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世界崩壊式  作者: 三隅 凛
胎主殺し
5/13

遊視察01

 長めの朝風呂でさっぱりした後、煙草がないことを漸く思い出し途方に暮れながらテレビを眺めて時間を潰す。編集されているようだが外の番組もやっていることに驚いた。

 七時丁度にやって来たメイドが持ってきた朝食は「食が細い」という言葉の意味を逆に覚えたんじゃないかと疑いたくなる有様だったけれど、多少無理をして完食した。夜まで持ちそう。

 そうだこのメイド、総合世話係コンシェルジュ、だっけ。

「自分でやれなくもないことを君に頼んでもいいのかな」

「御伺いします」

「入手出来る範囲でいいから、煙草を各銘柄一本ずつ用意してくれ。昔吸ってたのと似たのを探したい」

「畏まりました。味等の特徴はありますか?」

「いや。味は多分関係ないし、何が効いていたのかも良く分からない」一休みしたからか、ごく自然に頬が持ち上がる。「何しろ水晶製だ。高依存性の何かが入ってるんだろうけれど、何かは部外秘だ。流通もしていない」

「……成程」メイドはゆっくりと頷いた。「朝食を提供すると申した時に仰っていたことが漸く分かりました。『水晶協会』では盛られていたんですね」

「そういう組織でね。……『神社』にはない発想だったりする?」

「皆無とは言いませんが」メイドが再度頷く。「『病院』は多少手を出しているようです」

「やっぱ、あっちの方があくどい?」

「いえ、上手くやれるからやっている、というだけです。病院は薬も専門ですから。勿論、非人道的な行為もそれなりにはしていますが、神社も余り他人の事は言えません」

「へェ、神社が? 何してんの」

「部外秘です」メイドの人差し指が口元に運ばれる。何故その仕草でこうも茶目っ気がないのか。「病院は様々な人体実験に。その結果が公益に直結しているので、神社も警察も静観しています。行き過ぎた場合は止めますが」

「例のお嬢さんは行き過ぎた、と」

「ええ」


 何着か用意されていた服の趣味は悪くはなかったけれど好みでもなかったので、を散策がてら買いに行くことにした。メイド曰く大体の店は十時に開くそうなので、軽く柔軟体操をして時間を潰す。本当に軽くしか出来なかった。まだ本調子からは遠い。

 メイドに勧められた幾つかの大型商業施設ショッピングモールのうち、一番目に飲食店が少なくて二番目にホテルから近い所にした。近くまで車を出すとのこと。運転もメイドがするらしい。

「私は現在、他の業務を免除されておりますので、これくらいは致します」

 改めて明るい場所で見ると、横に広いホテルだったことが分かる。三階建て。

 車に乗る。恐らくはそれなり以上の高級車だ。

「この車、外の?」

「ええ。御存知でしたか」

「会社だけだけれど」

「そうでしたか。燃費を気にしてくれる高級車なので、うちでは重宝しています」

「うちって、神社?」

「いえ。当ホテル、です」

 ホテルを抜けた後も暫くは高級感漂う景色が続く。住宅と飲食店が多い。白い石造りの建物は不規則さを醸しながら規則正しく並んでいる。

「観光地寄り、かな」

「詳しいですね。流石は水晶の方です」

「……元、だ」

「戻られるんでしょう? 神社としては事が済んだ後は止めないかと」

「水晶の方はどうだろうね。そんなに柔軟な組織でもないし」

 車と人が増えてきた。若者が多い。

「今日は空いていますので、予定より早く着くかもしれません。ドライブする程ではありませんが」

「それは残念」これで空いているのか。思っていたより人が多い街だ。

「右側の黒い建物が見えますか? 美味しい魚料理とお酒とチーズで有名な店です」多いな、と小声で呟く。「御昼はそう混んでませんし、御勧めです」

「昼は無理」おっと。「おねえさんの行きつけ?」

「いえ。安月給なので二回だけ」

 感情を表に出さないまま、あっさり私生活を教えてくるので若干戸惑う。

「仕事が済んだら奢るよ」

「有難う御座います。楽しみにしていますね」

 嘘みたいな声音だった、いつも通り。慣れてきたけれどまあまあ面白い。

 人間か分からない七歳児を殺す仕事、ねェ。 


 目的地に到着。メイドは安全運転だった。帰りは彼女を呼んでもいいし(此方に連絡を、とメモを渡された)自力で帰ってもいいらしい。

 生活用品はホテルで揃っているので、遊興寄りの買い物だけすればいい。仕事で死にかけた結果の休暇だと思えば良い気分になれそうだけれど、そもそも勤め先から捨てられた結果と思うと吐き気がする。何とか憂さを晴らしたい。

 手近な男物の福屋に入って二、三着試着しただけで草臥れてしまった。嘘だろヤブ医者。しかも煙草もない。こんな理由で散々甚振られてきた──捨てられたことを無視しても散々やられた──水晶が恋しくなるのは、もう笑うしかない。ちょっとした休憩場所のソファに腰掛ける。もう本でも買って帰りたい。出来ればホテルじゃない自室に。

 目を閉じる。それなりに繁盛しているらしく、人々は騒々しい。

「────」       「────」    「──────」「──」「────」

   「────」 「───────」「───!」         「──────」

  「────」 「──うずずさまが」 

 帰れなくなった。

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