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世界崩壊式  作者: 三隅 凛
胎主殺し
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遊視察05

 当然だが、僕は井伊野いいの早月さつきを探せとも森久もりひさ世歌季せかきの前に連れてこいという依頼も受けていない。本人にも言った通り。『病院』に目を付けられでもしたら『神社』から処分されかねないし。

 とはいえ、無視出来ない内容ではある。僕を知る情報屋、病院に攫われて、でも殺されていない少女、肝の据わった一般人。 


「病院って人攫いとかする?」

「します」

 うんまあ、だろうね。

「攫われた後は人体実験かな? 死亡率が知りたい」

 苺を口に押し付ける。漸く終わった。

「そう高くないかと。経過を見る必要があったり、成功した結果が欲しい場合が多いようですから」

「? 嗚呼、他人化か」

「ええ。ところで蝙蝠さま」メイドはナイフで甘橙オレンジの皮を剥く。「それ、誰から聞きましたか?」

「…………」

 それも食わなきゃいけないのか、と辟易しながらメイドの手元を眺める。問いかけに関しては、まあ、当然の発想だろう。

「因みに」とメイドが続ける。

「御会計の記録は此方で確認出来ます」

「ちょっと女の子に口説かれてね」とりあえず微苦笑を浮かべておく。「一杯奢って別れたんだ」

「ちゃんと振り切れました?」

「変に期待は持たせないようにしたつもりだけれど」

 さて、流石に白々しいので。


「僕としては静火せいか日成ひなりなる情報屋が気になるけれど、神社としてはどう?」

「そうですね……」案の定、遊園地にひとりで行ったことに口を出してきたメイドが答える。「まず、森久世歌季と井伊野早月についてですが、何方どちらも知らない名前です」

「一般人だから?」

「断言はしませんが。少なくとも、有名人ではありません。咽貫のどぬきうずずのような」

「まあ何かしらの可能性はある、と。じゃあ次、情報屋は?」

「静火日成」メイドはゆっくりと頷いた。「有名人です」

「……ふぅん」甘橙オレンジを咀嚼して、嚥下する。有名人。「じゃあ色々教えて貰おうか。どんな人?」

「三十四歳の女性で、西区で小さな酒場バーを経営しています。不定休が多い割に黒字経営です」

「西区ね……えーと、此処からだと近いんだっけ?」

「当ホテルは北西区なので、の中では近い方です。ただ徒歩で行ける距離ではありません。会いに行かれますか?」

「どうしようかな……こういう稼業の相手だと、準備なんかすっ飛ばしてさっさと乗り込んだ方がまだ分があるだろうけれど……あ、いや」

 その前に、だ。

「神社が囲ってる流れ者の情報って、どれくらい秘匿されているもんなの」

「殆どされていません。流れ者の情報は各機関に共有しております」

「…………へぇ」

「不愉快でしょうが御容赦を」

 メイドなんだし漏れた舌打ちくらい無視して欲しい。

「咽貫うずず殺害計画、は勿論伏せているんだろうけれど、じゃあ僕の性能は何処まで流してる?」

 そして何処まで把握している?

「『警察』の交戦記録及び担当者の推測程度です。神社もそれ以上のことは存じ上げていません」

「そうだった、元は警察相手だったな……」

 そして後半は嘘だろうな。

「それから静火日成についてですが、戦闘能力を有しておりません」

「え?」

「運動神経は良い方ですし格闘技の才もありますが、あくまで一般人です。貴方と戦闘が出来る領域ではありません」

「でも、病院が御得意様」

「ええ。戦闘に巻き込まれないように動ける程度には、腕がいい情報屋です」

「はァん。成程」

 適当に相槌を打った。うーん、手を出すにしても、何をどうするべきかが分かり辛い。

「君から見てどう思う? この件について、この情報屋の行動について」

「健気な女子高生の頼みを無碍に出来ないことや、得意先が病院でありながら病院が困りそうな情報を提供するところは如何にも彼女らしいです。また、彼女と病院の関係から考えても、その程度のことなら病院も文句が言えません。あくまで御得意様ですから」

「……中々に大物だな」

 メイドが頷く。そこまではいい。

「蝙蝠さまをわざわざ指名したことに関しては、不可解です。流れ者で、病院への利害行為を厭わず、情報収集や荒事に長け、駄目押しで女子高生に弱い者は複数人居ます」

「あっはっは。で、静火日成なら、その連中の居場所くらいは調べられる、と」

「簡単です。『学校』の者ですから」

「嗚呼、例の」

 学校。前情報になかったから失念していた。そうか、この連中も場合によってはどうにかしないといけないのか。僕が水晶に帰る為には。

 漠然とした課題タスクが多すぎる。

「……学校の連中ってのは、有名人?」

「有名から無名まで、と申したいところですが御存知の通り企と野は余所者に対して排他的ですので、どうしても多少は注目しています」

 ふぅん、とおざなりに納得しかけたところで、メイドが言葉を続ける。今のは前置きだったらしい。

「学校というのは施設名でもあります。神社や病院と違ってひとつきりの施設ですから、差し当たって其方を案内すればいいだけです」

「……成程」

 久々に納得して言った気がする。

 さて。

「御馳走様でした。で、さっきの情報屋だけれど、神社に……というより咽貫うずず殺害の障害になり得る。……ってのは言い過ぎかな?」

「此方の計画が漏れる、というのは十分に考えられます。恐らく、現にある程度は掴んでいるかもしれませんし、それを病院に流している可能性もあります」

「……駄目じゃん」

「いえ、構いません。そもそも此方としても大して隠す気がありません。奇襲ではなく襲撃、更に言えば覇権争いですから。病院は対策こそすれ、迎え撃たなければなりません」

「じゃあ僕、ちょっと病院の施設を適当に見に行っていい?」

「余り御勧めしません。それに襲撃場所は未だ決まってませんから」

「はいはい、まあ一応避けとくか。じゃあ情報屋は放置、かなぁ」

「現状、彼女は善良な一般人と言って差し支えない存在です。神社としてはこのまま健やかに生活して欲しいくらいです」

「そうかなぁ」無理だろ、とは言わず。「まあいいや。それと、行方不明のお嬢さん。どうにかする?」

「神社では何も。蝙蝠さまには、病院に立ち入らない範囲でなら情報収集も止めません」

「今まで通り?」

「はい」

 大したことは出来ないし分からないだろうな、それなら。

「了解、気を付けてやる」

「宜しく御願いします」

 メイドは慇懃に頭を下げた。

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