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もふもふしっぽの永久魔法  作者: 大菅 戌彦
3/10

汚れた少女は拾われた

 水底で漂っていた少女を拾った時は、少女なのか、本当に分からなかった。

 意識を失い脱力した少女を掴んで水面へ上がり、岸へと泳ぎ着くとすぐに少女の呼吸を確かめた。

息はなかった。だが、まだ少女が水に入ってから間もない。

彼は己の手を組み合わせ、少女の鳩尾(みぞおち)辺りを強く押した。


 勿論加減はした。人間の体が弱く脆いことは知っていたからだ。

まして相手は枯れ枝のように細い貧相な身体で、力任せに押せば容易に折れてしまいそうだった。

 幸いにも、ものの数回で少女は少量の水を吐いて息を吹き返した。

意識は戻らなかったが彼は安堵の息を吐いた。


それからは少し冷静に事態を見ていたはずだった。

介抱するのか、捨て置くのか、実はそこから考えた。

何故なら彼は、人間が苦手だったから。

命の危機はもうないだろう。ならばここで去っても、問題はないかも知れない。


でももし、少女が自殺を図ったのだとしたら……。


目が覚めて、また自殺を図らないとも限らない。

少女の目的がわからない以上は置き去りにするわけにいかなかった。


 少女を担ぎ上げたまま、彼は自分の家へと戻ってきた。

井戸の周りに繁る柔らかなシロツメクサの上に少女を降す。

彼は一人室内へと入り、リビングの引き出しから便箋と羽ペン、黒色のインクを出してテーブルについた。

 上質とは言えない便箋は藁半紙のような薄茶色で、少しザラザラとしている。

表は線引きもなく全くの無地だが、裏側には二つの変わった模様と小さな文字が入っている。

 彼は、自分の濡れた鼻先から便箋に水が落ちないよう気を付けながら、簡潔な文を(したた)めた。

めずらしい特殊な折り方で便箋を折ると、裏側にあった二つの模様が折り目でピタリと繋がり、一つの模様になる。

その便箋を持って、彼は家の外へと出た。

小さく口の中で何事か呟くと、その紙に口付ける。

そして水平に振りかぶり、そのまま勢いよく放り投げた。

 彼の手を離れた紙は空中でわずかに震えると、二つ折りになるような格好で両側をバタつかせる。

鳥が羽ばたくようなその仕草はどこか危うげではあるが、落ちることなく森の木々の間を抜けて見えなくなった。


 それから彼は少女の元へと戻り、小さな呼吸を繰り返す様子を見ていた。

普通よりも細いその手足が痛々しく彼は目を細めたが、その体に触れることはなかった。

アルファポリスさんに掲載分と少々内容を変更していますが大筋の話は変わりません。

※横書派の方用に、小分けにしたり、改行したり、文を変えたりしているためですのでご了承ください

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