フジツボ女
今回も引き続き詩織がメインです。
桜に腹パンされ、魔の巣窟、もとい病院に放り込まれた彼女は看護師たちのオモチャ、もとい趣味に付き合わされて大変な目に遭います。
そして彼女の体は大変なことになっています。
白い天井。
薬品独特の匂い。
おぼろげな視界がはっきりしてくると同時に、今置かれている状況にもメリハリがついてくる。
そうだ……桜の籠手を貰おうとして、なぜだか分からないが腹パンされたんだった。自分をこんな状況においた憎いあんちきしょうの顔を思い出したら腹が立ってきた。
何が『仲良くやりたいんです』だ。
仲良くしてやろうとしたのにこの仕打ちとは何事か!
後で暁さんに直訴してやる。
しかしまずはしっかり体を休めることだ。まだ殴られた感触が残っていてまともに歩けそうにない。クソがッ!
容赦なく殴りやがって。絶対にギャフンといわせてやる。
時計の針は午後の6時を過ぎて外は薄暗い。
身動きする気も起きないから、今日はここで一晩過ごすか。当然、支払いは桜持ちで。
さて寝るか。あぁ〜ずっと同じ姿勢だったから関節がむず痒い。こういう時はパキポキ言わせてスッキリしよう。
と、思ったのに、なぜだか身動きがとれない。
何か大きなものに縛られて足首から肩までがっちり抑えられていた。なんだなんだ。何が起きているんだ?
何が起きているのか分からなくて当然。私は今、病院のベッドの上で簀巻きにされていた。客観的に自分の姿を見ようとして見えるわけもない。見えるのはバームクーヘンのように層になった布団の一部のみ。寝返りを打とうにも布団が重くて動けない。わずかに身を捩ると左右に揺れるものの、体力がなくて転がれない。
…………意味が分からねぇ。
なんで患者が簀巻きにされるのか。
何度考えても意味が分からん。
これではトイレにもいけないではないか。
頭の上にハテナマークを浮かべていると、私の名前を呼ぶ声がした。女性の声のはずなのにどこかどんよりとしていて薄気味悪さを感じさせる。
看護服に乗っかっている頭は土気色。
張り付いた笑顔はまるでハロウィンカボチャ。
看護する側のはずなのに、彼女は腕に点滴の管をつけていた。飯時を外したのか、ものすごい勢いでお腹の虫が鳴いている。
患者を安心させるためにいるはずの存在なのに、見れば見るほど不安にさせるほどに不気味。
「五十嵐詩織さん……お目覚めのようですね。点滴がそろそろ切れますので、取り替えに来ましたよ……」
「点滴を替えにきたどうこうより先にやることあるんじゃないの!?」
「えっと……何がでしょう……?」
「多分これ、簀巻きにされてますよね? これじゃあトイレにも行けないじゃん。とりあえず解いて、自由にして」
「あぁ……すみません。リネンの管理は私の担当ではないので……なんとも……」
「いやいやいやいや、患者の健康管理はあんたら共通の仕事でしょ!?」
「たしかにそうですが……リネンの担当者がこれで……良いと判断したのなら……私の関与するところではありません……」
意味分かんないんですけど。
文句を言ってやるから簀巻きにした張本人を呼べと叫ぶも、既に退勤しているし明日は休みだから対面は明後日になるとのこと。
つまり簀巻きから解放されるのは早くても明後日。
ふざけんなし。
マジふざけんなし。
ここで天才の閃きが起こる。
そうだ、ご飯を食べたいと言って簀巻きを解いてもらおう。ごく自然な流れで自由を手に入れ、簀巻きにした奴に殴り込みだ。
「ご飯……ですか……? それならずっと摂取し続けていますが……」
「は? まさか点滴がご飯だなんて言わないでしょうね?」
「え? そうですが……」
愕然と硬直する私の気持ちを置き去りにして、点滴のうんちくを語り始める。点滴は栄養満点で効率的にエネルギーを補給できるだとか。食事よりも効率的に健康管理ができるだとか。口から摂取するわけではないから、好き嫌いがないだとか。そういう理由で食事は点滴しかとってないとか…………。
それでお腹をきゅうきゅういわせてたら世話ないわ。
仮に健康管理ができていたとして、精神のほうはどうなのだろう。彼女を見ている限り、心が満たされているようにはとても思えない。
食事は娯楽。
娯楽を放棄した人間など、人生の半分は死んでいるようなものなのではないだろうか。ここの病院はヤバい奴らの集まりだと聞いていたけど、こいつらヤバいわ。
早く家に帰りたい…………。
とにかく解けと訴えるも何食わぬ顔で帰っていった。
マジでこれ漏らしたらどうしてくれんの!?
ざけんなし。マジざけんなし!
「五十嵐詩織さ〜ん。採血に来ましたよ〜。うふふっ」
今度は元気いっぱいで頬を紅潮させ、踊るように現れた赤毛の少女。さっきのメンヘラ点滴女こと霧島満子とは真逆。ハイテンションから生まれ落ちたような感情的な笑顔が特徴的な少女は、さも当然のように注射器を取り出して血を抜こうとする。
なんで採血なのか、疑問は湧いたがもしや好機と内なる私が囁いた。採血するのであれば腕を見せなければならない。となれば簀巻きを解くはず。自由になったあかつきには病院を抜け出して、メンヘラ女に蹴りを入れて、リネン担当とかいう怪人にグーパンチをお見舞いしてやれる。
注射は嫌だがここは我慢。
さぁ簀巻きを解きなさいな。
間髪入れずに脱出と心を整えた。そんな私の心情を知ってか知らずか、ブラードは簀巻きのままの私の柔肌に針をひと刺し。慣れた手つきで血を抜いていく。
「わぁ……随分とまたおデブな血液ちゃんたちですね。ドロドロでまたまたしてます。五十嵐さん、脂質の多いものばかり食べてますね? 動物性タンパク質にまみれてますね?」
「誰がデブだって!?」
「ちゃんと野菜も摂らなきゃダメですよ。このままでは生活習慣病まっしぐらなだけでなく、全腫類コンプリートしてしまいそうです。暁さんとアイシャさんに野菜と穀物多めの食事にするよう伝えておきますね。それと…………」
「好きなものだけ食べて何が悪いの。てか、どこに針刺してんのごががっ!」
「うわぁ〜……やっぱり、酷い口内炎です。それもこんなにたくさん。血液ちゃんたちが教えてくれた通り、重度のビタミン不足ですね。こんなにまでして痛くないんですか?」
「口内炎なんて5歳の頃からずっとあるわよ。そんなもんじゃないの? てかさ、針刺してるところおかしくない? …………ちょ、なにを青ざめてんの?」
元気だった気迫が一変、私の口の中を覗き込んで消え去った。まるでフジツボの群生地帯を思わせる私の口内環境を見れば誰だって青ざめて卒倒する。しかしこれが当たり前だと思って育った不健康美少女には、ブラードの心中を察するなどできない。生まれてこの方、まともな母親の手料理など食していない。健康に配慮された食事などしたことのない私には理解できないことだ。
そ・れ・よ・り・もっ!
採血するって言って針を刺した場所が頸動脈ってどういうことなのよ!
これ、引っこ抜かれたら大量失血で死ぬやつなんじゃないの!?
普通は腕の血管だろうが。
ありえないだろうが。
ここの看護師どもはどんだけ非常識なんだよ。
こんなことばっかりしてたら死ぬわ!
「大丈夫ですよ〜。穴は小さいものですから、針を抜く時に治癒をかけて塞ぎます」
「そ、そう……それならいいんだけど。それより……この簀巻き状態をなんとかしてくれない。このままじゃあトイレもままならないんだけど」
「すみません。リネンは私の担当ではないので、なんとも……」
またそれかーーーーッ!
だから担当とか関係ないだろ。縛ってる紐を解いてくれればいいんだよ。このまま漏らしてもいいっていうの!?
お大事にじゃないよ。
私を助けろーーーーッ!
ブラードは無情にも退室。
残される私が1人。
誰でもいいから助けろッ、ちくしょうめがッ!
悔しさと理不尽な現実に悶絶しても一向に事態は好転しない。誰もお見舞いに来てくれないし、ブラードを最後に看護師も現れない。
窓から刺す陽の光が茜色から暗闇へと白い部屋を濡らす。もうダメだ。これはもう本当にダメだ。寝るしかない。寝て時間を費やすしか他にない。
ブラードに指摘されたせいか、口の中で育てた沢山のフジツボが疼いて仕方がない。普段は意識していないけど、気になり始めると痛みが増していくような気がする。
心なしか背中も痒い。
身動きが出来なくてお腹もムカムカしてきた。
…………健康になって自由を手に入れたい。
とにかくこの病院には2度と来たくない。
そう心に描いて涙がこぼれた。
陽も落ちてすっかり夜になってしまう。
涙を流してすぐに寝入ってしまったために目が覚めて、夜になっても眠くならない。元々昼夜逆転の生活を送っていたということもあって夜は得意。だけど何をするわけでも、何かができるわけでも、ましてや何かがあるわけでもない。あるのは途方もない退屈と、身動きができないという苦痛だけ。
あれから看護師の一人も現れないし、お見舞いに来てくれる誰かもいない。なんかもうちょっと構ってくれたっていいじゃん。もしかしてこれが私の置かれている状況なのだろうか。誰からも相手にされず、私の笑顔を思い出してくれる人もおらず、このまま老いさらばえてしまうのか。
否、そんなわけない。
こんな超絶美少女を世間が孤独にするわけがない。
そうか、今頃は私を殴った桜はこってり絞られていることだろう。とすればそっちに忙しいに違いない。それじゃあ仕方ないな。明日になれば泣きっ面を引きずって私の前に土下座しに来る。そうしたら蜂のひと刺しをお見舞いしてやる。くふふっ。
どうしようもない私は希望的観測を描いて、それが現実に起こっている、そして当たり前に起こるものだと信じて青写真を浮かべている。いつもそうやって自己肯定をしなければ、精神が崩壊して生きてこられなかった。
これが五十嵐詩織という女の生態。
理不尽な世を生きる精神安定剤。
どんな顔をして土下座するのか楽しみだと妄想にふけっていると、部屋の外、暗がりの廊下を歩く足音が聞こえる。
こつんこつんと足取りは遅く、時折立ち止まっては病室に入っている様子。巡回の警備員だろうか。看護師が見回りをしているのか。まさか妖怪や幽霊じゃないよね。まさか、ね…………。
そんなことがあるわけ無いと思いながらも、得体の知れないものが確かに近づいていると思うと不安になる。まして簀巻きにされているとなれば抵抗のしようもない。死んだふり、もとい寝たふりをしてやり過ごそう。
次第次第に音が大きくなっていく。
ひとつ、またひとつ、扉を開けて、しばらくして閉まる音が響いた。音の感覚から察するに、病床の全てを確認して回っているらしい。
よけいに怖いんですけど。
修学旅行で就寝時間に見回りに来た先生より気合い入ってるんですけど。
恐ろしくて眠気も吹っ飛ぶんですけど!
ついに私の部屋。がらがらと音を立ててすとんと閉まる。静かに、夢の中の患者から楽しい時間を奪わぬように慎重に。その心配りが今ここにおいて無駄に背筋を凍らせる。
はやくどっか行って。
さっさと去って!
「あら…………サラちゃんったら、またこんなにきつく縛っちゃって。これじゃあ身動きが取れないじゃない。本当にもう、縛るのが好きなんだから…………」
縛るのが好きな看護師ってなんだよ。
私はお前のオモチャじゃないんだよ。
ざけんなし。マジざけんなし。
怒りが込み上がるも、紐が緩んで自由になっていく解放感とともに怒りも流れ出て…………。
「これでよしっ、と」
「いや……何もよくないけど?」
「あらあら、消灯時間なのにまだ起きてたのかしら。いけない子ねぇ。もしかして起こしちゃった?」
「寝てるとか寝てないとか、そんなんどうでもいいから。ちょっと緩めただけじゃん。依然として身動きできないんですけど。ちゃんと解いて自由にしてよ」
「それはダメよ。私はリネン担当じゃないもの。紐を緩めたのは寝苦しいだろうからって思っただけ。それより就寝時間なのに起きてるなんて、いけない子ねぇ」
「今現在進行形で寝苦しいから全部解いてよ」
「あらあら、仕方ないわね」
はぁ〜〜〜〜…………ようやく解放される。
なんかよく分からない人だけど、ひとまずこれで自由の身。彼女が去ったら家に帰ろう。闇夜に紛れて忍び足。
……の、予定だったのに、なぜだろう、彼女はまたキツく縛り直していた。しかもさっきよりもキツい。キツすぎて血管が潰れそう。
縛るだけならともかく、抵抗のできない私の口を塞いで肩に抱えてどこかへ運んでいるじゃないか。なにが起きているのか、何が起きようとしているのか全く理解できない。なぜ抱えられて運ばれているの。どこへ向かうところなの?
辿り着いた先は病院屋上。ゆうに6階はあるこの場所からの眺めは絶景かな。見下ろせば酒を飲んで飲まれて踊る浮かれ顔。屋台の灯り。窓から漏れる幸せな家庭を映す影。
心地よい夜の風が頬を撫で、背もたれを深く沈めて黄昏ていたい気分にさせる。
担がれて、縛られていなければ。
「ぐももっ! ぐもぐももっ!」
「うふふっ。夜風にあたるのはいいわよねぇ。私は病院の屋上から見る街の景色が大好きなの。昼よりもずっとくっきりと人々の顔が見えるような気がして」
「ぐもぐもっ! ぐもももももももっ、」
「さて、就寝時間になっても寝ない悪い子には、お仕置きしなくちゃ……」
「ぐもーっ! ぐもももぐもっぐももっ!」
「大丈夫よ。ここからバンジーしても、体が少し地面に当たるくらいで調整してるから。死にはしないわ。私はね、睡眠ってとっても大事だと思うの。でも人によっては不眠症で寝られない人もいる。だからなんとかして、そういう人たちを救いたいと思ったの。そこで考案したのがこれ。簀巻きバンジー」
いやいやいやいや、助ける意味が違うから。
失神と睡眠は違うからっ!
ここの看護師にはまともな奴はいないのかよ!
抜け出そうにも私の腕力では脱出できない。
抗議しようにも口を塞がれてまともに喋れない。
頬を撫でる風がとても冷たい。梅雨を超え、世間は夏の準備をしているというのに、きっと今日吹く風は地獄からの誘いに違いない。
抗う術なく蹴落とされ、死を覚悟するハメになるとは…………。
落下とともに走馬灯が浮かんでは消える。
小さい頃から今までの記憶……嗚呼、ろくな思い出がない。このまま死ぬのか。人生に1度として楽しいこともなくこの世とおさらばだなんてあんまりだ。
地面に体当たりしたと思った瞬間、天から物凄い力で呼び戻されて空を飛ぶ。反動で空を目指して一直線。
飛んで飛んで、お月様がこんにちは。
雲を突き抜け、満点の星空に照らされる。
あ……これ、死ぬ。
日光浴ならぬ月光浴に身を浸し、最期に見る美しい景色に心を委ね、そして再び地獄へGO。
泥のように眠るが如く、私はいつのまにやら失神していた。
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○メリアローザ国立病院○
暁「メリアローザの中心にあるとっても大きな病院だな。内科から外科、魔力による病気の解決にも注力している。で、いいんだっけ?」
ブラード「ですです。素晴らしい人たちばかりで毎日お勉強させてもらっています。あ、五十嵐さんの血液ちゃんに関してご相談があります」
暁「病院に連行……入院させたのは腹パンが原因だったはずだが」
ブラード「血液ちゃんたちによると、重度のビタミン不足で口内炎がフジツボの群生地になっています。それから栄養不足で背中にイボイボができ始めています。爪も歪んで大変なことになってます。このままにしてたら、お口イタイタの背中カユカユで悶絶死しますので、アイシャさんと相談して健康的な食生活を送らせてください。でなければ本当に死にますよ」
詩織「食事制限されたらストレスで死ぬ」
暁「とりあえず口の中と背中を見せてみろ______________ッ!!!!!????? お前……で、具体的にどうすればいいんだ?」
ブラード「野菜と穀物を中心に栄養バランスのとれた食事。それから適度な運動です。口内炎は食事療法でなんとかなるかもしれませんが、爪と背中はどうしようもないので、通院してもらいます」
詩織「もう2度と病院には行きたくない」
ブラード「そういうわけにはいきません。ご存知でしょうが、メリアローザの掟は『みんなで楽しく、仲良く暮らしましょう』です。病気の人を放っておく医師はいません。断るなら病院に強制送還して簀巻き生活ですが、それでよければ力づくで連れて行きます。まぁ毎夜、月光浴をしながら満点の星空を独り占めしたいというのなら止めはしませんが」
詩織「ぐっくぅっ! どっちも嫌だし。我慢して病気治すか、変人の巣窟で簀巻きにされるぐらいだったら、何もしなくて結構ですし」
暁「入院生活は過酷らしいからな……色んな意味で。でもみんな健康になって帰ってくる。しかし今回、荒療治になるかもしれないが『入院』じゃなくて『通院』だからまだマシだろう」
ブラード「通院とはいえ看護師の趣味や性格に付き合わされるのは覚悟しておいて下さい。サラさんは縛るのも縛られるのも大好きでみなさんを悉く簀巻きにしますし。満子さんは点滴はご飯って言って針を刺そうとしますし。リードインさんはよかれと思って深夜のバンジーですし。個性豊かな職場で楽しいです♪」
暁「自覚あるんだ」
詩織「あんたらの犠牲になる患者の身にもなれよ。マジで漏れるかと思ったし」
ブラード「大丈夫です。簀巻き状態ではし瓶が入らないので、調教したスライムを潜り込ませて用を足してもらうようになっていますから」
詩織「は?」
暁「たしかトイレに行くのが難儀な人とかのために、数年前に現れたスライムを使役する女性に秘術を教わったんだっけ」
ブラード「そうなんです。し瓶の代わりだけでなく、外科手術では疑似血管としても機能するので、医療事故や手術中に体力がなくなって死亡するリスクもかなり軽減されたんです。スライムは本来、魔獣の扱いですが、単純生物なので命令を受け付けるように調教すれば強い味方になってくれます。食費も少なくて維持管理し易いのも嬉しい点です。ぷにぷにで可愛いです」
詩織「は?」
暁「便利に使えそうだから街でも有効活用できないか打診したことがあるんだけど、特定の施設以外での運用は禁止されてるんだよな」
ブラード「ですです。一応魔獣なので。今のところ病院だけです。調教師がこれまた変わり者で」
詩織「ハッ! 使役するならもっと強くてかっこいいのにすればいいのに。頭悪いでやんの」
ブラード「病院には強くてかっこいいだけの魔獣は必要ありません。スライムのように実用的で従順な子が求められるのです。それより、病気、治しましょう」
詩織「ぶぶぅ〜っ! 無理してまで我慢とかしたくないもんねっ!」
暁「詩織……少し考えてみろ。例えばだ、詩織好みのイケメンがいたとする。お互い両思いの仲だ。しかしいざキスをしようとした時、彼氏の口の中が口内炎でぐちゃぐちゃだったらどう思う?」
詩織「キモい」
暁「そうだろう。逆に彼氏もそう思うだろうさ。詩織の口の中が口内炎でフジツボの群生地になってたら、せっかくの恋も冷めるだろうし、さいあくの場合、破局するぞ」
詩織「いやいや、フジツボごと私を愛せし」
ブラード「この人、噂以上のめんどくさレディですね」
暁「…………そうか、それじゃあ今度、メリアローザ中の男子に聞いて回るな。超絶美少女口内炎フジツボ群生地女とキスしたい男がいるかどうか。1人もいなかったら、きちんと治療しろよ」
詩織「ふっふん。1人もいないわけないじゃないですか。いいですよ。1人もいなかったら簀巻きでもバンジーでも治療でも食事制限でもなんでもしてあげますよ」
ブラード「なんでこの人はいつも上から目線なのでしょうか……?」
口内炎が口の中でフジツボの群生地。
言葉にするとこれだけですが、実際の絵を想像すると最悪の光景だなぁ、と書きながら思いました。群生地とはいかずとも同時に2個くらいできてしまった人もいるんじゃあないでしょうか。
アレって結構痛いんですよね。塗り薬を塗って寝たら治る薬がなかったら人類はどうなっていたか分かったものではありません。アレはほんと神の薬ですよ。
背中のイボイボも発見されました。こちらはまだ初期の段階ですが、放っておくと死ぬほど痒くなるそうです。イボを掻いて出血して、かさぶた剥いで血が出てのデススパイラル。食事には気をつけましょう。
爪の変形まである始末。彼女は日がな一日パソコンと睨めっこしていて、イライラすると貧乏ゆすりをする癖があります。その時指に断続的なダメージが入って爪の中心からクリスマスツリーのように傷が入る症状にあるのです。しばらく安静にしていれば治るのですが、酷くなると爪がなくなるそうです。詩織は爪を噛む癖もあるので感染症にも注意ですね。
さて、彼女は健康的な体を手に入れる日は来るのでしょうか?




