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誰の物でもないなら自分の物

 変わり者と思われるかもしれないが、布団の場所にはちょっとしたこだわりがある。陽の光で目が覚めるよう、毎日微妙に場所を変えて、太陽が昇るのを目覚まし代わりに使っている。

 音が鳴るタイプでも起きれるが、騒音で1日が始まるというのは性に合わない。いきなり全力疾走で疲れた気分になるのだ。そのへんは個人の性格によるから分かってもらおうとは思わない。

 とにかく、あたしは柔らかな陽の光で目覚めるのが好きなんだ。曇りの日とかもあるけど、大抵は体内時計で起床する。残念な気分から始まるけれど、それはまぁ仕方ないとしかいえない。


 昨夜は窓の側に、詩織から没収したランプを置いてしまったおかげで目が覚めるのに少し時間がかかった。

 影が落ちて気づかなかった。それと鳥が何かが騒いでいるのか、随分と光と影がチラチラと動いて煩わしい。

 まぁこんな朝もあるだろう。やっとこさ体を起こして目を擦ると、ランプの隣でブレイクダンスを踊っている小人がいるではないか。

 ターバンを巻いた殆ど上半身裸の妖精。

 目を細めて、頭の上にハテナマークを浮かべているあたしを見下ろしたダンサーが、朝一とは思えないハイテンションで語りかけてくる。


「ヘイお嬢ちゃん! 20年ぶりに外の空気ウマーいねぇーい! いやぁ20年って僕からしたらすごい短いんだよほんと。20年前にも呼ばれて飛び出たんだけど、それまでは3000年もランプの中で眠ってたんだ。なんで寝てたのに寝てた年数が分からなかって? 体内時計さ!」


 あ、そうですか。

 悪い夢だ。早く起きなきゃ。もう一度布団を被ってみてもダンサーのテンションが下がることはなかった。

 驚くべきことに現実のようだ。メリアローザにも妖精やドワーフといった亜人は住んでいるがランプの小人は初めてだ。ナイスじゃないか。よく見るとなかなかに可愛らしい。

 パリピ感が凄いからチックさんには合わせられないな。


「もしかしてあれか? ランプの魔神的なやつ?」


「的なやつじゃなくてランプの魔神だYO! お姉さん面白い人だねぇ。ご存知かもしれないけど、ランプを擦ってお願い聞いてちょーだいってするやつ。でもごめんね。まだパワーが溜まってなくってさ。1個叶えるのに1000年くらい眠らなきゃいかんのよ。20年じゃあほんのちょーーーーっとのことしかできないの。あ、でも僕自身は普通に魔法とか使えるから、携帯用の護身魔神として一緒にいてあげられるよ。あぁなに見返りなんていいんだよ。僕ってこう見えて寂しがりやでさぁ、誰かとたくさんお話ししたいんだよねぇ」


 上目遣いでバチバチと瞬かせ、かまちょアピールしてくる。それは別にいいんだが、とにかくうるさいな。賑やかなのは好きだが、朝っぱらからこれはキツい。

 キキがいれば渡してやるんだが、彼女は今、留学中でここにはいないしな。

 しかしまぁなんにせよ、まずは探索隊にランプの件を話して、それから考えるか。


 詩織は相変わらず部屋に閉じこもって惰眠を貪っている。本当なら彼女に出頭してもらって、自分から頭を下げて欲しいところなんだが。引き摺り出すしかないようだ。

 朝食ついでにたかピコを捕まえて説教と詩織についての相談をして部屋から寝坊助を誘い出す手伝いをさせる。

 説教ついでに、なにやら不審な言葉が漏れたのを皮切りに、色々と問いただすと、あたしが食堂から去ったのを見計らって、その報告を聞いた詩織がご飯を食べに来ていたり、ガイコツに対して怖がるという性格はあたしに2人の関係がバレないようにするためのブラフだったり、たかピコが詩織のヒモになってたり、諸々耳の痛い事実が入ってきた。


 臭いものに蓋をする能力だけは長けているな。臭いものにに蓋をしたらもっと臭くなるだけなのに。そしてそういう下らない隠し事というのはバレる。バレるためにあるようなものなのだ。命懸けの本気で、墓まで持っていく覚悟でもない限りバレる。


 半泣きになる詩織を担いで、昨日行った探索隊の暇を持て余していたメンバーには集まってもらい、ことの顛末を話す。

 みな一様にあたしの隣でプルプルと震えている詩織を見ながら、呆れたり、怒ったり、同情したり、様々な表情を浮かべていた。


「とまぁそんなわけで、あたしの監督不行き届きでこんなことになってしまった。本当にすまん」


「まぁ…………今後はこのようなことがないように、改善案を出していきましょう」


「いやいや、暁さんは悪くないっすよ。詩織がつまらんことしたのがいけないんでしょ。それに、あたしたちも全然気付かなかったし……。責任ならあたしたちにもあります!」


「そう言ってくれるのはありがたいが、あたしも立場ってもんがあってな。ギルマスだし、昨日のパーティーリーダーでもあったし。そもそも詩織がこういう性格だってのを知ってて連れて行ったわけだし。ほら、詩織も謝っとけ」


「なんで……なんで私ばっかり責められないといけないんですかッ! 欲しかったから拾っただけなのに何がいけないんですかッ!」


 こいつ全然反省してねぇッ!

 ダメな理由は昨日説明したのに自分の都合の悪いことは頭に入ってないな!?

 呆気にとられる面々。

 激昂するエレニツィカ。

 止めるあたしとミーケさん。

 納得がいかず逆ギレする詩織。

 静かにキレる斉藤一。


「それはつまりアレですか? 自分が欲しいものは社会のルールを無視しても手に入れたいと……そうおっしゃるつもりで?」


「ルールを無視なんてしてませんッ! だって塔の中で手に入れたものは自分のものにしていいってパンフレットに書いてありましたぁッ!」


 昨日話したことが全然頭に入ってないじゃないか!

 ヤバイぞヤバイぞ。一がキレてる。このままでは社会的に抹殺されるぞ。今回ばかりは内輪で解決することはできない。しかも前回、強行手段で解決したからもう後がない。

 情操教育から始めるべきだったか。すまん詩織。お前はもうお終いかもしれん。不甲斐ないギルマスを許しておくれ。

 とりあえず落ち着くために部屋を変えて一息つくことに。


 超不機嫌な一とエレニツィカがぷりぷり文句を言いながら詩織の悪口を言っている。あたしとしては人の悪口なんて言って欲しくないのだが、ここまで来てしまっては火に注ぐ水も油に変わってしまう。なんという錬金術か。


「やっぱり解剖しかないんじゃないんすか!? リンさんに言ってバラしてもらいましょうよ!」


「命をとるのはまずいにゃ。聖王国には精神を加工する固有魔法を持った人がいるって聞いたことがあるにゃ。その人を探して詩織にゃんの人格を加工(まともに)してもらうにゃ」


「私刑はよくありませんよ。法的に裁判を行い死刑にするのが妥当かと。話しでは暁さんを殺したということではありませんか。彼女は不死身ではありますが、死んだわけですから殺人罪に問えますし、ギルマスに手をかけた時点で不敬罪も成立します。はたけば大量に埃がでてきそうですしね」


「お、お前ら物騒すぎるだろぉよぉ。たしかに黙って隠し持ってたのは悪いだろうけど、なにもそこまでしなくてもよぉ」


「「「よくな(にゃ)いッ!」」」


 元々嫌悪感を抱いていた2人の不満が爆発。

 ルールを重んじる銀行員も爆発。

 収集がつかなくなってきた。とりあえずこの件に関しては、探索に参加した全員で話し合って処罰を決めるということでなんとか収まった。


 別室に移動したあたしたちのところへ4人が帰ってきて、その旨伝えると、詩織が納得いかないと騒ぎ出した。

 殺意剥き出しの3人をなだめて、詩織にはギルドへ帰ってもらう。これ以上、同じ場所に留まっていたら何をしでかすかわからない。

 ティーブレイクを挟んで一服。

 話しをランプの魔神にもっていく。


「まぁ良くも悪くも、詩織が見つけたランプの中に魔神が住んでて、もしかしたら34層の手がかりになるだろうと思っています」


「呼ばれた気がしてじゃじゃじゃじゃーん! やぁ初めまして。みんな彼女のお友達かな?」


「マジで出てきた! なにこの子、テンション高っ!」


「そりゃそうさ、なんせ20年くらいぶりのお外の空気吸ったらハイになっちゃうってもんでしよ! まぁ20年間寝っぱなしだから、あんまり時間が経った気がしないけど。それよりさぁ僕ちゃん恋したいんだよねぇ。誰かいい人を紹介してくんない?」


「いい人を紹介したら34層を突破させてくれるにゃ?」


「34層? なになになにそれ? 積み上げたナンを食べきれないって話し? 悪いけど、僕ちゃんご飯は食べなくてもいける感じなんだよ。ごめんねほんと」


「薔薇の塔については知らないらしいな。1度現地に連れて行ってみましょうか」


 騒がしくランプの周りで踊っている魔神に、もしも34層との関わりがあるのだとしたらと思ったけど、今の感じはダメ寄りの微妙といったところ。

 彼自身に見覚えがないとなれば振り出しに戻る他ない。少しでも34層攻略の手立てになれば、結果的にではあるが詩織の悪行の罪も軽くできると期待したのだが、現実は厳しい。


 オアシスに出るなり、ご機嫌なランプの魔神は、さっきまでもテンションから一変。静かに辺りを見渡して、物思いにふけるような寂しそうな表情を見せた。


「ここ……僕ちゃんの故郷じゃん。そっか、こんな風景になっちゃったか」


「何か心当たりがありそうな物言いだが、何かあったのか?」


「僕ちゃんを創ってくれた魔術師たちがいたんだけど、何でも願いが叶うと分かって争いあったんだよね。唯一、争いを止めさせようとして僕ちゃんを封印した魔術師の手で異世界に飛ばされて……それからどうなったか。って思ってたらこうなってたというワケ」


「そうか……。それは残念だったな。あと、郷愁にふけってるところ悪いが、何でも願いが叶えられるっての、絶対他言するなよ」


「それは980年後にお姉さんが僕ちゃんを使う予定ってことかい?」


「あたしは不死だが不老じゃない。それに欲しい物は他人に叶えてもらう必要もないね。その魔術師みたいに悪用するやつが出てくるかもしれないから、大それたことは言わないようにってこと」


「なるなるオケオケ」


「しかし困ったな。これじゃあ振り出しだ。何か手がかりが掴めるかもと思ったんだが」


「さっきここに来る前に、お姉さんたちと似た格好をしてた人が言ってた転移陣ってのを探してるのかい?」


「少ない情報でよく気がついたな。賢い。そう、34層から35層に行くのに必要なものだ。通例なら割と近くにあるんだけど、全く見つからない」


「それなら心当たりがあるよ」


「マジか!」


 魔神曰く、ここは砂漠は地下の温度を下げるための殻であって、1枚潜った内側に人間が住んでいた空間があるらしい。

 元々、人間も動物も地表で暮らしたいだけど、気温の上昇と砂漠化の影響で地面の下に潜り込んだとか。

 オアシスはわざと内側から外へ水分を噴出させ、殻である砂漠表面の温度が上がらないようにする装置。でなければ、砂が熱くなりすぎて地下まで熱が届き、居住区を圧殺してしまうらしい。原理はよくわからないがそうらしい。


「だからオアシスの水が噴き出すところを逆に辿れば地下にたどり着けるというわけ」


「どうやって逆に辿るんだ? 水の流れは一方通行だろう?」


「そこはまぁ、水洗式トイレみたいにギュルギュルドォーンって吸い込まれていけばいいんだよ。中の構造を探知して、水流の供給部分に逆流させるレバーがあるから、ちょっと待っててね」


 嫌な例えではあるがここは我慢だ。

 言われるがまま腰の深さまで水に浸かって30秒。なんの合図もなく津波に引き込まれるみたいに足元をすくわれ、渦の中心に吸い込まれていった……。


______________________________________________


        *小妖精(フェアリー)


セチア「今回のプチ情報コーナーは小妖精(フェアリー)ということで、赤雷(あかなづち)白雲(はくうん)に来てもらいました」


赤雷・白雲「「初めまして」」


セチア「赤雷は赤い彼岸花。白雲は白い彼岸花のフェアリーなんだよね」


赤雷「はい。セチア様に大切に育てられ、月下とローズマリーの力でフェアリーとなりました」


白雲「我々フェアリーは魔素を多く含み愛を与えられて育った草花により、フェアリーの力でもって誕生するのです」


セチア「月下とローズマリーもフェアリーで、お友達が欲しくて2人を生んだんだよね」


赤雷「左様で御座います。フェアリーは幸福のある処を好んで住処といたします。そして愛を持って育てられた草花からでしかフェアリーは誕生できません」


白雲「我々が今こうしていられるのも、月下とローズマリー。そしてセチア様のお陰で御座います」


セチア「改めて言われると照れちゃうな……。私もみんながいてくれて毎日楽しいよ。本当にありがとう」


赤雷「身に余るお言葉で御座います。我々もセチア様と、セチア様の愛する方々のために尽力できるのであれば、望外の喜びでございます」


白雲「これからも、末長く宜しくお願い致します」


ダンス「ベリー……プリティー!!」


赤雷「喋らないで下さいますか。煩わしい」


セチア「えっと……彼は?」


白雲「なんでも暁様が薔薇の塔から発見したというランプの魔神だとかそうで。かわいい子を紹介して欲しいとかで我々のところへ来たのですが、性格が合わないというか、とにかく騒がしくて。なんとかならないでしょうか?」


セチア「うーん……。ねぇダンスくん。彼女たちには彼女たちのペースがあるから、合わせてもらえないかな?」


ダンス「あぁごめんよ。久しぶりの朝なもんでテンション上がっちゃって。それにこんな美人さんに出会ったのは初めてなんだ! もう心が湧き立っちゃって仕方ないんだ!」


セチア「なんかダメそう……」


赤雷「へその緒のように繋がれたランプを置いて行っているのですが、まさか彼と同居するのではありませんよね?」


セチア「………………」


赤雷・白雲「「そんな殺生な!」」

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