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世界崩壊式  作者: 三隅 凛
胎主殺し
7/13

遊視察03

 ヤブ医者に苛ついたり、何の発見もないまま一日が終わったり、メイドからセクハラを受けたり、土砂降りで暇を持て余して、この街に来て六日目。まだ弱っているが、まあ具合は大分、良い。の医療技術を以てしても六日で回復し得ない損傷を水晶(味方)から与えられたことを何とか脇に追いやって、街に出る。平穏極まりない街並み。


 小規模な遊園地の近く。観覧車を見上げながら、美味くもない煙草を吸う。どうも僕は水晶御手製の依存物質にヤラれていただけで、煙草自体はそう好きではないらしい。判明したところで憂鬱になる事実だ。

 さて。この遊園地の中に何かある、と僕の視力は訴えていて、近くで見る限りそれは正しそうだ、が。男ひとりで入る場所じゃないんだよな、メイドでも誘えば良かった。まあ「現地調達されて下さい」とか言いそうではある。何なんだあの女。それに、調べたい(見たい)ことは『神社』よりは水晶の事柄だし。煙草を捨てて、誰も並んでいない券売機へ向かう。

 入口の掲示板には遊園地での安っぽい催し物の紹介と、『病院』主催の偽聖歌祭の日程が張り出されている。名前ネーミングがイイし、目前だしで、思わず笑ってしまった。あはは、この祭りまでは待って、その後数日で襲撃予定なんだって。


 ヴィヴィッドな建造物、正常時より楽し気な人々の歩み、機器の稼働音と連動した人々の歓声悲鳴、あちこちから流れる知らない複数の音楽。折角だからと遊戯施設アトラクションを利用する気は特に起きなかったので、只管歩き回っている。客は基本的に各々で楽しんでいるが、ひっそりとした視線も感じる。立場上、目立つ訳にはいかないのにこれはまずい。メイドを連れて来るなり、言われた通りに現地調達するべきだった。言われてない。

 目的はそれなりに達した、まあ半分くらいは目ぼしいものが見られたと言っていい感じがするし、帰ろう、と出口へ向かう。観覧車はまた今度。でもこれこそメイドと一緒じゃまずいんだよな、結局男ひとりで来るしかないのか。視界の端に在る竜の痕跡に少しだけ頬が上がるのを感じる。

「あの」とついに声を掛けられた。今の今まで意識もしていなかった振りをして、視線を向ける。前時代の水兵みたいな制服を着た、大人しそうな少女。……呪術師ではなさそうだが、素養はある、ような。勿体無いし、油断は出来ない。

「蝙蝠さん、ですよね?」

 …………。

 ん?


 黒檀のテーブルに珈琲とココアがごく小さな音を立てて置かれた。口をつけると想像よりも香り高くて驚いた。味は好みではなかったが。

 森久もりひさ世歌季せかきと名乗った少女は落ち着かないとばかりにココアをかき混ぜている。僕だって落ち着かないしさっさと帰りたいが、そうもいかない。この一般人らしき娘は僕の名前を知っていて、「頼みがある」なんて言い出したのだから。情報源をどうにかして掴まなければならない。世間体に不安しかない状況だけれど。

「世歌季ちゃん」柔和そうな声を出す(得意だ)。「先に訊いてもいいかな? どうして僕のこと知ってるのかな」

「えっと」小さな声、俯きがちな視線。情報自体を秘匿したがっている様子ではなく、説明の仕方に困っているようだ。良し、素直に話してくれる相手なら適当にやっても何とかなる。

「その、情報屋さんから聞いたんです。有名な」

「……そう」

 やっぱ楽じゃないかも、と質問プランを考えていると「あっ!」と今迄に比べて大きい声を上げた。良く通る声。

「すみません、その、蝙蝠さんのことを調べて貰ったんじゃなくて友達のことを調べて貰ったんです。そしたら、蝙蝠さんのことを教えてもらって……」

 続きを促す為に頷いたが、彼女はそこで黙ってしまった。

「頼みたいことって、その友達のこと?」

「はい! ……はい、そうです」

 切実さを隠そうともしない手つきで、通学鞄から紙──写真を取り出した。ふと、咽貫うずずを思い出す。この子を殺せば、病院は鎮静する。

井伊野いいの早月さつき。私の友達で、二ヶ月前から行方不明なんです」

「…………」

 余り『情報源』にばかり興味を示している(のがあからさまだ)と拙いとか、歩み寄る姿勢を見せようとか、話の流れとか一応考えて訊いてみたら、思っていたより中断し辛い本題だった。友達の行方不明。

 さて、写真。井伊野早月。少し不健康な痩せ方をしていて、唇が紅い、辺りが目立った特徴か。それと、

「驚いた。良く似ているね、君達」

「……えっ?」

 一拍遅れた返事に、困惑で忙しない視線。あれ、そんな反応するようなこと言ってないぞ。

「似て、ます? 早月と私……ですよね?」

「うん」他に居ない。「言われない? 似てるねーって」

「言われません」首を横に振る勢いが強い。「似てないって言われます」

「そうなんだ」特に気にしていないと平穏な声音で偽り、話を流す。そうか、普通の視界では似ていないのか、これ。

「それで、情報屋さんに頼んだのかな。友達を探してって」

「はい……その、二ヶ月も経っているから、最悪の事態も当然あり得るとは思っていたんです。でも、情報屋さんは、生きてるって……だから何処に居るのか調べて欲しいんです」

「…………」

 ええと、何から訊こう。

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