表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/48

ブラード・スインラは憧れる

 薔薇の塔19層。

 30年に渡り数多の冒険者たちを飲み込んできた魔窟。

 1度入ったならば、栄光を手に凱旋か、あるいは死か。


 引き返すことはできず、ただまっすぐに進むのみ。

 立ちはだかる黄金のゴーレム。

 道中は罠の晩餐会。

 心を孤独にする動く壁。

 宝物を守る残忍な番人たち。


 きっとその先に輝ける未来が、財宝が、あるいは死に場所があると信じ、みな夢想の彼方へ散っていく。

 あまりの屍の多さに、薔薇の塔の終着点だとか、無謀の天井などと言われ恐れられていた。

 もう誰も塔破することはできない。

 どんな屈強な戦士も、優秀な魔術師も、複数の固有魔法を操る英雄も、魔窟の1部となっていく。


 人々は諦め、もはや記憶の片隅だけの存在となった魔窟に、ある日、3人の少女が訪れた。


 太陽のように燃える髪。

 左目の紅い瞳、眼帯の下の魔眼。

 魔剣を腰に、魔窟を笑う女侍。

 それは心を照らす不屈の太陽。


 夜のような漆黒の髪。

 吸い込まれそうな黒い双眸。

 黒のドレスは闇の色。

 彼女は風を歌う絶望の花嫁。


 金色に輝く長い髪。

 月のような黄金色の眼差し。

 身の丈を超える大剣を振るう戦士。

 静かな月夜に佇む月下の金獅子。


 鮮烈な切っ先の前に黄金は塵と帰る。

 侵入者の血をすする無慈悲な罠も、花嫁の歌声で眠りについた。

 繋いだ手を分とうとも、固い絆は離れない。

 荒れ狂う番人では、彼女たちの心は砕けない。

 苦楽を共にしてきた友情は、最奥の間へとたどり着き、目の眩むような輝きを手にしたのだった。




 今日は週に一度の定期検診。

 19層で暮らしている人々の為の健康診断です。

 本日のメニューはラララさんのカウンセリングと、私の大好きな血液採取!

 132人分の血液を採って体に異常がないか、病気にかかっていないか、あとは未知のウイルスや細菌に侵されていないか、などなど確認するためです。


 19層は暁さんたちが塔破した時から無人の星。

 空と大地と水と、それから原初の動物たちの楽園なのです。どうしてこんな場所があるのかはわかりませんが、せっかくなので国王様は外国から流れてくる奴隷さんたちの生活の場として活用することにしました。

 国王様は奴隷だとか、人を物扱いするのが大嫌い。

 しかし立場上、外交という観点から他国の文化を真っ向から否定するわけにもいかず、奴隷を買って19層の労働力として雇っています。


 ()()()()()()()()、と言うと聞こえは悪いですが、言葉は悪いですが奴隷根性の染みついてしまった人々のメンタルケアとか、一般的な世界とは1度おさらばして、基本的な人間の性格を取り戻すというプログラムを実行されたのです。


 代わりにと言ってはなんですが、19層に眠る資源の開発をお願いしているということなのです。

 そう、あくまでお願いをしています。

 客観的に見れば自己判断能力が薄れている人々にお願いをしても、機械的に首を縦に振ってしまうのでなんともいえないところではありますが、それでも、自立していけるよう精一杯お手伝いをしているのです。


 そのかいもあって、今ではメリアローザと19層を行き来する人も増えましたし、お互いの健全な共生関係を築けています。

 新たな奴隷さんがやってきても、元々奴隷だった人がその人たちのお世話をするので生活に慣れるのも早いですし、メリアローザに好感を持ってくれる人たちばかりなので、彼らを買った立場の、国に対する不満感も非常に少ないのです。

 本当に、こんな尊敬できる国王様が他にいるでしょうか!


「ブラードちゃん、お疲れ様。採血は終わったかしら?」


「お疲れ様です。全員分採り終わりました。みんなとっても健康的な血液ちゃんたちです。自然な環境のせいかとっても健康です」


「そうね。ここは自然がとっても豊かでストレスも少ないし、最初は少し荒れ気味だったけど、彼らが一生懸命手入れして、とっても立派な畑や川が整備されているものね。あとは…………」


「そうですね。あれなんですよね」


 近年は烙耀山の建国で獣人さんたちより普通の人間が奴隷となってやってくる事案が多くあります。

 人間が人間を奴隷にするなんてどうかしてるとしか思えませんが、そこは文化の違いなんでしょう。とにかくそれでも、国王様は同じ命あるものとして、偏見を捨てる意味も込めて、みな19層で暮らしてもらっている状況です。


 しかし、当然といえば当然ですが、先に入植した、その多くが人間に捕まって奴隷にされた獣人さんたち。

 同じ立場の奴隷とはいえ人間が自分のテリトリーに入ってくれば身構えるのもうなずけます。

 国王は法律に基づき、お互い仲良く暮らすようにと厳命しましたが、わだかまりはなかなか解けません。


 人間側は肩身の狭い思いですし、獣人側は憤りもありながら同情をも抱えるというジレンマを強いられています。

 だけどきっといつか、お互い抱き合って、笑い合って、美味しいご飯が食べられる日がくるはずです。

 だってここはメリアローザ、愛の国。

 もう彼らは奴隷ではありません。

 メリアローザの国民なのです!

 人間なのです!!


「私たちの仕事は健康管理。ならばしっかりお仕事しなきゃね。ブラードはプライベートでも19層には来てるのよね」


「はい、その通りです。看護師として全力で彼らのお役に立ちたい所存です。プライベートではミーケさんにゴードンさん。暁さんについてって色々とお話しを聞いたりお食事を一緒にしたり気さくにして下さってます。ミーケさんもゴードンさんも獣人で人間とも仲良くしているので、彼らの心の壁を壊すのに適任ですし、2人のおかげで少しずつですが距離が縮まっていっています。暁さんは19層を塔破した張本人ですから、彼らの信頼というか、もはや信奉というものは凄いです」


 ミーケさんの底抜けの明るさとか、ゴードンさんの人を引っ張っていくカリスマ性。暁さんの太陽のような笑顔で傷ついた人々の心に温もりが蘇っていく。

 そんなカッコいい彼らの姿に憧れて、俯いた顔に希望の灯火が点いて、うまく表現できないけれど、凄いなって思ったら、なんだか勇気が湧いてくるんだ。

 自分もあんな風に、誰かにカッコいい背中を見せたいって思っちゃう。


 あとまぁ、お財布の中身がすこーし寂しい時なんかに暁さんたちについてって、タダ飯狙っているのも事実だけど、これは言わないでおこう。

 淡白だけど脂のノリのいい川魚。

 豪快に丸焼きにされた香ばしいお肉。

 甘い大地の香りを宿した新鮮なお野菜。

 最近では香辛料や果物の栽培も始めたということで、前に食べさせてもらった、甘酸っぱくてシャキシャキ食感がたまらない梨なんかもう最高!


 やっぱりまだまだ花より団子。

 美味しいものには敵わないですぅ!


「ブラードちゃん? 凄いよだれだけど、どうしたの?」


____________________________________________


 □月下の金獅子□


華恋「月下の金獅子…………たしかハティ・ダイヤモンドムーンという方ですよね。暮れない太陽のギルド名簿には名前がありますが見たことありませんね。他にも名前だけ記載してメリアローザに住んでいない人が多数いるようですが」


暁「ギルドメンバーはメリアローザに住所を持ってなくても登録できるからな。出稼ぎのようにふらっとやってきて仕事して帰るって人もウチは受け入れてる。スカサハも故郷には帰ったが登録したままだし、他にも黝やインヴィディアもハティと同じように、拠点は違えどギルドメンバーとして登録してる」


華恋「でもそれって結構リスキーなことじゃないですか? 名前だけとはいえ彼らもギルドの顔となると、外で何かした時に、ギルドとしては責任を追及されかねないわけですし。住民税は存在しないので、書類上の管理という点では負担にはなりませんが」


暁「まぁたしかにリスクもある。だから他のギルドは居住地をメリアローザである者に限る、って限定してる。あたしも外国居住の人間をギルメンにしておく場合は信用できるやつだけに限ってる。だけど、外国にいてくれれば現地の人の信頼を得られるし、万一何かあった時に動きやすいってのもある。ある種の外交手段の1つと思ってくれればいい。で、その外国居住のギルメンなんだが、ハティと黝は古くからの仲で、変わり者だけど間違ったことをするようなやつらじゃない。インヴィディアさんはスカサハの上司で、彼女を紹介したのもインヴィディアさんだ。インヴィディアさんはここから遥か遠くの大陸で9人いる国主の1人をやってて、人々からの信頼も厚い人だ。そういえば近日中にあたしのところに来るって言ってたから、実際に見てみればいいよ。セクシーな大人のお姉さんだよ」


華恋「それは是非お伺いしたいですね。それと、いきなり話しをそらしてしまってすみません。月下の金獅子、ハティさんというのはどんな方なんですか?」


暁「まず身長191cmの長身。あ、本人は高身長なのがコンプレックスだから触れないでやってくれ。女性で高身長ってやっぱ悩ましいものがあるからな。それから綺麗な金髪で、膝まで伸びる金糸を三つ編みで結んでる。見た目は寡黙でカッコいい系なんだが、実際は特に何も考えてない。殆どは次のご飯は何を食べようかを考えてる。子供好きで、子供に褒められるとめっちゃ喜ぶ。剛腕だけど魔法の方が得意で、滅多に怒らないけど、本気で怒ったら多分、星が滅ぶ」


華恋「…………最後のやつ怖いんですけど」


暁「いやぁハティが本気で怒ったところなんて見たことないけどな。でも3人で旅をしてた時に、酔っ払いがあたしたちのことを罵倒したことがあってさ。あたしと黝は面倒くさいやつに絡まれた、って思って聞き流してたんだけど、ハティは純粋だから間に受けちゃって、100回くらい殺されてたよ。怒りを抑えるのがもう大変だったわ。あいつは大切な人を傷つけられると激おこだからなぁ。でも大切に想ってくれてるって言ってくれた時は嬉しかったなぁ」


華恋「よくそこまで怒った人をなだめられましたね…………でも仲間思いな方なんですね。是非お会いしたいです」


暁「今はアルマと同じ街で勉学に励んでいるよ。それがさー、勉学へ行くきっかけってのが、子供たちに学んだことを教えて、おねぇちゃんすごーい、って言われたいからだってさ。超可愛いだろ?」


華恋「な、なんですかその人。純粋可愛いじゃないですか。それ、いいですね!」


暁「華恋だっていつもお礼を言われてるだろ。事務処理を請け負う時とか、華恋が作ったアクセに助けられた人とかにも」


華恋「いや、その、私も子供たちに言われてみたいです…………」


暁「もうなんか、純粋可愛い華恋が目の前にいて微笑ましいよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ