第10話 シン、魔学を学ぶ!鬼教官タツ!
やはり僕はコンパクトに纏めるのが苦手なようです。
俺はタツから魔法を学ぶ事になった。タツの休暇1ヶ月の間みっちり教えてくれるみたいだ。訓練場所はタツの家の地下にあるシェルターだ。
「さてさて、まずはこのシェルターだが、ここは大抵の魔法は通さない程頑丈な作りになっている、存分に魔法を使うが良いさ。ガハハハ!」
タツが大きく分厚い石の円盤を持っている。明らかに重そうだが……。
「分かりました、先生!」
「ではまず下準備だ、よっこらしょっと」
タツが物凄く重そうな石の円盤を床に置いた。その円盤にタツが手を当てて暫くすると円盤がライムグリーンに輝いた。
「これはな、大魔法大学から1枚借りてきたマジックヒーラーだ。魔覇を瞬時に回復出来る。軍事用の物はもっと大きいがな。魔覇が切れたと思ったらこの上に5秒ほど乗れ」
「うーん、魔覇ってなんだ?」
「魔覇とは魔法を使用する為のエネルギーだ。これは生気ともいう。これが無くなると植物や動物は死に至る。魔覇は生きていくために無くてはならないものだぞ」
「なるほど、じゃあこの円盤は上に乗るだけで魔覇を全快出来るのか!!」
「そうだ。ちなみにこれは国家機密なのだ。ガハハハ!」
すげぇーー! 魔覇を一瞬で回復出来るのか? さすが魔法大国を名乗るだけあるな!
「まずは…」
「障害物召喚・黒岩!」
「身体強化・神黒鋼! からの魔法防御!」
目の前に高さ2mほどの人のような形をした岩が現れた。さらにタツは自分に防御系の特殊体術と魔法を使用した。
「まずはお前の能力を見てみたい。10分程見てるからあの岩を壊すつもりで全力で魔法を放て。魔覇が切れたと思ったらすぐ円盤へ行け。倒れたら面倒だからな。ガハハハ!」
「あんな石っころ楽勝っすよ! 行きますよ先生!」
(準備はいいか? トモ?)
《ああ、バッチリさ! 詠唱は俺がやる。任せろ》
「…武器具現化・戦斧!」
「…付加属性・無!」
「…強化魔法・物攻上昇!」
(ほほお。エン・ゼロか……。シンのやつ"無の勇者"専用魔法を使用出来るとは。やはりアザトースの記憶を本当に継承しているな。これは育て甲斐がある)
「うおお!砕けろ石っころおおぉ! 必殺・一刀両断~~!」
だが岩が硬すぎて俺の斧が弾かれた。
「弾かれた……? ウソだろ?」
「ガハハハ! 無理無理! その岩はただの岩では無いぞ!」
「まだだ!」
「………超豪炎!」
効果無しかよ。直ぐに円盤へ行く俺!
「………|風魔法・超絶竜巻!」
効果無しだった。直ぐに円盤へ行く俺!
「…………風魔法・暴嵐絶対切断!」
効果無し。失神しかけて直ぐに円盤へ行く俺!!
「……………暗黒超豪炎!」
効果無し・・。ああ・・。目眩がして・・きた・・。
(ガハハハ……。威力は大した事無いが、どれも習得難度の高い上級魔法。大魔法大学上位生でもここまでの上級魔法を放てる人間は滅多に居ないな。それにしても詠唱がやけに短い。第二の頭脳か? なかなか面白い。だが魔法としての質が甘すぎる)
◇◇◇
「シン、起きろ!」
「う、俺は倒れたのか、ですか?」
「そうだ。お前の魔法はただの花火大会だ。上級魔法にこだわりすぎて肝心な威力がガクっと落ちている。現に見ろ。岩はピカピカで傷一つ付いていない」
「詠唱速度に関しては問題ない。そのまま精進しろ。だが問題は対象物に対しての闘争心、殺意、集中力、全てに欠けている。これをみろ!」
「火!」
岩が熱により溶けだした。
「あの硬い岩が溶けた!?」
「闘争心、殺意、集中力。最初の2週間はこれを死ぬ気で極めろ。極めれば初級魔法でも破壊出来る。2週間でこれが破壊出来なければ魔法のセンスが無い。荷物まとめてとっとと破門だ!」
うう、辛い……! 絶対にクリアしなければ!
「イメージとしては、小さなカプセルの中にお前の愛しい家族を皆殺しにした世界一硬いアリが居ると思え。
カプセル内の限られた範囲で最高の火力で葬れ。効果範囲を濃縮しろ。圧力は高めると威力が格段に上がるのだ。俺が言えるのはここまでだな」
口で言うのは簡単そうだが、実際相当な技術が求められそうだ。要するに、気持ちを高揚させつつ、魔法範囲が広がりすぎないよう狭めて圧縮させるって感じか?
「わかりました! 先生! 死んでも絶対に壊してみせます!」
「ガハハハ! せいぜい頑張れよ! 俺はちょっと散歩に行ってくる。ちなみに二週間の間俺はこの部屋に来ない。
あ、岩。元に戻しとくぜ。練習用で小さい岩も作っといてやる。それと腹が減ったら上に上がってこいよ? 腹が減っては戦が出来ぬってな。ガハハハ!」
「ありがとうございます! 先生! よっしゃ。やるぞーー!」
(ガハハハ……。シンよ。俺はお前を信じるぞ。今は辛いかもしれんが強くなるには絶対に通られねばならぬ道がある。悪く思わないでくれよ)
俺は毎日ひたすら修行に明け暮れた。
(……集中……殺意……闘争……!)
《いまだ、シン!》
「火!」
(ダメだ。びくともしない。もう1週間半も経った)
《シン。だけどここ1日でぐっと威力は上がっていると思うぞ? 岩をよくみろ》
(焦げ・・てる? 焦げ目が出来てるぞ)
《少しずつだが成果はあるようだぞ! シン。もうひと踏ん張りだ》
「おう! シン、どうだ? 調子は。差し入れだ。まあ食え食え! ガハハハ!」
「あ。タツ先生。これはケーキですか? 調度甘いものが食べたかったんです。旨い! ありがとうございます!」
俺はタツの差し入れを喜んで頂いた。
「ところでどうだ? 特訓の成果は。あと3日で終わってしまうぞ?」
「いやー、それが先生と同じファイアー使ってずっとやってるんですが、やっと岩に焦げ目を入れれるようにはなったくらいで、破壊には至らないんですよ」
「なにッ!? 焦げ目が付いただと? ガハハハ!」
焦げた岩を見てタツの目が嬉しそうだ。焦げ目だけでは意味がない。破壊するにはまだまだ威力が足りないのに。
なんでこんなに喜んでいるんだタツは。
「シン、今からこの部屋から出ろ。この修行はもう終わりだ」
「え……。なんでだよ? まだ2週間経ってないし約束が違うんじゃないのかよ! 確かにまだ焦げ目しか出来てないが俺だって……。ん?あの焦げ目……?」
タツが微笑みながら何度も深く頷いている。
俺は岩の前に立つ。網目状に焦げた部分を手で触ってみた。焦げが剥がれて岩の中の空洞部分に落ちた。網目状の部分だけ深く溶けて岩が今にも切れそうだった。
「あの、これはーーー」
「ごぉおぉかぁぁくッ!」
え? ウソウソウソ? 俺たちが何度も付けた焦げの下がこんなに溶けていたのか!?
溶けたって事は破壊に該当するよな? ということは・・・・!
「せんせーー! やったぜー!」
俺は余りの嬉しさにタツの膝に抱き付いた。
(トモ、やったな! 俺たち!)
《ハハハ、お前の執念深さには参ったよ。諦めないって本当に大事だな。おめでとう!》
「ガハハハ! さすがだな。岩に小細工などしておらん! 正真正銘お前の勝ちだ!」
「諦めずずっとやってて良かった・・・! 先生ありがとうございます! 次の試練はやっぱアレですか? 例の魔覇を蓄える訓練」
「いや、実はな。それに関してはそこまで重要ではないのだ」
「え? どういう意味ですか?」
「シン、これを見よ!!」
タツのポケットから腕輪のようなものを取り出した。綺麗な装飾が施されている。タツもこんな腕輪付けてたな。
タツの腕輪よりは一回り小さいな。
「この腕輪は先生が身に付けているものにそっくりですね」
「ああ。シン。これを腕にはめてみろ」
うーん。お! はまったようだ。
「シン。もう一度お前の最強の魔法で岩を破壊してみろ……。本気でやれ。遠慮はするな、今から新しい岩を作る。……おっと、その前に。身体強化・神黒鋼! 魔法防御!」
その後、タツは例の岩を作った。指示されたように魔法を放つ。
「本気で行く! ……………暗黒超豪炎!」
岩が木っ端微塵になった。さらにシェルター周囲の壁の至るところに穴が明き、ガレキが崩れた。
やばい……。地下室がめちゃくちゃになった。
「あわわわ。先生の家が……。すいませんした!」
「ガハハハ! さすがだ。これならもう花火大会ではなく正真正銘の上級魔法と言える! だがその腕輪を付けてなにか気が付くことはないか?」
家がめちゃくちゃになったんだぞ? なんで怒らない? 本当に器がデカイ男なんだな。
「あ。そう言えば前回、暗黒超豪炎を放って気絶したのにまだまだ何発も放てそうな魔覇を感じます」
「ガハハハ! その腕輪はなぁ。消費する魔覇を大幅にカットしてくれるんだ。一般市民では一生掛かっても買えない代物だが、散歩の途中でお前の為に特別に軍の研究所で作ってもらったぞ! 合格祝いだ。受け取っとけ! それから、もう礼儀は要らんぞ。卒業したら生徒と先生じゃねえからなあ」
(ほんとはお前が寝てる時に腕のサイズを計ったり、小さい身体に拒絶反応が無いか何度も試してダメにしたんだがな。何度も往復して研究所の人間から煙たがられたわ。ガハハハ!)
「は、はい。いや、うん! タツ本当にありがとうな! タツはやっぱ魔法の天才だよ!」
「ガハハハ! やっぱその話し方が一番しっくり来る。まあ今日は美味い飯でも食って語り合おう!」
こうして俺はタツの修行を無事終えて、大きな成果を得た。諦めない心って大事だな!
次回。旅立ちと別れ。
シンの成長が楽しみです。僕はワクワクしながら書いてます!
次回は 魔大陸アルセナ~魔法大国メイガス編の最終話になります。