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世界崩壊式  作者: 三隅 凛
胎主殺し
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遊視察02

 咽貫のどぬきうずず。七歳の女の子。何処の学校に通っているかは公にされておらず、目撃情報もない。ひょっとすると学校に通っていないのかも。黒いセミロングの髪はサラサラしていて艶もばっちり。いつも下ろしていて、時々カチューシャを着ける。おでこを出しているのも可愛い。膝丈くらいのワンピースをよく着ている。歌が上手。前に何かの催し(イベント)でチョコレートケーキを美味しそうに食べていた。可愛い。

 以上、複数人の世間話から拾得ピックアップした咽貫うずずの話。帰ればよかった。

 ……いや、いや。これはこれで立派な情報だ。初日で成果があるなんてツイている。服も買えたし。

 えーと。

 まず第一に、『神社』について、人々の世間話には殆ど話題に上っていないこと。尤も、今日は神社や竜についての情報収集はそう積極的には行っていないので、単に拾いそびれただけじゃないとは言い切れないのだけれど。因みに、拾えた神社関係の世間話のネタは食品の税金と水道料金の話だった。確かに宗教組織ではない。

 ところで、神社の本業(宗教)と病院が手を出した宗教についての解説がないのは伏せておきたいから……は流石に穿ち過ぎか。どんなに神社の連中が黙っていても、ある程度なら簡単に調べられる事柄だし。単に聞かれていないからなり、機会がなかったから、だろう。

 第二に、咽貫うずずが話題に上った時及びその前後で、宗教的と言える話が一切なかったこと。今日一日……半日くらいか、それも狭い範囲とはいえ、これでは前情報と合わない。宗教に手を出した『病院』。強いて言えば彼女が偶像アイドルの扱いに近いくらいで、流石にの文化状況でそれを宗教的とすることは出来ない。

 それから。水晶協会が企と野を知らなかったことも、よく分かった。想像と違いすぎている。企と野の役割から考えて、もっと宗教的な生活──礼拝とか、禊とかを日常に取り入れている生活──をしているものだと推測されていたが。平気で無宗教だと言える人々。竜の生贄になることが決まっているのに、何を拠り所にしているのか──という疑問は、メイドの御蔭で解決している。単に知らないだけだ。神社が企と野を外から隔離している理由……はまあこれだけではないんだろうけれど、取り敢えず判明。

 今後のことを、少しだけ考える。神社、病院、堕ちた竜、咽貫うずず、水晶への手土産、帰り道。神社と病院の内輪揉めが邪魔でしょうがない。三年前に終わらせてくれたらよかったのに。

 三年前に終わっていたら僕が用無しである可能性が高いことに思い至り、憂鬱な気分でメイドに連絡する。堕ちた竜に調べるのは明日以降にしよう。予定より買い物も出来たので、今日は上々、と思い込むことにした。案の定、上手くいかない。


 メイドが五分で来た。

「……早いね」

「近くに居ましたので。少々お暇を頂いておりました」

 そう、と返事しながら今朝と同じ車に乗り込む。折角の休みをごめんね、とか言おうと思ったけれど止めた。困らなさそうだし。

「着替えたんですね。良く御似合いです」

「有難う。ホテルにあった服は要らなくなるくらいには買わせて貰ったよ」

 空が着々と明度を落とす。どうも夜景が映える街並みではないらしい。

「ところで蝙蝠さま、御昼は何を頂きました?」

「昼? 焼き菓子と紅茶」

「まあ」やるならもう少し驚いている声を出せ。

「殆ど動いてないしね」朝食は重たかったし。

「では、何処か寄りましょうか? もう少ししたら飲食店の多い通りに出ますから」

「へぇ……いや、いいや。お腹空いてないから。夜食は頼むだろうから宜しく」

「畏まりました」メイドが頷く。あ、行こうって言えばメイドと同席して食事が出来たのか。

 ……どうなんだ? それ。

「蝙蝠さま。ステーキは食べられますか?」

「今は無理」

「それは、はい。空腹時に」

「まあ食べられはするけれど。特に好きでも嫌いでも」

「『ステーキ200g』ってどうです?」

「どうって。食えって言われたら食うけれど……」

「多いでしょうか?」

「嗚呼、うん。半日くらい寝込みたい」

「承知しました。明日から朝食の量をもっと減らすように言っておきますので、御安心下さいませ」

「……うん、どうも」

 子供の我儘みたいで言い辛かったんだよね。

 

 部屋に戻って、そのままメイドに不要になった服を押し付ける。

「蝙蝠さまは柄物が御嫌いなんですか?」

 僕が買った服を見たメイドが感想を言うので、適当に返事をする。

「物によるけれど、好きな奴とか居るの?」

「多少は居るかと思いますが」

「まあ多少は居るよね」

「ふふ」

 凄い、自然な笑い声なのに全然笑ってない。

「蝙蝠さま、明日の御予定は御決まりですか?」

「明日……明後日くらいまでは適当に散歩しようかな、くらい」堕ちた竜について何かめぼしい物がないか、出来れば街中を見たいが取り敢えずは近場だけでも。「送迎はなくて大丈夫」

「承知致しました。何かありましたらいつでも御連絡下さい」

「ん」

 いつでもと言われても携帯機器がないので、備え付けの通信機器がある場所でしか連絡出来ない。別に良いけれど、寄越せって言ったらくれそうではある。色々仕込まれそうだから言わないでおこう。

「それから。明後日の夕方に診療所に来て欲しいとのことです。大丈夫でしょうか」

「明後日の夕方。分かった」

 メイドを見送って、眠って、長風呂して逆上のぼせかけて、微睡む。結局夜食も頼む気が起きなかった。大して動いてないからいいや。

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