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後輩ちゃんと先輩くん

 新学期も過ぎて桜の木も彩りを失った頃、俺は新しい教室に馴染むよりも、嬉々としてネットゲームを始めていた。


 別に引きこもりというわけでもなければボッチというわけでもない。あえて言えば身長も体格もスポーツも成績も顔もボキャブラリーも平均値の俺が、部活に入ってきた新入生の女の子にネトゲを勧められて少し有頂天になっているだけなのだ。


 そんなわけで自室にある平均的なスペックのパソコンに無理を承知でデータのダウンロードをさせている。

 その間、後輩ちゃんに言われたとおり、攻略サイトの初心者ページを流し見した後、キャラメイキングに入った。


 不特定多数の人間がネットゲームのアバターとなって戦ったり会話したりという本格的な物は初めてで少し緊張しているが、後輩ちゃん曰く、基本的に初心者には優しい人ばかりという事らしい。


 中にはリアルでは普通なのにネットの世界になると性格が豹変する人もいるとか。顔が見えない、自分ではないという勘違いや錯覚から普段押し込んでいる感情が外に出てしまうという。実に恐ろしいが流石にそんなのは稀だろう。いたとして無視すればいいだけだ。


 キャラメイキングもすませていざゲームスタート。

 後輩ちゃんが教えてくれた個人チャットのIDによると、現在位置は始まりの街にいてくれているらしい。先導してレベル上げやらゲームの説明やらをしてくれるという事なので、リアルでは先輩だが、ゲームでは後輩なのでしっかり話しを聞いていこう。


 GODDESS

 これが後輩ちゃんのアバターの名前なのだが、女神とはまた大きくでたな。リアルでは小動物のような可愛らしさで、おどおどとした姿に保護欲を駆り立てられるような少女なのだが。背伸びしているのか。

 だがそんなところもgood。


 カーソルを合わせ、マイク付きヘッドホンを装着。このゲームのウリの一つとして音声を直接且つ自動的にチャットに表示してくれる。逆に表示されたチャットの文字を音声として耳に届けてくれる機能がある。ガチなユーザーはタイムラグや語弊を嫌厭して使わない人も多いらしいが、俺のようなライトユーザーや、単にキャラゲーとして楽しんでいる人には嬉しい性能だ。

 加えて、音声は初期状態では男と女の2パターンだけだが、課金すると有名声優さんのボイスに変更できるのも高評価。


 後輩ちゃんの声が俺的に可愛いから生ボイスが聞きたいところだけど、もじもじとした様子ではそれも当分先であろう。しかして今は初体験に身を委ねてみようじゃないか。


「こんばんは。詩織ちゃんだよね?」


「リアルの名前を言ってんじゃねぇよボケカス。チャットのチャンネル、ミスってたらどうすんだよボケカス。リアル割れしたらどうしてくれんだ。それになんだそのアバター。なんでスケルトンなんだよ。普通に考えて人間種にしとけやクソが!」


 …………あーれー。

 おかしいなこんな乱暴な言葉遣いをする子じゃないと思ってたんだけど。もしかしてこれってアレですか。ネットの世界に入ると豹変しちゃうやつですか?

 気を取り直していこう。


「ごめん、こういうゲーム初めてでよくわからなくて。キャラ紹介に大器晩成型って書いてたから、序盤はしお……ゴッデスちゃんがレベル上げ手伝ってくれるって話しだったから、これでいいかなぁって。絵もなんかかっこよかったし」


「先輩攻略サイト見てないんですか。そいつ育ててまともに使えるようになるのに、24時間ぶっ続けで5年間かかるって試算されてるんですよ。それも、ま・と・も・に、使えるようになるのにです」


「ほんとごめん。キャラメイクしなおします」


「は? 2体目作るのは1体目のチュートリアルが終わってからじゃないとできないんですけど」


「すみません。ほんとごめ、あ!」


 姿が消えた。合わせていたカーソルの文字が黒く影のようになっている。ログアウトされた!

 失意の中、しぶしぶ1人でチュートリアルを進める。チュートリアルはNPCの言う通りに従っておけば大丈夫らしく、ゲーム内での基本的な操作を教えてくれた。しかし、いざメインの戦闘になると事態は急変。たぶん普通のキャラなら何回か攻撃しただけで倒せるはずの雑魚モンスターに負ける。

 その度に蘇生されては負け、蘇生されては負けるの繰り返し。これはアレだ、詰みってやつだわ。


 30分くらい粘ってみたけど無理なのがわかってコントローラーを投げ、俺はベットに身を投げた。

 明日謝って一緒にチュートリアルクリアしてもらえるように頼み込もう。そうしよう今日はもう寝よう。


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