのにタツと並ぶほどに背が伸びていた。力もモリモリ湧いてくる。これはマジでスゲー!
「ガハハハ……。何て事だ。簡単な物でも一つ覚えるのに何週間も掛かるというのにたったの6時間で最高難度の技を成功させるとは……! まいったぜシン。やはりお前は才能があるな。おまけに顔までいいツラになったじゃねーか! なかなかの二枚目だぞ? ガハハハ!」
「そ、そうか!? まあ俺とこの特殊体術は相性が良いみたいだな!? ハーハッハッハ!」
《おいおい! タツさんは俺には褒めてくれないの? がっくし!》
(まあそうしょげるなよトモ!)
こうして容姿の問題は解決した。あまりにもスムーズに事が進みタツはかなり驚いていた。
◇◇◇
俺達は上の部屋で食事を摂る。
「シン。お前、この国で国籍を取得しないか? 身分証が無いと、どの国に行っても怪しまれて入れてくれないぞ?」
「出身不明な俺でも取得出来るのか? 寧ろ取りたいが!」
「シンは親と生き別れた迷子という形で俺が保護中。と、大国管理組合に登録してある。お前がこの街に来るや否や大泣きするもんだから、大勢に見られてな。誰かに通報されたんだろう。暫くしたら家に大国管理組合が押し掛けて来て、俺が勝手にそういう風に登録させてもらったぞ! ガハハハ!」
「バカ! 恥ずかしいから止めろよ! あの時は気が動転してただけだし!」
「ガハハハ! すまん。まあ怒るなって! まあ早い話、俺の養子になれ! ……別に親だと思わなくてもいいし、国を出て旅をしてもいい。だがシンが身分証を手に入れるにはこれが一番手っ取り早い」
俺は即答した。迷う必要すらない。俺にとってタツはこの世界で最も信頼出来る人間であり、家族のようなものだ。しかもタツが親父になるんだろ? 答えは1つしかない!
「タツ、国籍の件。お願いしてもいいか? 願ってもない事だ! 頼む」
「ガハハハ! 嬉しい返事だ。では早速行こうか」
タツは嬉しそうに笑顔で歩きだした。
「うん!!」
----管理組合----
タツがヒソヒソと喋りかけてきた。
「大行列だな。暫くかかるぞ。……いいかシン。誘拐を疑われたらお前が俺によくなついていると周りが納得しそうな演技をしろ。特に魔法によるチェックだけは避けたい。勇者の記憶がバレるぞ……」
「当然だ。任せとけって!」
行列の最前列まで来た。俺たちの番だ。受付には意地悪そうな顔つきのオッサンが立っている。
「これはこれは! ドラゴン様。お会いできて光栄です。大国管理組合の主任をやらせていただいてる者です。本日は宜しくお願い致します。本日はどのようなご用件でいらっしゃいますでしょうか?」
「私はこの子を保護している。この子には身寄りも居ないのだ。シンを養子にし、父子の登録をお願いしたい。それとシンの身分証を発行して頂きたいのだ」
「貴方程の方が養子を、ですか。ですが、誘拐、洗脳、変装されていないか、この場で魔法によるチェックを行います。この国のルールですので、ご容赦ください」
「……すまないのだが、この子は魔法恐怖症で魔法の使用は控えて頂きたいのだが。この子は心に大きな傷を負っているのだ」
「左様でございますか。ですが、どの様な事情が御有りが存じませぬが、スパイやテロリストどもをこの国にーーーー」
タツが目線で合図を送ってきた。
へへ!まかせとけ。
「うッうッう……。ウェーーン!! ドラゴンのオジサンがパパになるってヒック、約束したじゃないかーー! ヒック、魔法使うなんてきいてないよぅーー!! ウェーーン。パパァアーー!! ぼぐの前でヒック魔法使うなんてひどいよぅヒック。パパァアアーー!! パパなんてダイッキライ!!」
その場に居る数百人の人々が一斉にこちらに向かって視線を向けてきた。周囲はかなりざわついている。それにクスクスと笑っている者も居る。だがそんなものは関係ない。中途半端な演技はかえって逆効果だからな。
(ガハハハ……。ちょっとやりすぎたか? 俺たちを見て大笑いしてるやつがいっぱい居るんだが……。ぐぬぬ。こうなったら……もうヤケクソだ!)
「ところで主任さんだったかね!? この私を事もあろうに誘拐犯扱いし、この子の信頼も今消え失せてしまった。
これは国のルール以前に貴方のモラルに問題があるのではないかね!? 今後二度とこういう事の無いよう、軍の議会で大国管理組合に処分を下す事にしよう」
タツが拳の指で骨を鳴らして主任を威圧している。
「ひっ! しょ、将軍様。これはこれは大変失礼致しました。で、では。こ、こちらにサインをお願いいたしますーー!」
勝ったな。タツと俺は書類にサインをした。すると光る印鑑のようなものをオッサンは取り出した。
「魔法印も完了です。い、いま此処で、貴方方を父子へと、認定いたします。こ、こちらがシン様の身分証でございます。お受け取り後お帰りくださいーー!!」
「ぼくたちおやこになったの?ならパパだあーーいすき! くみあいのおじさんもやさしいんだね。ありがとーー! くみあいのおじさん!」
「は、はい! お気をつけてお帰りを……!」
野次馬達がなにやら言っている。
「ハッハッハッ! 見たかあの受付の顔ーー!」
「ふふふ! ほんと面白い子ねーー!」
「ギャッハッハッ! 何だよいまのーー!」
「プッ! お茶吹いちゃったよーー!」
大歓声の中、俺たちは大国管理組合を後にした。晴れて俺は自由の身だ!
「いやっほーーぅ! タツほんとにありがとう! タツには感謝しっぱなしだな。必ずこの借りは返すぜ!」
「ガハハハ……。いいって事よ、我が息子シンよ。俺は恥ずかしくて会場ごと消し去ろうかと思っていたわ。ガハハハ!」
「そ、それだけは止めてくれ!! 改めてよろしくな。タツ! いや、親父の方がいいかな? 残った休暇、親子になったあかつきに俺となんかして遊ぼうぜ!」
「ほほう、それはいい! 俺も遊ぶぞ。ガハハハ!」
俺達は二週間、使用人もまぜてキャッチボールをしたりキャンプをしたりして休暇を楽しんだ。バーベキューもして、魚もいっぱい釣った。タツの顔は今までに見たことないくらいに幸せそうだった。俺もそんなタツを見て本当に嬉しかった。
休暇最終日の夜中、ふと目が覚めた。隣のベッドにはタツがいびきをかいて眠っている。
俺はあっち世界で母子家庭だった。父親は居ない。あっちの世界でタツが父親だったらどれだけ嬉しかった事か。
赤の他人の俺にこの世界で生きていく術を教えてくれた。自分の命を省みず精神世界で心の崩壊から俺を救ってくれた。明日ついに、お別れか。数年は戻れないらしい。かなりの強敵が居ると言っていた。死んだりしないよな?
ちょっと……寂しい、な。
「し……シン……ボール……しっかり……投げろ」
俺とのキャッチボールの夢を見ているのか?眠っているが顔が幸福に満ちていた。
何だよ。ははは。びっくりしたじゃないか……。親父が居る家庭はみんな毎日こんなに楽しいのかな? 明日お別れなのか……。
俺の目から涙が溢れ落ちた。俺はその夜眠ることが出来なかった。
----遠征出発日----
長い夜が終わり、朝が来た。
「おはよう! シン。よく眠れたか? ガハハハ!」
「いいや。まったくだ! 親父のイビキで鼓膜がちぎれそうだったぜ!」
「ガハハハ。すまなかった! まあまず朝飯を食うぞ。腹が減った! 食べたら外の大広間にて出発式だぞ」
「ああ、わかった!」
----メイガス中央区・大広場----
親父が軍団の最前列で大きく息を吸った。
「せいれーーーつ!」
「いちどーーー前へ!」
出発式が始まった。ざっとだが兵士は1万人以上は居るだろうか。その兵士の外周を取り囲むように黒いローブを着た魔法使い達が配置されている。魔法使い達は1000人以上は居そうだ。
親父の号令で1万人以上居る兵が一斉に動く様は圧巻だ。親父の制服姿は初めて見る。頭には赤い大きな羽根がついており、オレンジ色の鎧はまさにドラゴンそのもののようだ。カッコいい!
「これより我が軍団、ドラゴン・ウォーリアーは北方同盟国、ノースラミエル連邦王国軍の増援部隊として任務に着く。
敵はヴァルドルフ帝国。帝国は停戦条約を破り国境防衛線を破壊した。我々の任務はラミエル軍と共闘し、帝国軍敵将を生きたまま捕らえ拘束する事。誰一人として死ぬことはこの俺が絶対に許さん!心して任務に掛かれ!」
「ウオォォーーー!」
兵士達の雄叫びがこだまする。
「いざっ! しゅつげぇーーーき!」
大量の魔法使い達が一斉に何かの魔法を詠唱し始めた。そして一糸乱れぬ言葉で魔法を発動した。
「「「……瞬間転移魔法!」」」
親父が消える直前、俺に向かって満面の笑みで親指を立てていた。
親父は戦地へ旅立ってしまった。心に大きな穴が空いたような感じがする。仲間というよりは家族そのものだった。
だが……! 俺は死神を叩きのめす! 目標を見失ってなど居ない!
親父。無事に帰って来てくれ! 死ぬなんて絶対に許さんからな!
これにて魔大陸アルセナ~魔法大国メイガス編は終了致しました。
次回。 死神再来。強くなったシン。