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魚獲りへ行こう

 中央機関外縁公園。国の中心にそびえる薔薇の塔を囲う中央機関の外側にある公園。雛壇状に作られた花壇は背の低い緑の木々がぐるっと一周、役所を囲う。

 春は花を咲かせ、秋は緑から赤や黄色の葉となって人々の目を楽しませた。

 今は梅雨を過ぎて夏の入り口。花は雨に打たれて落ちてしまい、今はただ葉をつけるのみ。それでも待ち合わせとしては十分に機能しているから友達や仕事仲間と落ち合うにはうってつけの場所。

 四方に銅像もあることからそれらの名前で合図とする。


 今日待ち合わせている場所は猫の銅像のある西側。キャッツウォークと中央機関の境目にあたる。

 彼氏と待ち合わせ?

 いえいえ、残念ながら違います。今日も仕事仲間と待ち合わせ。華より仕事の毎日です。あぁ、いつかネロさんと一緒にピクニックなんてしたいもんだなぁ。

 そもそも告白するキッカケがないんだよなぁ。塔には一緒に登るけど、リーダーとして動く彼と2人っきりになるというタイミングがなくて悶々とする。食事に誘ってもいいけれど、それは恥ずかしすぎて言い出せないでいた。

 もしも勘付かれて避けられたらショックだし、勇気を出して告白して、断られたら死んでしまう。死んでしまう自信がある!


 ため息をついて、心配する声が聞こえた。

 優しそうな男性の声。心の底から私のことを気にかけてくれている。もし彼が人間だったなら、もしかしたら恋していたかもしれない男性。

 残念なことに中身がスカスカ。いや、性格が悪いとかって意味じゃない。肉が無いのだ。スケルトンだから……。


「おはようございます。今日も立派な大腿骨ですね」


「ほんと、どうしたんですかエマさん。病院の看護師さんみたいなことを言ってますよ。何か悪いものでも食べましたか?」


「いえ、なんでも。それじゃあ行きましょう。今日は修道院の子供達と30層で魚獲りです」


「30層って行ったことがないんだけど、無防備で大丈夫なところなの?」


「道具は修道院に保管してあるので、我々は何も持って行かずとも大丈夫です。強いて言えば、苔が生えている上を歩くので、スパイクのついた靴を推奨……ですが、たかピコさんには必要ありませんね。足に凹凸があるのでスパイクのようなものですし、そもそもこけても死にませんし。逆にたかピコさんのビジュアルは子供達に大丈夫なんですか? 骨ですけど」


「それが意外にも大丈夫だったよ。初見は変なものを見る目をしてたけど、周りの人たちが普通に接してくれたから子供たちも自然と慣れた。あと、子供たちがスケルトンとか、人間の体の中にはこんなふうに骨が入ってるとか知らなくて、『おかしなもの』や『怖いもの』だと思わなかったって。『そういうもの』だと思ったって」


「あぁなるほど。知らないから怖いものなしと。いい意味で無知、というか未学習の領域だったわけですか。知らなくていいこともあると言いますが、まさにそれですね」


「いやぁ本当。いい方向に転がったんでよかったよかった」


 雑談で時間を潰しながらの修道院への道のりは楽しく過ごせた。社交的なスケルトンは未体験の土地にも慣れてきたらしく、手に取る全てが新鮮なのだそう。あれもこれも面白い。魔法の無い世界から来たから毎日が楽しくてしょうがない。

 おしゃべりも上手で聴いていても飽きない相手というのは一緒に居て楽しいものだ。たとえそれがしゃれこうべでも。

 加えて言うと、今日のイベントには愛しのリィリィちゃんが参加するというのだから楽しみでしょうがない。可愛い可愛いリィリィちゃん。ぎゅっと抱きしめてあげるからね!


 扉を開くと子供達の騒ぎ声。待ち切れないと右に左に体を揺らして楽しくしている姿がある。その中にリィリィちゃんの姿を発見。修道院の子供達より一回りお姉さんの彼女は子供達の取りまとめ役として期待されていた。

 普段は大人たちに囲まれて甘えんぼさんな金髪碧眼。しかし今はお姉さんだと胸を張って頑張っている。そんな背伸びをする背中がまた愛らしい。抱きしめたい!


「お、これで全員揃ったみたいだな。それじゃあ出発するか」


「エマねーちゃんに骨のにーちゃん、おはよう! すぐに出発だけど準備はいいか?」


「オールオッケー! 今日は夜織さんも来るんだっけ?」


「引率兼荷物持ちでな。よろしくたのむよ。たかピコも荷物持ちって聞いているが……大丈夫なんだよな?」


「骨だけですが腕力は人間だった頃並みにあるので安心して下さい」


 薔薇の塔からやってきたという宝堂夜織さん。子供達が迷子になったり、やんちゃして無理をしないように目を見張る監視役。

 ここに来た頃は傷心して随分と暗い印象だったけど、子供たちと触れ合ってからはよく笑顔を見せるようになった。ロザリアシスターの猛アタックもあって、まるで夫婦が並んでいるよう。

 元気に挨拶をしてくれた男の子は小牧紅介。元々は修道院で生活をしていた孤児だけど、細工師の小牧一家に養子という形で弟子入り。将来は螺鈿細工職人になるため、日夜修行の日々を送っている。

 今日は修道院OBということもあり、引率を申し出てくれた。余談ではあるが、彼は修道院に遊びに来てくれるレベッカに恋心を抱いており、今日は彼女も参加すると聞いて気合いがはいっている。実に微笑ましい。


 そしてそして、本日のリーダーは蝶からいらっしゃった吉原達海さん。彼は戦場料理人として薔薇の塔に登り、戦いもこなし、料理も作る二足の草鞋。

 彼の凄いところは調査の終わっていない階層で、食べられる野草や食肉の調査が不十分でありながらも、経験と勘で安全な食材を選び出し、美味しい料理を作るということ。


 料理と言えば切って煮込んで食べる。言ってみれば簡単だけど、毒の無い野草。肉質を把握してからの調理方法の選択。そもそも食べたこともない材料を美味しく仕立てるということ自体が神技。

 これらの手段を一つたりとも間違えずにできる人がメリアローザ広しといえどどれだけいるか。

 彼の入ったチームはいつも元気に帰ってきて、なおかつ成果が多いと評判である。ご飯とは体に入れるもの。いくら栄養価の高いものといえどマズいと気力も沸かない。体が元気になっても心が萎えてしまっては元も子もない。そういう意味でも、彼は縁の下の力持ちとして多大な貢献をなしていた。

 最近では彼のようにサバイバル料理の知識と経験を身につけるため、教えを乞う者も出始めている。かくいう私もその1人。

 今日はサバイバルというわけではないけれど、基本的な料理を教えてもらおうと期待している。どうやら彼が参加したのも30層で手に入る食材の新しい料理を試してみたいからというもの。たしかウナギやアナゴのように蒲焼きにしてみたいと言っていた。

 30層で獲れる魚を蒲焼きに出来れば、季節を問わず、蒲焼きが食べられることになる。それはなんと素敵なことか。


 30層【虹の遺跡】はシロミウオと苔の広がる不思議空間。加えて巨大な古代の遺跡。それは【浮遊要塞アルカンレティア】と呼ばれる空飛ぶ要塞。以前、クレアという少女が30層の謎解きを解明し、塔破した時に得た報酬。記録によれば、ある科学者が滅亡した世界に残る人々を住まわせた最後の居住地だったらしい。

 今はもう何もなく、荒廃とした美しさが残る建造物として30層に在る。

 彼女が塔破で得た物は浮遊要塞ともう一つ。30層に生息する白い魚の命名権。これはおまけというか、塔破の勢いで開いた宴の席で、誰か分からないがクレアに名付け親になってもらおうと切り出したのがきっかけ。

 そういうわけで、我々が獲りに行くシロミウオ。ただ単に白身魚だからシロミウオという名前になった、少しかわいそうな気もする魚。

 でも変に奇をてらった名前よりかは分かりやすい。


 この魚は焼いてふっくらとした身を楽しむもよし。氷水でシメて刺身にするもよし。揚げてよし、マリネにしてよしと料理の幅が広く、たいへん美味である。

 生態系の破壊を懸念して、月ごとの漁獲量を制限されているため、現在では高級魚の扱いで市場に出回っていた。

 しかしそれも今日で終わり。1年間に及ぶ調査の末、シロミウオの生態系を観察し、現在の漁獲量の3倍を確保しても大丈夫という結果が出た。

 そういうわけで、今日はいつもより少し多めに獲りに行きます。子供たちが食べる用はもちろんのこと、調査員を労いたいという各食堂の意向もあって、まずは彼らに堪能いただきたく思う所存であります。

 地道な調査のおかげで、もっとたくさんのシロミウオにありつける。いやぁ、ありがたや。




 青い空。

 苔の生えた足場。

 大小様々な湖面を泳ぐシロミウオ。

 苔と魚だけが共生する場所。苔は魚の餌として機能し、魚の死骸は苔の栄養分になる。たった2つの営みがあるだけの不思議な世界。シンプルすぎて空虚に思える大地を見上げると、胸にぽっかりと空いた穴を吹き抜けるような景色がそびえたつ。

 いつか誰かが作った帰る場所。空飛ぶ要塞アルカンレティア。滅亡した世界に人類の生存を求めて世界中を旅し、絶望の果てに沈黙した希望の船。そう知ると、冠された【虹】の名前に込められた切実な願いを感じざるを得ない。


 滅亡した彼らには悪いけど、おかげで我々は安全かつ美味しいご飯にありつける。夜織さんのように、生きたまま希望の船の主に出会えたなら、きっと全てが報われていたな違いない。

 懐古のような気持ちを抱き、さて目の前の仕事に集中しましょうか。私の主な役割は引率、護衛、荷物運び。とかく今ははしゃぎまくる子供たちが足を滑らせないように声を掛ける。彼らはスパイクのついた靴を履いているが、重いし普通の靴と違って足取りがたどたどしい。時々ひやっとさせられることもあってドキドキさせられた。だからこそ、近・中距離で念動力が使える私が選ばれるというわけ。

 私なら瞬時に人の体を空間に固定することができる。小さい頃はこの力のために忌避されたこともあったけど、夜叉姫のおかげで今こうして頼られている。ところ変わればと言いますか、考えようと言いますか、人生とは分からないものです。


「それじゃあこの池にしようかな。関を作ってシロミウオの出入り口を塞ごう。網で獲る時は足元にも注意してね。それから、大きな魚は力が強いからなるべく小さいのを掬おうね」


 子供たちの元気な声がこだまして真剣な眼差しを池の底に向けて意気込む。一様に楽しそう。何かをみんなと一緒にするというのは楽しいものだ。それが美味しくて、今日のお昼ご飯になるのだからなおさら気合が入るというもの。

 ここでたかピコさんからクエスチョン。これだけいるのだからわざわざ関を作らなくても獲り放題なのでは。

 たしかに足元は穴ぼこのよう池が見渡す限りに広がっている。網を入れれば獲れまくりそうと考えるのは当然だった。

 しかし関を作るのには2つの理由がある。

 まず1つ、網で掬い上げた魚を見た他の魚たちはびっくりして逃げまくるのだ。そうすると運動することで魚の体温が上がり、ストレスもかかって身が悪くなる。また、暴れた魚が飛びかかってきて、驚いた子供が転倒という恐れも考えられた。

 次の理由は単純に狙いを定めやすくなること。池と池の間を入れ替わり立ち代わりをされては獲りたい魚を狙いにくい。しかも子供は、コイツと決めたら絶対にそれを獲ろうとする。直感的な何かというか、目が合った奴というか、一目惚れのような感情で追いかけることもしばしば。当然、足元が疎かになって事故になることは想像に難くない。

 そう、子供たちの行動心理を把握したうえで、我々大人たちは彼らを最大限にのびのびと遊ばせながらも、安全を確保する工夫をしているのです。


 バケツに水をとり、網を構えてえいやえいやとお祭り騒ぎ。獲れた獲れたとおおはしゃぎ。いやぁ、可愛いもんですなぁ。


 さて、おちびちゃんたちのことはたかピコさんと夜織さんに任せて、私は別件へ行きますか。それは市場に流す用の大きなシロミウオを獲るという使命。

 子供も大人も楽しみにしている貴重な魚。みんなの喜ぶ笑顔を思うと俄然気合が入るというものです。

 私の仕事は念動力を使って大きな魚を狙った池へ誘導すること。ひとところに集め、それを吉原さんが子供たちの前に出て派手なアクションを加えながら網で掬い取るという、一種の芝居。子供たちに感動と笑顔を届けるエンターテイメント。

 大人から見れば地味で演技くさいかもだけど、小さなひよこたちに面白おかしく見てもらえればそれでいいのです。


 子供たちを集めて大立ち回り。

 小節の乗った口上と、右に左の網捌き。

 大きな魚を打ち上げて、目を丸くする子供たちの前に流せば、大きい大きいと感嘆の声。ひとつ、ふたつ、またひとつ、見せびらかしては大喝采。食卓に並ぶ姿を思い浮かべて夢心地。

 果てに頂く冠も、陽に照らされて笑顔かな。




 小一時間ののちに塔を降り、配給用の魚の手配をたかピコさんに任せて我々はお昼ご飯だと修道院に帰ってきました。

 たかピコさんには、せっかく参加したのでせめて見てるだけでもどうですかと提案したのだが、やはり美味しいものが目の前にあるのに食べられない悔しさは度し難いらしく、仕事を言い訳に離脱。スケルトンだから仕方がないし、離脱のきっかけを探していたのでちょうど良かったと言われたので強く引き止められなかったけど、結果的に仕事を受け持ってもらって申し訳ない。今度、何かお礼をしなくては。


 子供たちと浮き足立ちの帰路は楽しい。

 どんな料理にしてもらうか、蒲焼きのシロミウオはどんな味か、そんな話しで盛り上がる彼らの未来はきっと明るいものに違いない。

 出自は違えど同じ事柄で笑顔になる。なんて素敵なことでしょう。当たり前のようで、それが1番幸せなんだって思います。


 門をくぐって裏庭に回り、直接台所へ入れる裏口に行くと見慣れた女性の姿があった。暁さんとセチアさんだ。手土産の木箱を持って花壇に話しかけている。花壇に植えている花は修道院の子供たちとセチアさんで手入れされていてとても綺麗に居並んでいた。

 彼女の働きを見て育った子供の中には、将来はお花屋さんになりたいと夢見る子もいる。小さな希望の胸焦がすほど、彼女は慕われ尊敬されていた。


 子供たちは大好きなお姉さんを見つけると一目散に駆け寄って抱きついたり話しかけたり自由気ままに大好きアピール。

 セチアさんは花を通じて、暁さんは仕事を介してよく修道院に訪れている。2人とも子供が大好きでよく遊んでいた。

 一区切りついたところでみんなは手を洗ってご飯の準備。既に調理を始めている達海さんと紅介くんはシロミウオを蒲焼きにせんとスタンバイ。


 横にはマリネと刺身が並んでいた。あとは焼き物の登場で食卓が完成する。きゅっと引き締まった身に甘いタレが塗られて焦げた。その魅惑的な香りが食欲をそそる。タレだけでご飯が食べられる。それをふわふわのシロミウオにかけてしまうのだからたまらない。

 もう一つ、一口サイズにカットされた身を油で揚げてサクサクふわふわな食感を楽しめる天ぷら。これもまた鱚と似ていて、おつゆや塩と相性が抜群。最高にデリシャスなのです。


 料理人の後ろで彼の手際を眺めながら待ち遠しくて体を揺らしている子供たち。できあがりと皿に盛られた蒲焼きを取り合うように自分が運ぶと積極的になる。

 渡されて、美味しそうな匂いを感じてよだれを垂らしてしまうところなんて可愛らしい。天ぷらも仕上がって、これまた小さなほっぺがぷにぷに動く。


 マリネに刺身、蒲焼き、天ぷら。

 なんと豪勢な昼食でしょう。

 ちょっとした宴会と言っても過言ではない。

 いただきますと手を合わせ、一斉に蒲焼きに突撃。あっという間に空になる。


「おいおい、そんなに急がなくても沢山あるから心配するな。焦って喉をつかえないように気をつけろよ?」


「だってあつあつのご飯はあつあつの内に食べたほうが美味しいもん!」


「よくわかっていらっしゃる。じゃあ次は天ぷらかな」


「「「「「うん!」」」」」


 美味しいものから食べる。そんな常識を優先させる彼らの感性たるや大人顔負け。なんだかんだ言って、修道院の子供たちは結構良いものを食べてるからなぁ。国王様が子供たちにはせめて美味しいご飯を、と願ったがゆえに、周囲の大人も同調して何かにつけて持ち込んでいる。

 蝶からは余った食材や規格外だけど旬の野菜なんかが贈られているし、地理的に1番近い龍からは海産物。猫は朝食用のパンの供給が多く、太陽は子供向けの料理の試食という建前で新作料理を振舞っていた。

 傍目から見るとやり過ぎ感すら感じるけれど、これで彼らの心が多少なりとも癒え、誰かの為に何かをしたいと思ってくれるなら、未来への希望の灯が燃え盛るなら、それに勝る喜びはない。誰もがそう信じて親は子へ、子はまた親になり子へ、そんな幸福の連鎖を続けている。

 いつか私も素敵な彼氏をゲットして、連鎖の中へ入りたいな……いや、入ります。絶対にっ!


 そんな決意を胸に秘め、とかく今は美味しいご飯を堪能せねばと手を伸ばす。と、突然に乙女の危険察知センサーが反応。後方から身に覚えのある邪気を感じた。振り向きたくない。しかし子供たちに何かあってからでは手遅れ。ここは未来の希望を守るため、大人の私が立ち向かわねば。

 窓に張り付き恨めしそうな顔をした詩織(妖怪)を確認。咄嗟にカーテンを閉めるも今度はドンドンとガラスを叩き始める。何事かと怯える希望の卵たちを背に暁さんを携えて、いざ出陣。


 外に出るとお腹を空かせた詩織が腹の虫をぐるぐる鳴かせて張り付いていた。ヤモリの妖怪のような彼女は朝から何も食べていないらしい。借金が貯まりすぎてどこも相手をしてくれない。このままでは死んでしまうと泣きついた。

 仕事しろよと突っ込んで、腹が減りすぎて動けないと返してくる。

 そうなる前になんとかしろよと突っ込むと、働きたくないという暴言の嵐。モンスターも倒せない装備でどうしろと逆ギレしてくる始末。

 こいつ、始末してやろうか!


「まぁまぁヘレナ、落ち着け。詩織は詩織で頑張ってるんだ。これから頑張るんだもんな。今から頑張るんだもんな。頑張らないと後がないもんな。どこも門前払いをされてるもんな。まさかないとは思うが、他人の物を盗んでみろ。あたしがお前を殺しに行くからな。わかったらこれを持って飯食って、この後しっかり働いて稼いでくるんだぞ。とりあえず今日と明日を生きられるくらいは頑張りな。頑張らないと…………死ぬだけだ。分かったらーーーー行け」


「は……ひゃひ…………」


 超絶怖えぇぇッ!

 戦慄が背筋を這うとはこのことか。

 暁さんの殺意に満ちた笑顔が詩織の精神を駆り立てる。彼女は顔を真っ青にしてすっ飛んで行ってしまった。さすがの詩織(クズ)でもああまで言われたら働きに出るだろう。そもそも装備だけなら冒険者として稼ぎを出せる位置にあるのだ。努力を重ねれば優秀でないにしろ、まともな戦士として活躍できるだろうに。もったいない。


 それにしても子供が絡んだときの暁さんの対応は容赦ない。彼らに危害が加わろうものなら誰だろうとお構いなくぶん殴ってしまう。

 前にそれでキレて大変なことになったんだっけ。お祭りの時にやってきた貴族が孤児を殴ろうとしたものだから、それを目撃した暁さんが腹パンかまして吹き飛ばしたことがある。

 外交問題に発展しかけたけども、聖王国の暴君(お姫様)のおかげで事件はなかったことになった。逆にお姫様に気に入られて仲良しになってしまうという謎の人望が炸裂。両国の絆が深まるという結末に……。


 なんというか、信じられないことだけど、何をしても好転すると言うか、これが天に愛された人と言うべきか。あるいはその魂が正義の輝きの中にあるからなのか。どっちにしろ心から尊敬できる女性だとつくづく感心させられる。

 彼女に愛されている子供たちの未来は間違いなく明るいものに違いない。私もそんな光になりたいな。

 ____________________________________________



 ○シロミウオ○


暁「草食魚だから内臓も美味しくいただけるシロミウオ。とれたてを捌いて刺身にするもよし。熟成させて刺身にするもよし。マリネにしてサラダにするもよし。どう料理しても美味しい、ありがたーい魚だな」


ヘレナ「全部生食! 焼いたり煮たりしても美味しいですよ。暁さんは新鮮な状態の刺身が好きなんでしたっけ?」


暁「そうそう、熟成させて旨みの増したものも絶品なんだが、あたしはさっぱりした味わいでほのかに脂の乗ったサ○ミウオが大好きなんだ」


ヘレナ「名前が混ざって別の魚になっちゃってますよ。それにしても便利な魚ですよね。どう料理しても美味しいだなんて、都合が良すぎませんか?」


暁「まぁまぁ細かいことは気にするな。鯛だって似たようなもんだろ」


ヘレナ「まぁそうなんですけど。それにしても30層を踏破したのが当時9歳の少女で、謎解きをしたと聞いていますがどんな謎だったんですか?」


暁「それはな、パズルだよ。5×5マスの模様のついたパズルを正確に並べると浮遊要塞の起動スイッチが手に入るってものだった。アレが浮かぶことで隠されていたゲートが見つかったってわけ」


ヘレナ「なるほど……大人が解けないパズルを子供が解いてしまうとは、天才児ですね。子供だから解けたとかですか?」


暁「ハティによるとクレアは文脈や絵から製作者の想いを感覚的に捉える能力があるそうな。固有魔法かもしれないし、インスピレーションリーディングと呼ばれるものかもしれない。なんにしても我らの恩人であることは間違いないな。下手をしたら未だに解けなかったかもしれないし」


ヘレナ「凄い能力を持った子もいるもんですね。しかし本当にあの大きな……建物? が浮かぶんですか? 見たことありませんが」


暁「浮かぶよ。信じられないかもだけど。踏破のお祝いに浮遊要塞のガーデンテラスでパーティーしたなぁ。星がめっちゃ近くてさ、地平線と夜空を眺めながらの酒はまた格別だった」


ヘレナ「学術的な研究よりも先に宴会場にしてしまうとは……暁さんらしい。にしてもその光景は是非に味わってみたいものです。今後、浮遊要塞でパーティーを開く予定はあるんですか?」


暁「頼めばいつでもやってくれるかもだけど、クレアはこことは違う世界の住人だからなぁ。ちょっと難しいかもしれないな。収容人数や設備の確認とか色々やらなきゃいけないこともあるし。やりたけどな!」


クレア「じゃあやろう! クレアもみんなでパーティーがしたい!」


ヘレナ「どこからともなく現れた!」


暁「おっひさしぶりじゃんクレアちゃん! それじゃあ今年の七夕の日にやろう。地上のみんなの邪魔にならないように海の上に浮かべて、天の川を見上げながら星空パーティー! こいつぁ忙しくなりそうだな!」


クレア「星空パーティー…………絶対やりたい! シャングリラのみんなも呼んでいい?」


暁「もちろんだとも。こうなったらミーケさんとも相談だな。そういうわけでよろしくな、ヘレナ」


ヘレナ「…………えっ、私ですかッ!?」


暁「残念ながらあたしは忙しくて手が回らん。雪祭り前の練習だと思って頑張れ!」


ヘレナ「ちょっ、アレってガチだったんですか!?」


クレア「クレアも頑張る。だからヘレナお姉ちゃんも一緒に頑張ろう!」


ミーケ「ヘレナにゃんなら大丈夫。あたしもしっかりサポートするから!」


ウララ「事務処理ならお任せ下さい! 中央機関とのパイプも開きますよ!」


華恋「飾りつけもバッチリ決めなきゃ!」


エレニツィカ「美味い飯も用意しなきゃな!」


アイシャ「フレナグランも出張しちゃいますよ!」


太郎「屋台も呼んで色々出してもらいましょう」


たかピコ「空中庭園で七夕祭りとか超ロマンチック!」


ルクスアキナ「静かにお酒を楽しめる場も欲しいわね!」


ゴードン「酒か! こいつぁ宴会だな!」


アルマ「当日の天気なら任せて下さい。雨でも曇りでも、ぶっ飛ばしてやりますよ!」


ヘレナ「なんか勢いで大変なことになろうとしている!?」



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