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もふもふしっぽの永久魔法  作者: 大菅 戌彦
5/10

洗われた少女はもふもふを知った

 「美味しい……! どれもこれも美味しいです!」


 イシュカは久方ぶりのまともな食事に止まらなくなっていた。

行儀作法をなどとなりふり構っていられないほどの空腹だった。

 その様子をスキアは満足そうに眺めながら、食事が積まれたテーブルに片肘をついた。


「ねぇイシュカ。湖で溺れた時のこと、覚えてるかい?」


スキアの問いかけにイシュカは食事の手を止めることなく数秒考え、首を左右に振った。


「そう。死ぬつもりだったの?」


聞きたかったことをズバリと口にして見たが、イシュカの表情に変化はなかった。

ただ、すぐさまもう一度、先程よりも強く、首を左右に振っただけだった。


「……そう。なら安心した。アンタが精神的に不安定なら、と思ったけど、なんか元気そうだし、大丈夫じゃない?」


イシュカは食事の手を止めて首を傾げた。

今の言葉は自分に向けられていなかったように感じて、急に話を理解できなくなったからだ。


「持って行ってくれた方が有り難かったんだが……。」


 突然その場に男の声が響いた。

イシュカは驚いてきょろきょろと辺りを見回して、キッチンとリビングの境目あたりに何かが左右に揺れているのを見つけた。

黒鉄色の、もふもふとした何かが。

 興味を惹かれて見つめていると、ふいにそのもふもふが引っ込んでしまう。

代わりに現れたのは、全身を黒鉄色の毛並みで覆われた、狼に近い容姿の獣人だった。


 当たり前に人と獣人が共生しているとは言え、自分と異なるその容姿に恐怖を抱く者もいる。

彼は遠慮がちに顔を覗かせ、遠巻きにイシュカを眺めた。

だが、そうして目が合った途端、イシュカの瞳に浮かんだのは恐怖などではなかった。


 口に物が詰め込まれているため言葉はないが、瞳はキラキラと輝いている。

とても興味深そうに。


「もしかして、あまり見たことない?」


スキアはイシュカの様子にそう問いかけた。


 地域によっては人と獣人が離れて暮らしている場所もある。

互いの生活に干渉しないことが、何より互いを尊重するからだ。


「だってさ。そんなところにいないでもっとこっちに来なよ。」


スキアに促され、イシュカの様子を伺いながら彼はそろりとその全身を露わにし、テーブルに近付いた。

 やせっぽちで小柄なイシュカとは比べるまでもなく、その黒鉄色の体は大きく、力強かった。

だがその大きな身体に似合わず、少し鋭い槿色の瞳に浮かんでいるのは困惑だった。


 口を開けば尖った牙も見える。手を出せば鋭い爪も見える。

そのどれもが人にはないもので、イシュカを怖がらせるかも知れない。

それは彼にとって本意ではなかった。

自分が助けた命。種は違えど危ぶませたいわけではない。


「俺はアルフだ。」


 悩んだ末アルフと名乗った獣人の彼は、自己紹介がてらイシュカの目の前で、もふもふとした尻尾を揺らした。

先程見えていたよりも間近で揺れるその尻尾に、勢いよく両手を突き出してイシュカは突然抱きついた。

 ぎょっとして体を引こうとしたアルフは、イシュカを見て動きを止めた。

今まで努めて明るく気丈だったイシュカの目から、大粒の涙が零れていたからだ。

アルファポリスさんに掲載分と少々内容を変更していますが大筋の話は変わりません。

※横書派の方用に、小分けにしたり、改行したり、文を変えたりしているためですのでご了承ください

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