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レインボー・ラブ

 うーん。

 うーーん。

 うーーーん?


 どれだけ魔法を唱えても出てこない。

 えー、やっぱり念じたら使えるとかそんなご都合機能ないの?

 マジで面倒くさいんですけど。

 剣にしたってそう。筋力だけは以前の体よりは断然あるのは間違いない。でも肝心のスキルが発動しない。

 これじゃ転生した意味ないじゃん!


 ナニコレ。

 転生特典でサイツヨになるのが定番なんじゃないの。

 糞ゲー。糞ゲーよこんなの。


 せっかく生まれ変わって第二の人生が始まるかと思ってたのに、実にくだらないわ。これだったらゲーム三昧の生活の方が良かった。

 いや、でも学校は面倒くさいな。勉強自体はどうでもいいけど、私と釣り合う人間がいないんだからつまらないわ。


 勇気を出してイケメンの先輩に声をかけたってのに、スケルトンになっちゃうし。本当についてない。


「やぁ、せいがでるじゃないか。魔法は使えるようになったか?」


「それ、嫌味で言ってるんですかぁ。全然使えないですし感覚的なのも掴めないです。暁さん、教えて下さいよ」


「感覚ねぇ。悪いがあたしはあまり魔法を使えない、というより体内の魔力を外へ放出する量が少ない体質でな。殆どの場合、肉体強化や自己治癒に回してるもんで、一般的に言う魔法を覚えていないんだ。魔法ならアルマに聞けばいいじゃないか。あいつは天才だし、魔法の教示にも定評があるぞ」


「えー、歳下にモノを教えてもらうなんてカッコ悪いじゃないですか。絶対嫌です。暁さんが彼女に教えてもらって、それを私に教えて下さいよ」


「無茶言うなぁ。使えるもんならあたしも魔法を使いたいよ。手札が増えれば出来ることも増えるわけだし。でも、誰だって万能じゃない。だからあるものでなんとかするしかないし、創意工夫するし、助け合うんじゃないか?」


「ぬぅ。それじゃあ暁さんの肉体強化ってやつ教えて下さい。とりあえずできることからやってみますー」


 ぬぅ。剣を振りながら魔法を使って俺TUEEEEEEEがテンプレだと思ったのに。ここは暁さんに免じて許してやるよ、私をここへやった誰かさんよ。


 暁さんはやれやれと言ったため息をついて相対すると、手を繋いで集中するように告げた。これから実際に使ってみるから肌で感じて感覚で覚えるようにと。

 百聞は一見にしかずということか。

 しかし妙に手をさすってくるのは何故だ?


 《肉体強化(パワード)


 静かに呟いて、手の先から熱気のようなものが流れてくる。なんとなく伝わってきたものが少しずつ輪郭を現して脳裏に浮かんできた。

 なるほど、こういう魔法の伝え方があるのか。この方法で覚えていけば努力しなくても全然楽勝で強くなれるじゃん!


「こんな感じだ。さすがに1回だけじゃ完璧にマスターできないだろうから、不発でもいいから反復して唱えてみよう。普通は手を繋いだりして相手の魔力回路がきちんと動作してるか確認するんだけど、あたしには驪龍眼(ダークドラゴンアイ)があるからその必要はないがお前がどうしても手を握って欲しいというのならば仕方ないな」


「なんですかその厨二病くさいやつッ!」


「ちゅーにびょー……? というのはよくわからないが何のことだ?」


「いや、分からないなら知らなくていいです。そしてわざわざ目で見えるなら手を握らなくてもいいです」


「まぁまぁそういうな。肌と肌で触れ合った方が確実だから」


「あのまさか。暁さんってもしかして、レズビアンなんですか?」


「違うよ」


「そ、そうですか……」


「バイセクシャルだッ!」


「!!!???」


 何故か両腕を前にクロスして親指を人差し指と中指の間にいれているッ!

 その意味はさておき……マジか!

 本当にそういう人って現実にいるんだ。

 私は普通に男が好きだし、周りもそんなだったし。

 時々テレビでニュースになったりするぐらいで、あとは漫画やアニメや薄い本の住人だと思っていたのに、その存在が今目の前に。


「あぁ〜、その様子だと詩織がいた世界でも一般的じゃないみたいだな。まっ、他人がどう思おうがあたしと相手が良ければいいんだけど、な!」


「え……相手…………?」


「あぁ! あたしはあたしを愛してくれる旦那と嫁がいるからな!」









 はっ!

 意識が飛んで思考停止してた!

 マジかマジかよ。暁さんって既婚者だったのか。歳は私より1つか2つ上なだけだと思ってたのに。

 それに、え?

 旦那と嫁?

 重婚っすか?

 大丈夫なんすか?


「大丈夫だ。あたしが婚姻した国は多夫多妻が許されてるっていうかそういう法律ないから。メリアローザでも細かい規定はないが、一般的には一夫一妻だな。経済面でもそれが妥当だろうし。伝統的にそうだったようだし」


「ま、まぁ、誰が誰を好きになろうと勝手ですし、そんなプライベートなところにイチャモンつけるなんて論外なのはわかってますので。て、あれ? 嫁?」


「そうだ。ジャンヌって言うんだけどふわふわの金髪がもふもふでおっぱいも大きくて超絶可愛いんだよ。ただなぁーあたしは単身赴任的な感じでここにいるもんで会うのは1年の間に3ヶ月って決めてるんだなぁー。早く会いたいなぁー」



 心から愛しているのであろう。悶絶しながら想像の嫁を抱きしめている暁さんを見れば一目瞭然。

 それはいいんだが、魔法を教えると言って手をさすっていたのは私の気にしすぎとか、教える前の儀式的なやつじゃなくて、ただ単に女の子が好きだからってこと?


 私の本能が危険信号を発している。

 既婚者だが単身赴任で欲情を持て余した女なんてろくなもんではない。



「あぁ悪かったな。お前にその気があるのかないのか確認する前に嫌な気分にさせてしまって。ついついな。もうしないからそんな目で見ないでくれよぅ」


 お願いプリーズ両手を合わせてごめんなさい。

 今後同じことをしてくれなければいいけど…………それはそうととにかく______________________。


 リア充爆発しろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぁぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおぉおおぉおぉおぉぉおおぉおおおおおぉおぉぉぁぉ!!!!!!!!!!




 腹が減っては戦はできぬ。

 1つとはいえ詩織の使える魔法が増えたし、数時間とはいえ修練してたし、これからもっともっと頑張ってくれることを期待して昼飯は奢ってやろう。


 飯のついでにこれからのことも相談しよう。朝方確認したけど、まだ暮れない太陽と正式にギルドメンバーの契約をしていないし、食堂にツケもあるし。

 とにかく自力で稼ぎを出してもらわないことには自分もあたしも困る。とりあえずのところは飯代は建て替えてるんだからな。


 本人に働く意欲だとかあればいいけど、どうも他力本願なところが見え見えだからなぁ。さいあくの場合は言葉巧みに言いくるめて、手の内で転がせばいいんだけど、できれば自分で考えて自分で行動してほしい。


 そんな期待と同時に、まだ詩織に対して猜疑心があることは否めない。最初に抱いた嫌悪の感情が、あたしからギルド加入の誘いを詩織に対して言い出さない理由になっている。


 他のメンバーからも色良い返事がないし、できれば関わりたくないって声の方が多いし、かといってここを出たら解剖されかねないし、そういうわけにもいかないし。

 全く困ったもんだ。桜は、ダメな子ほど可愛いですっ、って言って仲間になるなら教育係をするって名乗り出たけど、スカサハの件があるから、同性愛者でない詩織を桜と一緒にいさせるのは難しい。


 なんとか自力で一人前になってくれないかと修練場を覗いてみれば素晴らしいことに魔法を使えるようになったではないか。

 ただ残念なのは初めて魔法が使えるようになって感動した、って感じの顔を見せられると、やっぱり魔法使えるって言ってたのは嘘だったんだと判断せざるを得ない。


 百歩譲ってそれはいいとしよう。彼女自身、悪意があって嘘を吐いていたわけではなさそうだし、たかピコの話しだと間違いなく転生前の姿が違うということだから、考え難いが記憶の混乱や魔法の消失もありうる。

 そもそも転生前の世界というのをあたし自身が知らないから、たかピコの話しを信じるしかないわけだが、たかピコ自身、記憶の混乱があるかもしれないから鵜呑みにもできない。


「それじゃあそろそろ仕事に行くとするか。ちょうどネロが27層のアールロイにジビエ料理を教えてもらいに行くらしいからついて行こう。覚えたての魔法もあるしな。朝も説明したけど色々とツケも溜まってるしな」


「? ツケってなんの話しですか?」


「朝説明しただろ? ここでの飯代と部屋代だよ。まだギルドメンバーじゃないから割引きも効かないし」


「は? そんな説明受けてないですよ。私もうギルメンですよね。ご飯だってタダで出てくるじゃないですか」


「いや、そんなわけないだろ」


 コイツ……本気で何言ってんだって顔してやがる。

 タダ飯なんてありえんだろ。ギルメンだって割引価格ってだけでちゃんとお金払ってるし。部屋代だってみんなきちんと納めてる。


 どこの世界でも対価を払って何かを得るものだと思うが、まさかこいつのいた場所は飯がタダで出てくるステキな世界だったのか。そんなわけないな。


 それにしてもどういうことか。確かに説明したはずだ。ネロに聞いても太郎に聞いてもちゃんと話していたと言質が取れた。その時は彼女も頷いていたのを確認していたが。

 あぁ……まぁいいか。

 ようは仕事してお金返してくれればいいし。


 なぜかパワードを3回使っただけで魔力切れを起こしていたけれど、1回で約1時間保つし、玄人と一緒に仕事をして自信をつけて頑張ってもらおう。

 死地に追いやられたら、否が応でも必死になるだろ。


 ___________________________________________


 ⁂LGBT⁂


暁「今回のプチ情報コーナーはLGBTです。とてもデリケートな問題となっているので、いらんこと言ったら即炎上します」


ネロ「確かにそのとおりですね。性の志向は様々ですし、個々人のプライベートな問題に直結しますからね。この話題とは関係ありませんが、本編でまだ名前しか出ていない僕がここに出てくるということは出番を期待してもいいのですか?」


暁「次回出番あるよ」


ネロ「わぁよかったぁ」


暁「そんなわけでLGBTのお話しだよ。女性同性愛者(レズビアン)男性同性愛者(ゲイ)同性愛者(バイセクシャル)性別越境者(トランスジェンダー)の4つの頭文字からきてる。そんな中であたしはバイセクシャル、同性愛者だね」


ネロ「男性と女性の両方を好きになる人のことを言うのですよね」


暁「その通りだ。一般的に広まろうとしているのはこの4つではあるが、人の心というのは複雑なもんでな、細かく分析するともっと多くの考え方やパターンというものが出てくる。あたしで例えると、バイセクシャルで両方に性的欲求を抱えている。人によっては、例えばある男性がバイセクシャルだとしよう。ただあたしと違って男性には恋愛感情はあるが性的欲求はない。性的欲求は女性に対してのみ顕われる、とか。そもそも性別を定義したくない人や好きになる性を持たない人とか様々だ。身体的特徴は男性でも心は女性だとか、女性だけど男性の服を着たい人とかもいる」


ネロ「それはまた、色々な人々がいるのですね」


暁「そうだ。そういう人たちは性的(セクシャル・)少数派(マイノリティ)と言われてる。大多数は異性愛者ということだ。ただ、ここで最も大事なことは、違う考え方や感性を持った相手に対して拒絶するのではなく寛容になるということ。この人はそういう人なんだ、と理解し認めることが大事だ」


ネロ「それは強く共感します。僕も以前の職場であった、男だからこうしなければならない、だとか。上司の指示は絶対だ、とか。そういう価値観の押し付けが嫌で騎士団を辞めましたからね。それで今回のプチ情報コーナーの担当が僕なわけですか」


暁「そういうこと。ただし、全てを拒絶、あるいは許容すればいいというわけではない。同性愛者、異性愛者問わず性格の不一致はあるしスカサハのように自分の心に素直になって拒否することも大切だ。無理をしてもお互いが辛いだけだけらな」


ネロ「スカサハというと切れ長の目が凛々しくて黒髪ロングの槍使いの女性のことですか?」


暁「やけに表現が細かいな」


ネロ「桜さんが恍惚と話してくださいましたので。以前、桜さんが愛を告げた方ですよね」


暁「あぁ、切ない失恋だったな。桜は女性同性愛者(レズビアン)でスカサハのことを心から愛してたんだ。性格も容姿も桜のドストライクだったからな。実は事前に察知していたスカサハはあたしに相談しにきたんだ。桜はとってもいい子で、彼女の気持ちを無下にしたくない。しかし自分は異性愛者だ。どうするべきか、と」


ネロ「それはまた、切ないですねぇ」


暁「そうなんだ。スカサハはお互いが幸せになる道を選んだんだ。それが桜の想いとは違っても、最期に笑いあえる道は彼女を受け入れることではない。拒絶することだと」


ネロ「スカサハさんは本当の意味で桜さんのためを思っていたのですね」


暁「本当に…………いいおっぱいだった」


ネロ「暁さんは最低です」


暁「そういうわけで《みんな仲良く楽しく暮らしましょう》というわけだな。いやぁ、国王様は慧眼でいらっしゃる!」

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