接近禁止命令
今日もいつもの朝が来た。
新入りの夜織は文化の違いに驚きつつもこちらでの生活に慣れつつある。
たかピコは結局、ラララさんのところへ行くことができなかったが何やら決心はついたようだ。
華恋は事務仕事に邁進し、大好きなアクセ作りに没頭する日々。
雪子はドラゴンの職人と一緒に新しい武器作りや山に狩りに出かけている。
セチアもリィリィも、みんな好きなことを見つけて楽しく暮らしていた。
ただ1人、最近見かけないやつをのぞいて……。
朝食がてらアイシャを捕まえて詩織の話題をふると、何故だか嫌そうな顔をしてあたしの隣に座り耳打ちをするのだ。
「詩織さんは毎食きちんと食べに来ています。ただ……邪推かもしれないのですが、どうやら暁さんと鉢合わせないようにたかピコさんが呼びに行っているみたいです」
は?
疑問符が頭に浮かんで詳しく聞くと、あたしと詩織が鉢合わせないよう、食堂から出るのを確認してから、たかピコが詩織を呼びに行っているらしい。
ここ最近、あたしが食堂を出ると、たかピコがいなくなって、詩織が現れるという現象が起こっていたのだ。
そこまでして会いたくないか。
嫌われてるなぁ。
しかしあたしにも立場ってのがあって、言わなきゃならないことがあるわけで。言葉には気をつけているつもりだが、いったいなんと言えば心に響くのか。
他人を変えることはできないと知っていても手を差し伸べていくと考えているあたしは、また頭と胃が痛くなる。
最近の出来事で言えば、薔薇の塔で拾ったランプを勝手にもちだしたのを叱ったことか。
エレニツィカたちは激おこぷんぷんしていたが、とりあえずの結果オーライということで許してもらえた。他のメンバーにも説明にいったが、諦め半分、呆れ半分という具合でなし崩しにため息をいただいた。
しかしもう次はないだろう。
薔薇の塔で獲得できるアイテムは破塔をするうえでの楽しみの1つ。それを共有できないのなら、1人で勝手に塔を登れという話しなのだから。
1人で勝手に登って勝手に破塔してくれるなら文句も何もないのだが、剣を振るうことのできない詩織には期待できない。
事務仕事といっても華恋が一緒に仕事をしたがらないし。中央機関にも悪評が知れ渡っているから無理でしかない。
猫での仕事は論外だし、セチアの手伝いはどうかと相談したが、彼女とフェアリーたちに拒まれる始末。
ゴリゴリ体育会系のドラゴンに放り出して性根を鍛え直して欲しいところだが、エレニツィカの喧嘩の件で既に信用を失っている。
……これ、詰んでないか?
できないことが多いし知らないことも多いけど、やる気のある部下なら可愛げもあるが、そもそもやる気がないからなぁ。誰だってちやほやされたいと思うだろうけど、ちやほやされる努力をしてくれないとなぁ。
最後の手段があるにはあるが、引き取り先に迷惑がかかるだろうからとても言い出せない……。
困ったことがあると、よくミーケさんに相談するのだがそれも叶わず。頼もしい後輩たちは詩織の名前を出しただけで話題を変えようとする。諸先輩方の意見はみな、いい加減にお前が国外追放を渡してやれ、だ。
たかピコは詩織の面倒を見ると言って、頼んだはいいが、面倒を見るベクトルが間違っている。アイシャの話しでは毎日の飯代をたかピコが持っていた。本人はお金を使うところがないし先輩として面倒を見なくちゃいけないという謎の義務感からの行動なのだが、たかピコよ……それは違うぞ。それでは一向に自立なんてしないぞ。
「たかピコ、ちょっとこっち来なさい」
「え、はい。なんでしょう?」
「お前……詩織の飯代をもってるんだってな」
「え、えぇまぁ。お金を使うところがないですし、詩織ちゃんはまだ稼ぎが出せていないみたいなんで。も、もちろん少しずつ返金してもらう予定ですよ」
「そうか、それならいいんだが……で、詩織の仕事の手伝いとかしてるのか?」
「いや……それがその、やっぱり俺の見た目が怖いみたいでなかなか面と向かって話してくれなくて」
「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……………………」
「な、なんですかその感情の死滅した顔……」
「あぁそうだ。あたしは昼まで暇だからラララさんのところへ行こうか。1人で行くのが気まずいだろうけど、2人なら大丈夫だろ?」
「え、いやぁ今日はその……別の用事がありまして」
「別の用事っていうのはあたしが食堂からいなくなったのを確認して詩織を呼びに行くことか?」
「ぐっ……そこまでバレていたんですか」
たかピコの土下座が炸裂。
まずは人目のつかない事務室に移動して、ことの顛末を聞くことに。
色々と言い訳を連ねているが、結局のところ詩織の泣き落としを食らって、たかピコの善意を見事に利用し操っているということが分かった。
詩織はあたしが怒ったうえランプを取り上げたことをまだ根に持っていて憤慨している様子。
しかし正論では太刀打ちできないのでせめて顔を合わせないように努力しているようだ。もぅ本当になんなのアイツ!
かといってあたしが会って言葉を選びながら諭したところで火に油。もう詩織は紅暁という人間からの言葉を聞く気はないのだ。
その点、アシに使っているとはいえたかピコの言葉はまだ受け入れるよう。こいつもこいつでポンコツなところはあるが詩織が真人間になるかどうかはたかピコにかかっているのだろう。
あとは周りの人間にも積極的に関わるようにお願いしているが…………みんな苦虫を噛み潰したような顔をして、頑張ってみる、と小声で答えるだけなんだよなぁ。
ため息を天井にぶつけているところを仕事のために入室した華恋にみられ、たかピコの表情を悟ると華恋があたしの耳元に爆弾を破裂させた。
曰く、「詩織の今月の家賃の引き落としがたかピコ名義になっている」と。メリアローザの銀行業も手伝っている華恋が何かの拍子にそれを見たというのだ。
さらに問い詰めると家賃に限らず衣服や嗜好品の類も代わりに支払っていた。紐じゃねぇか!
こいつ本当に詩織に甘いな…………。
「お前……あたしがいいって言うまで詩織に接近禁止な」
「えぇーー! そんな、詩織ちゃんが死んじゃいますよ!?」
「今も生きながら死に続けてるようなもんだろ。当然、今後一切の献金も禁止だ!」
「それじゃあ誰が彼女の面倒を見るって言うんですか!」
「お前どんだけ必死なんだよ……。あてならある。あまり頼りたくはないがな」
「そんな…………」
がっくりと肩を落とした紐野郎はカルシウムの塊とは思えないほどにしょぼくれて、今にもバラバラに崩れ落ちてしまいそうだ。
いっそバラバラになって客観的に自分の行いを省みてくれ頼むから。
はーぁ……もうこうなったらメリアローザで出来る最終手段を使うしかないか。もしもこれでダメなら本当に解剖しかないかもしれない。
その前に各所に出向いてこれからの行動を知らせておかなければなるまい。
法務官のラーディさんのところへ行き。
国王の耳に届くように手続きを済ませ。
各ギルドマスターにことの経緯を話し。
神父様の諒解をとってシスターに頭を下げる。
なんでシスターに頭を下げたかって?
何を隠そうこのシスター。にこにこ笑顔でおっとりとした雰囲気は成熟したお姉さんの色気を醸し出している。しかし、とても本人の目の前では言えないが、中身はかなりのど変態。みな口を揃えて対人間調教師と呼ぶ。
両親が拷問官で戦時中、手伝いをしている最中、ある意味での英才教育により道徳と暴力によってあらゆる罪人の性格を矯正してきた筋金入りのドSなのだ。
あまりに過酷な対応ゆえ、性格が真人間にはなるものの、時折トラウマが発動するわ、外見が変わるわ、それはそれで問題になっていた。
戦後の経済整理ゆえに黙認された彼女の行いが、現在の情勢が許すかどうかの確認も込めて、方々を駆け回ったが、みな一様に【まぁいいんじゃない?】という返答。
深刻に考えていた自分がバカみたい……。
当然、詩織だから、という理由もあるだろうけど。
そういうわけで、呑気に昼飯を食っている詩織に爆弾投下。どうか道徳に目覚めますように。
暁ちゃんの監視の元、詩織ちゃんを含めて3人で個室に入る。監視というのは私の護衛と私が心の赴くまま行き過ぎないようにする見張り役。
主観的には問題ないけど、客観的には行き過ぎているように見えるのよね。困ったものだわ。
申し遅れました、私は教会で子供たちのお世話や神父様のお手伝いをしています、ロザリア・マルクハルトと言うものです。
外面をゆったりとしたお姉さん風にすれば、世の男どもに好かれて結婚と、それから下僕が何人かできると思って振る舞いには気を付けているのですが、なかなかどうして良い相手が見つかりません。
どうしてでしょう?
それはさておき、珍しく暁ちゃんが子供たち以外を目当てに、なにより私のところへ来たものだから、いい人を紹介してくれるのかと期待したらあら大変。噂の詩織ちゃんを紹介してくれました。
なんでもキャッツウォークでは幸せな家族を絶望のどん底につき落とそうとしたり、ドラゴンテイルでは約束を反故にし、薔薇の塔では手に入れたお宝を仲間の相談なしに独り占めしようとしたそうではありませんか。手元にある調書や彼女に対するクレームが書き殴られた書類によると他にも余罪がたんまりあるみたい。
はぁ〜〜なんでドクズッ!
調教師しがいがありますねっ!
死骸の調教師しがい。
なんちゃって♪
「初めまして。私はロザリア・マルクハルト。教会でシスターをしています。今日あなたが私の前に呼ばれた理由がわかりますか?」
「ご飯の途中なので戻ってもいいですか。話しはその後でもいいですよね」
「ぶっぶ〜。質問に対する答えとして正しくありませんね。もう少し質問を簡潔します。呼び出された理由が分かりますか? 【はい】か【いいえ】で答えて下さい」
「………………………………はい」
「まぁ! なぜ呼ばれたか、その理由は分かりますか?」
「…………ランプを独り占めにしたこと」
「それもありますが他にも沢山あります。でもとりあえずそれだけ分かっているならよしとしましょう。さて、メリアローザに来て、あなたは随分と怠けていらっしゃるようですね。しかしここでは自ら働いて、自分自身を養っていかなければなりません。家族ができたならばなおさらお金を稼がなくてはなりません。それは分かりますね」
「…………はい」
「確認ですが、あなたは今、働くことなくたかピコさんからの援助に頼りきりで衣食住を揃えている。そうですね?」
「なんで…………なんでそんなことを問いただされないといけないんですか!? 先輩と私の関係に口を挟まないで下さいッ!」
「今質問をしているは私です。私の質問に答えなさい。【はい】か【いいえ】で答えられる簡単な質問です。あと、私がいいと言うまで質問を許可しません」
あーあ……両親であれば、質問を質問で返した時点で椅子に四肢を固定してキリキリしていくのに。そのほうが手っ取り早くて簡単なのに。10年前の常識は現在では通用しないんですよねぇ……。
そんなことにため息をつきながら、順調に作業が進んでいく。暁ちゃんをザクザクいったと聞いたから、てっきり逆上して襲いかかってくるかと思ったけど、姿形が変わって暴力的な側面が削げ落ちたのかしら。
私としては大義名分が得られるから、そっちの方が良かったのだけれど。
さてさて、まずは現実を見てもらいましょうか。
自業自得の文字の山を1枚ずつ渡して音読させる。
周囲の人間による詩織ちゃんに対しての意見書。記憶をなくす前と後で分けてはいるが全部読ませる。
ただ読むだけでは彼女のためにならないので、問題が解決されれば赦されると付け加えておく。実際、暁ちゃんが直接頭を下げて、文句が解消されて、本人が謝りにくればそれで十分と言質をとっていた。さすがの根回し力。
最初に記憶がなくなる前の文章を読ませてみると、本当にこんなことを自分がしたのかと、他人事のように吐き捨てた。
暁さんが隠し持っている嘘吐き坊やの長い鼻には反応無し。残念なことに本当に記憶がないらしい。あるいは二重人格の可能性もあるけど、記憶にないことを責めたところで反省のしようもない。さいあくの場合、私が刺されるので言及は避けておく。
そしてお楽しみの記憶を無くした後のクレーム♪
食べ方が汚い。
食器を返却口に持ってこない。
年上というだけで子供たちに横柄な態度をとる。
挨拶がない。
人にぶつかっても謝らない。
値切り方が威圧的。
などなど、よくもまぁこんなに不道徳なことができますねぇ。
今後の展開を想像してウキウキしている私に反して、暁ちゃんは呆れてものが言えないと言ったご様子。
肝心の詩織ちゃんは怒りに涙を浮かべて体を揺らしている。
はぁ〜〜〜〜っ!
あなたは怒りを覚える資格なんてないんですよぅっ!
プルプルと震えて口元が引きつっている。
現実を認めてはいるものの、反省したくない、認めたくない一心で膓が煮えくり返っていらっしゃる。
現実と事実を認めたくないというクソの役にも立たないプライドとか自尊心や色んなものに板挟みになって苦しんでいらっしゃる。
はぁ〜〜本当にクズなんですねぇっ!
現実は過去の延長。過去は変えられないのですから受け入れて反省すれば楽になるのに。未来への肥やしにすればいいのに。でもそれが出来ないからクズなんですよねぇ。はぁ〜困ったものです♪
1つ1つ諭しながら話しを進める。本人は何がいけないのか、どうしなければならなかったのか、どうするべきだったのか、概ね一般的な正解を述べていた。
分かってるなら最初からそうしておけばいいのに、と思うけど、その時その時の気分で視野が狭くなりがちな性格では難しいのでしょう。
でもこの調子なら意外とすんなり終わってしまいそう。嬉しいような残念なような気もしますが良しとしましょう。
次のステップは本人のところに行って赦しを得に頭を下げに行くこと。とりあえず近場のアイシャちゃんから。
食堂を管理している女将さんのクレームは
●食べたあとの食器を返却口に戻さない。
●食べられない物があるなら先に言って欲しい。
●挨拶を返さない。
●食べ散らかしが激しい。
●クラゲに餌(残飯)を与える。
●他人のご飯を盗み食いする。
●食器を破損しても申告しない。
●人にぶつかっても謝らない。
とりあえずこれだけだけど、はたくともっと埃が立ちそう。別室にアイシャちゃんを呼んで懴悔タイム。
机を挟んで相対するもなかなか懴悔が始まらない。
現実を見させて、このままでは良くないと認めさせて、反省した時としない時の未来予想図を提案して、省みて良き未来のために心を入れ替えると言質をとった。
しかしはやりクズはなかなか省みない。
本人を目の前にしてだんまりを決め込んだまま沈黙を守っている。下を向いたまま膝の上に拳を並べて顔を真っ赤に染めていた。
恋?
いやいや……ここに来て己の過ちを認めようとしないのだ。頭を下げることは己のプライドが許さないと本能が拒んでいる。
アイシャちゃんも暇じゃないんだから早く反省しなさいよ。5分が過ぎ、10分が過ぎ……痺れを切らしたアイシャちゃんが、まだ心の準備ができていないなら後日でもと提案するが暁ちゃんが止めに入った。
と同時に天国から地獄に落とされたかのように詩織ちゃんの表情が上下する。
そうです。時間は助けてくれません。
こんなこともあろうかと、アイシャちゃんには予め断っていて、実は時間給が支給されています。だからアイシャちゃんはいくら時間が経とうとも構わないのです。むしろ長ければ長いほど臨時収入が入ります。
詩織ちゃんの財布から。
今は財産がないので借金です。
誓約書に小難しい文言で書いてます。
姑息ですか?
いいえ自業自得です。
暁ちゃんは渋い顔をしていたけど、こうでもしないとわざわざ自分の時間を割いてまで詩織ちゃんに付き合わせるのは申し訳ないでしょうと説いて納得させました。後で知ったら怒るでしょうが誓約書に合意させているので文句は言わせません。
卑怯ですか?
いいえ彼女が不注意なだけです。
30分。45分。1時間が経とうととして、詩織ちゃんの重い腰がようやく上がった。
「お腹が…………すきました…………」
と思ったんですけど往生際が悪いですねぇ〜♪
当然ですが謝罪が終わるまでご飯は抜きです。
それを知ると面白いように顔が青ざめてしまって、まぁなんて表情の豊かな子なんでしょう。
押しても引いても動かない。
「もういい加減帰ったらどうですか……ッ!」
もぅ何を言ってるのこの子ったら。
あなたがやることやらなきゃ帰れないの。
呆然とするアイシャちゃんが、実はお給金がでているので自分は帰る必要がないと告げると絶望と悔し涙で歯軋りを始めた。
「この世界でやり直して幸せな人生を送るって豪語していたじゃないか。それってお前だけが幸せな世界なのか?」
「はい」
即答!
「おそらく以前の世界もそうだと思うが、この世界にだって詩織だけじゃない。あたしを含めてたくさんの人たちが一生懸命生きてる。少しずつでもみんなで幸せになるという考え方のほうがあたしは素晴らしい人生が待っていると思う。詩織はそれでも自分だけが幸せでいいと思うか?」
「はい」
即答!?
「…………詩織、お前今、お腹いっぱいか?」
「はい」
…………あぁ〜。よく見たら半覚醒状態で質問には全部『はい』で答えるウーマンに変身している。
適当に頷いていればやりすごせるでしょ。納得するんでしょ、って背後に吹き出しが浮かんでいるように見えた。
私ならこの不誠実な行動を利用して、何にでも同意させるのだけれど、そのへんの道徳をきちんと持ちあわせている暁ちゃんはそんな姑息なマネはしない。
「暁ちゃん、これは絶好のチャンスですっ!」
「はい」
「ぷふーっ! ほらほら、本人も認めてますよっ!」
「はい」
「はぁ〜……。もうどうすればいいんだ……」
体を揺らして、声をかけても目が覚めない。
死んだ魚の目のまま生きながらに死んでいる。長らくお説教をしてきた私でも、こんなに全力の逃げをやってのける子は見たことがない。
ある意味、才能。
負の才能!
ほっぺをぺんぺん叩いてダメならドタマにチョップを提案するも、また記憶がなくなっても面倒くさいからと止められた。今日のフラストレーションを全力で叩き込む建前ができたと思ったのに、残念至極。
今日はここでお開きです。
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○教会○
桜「ついに彼女を呼んでしまったのですね」
セチア「噂では相当な変わり者ということだけど、どんな人なの?」
桜「見た目はすごく落ち着き払っていて、言葉遣いや態度も大人なのですが、時折、テンションが上がるといたずら好きな子供っぽくなります。そこが可愛いという人もいれば怖いという人もいます。基本的にいい人です」
セチア「そう……よかったわ。教会にはいい思い出と胸くそ悪い思い出ばかりであまり近寄っていなかったけど、ここのシスターさんと神父さんは大丈夫そうね。あっ、ごめんなさい。過去話スイッチが入ってしまって……」
桜「いえ、言うほど過去話してませんが、何があったかは絶対に聞きません」
セチア「宗教というからには信仰する神様がいるのよね。どんな性格を持っているの?」
桜「ざっくり言うと戒めの意味が強いですね。1番目の神《生きる者の目指す場所》は死や平等。次に《心に棲まう揺り籠》は愛や執念。《道を開いた者の轍》は希望や死への恐怖。《その力は誰が為に》は力や不安を……と、まぁこんな感じでポジティブなイメージとネガティブなイメージの両面を合わせ持って、我々の日々の行いを正そうとしてくれています」
セチア「色々といらっしゃるのね。生活や人生観の手本として機能しているなら、ここは本当に素晴らしい世界ね」
桜「…………世界レベル?」
セチア「私の元居た世界にも素晴らしい教えを説いたものがあったけど、いつしか政治や戦争の道具にされてしまって……本当に可愛そうというか、申し訳なくなってしまって」
桜「想像以上にハードモードな世界ですね。まぁここでも過去、教えを盾に戦争や差別を正当化していた者がいました。でもそんな人ばかりではないと思います。だから私たちは、今もこうして楽しく日々を送れているんだと思いますよ」
セチア「そうね。そんな先人たちに感謝ね。それにしても桜は本当に……天使みたいな子ね」
桜「いやぁ…………それほどでも。(暁さんに出会う前は、宗教を盾にとって活動をしていた輩の下請けをお金の為に平然としていたなんて、セチアさんの前では絶対に言えないな)」




