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 吉木透が大橋綾の、みんなで少し話をしていく、と言う提案に賛成したのは、『自分の初恋の相手である、三雲鞠の初恋の相手である、大橋綾と言う人物のことをもっとよく知りたいと思ったから』、だった。

 その目的は達成できた。(もちろん、もっと、もっと、知りたいことはたくさんあったけど、さっきの話で、十分、大橋綾と言う人物の魅力を理解することができた)

 それだけではなくて、『自分の予想以上に、深い話』をすることもできた。それができたことが吉木透は嬉しかった。

 でも、同時に、突然泣き出してしまった、小船南先輩のことを見て、そして、大橋先輩のそのときの言葉を聞いて、(なぜ小船先輩が泣いているのか、鞠と南がどんな関係にあるのか、そのことを大橋先輩は透にちゃんと教えてくれた)透は自分も、一つだけ、『鞠に隠している秘密』を、この機会にちゃんと打ち明けなければいけないと、そう思ったのだった。


「僕は卑怯者です」

 その日の二つ橋からの帰り道で、透はずっとつないでいた手を急に離すと、道の真ん中に立ち止まって、鞠に向かって、そう言った。

「卑怯者? 吉木くんが?」

 と首をひねって、鞠は言った。

 鞠の一つ年下の中学二年生、十四歳の吉木透くんは、背は高いけど、見た目はひ弱そうだし、確かに強い人(あるいは、勇気のある積極的な人)にはあんまり見えなかったけど、実は、すごく誠実で、紳士的で、真面目な(いつも思うのだけど、自分(鞠)に似ていて、少し真面目すぎるところがある)すごく可愛がりのある、どこにでもいる普通の少年だった。

 真面目すぎて、いつも学校では、優等生役を演じてしまう自分と生徒たちの中で役割分担似ているな、と、鞠は透のことを、こうして透に告白されて、付き合うようになる前から思っていたし、でも、ちゃんとその役割から逃げないで、その役割をきちんと最後まで果たそうとする透の姿勢を鞠はとても高く(もちろん、音楽部の先輩として)評価していた。

 そりゃ、細かいところを見ていったり、心の深いところを探してみたりすれば、問題がないように見える透にも、いろいろと実は問題、があるのだろうけど、少なくとも、鞠の目には、吉木透は『卑怯者。つまり、卑怯な人間』にはとても見えなかった。

 むしろ、その正反対にいるのが、吉木透という少年なのだと、鞠は思っていた。

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